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【アメリカ】SAPのサステナビリティ責任者が語る、統合報告とサステナビリティ戦略 2014/08/31 最新ニュース

今回ご紹介する動画は、今年の3月にカルフォルニアで開催されたWSJ ECO-nomicsカンファレンスでの一幕。サステナビリティ関連ニュースメディアTriplePundit.comの記者、Nick Aster氏による、SAPのCSO(Cheif Sustainability Officer:最高サステナビリティ責任者)兼副社長を務めるPeter Graf氏へのインタビュー動画だ。

SAPのサステナビリティを牽引するPeter Graf氏が、同社の統合報告における取り組みやサステナビリティ戦略について詳しく語っている。日本語字幕もついているので詳しくは動画を見て頂きたいが、ここではポイントだけを簡単にご紹介していく。

統合報告のメリットについて

SAPは統合報告を2012年度からスタートしており、今回の2013年度のレポートは2度目のレポートとなる。統合報告の効果について聞かれたPeter Graf氏は、統合報告をはじめて作成した際に大きな変化があったと語る。同氏は当初、統合報告にそれほど乗り気ではなく、統合報告をするよりも考え方を統合すること(Integrated Thinking:統合思考)のほうが先だと考えていたという。

しかし実際に長い時間をかけて統合報告に取り組む中で、同氏はその大きなメリットを感じることになる。統合報告のプロセスを通じて、普段あまり正面から話を聞く機会がない各部署と議論を深めることができ、CFOや人事責任者、CEOとの議論では、サステナビリティ戦略を事業と切り離して考えるのではなく、「SAPの事業戦略そのものをいかにサステナブルにするのか」を議論できるようになったと同氏は語る。

結果として、統合報告プロセスを通じて社内の議論のレベルが一段上がり、統合報告が統合思考を生むきっかけとなったというのだ。同氏は当初、統合報告を実施するためには前提として統合思考が必要だと考えていたが、実際の順番はその逆で、統合報告というゴールを設定したことで統合思考ができるようになったという自身の経験を教えてくれた。

今後の統合報告のポイント

2013年度のSAPの統合報告レポートは下記から見ることができる。

Peter Graf氏が今回のレポートの注目点として挙げているのが下記の3点だ。

  1. 複数のテーマを組み合わせて分析できる統合ビュー
  2. 財務非財務の実績を可視化
  3. 将来のリスクと機会は一つに集約

上記の中でも特に目を引くポイントは、1つ目の統合ビューだ。統合ビューと言われてもイメージが湧かないがが、下記ページを見て頂ければ一目瞭然だ。

SAPが事業の最終目標に設定している売上、利益、顧客ロイヤルティという3つの目標に対し、ESGの各指標がそれぞれどのように関連し、貢献しているのかがインフォグラフィックにより一目で分かるようになっており、優れた可視化の事例だと言える。また、各指標ごとの説明も付記されているので、同社がそれぞれのサステナビリティ目標、活動に対してどのような考えを持って取り組んでいるのかがよく分かる。「サステナビリティ活動は本当に利益につながるのか?」という社内からの疑問への対応に悩んでいる担当者の方にとってもこうした事例はとても参考になるのではないだろうか。

ビジネスモデルの変化と環境面への取り組み

SAPの環境面における取り組みは、ビジネスモデルの変化に大きく影響している。同社はクラウド運用における再生可能エネルギーの利用率を100%にすると発表したが、これは同社の現在の状況を考えると、数字以上に大きな意味を持つ。SAPのバリューチェーン全体におけるCO2排出量を上流から下流まで見てみると、実にCO2排出量の90%がサーバー稼働などSAPの製品稼働に伴うものとなっている。

そして、これまではSAPの顧客は自社のデータセンターでSAPのソフトウェアを稼働していたが、同社はHANAという優れたクラウド基盤テクノロジーによりビジネスの主軸をクラウドサービスへと転換したため、今後は顧客のシステムはクラウド上、つまりSAPのデータセンターで稼働し、インターネット経由で提供されることになるのだ。

クラウドとは、ユーザーが自身のサーバーにソフトウェアやデータを置いて利用するのではなく、必要に応じてネットワーク上の共有サーバにアクセスし、そこに置かれているサービスを利用する形態のことを指す。ユーザーは必要量に応じたサーバー利用ができるため、最大利用時を想定した固定のサーバーリソースを用意する必要がなく経済面でも優れていることなどを理由に、現在のIT・ソフトウェア業界において主流となりつつあるサービスモデルだ。

このビジネスモデルの変化により、SAPの製品稼働に伴うCO2排出の分類はスコープ3からスコープ2へと変わり、同社にとっては事業運営に占める環境面の課題がかつてないほど大きくなっているのだ。こうした背景を踏まえると、クラウド運用における再生可能エネルギー利用率を100%まで高めるという発表はとても大胆な目標であることがよく分かる。

再生可能エネルギー100%をどう実現するか

上記のようにクラウド運用を100%再生可能エネルギーで賄うという高い目標に対し、同社はどう取り組むのか。Peter Graf氏は、その方法として下記3つを挙げる。

  • 再生可能エネルギーそのものを自社で生成
  • 再生可能エネルギーを電力会社から購入する、又はクレジットを購入する
  • ファンド方式で排出権を得る

1、2番目の手法はまだ実現できる地域が限られているとしたうえで、同社が積極的に取り組むのは3つ目のファンド方式だ。これはLivelihoods Fundと呼ばれており、投資に応じて排出権が得られる仕組みだ。投資はマングローブ林の再生など様々な環境保護活動に使用される。SAPは既にファンドに参画する他企業とともに100万本以上の植樹を達成しており、それに応じた排出権を得ているとのことだ。

このオフセットがいわゆるREC(Renewable Energy Certificates:グリーン電力証書)と異なる点は、RECの場合は消費電力の相殺にあたるためCO2排出量を何トンでも相殺できるのに対し、Livelihoods Fundは投資に応じた相殺となるという点だ。排出権取引と環境保全・コミュニティ投資を掛け合わせた取り組みとなる。

サステナビリティ戦略に関するオンライン教育

SAPは環境への取り組みだけではなく、社会面のサステナビリティ活動にも積極的で、特に教育における取り組みに熱心に取り組んでいる。同社の教育活動における方針について、Peter Graf氏は「重要なことは、企業の戦略という枠組みにおいては、社会的プログラムであっても、社会に貢献するだけではなく、企業にメリットをもたらすことが求められるということだ」と語り、サステナビリティ活動が長期的に見て自社に利益として還元されることの重要性を強調する。

また、SAPは約1年前からMOOC(Massive Open Online Course:オープン・オンライン教育プログラム)を開設しているが、従来からあるテクノロジー関連のコースに加えて、今年の4月からは同社で初となるビジネス向けコースを開設した。テーマは「Sustainability and Business Innovation(サステナビリティとビジネスイノベーション)」で、1コマ15?20分の授業が34コマで構成され、約6週間で修了できるプログラムとなっている。対象は学生や初心者からサステナビリティのプロフェッショナルまで幅広く、これまで5年以上に渡って業界をリードしてきたSAPのサステナビリティの知見を、過去の成功体験や失敗体験も踏まえて体系化されたプログラムとして提供している。

内容もサステナビリティ戦略の策定方法から、費用対効果とその説明方法、プロセスのあるべき姿、利害関係者の調整方法、報告の方法、統合報告についてなど大変充実しており、プログラムは全て無料だ。実際に同コースは4月19日?6月17日まで開講され、コース初日には10,000人以上、最終日までには15,000人以上の受講者が参加した。現在でも受講可能なので、興味がある方はぜひ見てみて頂きたい。(英語のみ)

事業の成長とサステナビリティは相反するか?

インタビュー最後に投げかけられた「経済的に成長すること、成長に固執することは、サステナビリティと常に相反するのか?」という質問に対し、Peter Graf氏は「SAPの長年に渡る事業展開では、成長と環境への悪影響を可能な限り反比例させてきた」と答える。

また、ビジネスの主軸をクラウドに移行しつつある現在はSAPにとってビジネスモデルの過渡期であり、負担は大幅に増えるものの、それは同時にSAPが成長するチャンスでもあると同氏は主張する。実際にSAPは「サステナビリティ」をクラウドによる提供価値の中心に置こうとしており、事業戦略とサステナビリティ戦略の統合を進めている。

他企業と同様にSAPも当然ながら成長への意思があることを前提としたうえで、今後は成長とサステナビリティの最適なバランスを見つけることが鍵を握ると言うのが同氏の考えだ。また、そうすることで経済的成長と環境への悪影響軽減は同時に達成できるが、そのためには成長と環境を橋渡しするための投資が多少は必要かもしれないという。実際にSAPでもデータセンターをクリーン電力に切り替えたことで電力コストは上がったが、そうした取り組みが競争優位性につながると同氏は考えており、SAPでは実際に効率化が更に加速しているとそのメリットを語った。

まとめ

SAPにとって、クラウドという新たなビジネスモデルへの転換に伴うサステナビリティ戦略と事業戦略の統合は、新たなビジネスチャンスを獲得するための機会となっている。CO2排出量削減への取り組みに代表されるように、SAPがサステナビリティに積極的に取り組むことは、SAPの製品を利用する顧客のサステナビリティにもつながるため、結果としてサステナビリティという一つの軸が新たな競争優位へとつながっているのだ。

Peter Graf氏の話は同氏が紹介してくれた統合ビューを見れば分かる通り、同社はあくまでビジネスの成長を前提としており、環境面、社会面などサステナビリティへの取り組みが最終的にどのように売上や利益、顧客満足度に還元されていくのか、その活動のビジネス上の意味について真正面から向き合うことで、サステナビリティ活動の質も高めようとしている。

SAPの統合報告や事業戦略、サステナビリティに対する考え方は業界を問わずどの企業にとっても参考になる点が多くあるはずだ。興味がある方はぜひ同社の統合報告ページやオンライン教育コースを見てみてはいかがだろうか?

【企業】SAP
【統合報告ページ】Integrated Report 2013
【Open SAP】Sustainability and Business Innovation
【参考サイト】TriplePundit.com
【参考サイト】Livelihoods Fund

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