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【エネルギー】環境政策の盲点(1) 〜電気料金の段階制は省エネに寄与するのか?〜

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私たちの社会のサステナビリティに欠かせない要素のひとつ、環境問題。その問題に取り組むプレーヤーのひとつに政府があります。政府は環境問題をしかるべき方向に向けて解決するため、規制整備を行ったり、補助金を出して行動を誘導したりしています。しかしながら、このしかるべき方向に進めるという目標と、規制や補助金の効果が必ずしも一致しているとは限りません。実際の環境政策の効果を実証経済学の観点から検証を行っている研究者の一人が、米ボストン大学ビジネススクール伊藤公一朗助教授です。伊藤氏は、当サステナビリティ研究所所長を務める夫馬賢治の古くからの友人ということで、今回伊藤氏から、当サイトで研究内容を紹介する許可を頂きました。そこで、今回から数回に渡り、環境政策の効果を検証をしていきます。

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伊藤 公一朗(いとう・こういちろう)

米ボストン大学助教授

宮城県仙台市生まれ。仙台一高、京都大学経済学部卒業。ブリティッシュ・コロンビア大学修士課程、カリフォルニア大学バークレー校博士課程修了(Ph.D)。スタンフォード大学経済政策研究所研究員を経て、2013年よりボストン大学ビジネススクール助教授。専門は、環境・エネルギー経済学、産業組織論、公共経済学。

電気料金の段階制は省エネに寄与するのか?

2011年3月の地震以降、電気料金はより一層、一般消費者にとっても関心の高いテーマとなりました。省エネルギー推進の名の下に1974年から採用されている「段階料金制度」。電気を多く使えば使うほど、電気の単価が上がるという仕組みを導入することで、消費者の省エネ意識を向上させる効果が期待されてきました。

しかしながら、この段階料金制度は本当に省エネに寄与してきたのでしょうか。伊藤氏は2013年に、経済学の論文「Do Consumers Respond to Marginal or Average Price? Evidence from Nonlinear Electricity Pricing」(消費者は限界価格と平均価格のどちらに反応するのか?段階料金制度からの検証)を世界で最も権威のある経済学術誌の一つであるAmerican Economic Reviewで発表し、このような省エネ政策の効果検証を行っています。政府が導入した段階料金制度の目的と結果は一致しているのか、伊藤氏の論文を基にその実態に迫ります。

段階料金制度とは

まずは段階料金制度とは何なのかについてお話しします。現在我々が支払っている電気料金は、使用電力量に応じて変わります。しかしその変化は直線的に比例関係で上がっていくのではなく、階段式に上がっていく仕組みになっています。
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(東京電力のデータを基にニューラル作成)

この仕組みは、所得税における累進税率制をイメージすると理解し易いでしょう。日本において所得税は、所得が一定額以上になった場合にその超過金額に対してのみ、より高い税率を適用する超過累進税率方式を採用しています。例えば、年間所得が500万円の場合を考えてみましょう。500万円の所得税率は20%ですが、500万円全体に20%の税率がかかるわけではありません。195万円までの部分の税率は5%、195万円から330万円の135万円には10%、330万円から500万円の170万円には20%の税率がかかります。これを電気料金に当てはめると、「使用電力量が一定以上になった場合にその超過量に対して高い料金を適用する」ということになります。
この料金体系が導入された背景には省エネ推進があると言われています。一定以上の電気使用量に対して、適用料金を高くすることで、各家庭の電気使用量を一定以下に抑えようという試みです。しかし、この仕組みが成り立つには、消費者が電気料金が割高になるタイミングを適格に捉え、節電しようというインセンティブが働くということが前提となります。伊藤氏は上述の論文の中で、この前提に対して本当にそう言えるのかということを検証したのです。

消費者は何を指標に電気使用量を決めるのか

一般的に人は商品・サービスを購入する際に、商品の価格を感覚的に思考していると言われ、その頭のなかで想定した価格を基準に「高い」・「安い」といった判断をしています。この感覚的に想定している価格は、他の商品の価格や料金体系に基づいて計算されているため、その価格の想定方法が単純で理解し易いものである場合には、消費者は便益を最大化する結論を出すことがこれまでの経済学によって判明しています。それを踏まえた上で電気料金について考察してみましょう。
経済学の基本前提に立つと、消費者は便益を最大化するために、料金が割高になる前のギリギリの点まで電気を使用することになります。つまり消費者は、電気料金が跳ね上がる階段の真下の点に集中するはずです。ところが、伊藤氏が実際に世帯別消費電力を調査したところ、消費者は必ずしも階段の真下の限界点に集中しないということが見えてきました。つまり、政府が意図した一定以下への消費電力抑制の試みに反し、そもそも消費者は電気料金が割高になる限界点を考慮せず電気を使用しているということがわかったのです。

では、一体、消費者は何を目安にして、電気使用量をコントロールしようとしているのでしょうか。可能性として2つの仮説が立ちます。

1. 消費者は電気料金の変化を全く気にしない(=価格弾力性ゼロ)
2. 消費者はこの限界点以外の別の指標を認識し、それに従って行動している

伊藤氏は、カリフォルニア州の実際の電力使用量データを計量分析することで、消費者が何に反応して電気使用量をコントロールしているのかを突き止めました。消費者の反応因子となっていたのは、政府が意図した限界価格ではなく、平均価格でした。すなわち、消費者は電気料金が大きく跳ね上がるタイミングではなく、頭の中でなんとなく電気使用量と電気料金の総額を想起し、その平均価格をイメージし、それに応じて電気使用の最適量を求めているということです。

それでは何故、消費者は限界価格ではなく平均価格に反応することとなったのでしょうか。それは、月単位の電気使用量を限界点に着地させることがそもそも困難だからです。まず、消費者は月単位でしか電気使用量と電気料金を把握できないため、日々どれだけ電気を使用しているか知りようがありません。また、月の電気使用量を正確に予測しながら日々電気使用量をコントロールすることもほぼ不可能です。したがって、消費者はより単純化して理解するために平均価格を使うというわけです。そしてそれは単純化しているが故に、消費者が想定する電気使用量・料金とも近いものになります。

実証研究から見えてきたこと

消費者が反応しているものが、限界価格なのか平均価格なのかということが、どうしてそれほど重要なのでしょうか。限界価格であろうと平均価格であろうと、電気使用量とともに増加していくものであるため、結果的には消費者が電気使用をセーブしそうにも思えます。伊藤氏の研究の大きな成果は、反応因子が限界価格か平均価格かによって、段階料金制度が電気使用量の抑制に全く逆の効果をもたらすこと見出したことにあります。研究では、一律料金制度と比較して、段階料金制度は、消費者が限界価格に基づく行動をするときは2.33%の電力消費量を減少させるのに対し、平均価格に基づく行動をした結果、電力使用量は反対に0.27%増加してしまったと発表しています。つまり、省エネを期待した段階料金制度は、実際には省エネではなく、電気使用量を増加させてしまっているというのです。

電気使用量が増加してしまうカラクリはこうです。まず、電気料金が使用量に応じて変化しない一律料金制度の時代には、電力会社の発電コストや事業コストから一律の価格を算出していました。それを段階料金制度に変え、階段上の料金体系を構築すると、電気消費量が少ない間は以前の一律料金制度より低い料金が、電気使用量が多くなると、一律料金制度時代の料金より高い料金が適用されるようになります。そして、電気使用量が少なかった消費者は、電気料金が安くなったためより多くの電気を使うようになります。一方、電気使用量が多かった消費者は、電気料金が高くなったため電気使用量を減らそうとしますが、どれだけ減らすかは、彼らが平均価格に基づくか、限界価格に基づくかによって結果が大きく変わるのです。限界価格に基づく場合は、電気料金が大きく上がるため、省エネのインセンティブが大きく作用します。しかし、平均価格に基づく場合は、もともと電気使用量が大きいため、多少電気料金が上がっても平均価格は大きくは増加せず、省エネのインセンティブはあまり働きません。結果として、電気使用量が少ない消費者の電力使用増加分より、電気使用量が多い消費者の電力使用減少分が小さくなり、一律料金制度のときより全体の電力使用量が増えてしまうのです。

環境政策の盲点

環境政策は倫理的に反駁することが忌避されるが故に、効果検証が疎かになりがちです。伊藤氏の論文では、カリフォルニア州政府が導入した段階料金制度が制作の意図に反し、省エネ効果が大きく期待できないことを示しました。同様に段階料金制度を導入した日本での結果はどうなのでしょうか。伊藤氏は現在日本の経済産業省とも協力しながら、日本での状況を検証しようとしています。一見すると正しそうに見える政策や事業にも、本当に狙った効果が出ているのかどうか、検証することの大切さを伊藤氏の論文は教示してくれています。

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菊池尚人

サステナビリティ研究所研究員

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