Sustainable Japan QUICK ESG研究所

【人権】進展する児童労働撲滅に向けた動き 〜企業が新たな担い手に〜 2014/08/30 体系的に学ぶ

児童労働

児童労働関与の疑いで投資家に訴えられる事業会社

今年3月、ブルームバークがあるニュースを報じました。「チョコレート世界大手のハーシー(Hersey Co.)が、出資者であるルイジアナ年金基金から違法な児童労働関与の疑いを指摘され、ハーシーに対して証拠提出を要求する法廷闘争に突入した。」というものです。ハーシーは、世界的なカカオ産地である西アフリカからカカオを仕入れており、その仕入元で違法児童労働行為があったことをハーシーが認識していたにも関わらず、仕入れを続けたことをルイジアナ年金基金は追及しています。

児童労働問題は日本国内ではあまり注目されていませんが、国外では企業のブランド維持や社会的責任としてとても重視されているテーマです。児童労働は自社内、グループ企業内での慣行でなくとも、サプライチェーン上で発生していれば、その責任は追及されてしまいます。また、今回のルイジアナ年金基金のケースのように、SRIに敏感になっている投資家からは、児童労働に関与しないことを確実にする取組が求められています。企業はどのように児童労働問題に向き合っていかなければならないのか。先進事例をもとに見て行きましょう。

児童労働はILOが定義している

そもそも児童労働とは何でしょうか。児童労働とは、「未成年で就業している者」のことではありません。日本でも、親が経営する喫茶店でお手伝いをしたり、子役が舞台で演じていたり、未成年者で仕事をしている人は少なからずいます。児童労働の定義は、国際労働機関(ILO)が細かく定めています。ILOは、現在世界185カ国が加盟する国際機関で、日本ももちろん加盟しています。ただ、ILOは他の国際機関と異なる特徴を持っています。ほとんどの国際機関は、各国の政府代表によって代表団が構成されているのに対し、ILOでは加盟国の代表は政府代表2名、労働者代表1名、使用者代表1名の計4名からなる三者構成を採っています。決議案の採択に際しても、投票は1国1票ではなく、政労使の各代表はそれぞれ独立して発言や投票を行う形式をとっており、ILOは幅広いステークホルダーの声を包接するとともに、ステークホルダーに対する影響力の大きい存在にもなっています。

児童労働数の推移
(出所:ILO “UN Global Compact Human Rights and Labour Working Group Child Labour Platform Meeting Report“)

ILOが発表している児童労働(Child Labour)数は、2012年時点で1億6,800万人。年々数は減少していますが、それでも依然膨大な数の児童が、「児童労働」に関与していると算定されています。ILOはまず「児童」の定義として、満18歳以下の子どもは全て児童だと位置づけています。そして児童労働の定義は、1973年に採択されたILO第138号「就業の最低年齢に関する条約」(ILO Conventions No.138)で定められています。この条約は日本も2000年に批准しています。

ILO第138号「就業の最低年齢に関する条約」
◯ 就業最低年齢は義務教育終了年齢、原則15歳
  →但し、開発途上国の場合は届出により当面14歳以下とすることができる
◯ 軽労働については、一定の条件の下に13歳以上15歳未満でも就労可能
  →但し、開発途上国の場合は届出により当面12歳以上14歳未満でも就労可能
  軽労働とは、以下の2つを満たすもの
  (a) これらの者の健康又は発達に有害となるおそれがないこと。
  (b) これらの者の登校若しくは権限のある機関が認めた職業指導若しくは訓練課程への
     参加又はこれらの者による教育、職業指導若しくは訓練内容の習得を妨げるもの
     でないこと。
◯ 危険有害業務は18歳未満禁止
  重労働とは、年少者の健康、安全若しくは道徳を損なうおそれのある性質を有する業務
  又はそのようなおそれのある状況下で行われる業務

このように、軽労働においては原則12歳以下、それ以外は15歳以下の労働は「児童労働」と見なされます。これが、現在一般的に使われている児童労働の定義です。さらにILOは別途例外基準も定めており、子役など撮影や舞台に出演する児童については、ILO79号「年少者夜業(非工業的業務)条約」で認められています。また、同様に工業と農業においては、ILO90号「年少者夜業(工業)改正条約」ILO14号「児童及年少者夜業(農業)勧告」で例外の定めを設けています。

児童労働の多くは、農場、加工工場、アパレル産業、露天商などで働いています。雇用形態の内訳は、ILOの統計では、家族の手伝いとして無報酬で働いている児童が68.4%、給与労働者として働いている児童が22.5%、自身で働いて生計を立てている児童が8.1%。中には、下記のように、かなり悪質な形態で働いている児童もいます。

最悪形態の児童労働を定義したILO182号条約

さらにILOは、児童労働の中でも悪質度の高い児童労働のいち早い撲滅を進めるため、1999年にILO182号「最悪の形態の児童労働に関する条約」を採択しました。最悪形態と定められたのは、以下の4つです。

(1) 人身売買、徴兵を含む強制労働、債務労働などの奴隷労働
(2) 売春、ポルノ製造、わいせつな演技に使用、斡旋、提供
(3) 薬物の生産・取引など不正な活動に使用、斡旋、提供
(4) 児童の健康、安全、道徳を害するおそれのある労働

これらは英語でHazardous Workという名称で呼ばれています。これらは、最も悪質だと位置づけられましたが、2012年時点で8,500人の児童が依然従事していると算定されています。

児童労働を生み出す構造はデマンドサイドとサプライサイドの両面がある

どうして児童労働は生み出されてしまうのでしょうか。児童労働と聞くと、貧困など家庭の経済状況などにより子どもを労働力としてあてにしたいというようなシチュエーションを想起しやすいと思います。ただ一方で、児童労働には、低コスト(もしくは無報酬)の生産をビジネス界側、ひいては消費者が欲しているという事情も大きな原因となっています。このように、児童労働の原因には、児童労働を発生させてしまう側の問題(サプライサイド)と、児童労働を必要としてしまう側の問題(デマンドサイド)の両方があります。

サプライサイド
(1) 貧困:子どもの労働力を使って生産をしないと生計が成り立たない。教材が高い
(2) 教育機会の欠如:魅力的な教育機会がなく、子どもを学校に通わせる動機が小さい。
(3) 武力紛争:子どもを戦闘力として徴集。
(4) 自然災害:孤児の増加。

デマンドサイド
(1) 安い労働力の追求:児童労働による生産コストの削減
(2) 社会の無関心:児童労働が関与した商品を意識せず購入
(3) 児童労働を当然視する地域社会:児童労働削減のための社会運動の欠如

伝統的アプローチ「サプライサイド対策」

児童労働撲滅に向けた取組は、伝統的には児童労働に対する各国での法整備、そしてその法規制を徹底させるための社会監視によって進められてきました。児童労働の定義を定めたILO138号条約、ILO182号条約でも、加盟各国政府に対して条約内容を国内法として整備するよう要求しています。現在では、ILO138号条約は167ヶ国が、ILO182号条約は179ヶ国が批准し、未批准国の多くでも同様の国内法が整備されています。法規制の徹底は各国の中央政府や地方政府に基本的には委ねられていますが、ILOもCLM(児童労働モニタリング)という制度を用い児童労働モニタリングのためのノウハウを提供しています。

同時に、経済的支援や教育機会の提供といったサプライサイドの原因を取り除く努力も続けられています。まず、ILOは、児童労働撤廃国際計画(IPEC)をドイツ政府のイニシアチブにより1992年にスタートしました。これは、ILOに各国政府が資金を拠出し、危険有害労働をはじめとする最悪の形態の児童労働の撤廃に重点を置きながら、最終的にはすべての児童労働をなくすことを目標とする技術協力プログラムです。資金規模は年間4000万USドルほどで、各国の法整備のサポートや援助を必要とする家庭に対して経済的自立を促すようなプログラムを展開しています。また、各国政府も開発途上国などの児童労働のために直接資金や援助を拠出しており、米国労働省は年間約6000万USドル、EUは毎年数千万USドルをIPECに拠出しています。経済的自立支援や教育機会・教材の提供としては、国連機関であるUNICEFやUNDPなども毎年多額の資金を提供しています。

サプライサイド対策には、国際機関や各国政府だけでなくNGOも大きな力を発揮しています。有名どころでは、世界的な国際NGOであるセーブ・ザ・チルドレン、日本国内ではACE(エース)があります。セーブ・ザ・チルドレンの年間活動資金は19億USドルと巨額で、児童労働対策を含む世界中の子どもの権利保護のために活動を続けています。

新たなアプローチ「デマンドサイド対策」

各国での法整備やサプライサイド対策の結果、児童労働の数は大きく減少してきています。一方、現在未だ1億6800万人もの児童が児童労働を行う状況が続いているのも事実。従来からの伝統的アプローチの限界も指摘され始めた中、新たに注目を集めているのがデマンドサイド対策です。すなわち、児童労働が関与している商品をサプライチェーンや消費者が買わないようになれば、生産者も児童を労働力として活用しなくなるだろうという考え方です。

デマンドサイドに対する取組として有名なものは、2012年に、セーブ・ザ・チルドレン、国連グローバル・コンパクト(UNGC)、UNICEFが共同で発表した「子どもの権利とビジネス原則」です。「子どもの権利とビジネス原則」は10原則からなり、企業が子どもの権利を職場、市場、そして地域社会の中で尊重し、支援するためにどんな取り組みをすべきかについて包括的に示しています。

企業も自主的にデマンドサイドに対する対策を開始しています。2014年5月、ハーシーやネスレ、マーズなどのチョコレート世界大手12社は、ガーナ政府と合意して「ココア・アクション」と呼ばれるプログラムを開始、カカオの生産性向上と同時に児童労働を共同で監視しています。

消費者に対して直接「反・児童労働」を訴求する取組も数十年前から始まっています。代表的なものはフェアトレードの推進です。フェアトレードとは、児童労働などの人権侵害に関与せず生産された製品に対して付与される認証制度で、「国際フェアトレード認証ラベル」が有名です。フェアトレードは、従来、人権侵害に関与した製品を前提とした中で、そうではない商品として「フェアトレード商品」という概念を構築してきましたが、どの商品であっても人権侵害は許されないという時代になってきた今、その存在価値は徐々に小さくなっています。消費者の間でも、フェアトレード商品を敢えて意識して購入するという試みは市場行動の多数を取るまでには至らず、児童労働撲滅のためには商品全てがフェアトレードとなるように市場を誘導する必要があると言えます。

投資家からの児童労働撲滅への意識は始まったばかり

冒頭で紹介したルイジアナ年金基金のケースのように、児童労働問題に敏感になる機関投資家も増えてきています。2014年に、子ども問題を討議する世界的なフォーラムであるGlobal Child Forum(世界子どもフォーラム)と、ヨーロッパのESG投資シンクタンクであるGESが共同で発表した調査レポート「Investor Perspectives on Children’s Rights」では、回答数が極めて少ないながらも、回答したうちの99%の機関投資家が投資先選定において児童労働を考慮すると回答しています。

サプライサイド・デマンドサイドの両面が欠かせない

サプライサイドとデマンドサイド。この2つは車の両輪のような役割を果たしており、どちらも欠くことができません。従来、サプライサイドを中心に対策を講じてきましたが、児童労働を使う動機を持つ企業は隠れて児童労働を継続してきました。また、デマンドサイド対策だけになってしまっては、児童労働の受け皿はなくなりますが、生産力を失った家庭がより経済力を下げる状況を作り出したり、教育機会や教材の欠如のままでは児童は働くことも学ぶこともできない存在となり、将来の発展につながりません。

そこで、デマンドサイドとして取り組む企業の中には、セーブ・ザ・チルドレンやACEなどと協力してサプライサイドの対策に共に乗り出すところも出てきています。例えば、セーブ・ザ・チルドレンのホームページに掲載されているコーポレート・パートナーには、P&F、ユニリーバ、シティバンク、ウォルマート、ソニーなどが名を連ねています。日本では森永製菓がACEと協働して「国際フェアトレード認証チョコレート」を販売するまでに至っています。今後は投資家から事業会社の事業運営に対する目も厳しくなると予想され、企業には国外の児童労働の動向に対してよりシビアな姿勢が求められていきそうです。

文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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