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【TED】サステナビリティにゲーミフィケーションを掛け合わせたスイスのスタートアップのアイデアとは? 2014/04/02 事例を見る

今回ご紹介するのは、ゲーミフィケーションの手法を取り入れたユニークなオンラインサステナビリティプログラムを開発しているスイスのスタートアップ、WeActの共同創業者の一人、Christian Kaufmann氏によるプレゼンテーション。

同氏はスイスのローザンヌ大学で経営戦略を学んだ後、クレディ・スイス、アップル、マッキンゼーを経てWeActに参画しており、同社では事業開発と営業を担当している。「オンライン」×「サステナビリティ」×「ゲーミフィケーション」という切り口から世界を変えるためのプログラムを開発している同社のアイデアは、まさに”Idea worth spreading(広める価値があるアイデア)”というTEDの趣旨そのものだ。

2050年には人口が90億人を超えると推計されており、かつて途上国と言われた国々も急激な経済成長により大きく生活水準を向上させている現在において、いくら需要が増えようとも地球の資源に限りがあることを考えれば、サステナビリティは非常に重要な概念であり、我々は現在の生活スタイルや消費行動をよりサステナブルな形へと変える必要があるという考えに誰も異論はないだろう。

しかし、誰もがサステナビリティは非常に重要な概念だと分かっていながら、実際には知識と行動の間に大きなギャップがあるのもまた事実だ。同氏によれば、人が変化を拒むのには心理的な要因があり、人々の習慣を変えるためには、下記5つのステップが必要だという。

  • レベル1:Sharing Information(情報を得る)
  • レベル2:Building Understanding(状況を理解する)
  • レベル3:Identfying Implications((自分への)影響を明確にする)
  • レベル4:Gaining Commitment(変わることをコミットメントする)
  • レベル5:Altering Behavior(実際の行動を変える)

まずは情報を得たうえで状況を正しく理解しようと努め、さらにそれが自分にとってどのような意味を持つのかを認識し、変化したいという思いからコミットメントし、実際に行動を変えていくというプロセスだ。このプロセスを経て初めて人は行動習慣を変えることができる。しかし、実際にはレベル2とレベル5の間には大きなギャップが存在している。

そのギャップを埋めるために同氏が取り入れたのが、Gamification(ゲーミフィケーション)という手法だ。ゲーミフィケーションという言葉はインターネットやゲーム業界の方以外にはあまり馴染みがないかもしれないが、同氏の説明を借りれば、”Gamification:game elements in non game contexts(ゲームの要素をゲーム以外の環境に取り入れること)”を指す。

ゲームには人々を楽しませ、夢中にさせ、達成感をもたらす力があるが、そのゲームが持つ力をサステナビリティ活動に取り入れることで目標を達成しようというのが同氏の提案だ。

サステナビリティの実現にゲーミフィケーションを用いた事例として同氏が紹介しているのが、”Bottle Bank Arcade”というプロジェクトだ。これはゲーミフィケーションのアイデアとして有名な事例の一つだが、ゴミを分別するという面倒な作業にゲーム性を持たせ、ボトルをタイミングに合わせて指定された穴へ投げ入れることでポイントが稼げるという仕掛けを用意することで、人々に楽しみながらゴミの分別をさせているゴミ箱だ。


同氏は、ゲーミフィケーションのためのメカニズムとして、「ポイント」、「レベル」、そしてそれらを他者と比較し、競争し、モチベーションが喚起されるように「見える」状態にしておくこと、という3つのポイントを挙げている。これらの要素を取り込んで生まれたのが、WeActというプロジェクトだ。

WeActは、2010年に当時ETH(スイス連邦工科大学)でワークショップに参加していたPrisca Muller氏、Majka Baur氏という2人の女子学生が主体となって始まった。このワークショップのゴールは、キャンパスのエコロジカルフットプリントを減らすための新たな方法を見つけるというものだった。通常であれば工科大学ならではの技術的な解決法を考えるところだが、彼女たちは違った。

彼女たちは、キャンパスのエコロジカルフットプリントを減らすためには人々の日常生活に小さな変化を起こす必要があり、そのために彼らをどう動機づけるかが重要だと考えていた。そして、動機づけのために彼女達が必要だと考えたのは下記3つの要素だ。

  1. 一人ではなく、グループで取り組むべき
  2. 退屈な取り組みではだめで、楽しめるものにするべき
  3. できる限り多くの人に参加してもらう

そして彼女たちは、2を実現するためにゲーミフィケーションを用い、3を実現するためにオンラインプラットフォームを活用してプロジェクトを実施することにした。これが、WeActの始まりだ。

同プログラムでは、参加者の学生たちはチームを組み、自転車を利用する、リサイクルに取り組む、電気を消す、ローカルフードを購入する、ベジタリアンのランチを楽しむ、といった日々の簡単な行動でポイントを稼げるようにした。そして、稼いだポイントはオンラインプラットフォーム上で誰もが見ることができ、チーム内や他チームと比較することができるようになっている。

このゲームに、参加者は夢中になって多くの時間を費やした。中にはゲームに勝つために3週間もベジタリアンの生活を続けた5人の男子チームや、ポイントを稼ぐために自転車を購入したチームもあったという。こうして、学生たちはいつのまにか新しいサステナブルな生活習慣を身につけることに成功した。

ETHでは数年間で5回プログラムを実施し、合計で1200人以上の学生がこのプログラムに参加した。同氏によれば、この取り組みのもっとも良かった点は、強制されたものではなく、参加者は自主的に参加した点だという。

プロジェクトは他大学にも広められ、ケンブリッジ大学では190人の生徒が参加したという。そして同氏はこのWeActの取り組みを更に拡大し、持続可能なものにするために、Prisca氏やMajka氏らとともに同プロジェクトに100%コミットメントすることを決め、新たなビジネスモデルを作り上げ、企業へのアプローチを開始した。企業のサステナビリティを支援し、従業員のモチベーション、サステナビリティに対するエンゲージメントを高めるために同プログラムの提供を始めたという。

そして、同プレゼンの前日には新たに会社を組織したとのことで、同社は非営利と営利のハイブリッドな体制となっており、非営利プログラムの資金を生むための営利事業を展開していくという。今後は企業だけではなく地方自治体や一般人も対象としていくとのことだ。

個人も企業も同様に、サステナビリティの重要性は強く認識していながらも、いざ実際に日々の活動にサステナブルな要素を取り入れていくのはなかなか難しいものだ。その知識と行動のギャップを埋めるための手法としてゲーミフィケーションを用い、デジタルネイティブ世代ならではの価値観でオンラインプラットフォームという新たなソリューションを作り出したChristian氏らの取り組みは非常にユニークで、今後の成長がとても楽しみだ。

同氏がプレゼンの最後に引用しているアメリカの歴史家、ハワード・ジンの”Small acts, when multiplied by millions of people, can transform the world.(たとえ小さな行動でも、それがたくさん集まれば、世界は変えられる。)”という言葉の通り、サステナビリティは最終的には一人ひとりの行動の変化なくしては実現できない。

そしてそれを実行するもっとも優れた方法は楽しめる方法でやることだという同氏の提案は、サステナビリティ活動そのものにサステナビリティがないという、よく起こりがちな問題を解決しうる、非常に本質的なアイデアだ。WeActは、サステナビリティへの取り組みを”Have to do(しなければいけないこと)”から”Want to do(したいこと)”へと変える力を持っている。

【企業サイト】WeAct

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