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【戦略】欧米CSRの最前線 〜Sustainable Brands 2014参加レポート〜 2014/11/13 体系的に学ぶ

Sustainable Brands 2014 London

世界の先進企業のCSR・サステナビリティマネジメント事例が共有されるカンファンレンス、Sustainable Brands。毎年、世界約10都市で開催されており、私も今年10月に開催されたアメリカ・ボストン、11月に開催されたイギリス・ロンドンの会に参加してきました。カンファレンスは通常、2日間にわたる各企業のプレゼンテーションと、別日程1日で催される少人数のワークショップで構成。30社ほどの企業がプレゼンテーションを行い、会場にはコーポレート・サステナビリティ分野の関係者300人ほどが集います。欧米では今、何がホットな話題となっているのか。ボストン、ロンドンの2回分のイベントをダイジェストでご紹介します。

Sustainable Brands New Metrics ’14 in Boston

Sustainable Brands New Metricsは、サステナビリティ分野の中でも「測定」「データ管理」「定量マネジメント」「レポーティング」というMetrics(尺度・測定)にスポットを当てた特別イベント。今年からマサチューセッツ工科大学(MIT)のスローン経営大学院のサポートを得てパワーアップしました。

環境・社会分野のデータ収集

欧米先進企業の特徴は、環境・社会に対するアウトプットを本業の成果指標の中に組み込んできているということです。データ収集の点でも様々な進化を遂げてきています。従来、データ計測が進んできた環境分野に対し、遅れが指摘されてきたのがソーシャル分野。ここにきて、NPOやIT企業が中心となりソーシャル分野のデータ測定インフラが整備されつつあります。

フェアトレード認証の民間団体Fair Trade USAは、フェアトレードの実施状況に関する情報を、一次産品の製造現場に従事する生産者自身から収集する体制を構築。フェアトレードの履行を確実にするとともに、生産者の生活の改善度合いを測定する手法を実現しました。オーガニック茶ブランドで全米一の売上を誇るHonest Tea社は、Fair Trade USAからの認証を獲得することで、自社製品のブランドを確実にするとともに、社会に対する正のインパクトをKPIとして測る運用を開始しています。

米国のITスタートアップであるSourceMap社は、製品のサプライチェーンを可視化して把握できるウェブツールをリリース、紛争鉱物などサプライチェーン上の課題に対する状況把握が進むことが期待されています。

オランダと米国に本拠地を置くサステナビリティ・コンサルティング企業大手のPRè Sustainability社は、商品開発の分野で社会問題へのインパクトを測定していくためのガイドライン、”Handbook for Product Social Impact Assessment”を最近リリース。すでに欧米を代表する企業であるAkzoNobel, BASF, BMW, L’Oréal, Marks&Spencer, Philips等が同社のコンサルティングのもとでガイドラインを本業の事業管理に取り入れています。

一方、環境分野のデータ測定も高度化しています。IT世界大手のHP社は、生物多様性の分野で存在感を発揮する国際NGOのConservation Internationalと提携し、ビッグデータマネジメントを環境測定分野に応用するプロジェクトをスタート。プロジェクトでは、世界17ヶ所の熱帯雨林で275種の生物を常時モニタリングするデータ測定インフラを構築し、190万枚の画像や400万種類の環境データを含む合計3テラバイトの常時データ測定を実現。実社会の複雑なデータを統合して分析・予測できるツールとしては世界に類をみない規模と精度だと言います。このプロジェクトはHPが掲げる環境への貢献だけでなく、HP社自身のR&Dとしても価値を発揮しているとのことです。

データの報告

データ報告の分野での注目は、やはり統合報告<IR>、そして米国で浸透しつつあるSASBの動きです。<IR>に関する企業報告では、<IR>ガイドライン作成にも加わったNovo NordiskやSAPがプレゼンテーションを担当し、同社においてはすでに<IR>がCXOレベルの経営サイクルの中心に据えられており、これなしでは経営管理の議論が成立し得ない次元まで来ているという共有がありました。一方、多くの企業が抱える課題、<IR>が曖昧なガイドラインでしかなく何を作ればいいのかわからない、については、「曖昧なものになってしまったことには、議論に参加していた我々にも責任があり、申し訳ないと感じてる。他社への範を示すためにも、弊社内で統合報告のあり方を進化させ、産業界をリードしていく責任を果たしたい。」と反省と抱負を吐露していました。また、財務・環境・社会という膨大なデータをグループ各社から収集するという難題をどう克服しているのかについては、「環境・社会に関するデータは、従来各部署から予算データを報告してもらっていたフローをそのまま踏襲している。報告ツールは、ある部門からはエクセルだったり、ある部門からはERPだったりと、柔軟に対応している。社会・環境の社内報告のために特別なツールを導入してはいない。」という回答でした。

SASBについては、企業だけでなく、金融業界からの参加者からも注目が集まっていました(SASBについては「【レポーティング】SASB(米国サステナビリティ会計基準審議会)を徹底解説」で詳しく紹介しています)。

投資家からの発表セッションもありました。UBSやBloombergからのプレゼンテーションでは、投資家内でESG格付の重要性が年々増加していること、ESG考慮が企業の中長期的な成長と密接にリンクしているという内容が強調されていました。また、ESG格付が様々な団体によって設立されている中、業界全体を束ねる団体であるGISRからは、ESG格付自身の認証制度を整備しているという報告がありました。業界のネットワーク組織であるGISRには、金融業界からはUBS、ドイツ証券、モルガン・スタンレー、アセットマネジメント世界大手のBlackrock、情報大手のBloomberg、コンサルティング業界からは大手のCeresやSustainAbility、デロイト・トーマツ、事業会社からはP&G、マクドナルド、ボッシュ、民間団体からはGRI、SASB、CDP、BSR、Oxfamなどが参加しており、業界を牽引する知が結集しています。

事業へのデータ活用

収集してきたデータを、どのように商品開発に活かすのか。この問いに対する事例も紹介されていました。会場から大きな喝采を集めたのは、ホテル予約の世界大手TripAdvisor社。ホテル業界に対するグリーンホテル化(環境に配慮したホテル経営)への啓蒙という事例です。耳目を集めたポイントは「グリーンホテル化の取組は、当初は大きな事業になるとは考えもしなかった」というプロジェクト開始時点での内部事情です。社内からは「本当に宿泊客はグリーンホテルに泊まりたいと思っているのか?」と懐疑的な見方が噴出、さらに肝心のホテル業界自身からは「我々の経験上、グリーンホテル化は宿泊客増加に寄与しない。無駄な試みだ。」と大反対を受けたと言います。そんな逆風の中、TripAdvisorは、自分たちの企業理念の遂行のため、とりあえずスタートさせてみようという姿勢で、画面上のホテル検索をする際にグリーンホテル度合いで絞り込める機能を搭載します。結果として得られたのは、想定以上にこの絞り込み機能を使う人が多かったというデータ。このデータを武器に、TripAdvisorはホテルに対しグリーンホテルに関する情報開示を要求していきます。今やグリーンホテルの情報開示を渋るホテルから「御社のグリーンホテルへの取組のせいで自社の集客力が減ってきている。どうしてくれるのか?」という非難も浴びる程までに。そのような非難について同社は「だからグリーンホテル化が大事だと言っているのです。情報を開示してください。」と強気を貫いています。このグリーンホテル化を呼びかけられる力強さの背景には、TripAdvisor社の事業モデル自体が関係しているようです。TripAdvisor社のホテル予約サービスは、直接ホテルと契約しているのではなく、ExpediaやHotels.com等ホテル予約サイトのメタ価格比較サイトという形式をとっており、ホテルとは直接の利害関係はありません。ホテルはどの予約サイトを選ぼうとも、結果的にTripAdvisorの影響を受けることとなります。TripAdvisorはこのような自社の「立ち位置」を理解した上で、ホテル業界への強気の啓蒙を推進しているのです。

Sustainable Brands 2014 London

CSR経営で注目を集めるイギリス。Sustainable Brandsは西欧地域でのカンファレンス実施国として以前からロンドンを会場とし、参加者はフランス、ドイツなどヨーロッパ各地から集まるイベントになっています。

サステナビリティと事業経営の一体化

ロンドン会場で目立ったのは、サステナビリティやCSRを「ついでにやるもの」ではなく、事業経営そのものに統合している企業事例の報告でした。前回のボストン会場でも報告を行った化学業界世界最大手の独BASFは、環境・社会ファクターをもとに事業や製品のポートフォリオの組換えまでを実施している事例を紹介していました。同社では、自社が定める環境・社会目標に対し製品の到達度を測り、Accelerator, Performer, Transitioner, Challengedの4段階に分類、Acceleratorの割合を増やして、Challengedの割合を減らすことに経営資源を集中させています。環境・社会を経営の中心に据えるBASFの考えの背景には、「社会・環境に寄与する商品ほど顧客に支持されていくはずだ」という根本的な思想があります。経済界の需要を先取りし、自社のブランドとポジショニングを際立たせる尺度として、社会・環境要素を大々的に取り入れているのです。

アルコール飲料世界大手のHeinekenは、同社のセンセーショナルなテレビCMを紹介していました。内容は、ダンスクラブを舞台とした実験について。いまいちなDJのもとではダンスクラブの客が盛り上がらず気晴らしにビールの購入数が増えるのに対し、優秀なDJの日には客がダンスに集中しビールの購入数が少なくて済む。この”Dance more, Drink less”というキャンペーンは、Heinekenにとってどんなメリットがあるのでしょうか。

一見、Heinekenの売上を傷つけかねないこのキャンペーン。なぜHeinekenの上級経営ボードは承認したのでしょうか。プレゼンターの説明は、「このキャンペーンにより短期的に売上は落ちるかもしれない。だが、長期的な視点に立つと、人々の幸福を最重要と考える同社の姿勢を顧客に示すことで、強い企業ブランドを構築できる」というものでした。会場からも”Heinekenはそこまでやるのか”という驚きの眼差しが集まっていました。

サーキュラーエコノミー

ロンドンではサーキュラーエコノミーに対する取組事例も豊富に紹介されました。サーキュラーエコノミー(Circular Economy)とは、日本語にすると循環型経済。一見すると非営利団体の活動のように見えますが、企業自身の取組です。自社製品の素材の有効活用を進めていこうという経営戦略のことを指し、今年に入り、マッキンゼー・アンド・カンパニー社からも”Moving toward a circular economy“という提唱があり、製造業を中心に注目されている概念です。

サーキュラーエコノミーの推進については、複数の企業から発表がありました。アルミニウム総合メーカー世界大手のNovelisは、同社製品を顧客から回収し再利用していく比率を2015年までに80%に高めることを経営目標として掲げ、顧客からの資源回収及び再利用を活用した製造方式へ転換するための設備投資へと大きく舵を切っているとのこと。また、電子部品大手のPhilipsは、製品の「修理・商品の再利用・素材の再利用」を高めていくだけでなく、さらにサーキュラーエコノミーを徹底するために事業モデルを「製品販売からサービス提供へ」とシフトさせていると言います。具体的な事例としては、ニューヨークの駐車場のケースがあり、電球を売るのではなく、「灯り」というサービスを提供する契約を駐車場と交わすことで、より耐久性が高く廃棄が少ない電球を開発するインセンティブを同社内でも高めているとのことです。

社外からの圧力

サステナビリティ経営が推進される要因には、企業の自助努力だけではなく、社外からの圧力もあります。Greenpeaceは、近年「IT企業のクリーンエネルギー促進」をターゲットとし、FacebookやAmazonなどの電力消費量や再生可能エネルギーによる電力シフトを独自調査し、成績の悪いAmazonに対しネガティブキャンペーンを張っているという報告がありました。同団体は、ネガティブキャンペーンとして動画やパンフレットなどをインターネット上で拡散させ、さらにCEOに対してレターを送って直接改善を迫るということまで手がけています。

気候変動に対する警鐘とガイドライン作成で有名なCDPは、最近は水問題に大きな関心を寄せているようです。CDPは、水汚染によって工場が活動停止に追い込まれた事例などを取り上げ、企業のサプライチェーンにとって水問題が死活問題となっていると断言していました。

今後のSustainable Brands開催

次回以降のSustainable Brandsの開催予定は、来年3月にタイ・バンコク、4月にスペイン・バルセロナ、5月にトルコ・イスタンブール、6月にアメリカ・サンディエゴ、8月にブラジル・リオデジャネイロ、9月にアルゼンチン・ブエノスアイレス、10月にアメリカ・ボストン、12月にマレーシア・イスタンブールが計画されています。

文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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