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【戦略】CSRからCSVへ? 〜CSV、CSR、サステナビリティ、CR、SRの違い〜 2014/12/16 体系的に学ぶ

違い

マイケル・ポーター教授が火を付けた”CSV”

2011年にハーバード大学のマイケル・ポーター教授が、ハーバード・ビジネス・レビュー誌で発表した論文 “Creating Shared Value”。それ以降、日本でもCSVという言葉が多用されるようになりました。CSVを説明するにあたり、ポーター教授は論文の冒頭で、

Shared value is not social responsibility, philanthropy, or even sustainability, but a new way to achieve economic success. It is not on the margin of what companies do but at the center.

と言及。「CSVは、社会的責任でもなく、慈善活動でもなく、サステナビリティでさえなく、経済的な成功を達成するための新たな道である」という表現から、CSVと既存のCSRやサステナビリティとを対立概念として置こうという意図が伺えます。

CSVとCSR
(出所:Michael Porter “Creating Shared Value” HBRをもとにSustainable Japan作成)

ポーター教授の定義によると、CSRは、旧来的な慈善活動であり、外部の圧力によって渋々やらなければならない類のもの。一方CSVは、企業が競合優位性を発揮していくための自発的な価値創造の取り組み。ポーター教授は、大きなトレンドとして、今や企業はCSRからCSVへとシフトしてきていると説きます。その結果、日本国内でも「これからはCSRではなく、CSVだ」「本業と一体化したCSR」「守りのCSRから攻めのCSR」というような言い方が多くされるようになりました。今年12月10日に発売されたハーバード・ビジネス・レビュー日本版でも”CSV経営“というタイトルで特集が組まれています。

では、今後、CSRやサステナビリティという言葉の出現頻度は少なくなっていくのでしょうか。海外の様子を見ていると、そんなことはなさそうです。CSRの分野は、日本よりも欧米のほうが進展していると言われますが、日本で昨今CSVという言葉が非常に多用される一方で、欧米ではさほどCSVという言葉は使われてもいません。では、欧米はポーター教授のいう旧来型のCSRが依然として注目されているのかというと、そうでもありません。では、この単語の利用頻度の違いはどこから来るのかというと、それは単純に単語の定義が違うというだけの話なのです。

単語の使われ方の整理

CSRと同類の単語には、他にも、CR(Corporate Responsibility:企業の責任)、SR(Social Responsibility:社会的責任)があります。それぞれ、現在でも欧米では多く使われている言葉ですし、同様に、CSRやサステナビリティという単語も現在でも一般的に使われています。結論から先に言ってしまいますと、欧米では、CSR、サステナビリティ、CR、SRは、日本で現在認識されているCSVとほぼ同じ意味で使われており、明確に違いを言うことは極めて難しい状況です。では、なぜ似た意味の単語がここまで乱立してしまったのか。背景とともに、それぞれの単語を解説していきたいと思います。

Corporate Social Responsibility (CSR)

今回取り上げる、CSR、サステナビリティ、CR、SR、CSVの中で、CSRが最も早くから使われており、世界で最も普及している単語です。CSRという用語が市民権を得てきた1990年代は、欧米でも「CSR=慈善活動」という捉え方が一般的でした。しかし、その後、CSRの単語の意味は欧米で大きく変化していきます。先日、「【レポーティング】統合報告による企業情報開示の変革 〜武田薬品工業社の成功事例〜」でも紹介したとおり、2000年代にはCSR第二世代の考え方「CSR=リスク管理」という概念が芽生え、そして2010年代にはCSR第三世代「CSR=競合優位性の源泉」と考えられるようになりました。結果、第三世代のCSRの概念は、ポーター教授の言うCSVとほぼイコールであり、欧米のビジネス界には、ポーター教授はあまりにも時代遅れなCSRの定義を持ちだしているという見方もあるぐらいです。

ポーター教授の言うCSVを「CSR」という言葉で表現している代表的な機関はEUです。非財務情報の開示を積極的に推進しているEUは、”Corporate Social Responsibility (CSR)“という名称でアジェンダ設定しています。ですので、EU諸国の大半は、CSVのことを、引き続きCSRという言葉で表現しています。

Sustainability (サステナビリティ)

ポーター教授は、「サステナビリティ」も旧来型CSRのひとつとして捉えており、CSVに取って代わられるというような表現をしていますが、これも欧米の実態とは大きくかけ離れています。サステナビリティを多用している国は米国です。単純にサステナビリティと言われたり、コーポレート・サステナビリティと言われたりしますが、意味は同じです。米国でも以前はCSRという言葉が最も多く使われていたのですが、CSRという単語が第一世代のCSRのイメージを強く想起してしまうため、それとは違う新たな用語として「サステナビリティ」が2000年代以降使われてきました。結果、アメリカ企業の大半はCSR報告書のことを「サステナビリティ報告書」と呼んでいます。このように、米国では「CSV=サステナビリティ」なのです。

世界の経済大国米国でサステナビリティという言葉が多用されるようになったことに呼応して、GRIもIIRCもSASBもサステナビリティという言葉を好んで使う傾向にあります。その結果、アメリカの影響を受け、世界中の多くの国で「サステナビリティ」という言葉が用いられるようになってきました。このトレンドに倣って、当サイトでもサステナビリティという言葉を常用しています。

Corporate Responsibility (CR)

CSRに非常に似た言葉にCR (Corporate Responsibility)があります。CRという用語をよく使う機関はイギリス。イギリスもかつてはCSRという単語が最も普及してました。しかしながら、かつてのアメリカと同様、「CSR=慈善活動」となってしまっているイメージを破壊するため、新たにCRという言葉が考案されました。現在イギリスでは今回整理する5つの単語の中でCRが最も多く使われており、イギリスではCSR報告書は、「CR報告書」と呼ばれています。この背景には、イギリス政府自身がCRという言葉を使っていることにもありそうです。イギリスもCSV的な考え方の最先端を行く国ですが、政府が発表するドキュメントではCRが用いられています。

また、イギリスではCorporate Citizenshipという言葉もよく使われますが、これも同じ意味です。

Social Responsibility (SR)

CSRからCorporateがなくなったのがSRです。SRという言葉が大々的に使われているのが、ISO26000(CSR基準)です。ISO26000では、CSRの標準化にあたり、企業だけでなく、いかなる団体にも参照してもらえるようにしようという発想が生まれ、Corporateの文字がなくなりました。Social Responsibilityという単語は、ISO26000の歴史がまだ浅いからか、他ではあまり使われていません。

Creating Shared Value (CSV)

そしてCSV。CSVという単語が広く普及してきているのは世界で日本だけです。代わりにアメリカはサステナビリティという言葉を生み出しましたし、イギリスはCRを生み出しました。ですので、海外に行って「これからはCSRではなくCSVだ」と言っても正直あまり通じませんし、ポーター教授の論文も日本ほどは影響力はないようです。それは、ポーター教授が欧米で不人気ということではなく、上記でも書きましたが、ポーター教授があまりにも古いCSRの概念を持ちだしてたからなのではないかと感じています。しかしそれは、ポーター教授の主張が間違っていることは意味せず、繰り返しになるが、ポーター教授の視点は、アメリカではサステナビリティ、イギリスではCR、そしてEUではCSRという言葉を用いて、しっかり世界に根付き始めています。

文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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