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【インタビュー】IKEUCHI ORGANICが辿った軌跡、経営とサステナビリティの融合

Ikeuchi-organic

 IKEUCHI ORGANIC。愛媛県今治市に本社を置く今治タオルのメーカーだ。創業は1953年。もともとは今治タオルの輸出用OEM製造工場として誕生した。今治市は国内最大級のタオル生産地で、120年の歴史を持つ。2006年に国が商標法を改正し地域名をブランド化する「地域団体商標制度」が開始されると、今治市のタオル生産者はすぐに「今治タオル」という商標と統一品質基準を確立。国の中小企業庁も世界に打って出る「ジャパンブランド」を創りだすため、「今治タオル」を「JAPAN ブランド育成支援事業」に認定。今や今治タオルの名前は、品質の高いタオルとして広く認知されるまでに至っている。

池内オーガニックタオル

 強いブランド力を持つ「今治タオル」の中でも、ひと際ユニークなのがIKEUCHI ORGANIC。「池内タオル」という老舗企業がさらに独自性を出すため、1999年にオリジナルのタオルブランドを立ち上げ、2014年には社名も「池内タオル」から「IKEUCHI ORGANIC」に変更した。IKEUCHI ORGANICのタオルの商品コンセプトもとてもユニークだ。事業で使うエネルギーは全て風力発電で調達。素材は全てピュアオーガニックコットン。赤ちゃんが口に入れても問題のない染料安全面のこだわり。ここまでストイックに徹底している企業は、タオルメーカーだけでなく、全産業においても世界的に極めて珍しい。まさに、サステナビリティを追求する最前線の企業と言える。

 今でこそ再生可能エネルギーやフェアトレードなど、サステナビリティテーマの重要性が認識されつつあるが、IKEUCHI ORGANICがこれらの取り組みに着手したのは1999年。その背景には、当時の社長の斬新な発想と、生き残りをかけた熾烈な想いがあった。今回は、このIKEUCHI ORGANICの生い立ちと商品に秘められたこだわりに迫る。

Ikeuchi

IKEUCHI ORGANIC代表取締役 池内計司氏

IKEUCHI ORGANICブランドが1999年に誕生した背景は何だったのですか?

池内氏:

 正直に申し上げると、最初はそこまで深くは考えておらず、きっかけは私の「ええかっこしい」な性格でした(笑)。環境というテーマを少し追求してみようとタオルメーカーとして初めてISO14001を取得。また、オーガニックコットンを使い、さらに当時オーガニックコットンとしては異端と見られていた染色のカラータオルを作りました。こうして生まれたのが今も店頭に並んでいる「ORGANIC 120」という商品名のタオルです。当時は、会社の主力事業はタオルハンカチのOEM生産だったので、この自社ブランドのタオルは私の自己満足のようなものとして立ち上げました。社内でも「高級車を買うよりはいいだろう?」と言って、納得してもらっていました(笑)。

 この商品はいわゆるエコプロダクトの展示会に持っていく販売促進をかけました。当時のエコプロダクトといえば一種の「マニア」な市場ですので、環境に厳しい方々からはいろんな要求が突きつけられました。風力発電もその一環です。本社のある地域は原子力発電割合が高い電力事業者だったのですが、エコマニアの方からは「汚い電力を使うのか」と言われました。この自社ブランド商品は、私の自己満足でやっていたので、負けず嫌いな性格もあり「要望に全て応えてみせよう」と思っていました。オーガニックコットンに対して非常に高い自社基準を課しているデンマーク・ノボテックス社のノルガード前社長と知り合う機会があり、ローインパクトダイ染色手法を教えてもらって導入したり、ISO14001よりもまずISO9001を取得しないとともエコマニアの方から指摘され、2000年にISO9001を取得しました。商品の安全性を示す「エコテックス規格100」のクラス1にも業界で初めて認定されるほど、染料の安全面も改良しました。そうこうしていると、いつの間にかIKEUCHI ORGANICのファンクラブが自然発生的に生まれていったような状況でした。

2002年にニューヨークで賞を取りますよね?

池内氏:

 実はニューヨークより先に、2000年からカリフォルニアに行ってたんです。年に2回「カリフォルニア・ギフト・ショー」というのがあって、2002年の1月にも参加しました。そのとき、海外の取引先から、「ロサンゼルスよりもニューヨークのほうが環境関心が高い。ニューヨークに行ったほうがファンを増やせるだろう。」と言われ、その場で3月のニューヨークでの展示会に申し込みました。

 ニューヨークの展示会「NYホームテキスタイルショ-」では、なんと最優秀賞の「Best New Product Award」を受賞しました。これは予想していなかったのでびっくりしました。そのとき評価されたのは実はオーガニックという点ではなくて、タオルの柄と色でした。アメリカのタオルはシンプルな無地のものが多いのですが、審査員の方には日本では馴染みのある縦線の入った柄が目に止まったようでした。当社のブースに審査員の方が立ち寄って話を聞くと、ちゃんと環境のことをおさえてものづくりしている。受賞部門はオーガニックではなかったのですが、受賞したことで新たなチャンスが開けます。

 ニューヨークでも環境への関心が高いのは高所得者層なんですね。展示会の審査員にはメディアと大口顧客企業の方が担当していたので、展示会で受賞したことで、ニューヨークの企業にとっての信用が大きく増しました。当時オーガニック専門店として人気を博していたAdHoc社がIKEUCHI ORGANICのタオルを使うといってくださり、みんなで大喜びしました。偶然の出来事はまだ続きます。AdHoc社はその後店仕舞いをしてしまい、スタッフはニューヨークの有名高級店ABCカーペット・アンド・ホーム社に移るのですが、今度はABCカーペット・アンド・ホームのバイヤーに話を繋いでくれました。「クリスマスセールで試してみるか」と言ってくださり、ABCカーペット・アンド・ホームの店頭に置いたところ成功。翌年からABCカーペット・アンド・ホームに広いスペースを設けて常時置いてもらえることになりました。このことでIKEUCHI ORGANICの名前が日本の大手百貨店にも知られるようになり、日本への逆進出のような状況となりました。2003年に当時の小泉首相も施政方針演説の中で「今治タオルの企業が米国でグランプリを受賞した」と話をしてくださったりもしました。

2003年ぐらいに日本でもエコブームは一度下火になりますよね?

池内氏:

 当初はそんなに売る気がなかったんです。自社ブランド事業は「ええかっこしい」の話だと位置づけていましたので(笑)。小泉首相の演説があって、ニュースステーションでも特集報道してもらって、注文が殺到したんですが、生産体制がなかったので納品まで半年も待ってもらったりしていました。そんな中、当社の売上の7割を担っていた主力事業タオルハンカチの納品先だった卸売企業が自己破産で倒産してしまいます(池内タオル自身も売掛金の焦げ付きなど資金繰り悪化で同年に民事再生法の適用を申請)。結果、「ええっかしい」だった事業だけが残り、また「ええかっこしい」のIKEUCHI ORGANICで4年間やってきたコンセプトを変えるわけにもいかず、当時売上の1%しかなかったこの自社ブランド事業だけで今後はやっていくという意思決定をそこですることになりました。

 最初は本当に不安でした。IKEUCHI ORGANICという商品は「タオルではない」、違うものだと自分自身に言い聞かせました。他のタオルを見ると、これで本当にいいのか不安になりそうで、タオル売り場に行くのもやめましたし、四国タオル組合にもあまり行かなくなりました。民事再生法を申請すると基本的に銀行取引ができなくなります。借入ができないので生産量を増加することもできず、注文が入っても納品まで待ってもらうという状態がその後6年ほど続きました。今思うとこれが結果的に良かったのかもしれません。IKEUCHI ORGANICの良さを知っている本当に買いたい人に優先して商品を販売するということが続いたので、それで商品コンセプトを変えることなく、こだわりを貫き通すことができました。すでに当社のファンの方が多くいてくださったこともありがたかったです。(IKEUCHI ORGANICはその後も米国、英国などで賞を受賞していく)

ここ数年直営店舗の出店に注力されているようですね。

池内氏:

 ものづくりの楽しさを知ってしまったんです。商品の良さを直接消費者の方に伝えたい。そして気に入って頂いて、うちがやっているオンラインショップのウェブサイトに帰ってきてもらえればいい。ここ3年ぐらいは、そうやってうちの商品のこだわりを気に入ってくださった方々がたくさん入社してくれています。今後は、うちのタオルで育った子が、うちに入社してくれることを楽しみにしています。

取得する認証はどのように選定していますか?

池内氏:

 (IKEUCHI ORGANICは、繊維製品の有害物質含有レベルを認証する「エコテックス100」、再生可能エネルギーの環境ラベル「WindMade」、bio.inspectaのオーガニック認証などを取得している)。認証選定では、基準が最も厳しい認証を選ぶようにしています。認証は厳しいものが勝つ。厳しい認証を探しに行くこともあるし、ノボテックス社のノルガード前社長から「本当のオーガニックたるもの」ということを最初から教わっていたので、スタート時点から高い基準の認証を取ることが自然でした。

今後さらに取り組んでいきたいことは何ですか?

池内氏:

 今の時点で、全製品乳幼児がなめても大丈夫なタオルになっています(IKEUCHI ORGANICは、一般的に食品工場に認定される食品安全マネジメントシステムの国際規格「ISO22000」を2015年12月に取得)。ここまで60年かかっています。これを今後60年をかけて、2073年までに全製品「食べられるタオル」にしたいと思っています。食べてしまっても大丈夫なぐらい安全なタオルです。タオルは乳幼児が口に入れたりしますからね。

 さらに僕の夢は、いっぱい認証ばかりを取得するのではなくて、IKEUCHI ORGANICというブランドそのものが信頼を得ることですね。そうすればいろんな認証をわざわざ増やしていかなくても済むようになりますから。

 情報開示ももっと強化していきます。今でも認証に関連するデータなどはウェブですでに開示しています。特に開示情報の届け先としてはお客さんを一番に考えています。単なるレポート作成だけでは意味がありませんから。その点でいまトレーサビリティの強化に取り組んでいます。今の時点では、綿の生産者の顔まではわかりませんが、各商品単位の綿原料について生産地と生産時期までは特定できるようになっています。当社の「コットンヌーボー」という商品では、すでに開示しようと思えば開示できます。数年後には、当社の全商品について、商品ごとの生産データ・サプライチェーンデータをお客さんに開示できるようにしたいと考えています。

インタビューを終えて

 IKEUCHI ORGANICが辿った軌跡はとてもユニークだ。同社がサステナビリティに注力するきっかけとなったのは、戦略的な発想というより、「社長の趣味」から始まった。しかし今やそれが、同社のブランドと経営を支えるまでになっている。サステナビリティを用いたブランド形成としては、日本のトップランナーと言っても過言ではないだろう。ここから得られる示唆はなんだろうか。

 池内氏が環境・社会への取り組みを開始した2000年前後。まだサステナビリティはコストだと思われていた時代だ。2000年代中頃には日本ではエコ商品の機運が一時的に高まるが、懐疑的な見方も強く、大手企業を中心に「エコ商品は売れない」というような認識も定着していった。IKEUCHI ORGANICはその中で、コア事業の危機という事態に直面したことが、社長の趣味であったサステナビリティブランドを着々と磨き上げることにつながっていった。この経緯は偶然とも言えるのかもしれないが、池内氏自身の環境や社会に対する関心や純粋な想いがなければ、その偶然が起こりうることもなかったであろう。

 「エコ商品は売れない」「サステナビリティは経営に余裕のある大手企業だけのテーマだ」。日本ではこういう声がまだまだ根強い。IKEUCHI ORGANICの軌跡はそれへの大きなアンチテーゼを示してくれている。もちろん、サステナビリティ配慮製品も作ればすぐに売れるというわけではない。IKEUCHI ORGANICが今の地位を築いてきた舞台裏には、同社が手がけてきたグローバル規模でのブランド作りと、同社と同社の製品を愛する長年のファンづくりにかける並々ならぬ努力があった。日本の繊維産業がグローバル競争に晒される中、同社の取り組みは純粋なビジネステーマとしても注目する価値のあるストーリーだ。海外との競争が激しくなる時代だからこそ、社会や環境をいかに事業に活かしていくか、同時にそれをブランドとして形成していくビジネスセンスを磨けるか。インタビューではその大切さを痛感させられた。

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聞き手:夫馬 賢治(株式会社ニューラル 代表取締役社長)

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