Sustainable Japan QUICK ESG研究所

【イギリス】政府報告書「英国現代奴隷法の執行に大きな課題」。英国大手企業の情報開示もわずか27% 2016/11/01 最新ニュース

uk

 英国で昨年「現代奴隷法(Modern Slavery Act)」が制定されるに伴い、英国内務省内に新たに設置・任命されたケビン・ハイランド独立現代奴隷コミッショナーは10月12日、初年度の活動と実績をまとめた報告書「Annual Report 2015-16」を発表した。報告書は、現代奴隷法の制定後の成果はまだ見られないとの厳しい現実を明らかにした。現代奴隷法の制定は日本の産業界でも大きな話題を呼んだが、現代奴隷法に関するサプライチェーン上の情報開示を大企業に義務化されたことについて、報告書からは英国政府が熱心に義務不履行企業を取り締まるという気配は見られない。

 ハイランド・コミッショナーは就任時に、「現代奴隷法」で掲げた現代奴隷課題の解決に向け5つの優先取組テーマを挙げていた。「犠牲者の発見と保護」「法執行と刑事司法アプローチの促進」「良い協働事例の促進」「サプライチェーンの透明性を高めと労働搾取をなくすための民間セクターエンゲージメント」「国際的な協働」だ。特にハイランド・コミッショーナーは、実際に現代奴隷状態にある人々を救済するために、警察、検察、入国管理官などのナレッジ向上と体制強化に奔走してきたことが報告書からは伺える。

 しかし、これまでの成果は芳しくない。同法制定以降、英国政府には、National Referral Mechanism(NRM)と呼ばれる現代奴隷被害者情報管理制度が構築され、すでにに3,359もの被害案件が登録されている。ところが、ロイター通信によると、そのうち、警察が実際調査に当たった数は956、さらに有罪判決または召喚まで至った数は127に過ぎないという。ハイランド・コミッショナーは、その理由として、警察内部において適切にNRMシステムを用いた捜査を行う体制ができていないことや、現代奴隷犯罪に立ち向かう各イニシアチブを統率するリーダーが不在であること挙げ、現状を強く非難している。さらにハイドランド・コミッショーナーは、そもそも現代奴隷に立ち向かうための捜査官の数が足りていないことや、政府間や国内行政機関の連携が取れいていないという現状認識も示している。(上記のロイター通信が報道した各統計は、今回発表の報告書に記載されていると述べられているが、現在公開されている報告書からは各数字は削除されている。)

 現代奴隷防止のための民間セクターへの働きかけに関する現時点での成果は、より少ない。報告書の中ではこれまでの成果として、英国政府自身の政府調達において、現代奴隷に関する調達基準を盛り込むことに成功したことを報告。それ以外にも、英国の代表的な企業のCEOや業界団体と複数に渡って会合を持ち、現代奴隷防止に関しての理解促進に努めていることをアピールした。具体的な各企業に対する働きかけについては、中東メディアのアル・ジャジーラが英国都市ケントでボルボと起亜自動車のサプライチェーン上で車の洗浄作業に奴隷労働が用いられていることを報道した件で、ハイランド・コミッショーナーから両企業に対していかなる措置を取ったかを確認するための手紙を書いたことや、紅茶メーカーに対しインドのアッサム地方の茶農園で労働搾取があるという件について協議をしたのみが報告書には書かれている。現代奴隷法には、一定の大企業に対してサプライチェーン上で現代奴隷に関与していないことを確認しホームページなどで状況を公表することを義務化する規定があり、ハイランド・コミッショナーもその点に触れているが、今回の報告書には、この内容に関する現状の報告や今後の政策については何も記載がない。

 では、英国の大企業の情報開示状況の実態はどうか。ロンドンに本部を置く国際人権NGOのビジネス・人権資料センター(Business & Human Rights Resource Centre)は今月上旬、ロンドン証券取引所の代表的指数であるFTSE100採用銘柄100社の情報開示状況を発表した。100社のうち、現代奴隷法で定められているホームページなどでの情報開示を行っているのはたったの27社。そのうち、13社は法定の開示条件を正しく満たしていないという。同センターが高く評価したのは、そのうち英国小売大手マークス・アンド・スペンサーと、ビール世界大手SABミラー(同社は10月10日に同世界最大手アンハイザー・ブッシュ・インベブの子会社となった)の2社のみで、この2社は現代奴隷と立ち向かう強い姿勢を謳っているという。しかし、この2社でも同センターの格付では上から3番目で、トップ格付と2位格付の取得企業はなかった。それ以外のほとんどの情報公開済み企業については、リスク評価やデューデリジェンスが甘いという厳しい評価となった。

 英国のメイ首相は今年7月、現代奴隷の発生源である発展途上国での事態改善のために、3,350万ポンド(約43億円)を途上国支援に投じることを発表し、政府間タスクフォースも立ち上げた。特に、NRMシステムに通報された英国内での現代奴隷の出身地は、アルバニア、ベトナム、ナイジェリア、ルーマニアの4ヶ国が多いという。

 現代奴隷に立ち向かうために設立された財団、ウォーク・フリー・ファンデーション(Walk Free Foundation)によると、現代の奴隷の数は世界で4,600万人、イギリス国内でも11,700人に上る。2015年に英国で現代奴隷法が制定されたことは、人権活動家などから高く評価されたが、犯罪グループが現代奴隷慣行から稼ぐとされる額は年間1,500億ドル、それに対しこれまでに世界で調査が及んだ額は100億ドルでしかなく、国際社会の更なる連携が求められるのは言うまでもない。英国政府も英国を現代奴隷対策を行う世界初の国となるべく奮闘しているが、現状はまだは道は始まったばかりという状況だ。

【報告書】Independent Anti-Slavery Commissioner: annual report 2015 to 2016
【参考ページ】Police failures undermine UK slavery fight, says commissioner
【参考ページ】Press release: First analysis of FTSE 100 statements for UK Modern Slavery Act: a gulf opens up in company performance
【情報公開格付】At the Starting Line: FTSE 100 & the UK Modern Slavery Act

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

Facebookコメント (0)

ページ上部へ戻る