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【人権】国際人権法と企業の人権問題 〜Jパワー・伊藤忠商事・パタン石炭火力発電所の事例〜

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 今、日本企業と日本政府が大きく関与するインドネシアでの石炭火力発電所建設が、大きな人権問題に直面しています。今年6月28日、先進国が集う国際機関、経済協力開発機構(OECD)の日本相談窓口(NCP)が、この問題を正式に受理し審議することを決定したというアナウンスがOECDから出ました。訴えられたのは、この石炭火力発電所建設を担う企業の株主である電源開発(Jパワー)と伊藤忠商事。一方で訴えたのは、国際的なNGOのサポートを受けるインドネシア現地住民で、発電所建設において人権を無視した土地収用がなされていると訴えています。そして、審議を担うNCPとは、日本政府の3省で構成されているものです。このような話をしても、人権問題や国際法に馴染みがない人にとっては、いまいちピンとこない話かもしれません。インドネシアで起こっていることを、なぜ日本政府が審議することとなったのか。NCPとは何か。そしてこのNGOとは一体何なのか。たくさんの疑問符がつく話ですが、すでにこの案件によって、土地収用が進まないJパワーと伊藤忠商事は、発電所建設が大幅に遅れる事態となり、大きな財務的損失にも繋がっていると言います。企業にとって今後直面していくことが多くなると言われている人権問題。今回は、企業と人権に関する話をまとめて解説していきます。

案件の経緯

 問題の舞台となっているのはバタン石炭火力発電所。この発電所を建設するプロジェクトが、2011年10月に日本の官民連携・国策プロジェクトとしてスタートしました。経済発展により国内電力需要が急増しているインドネシア。もともとインドネシアは世界有数の石炭生産国で、現状でもインドネシアの電力割合のうち石炭火力発電は大きな割合を占めています。そこでインドネシアはジャワ島中部パタン地域に石炭火力発電所を建設する計画を立て、国際入札を行います。これに眼をつけたのが日本企業と日本政府です。海外での事業拡大を狙う伊藤忠商事は、日本での巨大な発電事業者であるJパワー、インドネシアのエネルギー企業アダロ・パワー社(アダロ)とともに入札に参加、優先交渉権を勝ち取ります。そして建設を行う事業者として3社で合弁企業、ビマセナ・パワー・インドネシア社(BPI)をインドネシア法人として設立しました。出資比率は、Jパワー34%、アダロ34%、伊藤忠商事32%の割合です。こうしてパタン火力発電所建設プロジェクトが始動していきます。

 パタン石炭火力発電所は、完成すると東南アジア最大級の発電容量2GWとなる超大型の火力発電所です。総事業費は約4,800億円。当然、インドネシア政府としても威信がかかる国家規模プロジェクトです。BPI設立3ヶ月後には、インドネシア政府との間で25年間の電力売買契約(PPA)を締結。また、インドネシア大統領令に基づき実施される官民連携パートナーシップ(PPP)第一号案件にも認定されていきます。金融機関も動き出します。巨大なインフラプロジェクトにはデットファイナンス(借入や社債発行による資金調達)が欠かせません。BPIに対しても、日本の政府系金融機関である国際協力銀行(JBIC)を始め、メガバンク3行などが融資の段取りを進めていきます。そして、日本政府も積極的な後押しをします。日本企業の海外進出を国家戦略として掲げる安倍政権は、内閣官房に設置した経協インフラ戦略会議の場で2013年5月に「インフラシステム輸出戦略」を、さらに2013年6月「日本再興戦略」の中でもインフラシステム輸出を海外市場獲得のため官民挙げて取り組むことを掲げます。その取組の柱となったのが、政府系金融機関であるJBICに海外インフラプロジェクトへの融資を実施させるというものでした。

 しかし、このプロジェクトは初年度からつまづきます。デットファイナンスの期限であった2012年8月、JBICからの融資許可が出ず、それに伴いメガバンクからも融資が得られない状況となりました。原因は、発電所建設の土地収用において地元の農民たちが抗議活動を展開し、土地収用が必要用地の8割しか進んでいないことが融資条件を満たさないと見られたことでした。BPIは、土地収用は合法的な手法に基いて実施しているとしつつも、現地の農民たちは不法行為であると体を張った抵抗を示します。この動きは、国際NGOの耳にも届き、やがて抗議行動は現地だけでなく、インドネシア政府や国際的なものへと発展していきました。現在この問題で主体的に動いているNGOには、グリーンピース、FoE Japan、気候ネットワークなどがあります。窮地に陥ったBPIは2012年8月、当面の運転資金を確保するため、金融機関から総額約2億7,000万米ドルのつなぎ融資をなんとか引出します。資金の貸し手となったのは、三井住友信託銀行(1億3,500万米ドル)、三菱東京UFJ銀行(6,200万米ドル)、みずほ銀行・三井住友銀行・DBS銀行・OCBC銀行(各行1,800万米ドル)です。こうしてメガバンク3行と三井住友信託からの融資が資金繰りを支えました。そして、日本の大手金融機関もこの案件の当事者として係ることとなりました。

 この間にも、現地での状況はさらにエスカレートしていきます。2012年9月に土地収用に関係していると見られるインドネシアの治安部隊と現地地権者の間で衝突が発生。土地収用は頓挫します。同時に地権者らは、この問題をインドネシア政府の機関である「国家人権委員会」に通報。2012年12月に、国家人権委員会は、インドネシアの国内法に照らし合わせ、今回の土地収用には人権に関する法令違反があったとし、インドネシア関係省庁や事業者に対して、地権者との話し合いを十分にするよう勧告を出します。

 しかしこの勧告でも事態は進展しません。最大の理由は、国家人権委員会が司法機関でないということです。国家人権委員会は政府の独立機関ですが、裁判所ではありません。そのため、勧告書は、政府機関や事業者に対してあくまで委員会の見解を述べるのみであり、法的な判決ではありません。そのため、それに従うかどうかは政府機関や事業者の最終判断に委ねられます。また、事業者や政府機関としても、司法機関こそが最終判決者であり、土地収用が合法か違法かについては裁判所が判断すべきものであるという言い分が成立します。インドネシア国家人権委員会はその後も数回に渡り勧告を出しますが、インドネシア裁判所からの司法判断やインドネシア大統領や行政府からの行政命令は出ませんでした。

 こうした状況に業を煮やしたNGOは、矛先をプロジェクトを実質的に推進している日本へと向けていきます。日本は、BPIの大株主であるJ-Powerおよび伊藤忠商事の法人設置国であり、債権者には大手邦銀があり、さらに財務省が100%出資するJBICが巨大な融資を引き受ける話が進んでいる場所です。NGOは現地住民とともに2014年9月に来日し、直接政府や事業者と交渉をしようとするも、政府と事業者は面会を拒否。すると今度はインドネシア国家人権委員会に事態を再度取り上げ、インドネシア国家人権委員会は2015年12月に安倍首相と衆議院議長に対してJBIC融資における人権レビューを慎重に進めるよう要請します。また2015年7月、多国籍企業の責任ある事業運営を定めた「OECD多国籍企業行動指針」への違反の疑いがあるとして、グリーンピースとFoE Japanの支援のもと、現地住民23名はOECDの通報制度を活用し、日本の通報窓口であるNCP(外務省経済局経済協力開発機構室、厚生労働省大臣官房国際課、経済産業省貿易経済協力局貿易新興課の3者で構成)に対して案件を受理して審議するよう願いを出しました。(OECDの話は後ほど解説します)

 事態が動いたのが今年6月3日。JBICはついに、BPIに対して約20億5,200万米ドル(約2,234億円)という巨額の融資契約を締結、これはBPIがJBICに求めていた融資額のほぼ満額に相当する額でした。これと同時に、三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友信託銀行、三菱UFJ信託銀行、新生銀行、農林中央金庫、DBS銀行、OCBC銀行も合計で約14億米ドルの融資契約を締結しました。これに即、日本のNGOが反発。国際環境NGO FoE Japan、インドネシア民主化支援ネットワーク(NINDJA)、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、気候ネットワークの4団体が、今回のJBICの意思決定は、JBICガイドラインや「国連ビジネスと人権に関する指導原則」に反するとする共同声明を発表します。そして、このように沸騰するタイミングの中、OECDの通報制度窓口であるNCPは6月29日、案件の正式受理を発表しました。

NCPで予想される展開

 ではこのNCPでは何が審議されるのでしょうか。私の個人的な見解では、訴えた側の期待をそぐようで申し訳ないのですが、おそらく何も決まらずに終わると思われます。OECD多国籍企業行動指針では、「行動指針」の普及、「行動指針」に関する照会処理、問題解決支援のため、加盟国政府に対し、NCPとしての相談窓口機能を果たすことを定めています。このように、NCPは司法機関ではなく、問題解決を「支援」するための機関にすぎません。そのため、そもそもNCPに裁判のような役割を期待することができません。

 また、とりわけ日本政府は、このNCPが司法的役割を果たすことに極めて消極的な対応を過去採ってきています。日本政府が定めているNCPの事務処理手順においては、受理された案件は、基本的に日本政府として動くことができる話なのかどうかの基準で案件が処理されます。問題が日本国内法に関するものであれば、日本の司法機関で解決するよう当事者に回答することになっています。また、日本国外に関することであれば、当事国の司法機関の判断を優先し、また司法機関の判断が未定の場合は当自国政府に対し対応を促すよう申し伝えることになっています。今回の土地収用のケースは、日本国内法の話ではなくインドネシア法の話です。日本NCPの事務処理手順においては、OECD多国籍企業行動指針の非加盟国が当事国の場合で、かつ日本企業が当事国となっている場合は日本NCPで案件を受理するとしているので、今回のケースはインドネシアの話ですが日本NCPで受理されました。しかし、手順に沿うと、おそらく日本NCPとしては、訴えを起こしたものに対して、インドネシア政府が問題処理に善処するよう日本国政府として申し伝えるという結論で終わりそうです。日本NCPは過去に3案件を処理していますが、いずれの案件においても、このように当事国に対応を促すかを、当事者間の自主的な問題解決を仲介するという結論で終わっています。

国際人権法と人権通報制度

 では今回のような人権問題について、司法的判断を下せる機関は他に存在するのでしょうか。順番に見ていきましょう。

インドネシアの国内裁判所

 今回のケースは、インドネシアで発生した土地収用が一義的な問題ですので、問題に一番近い司法機関は、インドネシアの裁判所です。繰り返しになりますが、インドネシア国家人権委員会はすでに勧告を出していますが、これは司法機関ではないため、判断に法的な効力はありません。現在同案件はインドネシアの裁判所でも争われていますが、まだ判決は出ていませんし、いつどのような判決が出るかも予測がつきません。

日本の国内裁判所

 では日本の国内裁判所はどうでしょうか。残念ながら、インドネシア法下での土地収用に関して、日本の裁判所が適否を判断することはありませんので、日本の裁判所に提訴しても日本の裁判所は管轄権がないとみなし受理しない可能性が大です。

国連の人権救済制度

 次に思い浮かぶのが国連の人権救済制度です。現在の世界において人権という考え方の根源となっているのは、1976年に発効した国際人権規約という国際条約です。国際人権規約は、社会権規約(国際人権A規約)と自由権規約(国際人権B規約)という2つの条約で構成されています。A規約は、労働、社会保障、生活、教育などの経済的・社会的・文化的権利(社会権)を保障しています。B規約は、人間としての平等、生命に対する権利、信教の自由、表現の自由、集会の自由、参政権、適正手続及び公正な裁判を受ける権利を保障しています。日本政府は1979年にA規約、B規約双方を批准しています。

 では、この国際人権規約には市民が企業や国を訴える制度はあるのでしょうか。答えは部分的にYesです。A規約とB規約のうち、B規約にのみ個人が企業や国が行った人権侵害を訴える制度があります。これを「個人通報制度」と呼びます。個人通報制度では、条約の事務局である国連人権高等弁務官事務所に対して、個人が直接訴えを提出することができます。提訴されると、各国の法律専門家が委員を務める自由権規約委員会によって審議され、見解が出されます。これまでに個人側の訴えを認める見解も多数出されています。しかしながら、ここにも問題があります。まず、自由権規約委員会の見解も、やはり司法判断ではなく、法的拘束力を持たないという点です。但し、自由権規約委員会の見解を尊重しようという国もあり、見解を重視した措置が当事国で採られることもあるため、意味が無いわけではありません。さらに、より大きな問題なのは、「個人通報制度」を認めている国がそもそも少ない点です。個人通報制度はB規約の一部ではありますが、個人通報制度を受け入れる国は、個別に「第一選択議定書」という条約を批准する必要があります。日本は、B規約を批准していますが、第一選択議定書は批准しておらず、日本国籍保有者は個人通報制度を使うことができません。同様に、インドネシアも、B規約を批准しますが、第一議定書は批准していません。そのため、今回のケースでも、インドネシア現地住民が個人通報制度を使うことはできません。

 また、国連には、似た名前の機関として「国連人権理事会(旧・国連人権委員会)」というものがあります。しかしながら、これは国家間の人権紛争を扱う機関であり、個人が政府や企業を訴える制度はありません。

地域的国際機関の人権救済制度

 では、世界レベルではなく、地域レベルの国際機関には人権救済制度は備わっているでしょうか。答えは部分的にYesです。ヨーロッパには、欧州人権裁判所という人権問題を扱う裁判所があります。この裁判所は、ヨーロッパ評議会加盟国における人権問題の最高裁判所であり、法的拘束力を持ちます。個人が直接人権侵害を裁判所に訴えることもできます。その判決は、加盟国の最高裁判所の判決を覆すことができる権限が与えられているほど強力です。ヨーロッパ評議会には、EU加盟国の他、スイス、ノルウェー、ロシア、トルコなども加盟しており、ヨーロッパのほぼ全ての国が加盟しています。

 同様の仕組みは、北米・中南米にもあります。この地域には、35ヶ国が加盟する米州機構という国際機関があり、米州機構の加盟国はみな米州人権条約に入っています。加盟国の国籍保有者には、人権侵害に際し米州人権委員会に訴えを提出することができる個人通報制度を使うことが認められています。米州人権委員会の委員は法律専門家で構成されており、訴えについて判断を下します。判断に国が従わない場合は、委員会はその内容を公開し、加盟国全体でその当該国に対して政治的プレッシャーをかける仕組みとなっています。

 一方で、アジア地域にはこのような人権救済制度を持つ国際機関はありません。東南アジアのASEANにも個人通報制度は整備されておらず、現在交渉中のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)においても個人通報制度は話題には出ましたが、条約に盛り込まれることはありませんでした。ですので、今回のインドネシアのケースの人権救済においても、利用可能な地域的国際機関はありません。

 経済がグローバル化し、国境を超えたビジネスが増加するにつれ、国際的な人権問題は増えてきています。実際に、欧州人権裁判所や米州人権委員会に提出される個人通報は年々増加しています。人権は人がいるだけで発生する権利ですので、当該個人と何ら契約等を結んでいなくても発生する権利義務関係です。そのため、企業は常に国際機関に訴えを出されるリスクをはらんでいます。

ビヨンド・コンプライアンス

 ここまで、ヨーロッパと北米・中南米には国際的な人権個人通報制度があり、一方アジアにはまだ存在しないということを見てきました。それでは、企業は、ヨーロッパにおいては北米・中南米では基準高い人権に配慮すべきであり、アジアでは比較的配慮する必要がないのかというと、そういう話でもありません。ここに、ビヨンド・コンプライアンス(法令遵守を超えた対応)という考え方が関わってきます。

 ビヨンド・コンプライアンスは、法令遵守以上の対応を自主的にしていこうというもので、特に新興国や後進国での事業において求められている姿勢です。人権に関する法規制は、一般的に先進国で基準が高く整備され、新興国や後進国では国内法が未整備であるところも少なくありません。グローバルで活動する企業には、人権基準が高い国に合わせて自主的な人権方針を作成し、それを先進国、新興国、途上国問わずその人権方針を貫こうという姿勢が求められています。

 日本でも近年、コンプライアンスとCSRの関係について整理する企業が増えてきています。そして、「当社のCSRはコンプライアンスを超えたものである」と謳っているところも多くなってきました。コンプライアンスを超えて、人権や環境に配慮するということは、口にする以上に難しい内容を含んでいます。例えば、今回のインドネシアのケースで考えると、土地収用の違法性をインドネシアの司法機関が判断する基準に依拠し、それをおさえてさえいれば適切な対応であったと言えるのかということになります。コンプライアンスを超えてと言うためには、インドネシア国内法に照らし合わせて問題がないというだけでは不足で、なぜインドネシア国内法の基準は自社にとって十分なものなのか、自社にとって何をもって適切と言うのかということを対外的に堂々と説明することができる姿勢が必要となります。

 東洋経済オンラインでの報道によると、Jパワーは今回の案件に対し、「法にのっとって土地取得を進めており、人権侵害はなかったと考えている。」と回答を寄せています。また、伊藤忠商事は、「これまでにも国家人権委員会による勧告を十分に尊重しながら事業を進めてきた。住民説明会や代替地紹介など、さまざまなプログラムを実施してきた」としていますが、同社のホームページ上では今回の人権問題についての公式見解などは発表されていません。

 また、JBICは、「土地収用の法律にのっとって適法に手続きが行われていると認識している。現時点で具体的な人権侵害の事実は確認できていない」と回答したといいます。一方、JBICを管轄する財務省の担当者は、JBICの融資決定前の段階でNGOとの対話の中で、「この案件に関しては生計手段喪失の住民との話し合いの結果を見た上で JBICはしっかり判断し、我々もそれを見守って行く。」とJBICに判断を委ねる見解を示しています。JBICの融資決定にあわせて、大手邦銀も融資決定をしましたが、大手邦銀としては、国がバックにいるJBICが実施した人権デューデリジェンスで問題ないと判断したからということなのかもしれません。

 人権については、「ビジネスと人権に関する指導原則」「OECD多国籍企業行動指針」など企業を対象としたガイドラインが誕生し、金融機関には「赤道原則/エクエーター原則」というものも登場しています。いずれも、ビジネス上で人権配慮を謳っており、人権問題が起きた場合の救済措置を設けるにとの原則が含まれています。しかし、この救済措置の具体的な内容については定義がなく、各企業の自主的な対応に委ねられています。ビヨンド・コンプライアンスを掲げる企業にとっては、この紛争解決をどのように実施するかは重要なテーマとなっていきます。これまでは、紛争が起これば弁護士に相談し法的基準で解決するのが通常でした。しかし、これではビヨンド・コンプライアンスとは言い切れなくなってきています。

 人権の配慮基準を上げた行動には一時的にコストが増加することがあります。例えば土地収用のケースでは、補償金額の増加、話し合い機会による機会費用の増加や人件費の増加などがあります。しかし、人権対応を誤るとプロジェクトな大幅遅延を余儀なくされ、結果的にコストが「高くつく」可能性も出てきます。実際、パタン石炭火力発電所建設は当初の予定では2016年末には発電所の稼働が予定されていましたが、現在は2020年6月へと大幅にスケジュールが延期されています。ビジネスと人権というテーマが年々大きくなっていく中、政府やや企業はこれらの人権リスクとどう向き合うのか、今回のケースをもとにあらためて考えて頂ければと思います。

【参考ページ】OECD Watch “Leaders of Paguyuban UKPWR vs ITOCHU”
【参考ページ】OECD 多国籍企業行動指針に基づく住民の申立書 概要
【参考ページ】エネルギー経済研究所「インドネシアにおける高効率石炭火力発電設備導入の可能性とその効果
【参考ページ】経済産業省総合エネルギー調査会「インフラ輸出の現状と課題(石炭火力発電)」
【参考ページ】外務省「OECD多国籍企業行動指針」
【参考ページ】外務省「日本連絡窓口(NCP)の事務処理手順等」
【参考ページ】伊藤忠商事「インドネシア共和国セントラルジャワ石炭火力IPP事業の融資契約締結について」
【参考ページ】FoE Japan「インドネシア・バタン石炭火力発電事業」
【参考図書】阿部浩己、藤本俊明『テキストブック国際人権法』日本評論社
【参考図書】みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行『実務解説 エクエーター原則/赤道原則』きんざい

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夫馬 賢治

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所所長

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