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【北米コラム】快適な老後 2016/05/30 ESGコラム

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 米国に長く住んでいて思うことは、歳をとることの大変さである。敬老の精神が未だ根強い日本と比べ、米国は若さを崇拝する風潮が強い。お金に不自由しない住宅地に住めば、美容整形を施したご老人の多いことに驚嘆する。ニューヨークのマンハッタン東部「アッパー・イースト」、カリフォルニアの「ビバリー・ヒルズ」、そして人口一人当たりの富が全米一のカリフォルニア州マリン郡では、笑ってもいないのに常に口がトランプのジョーカーのように引きつり、眉が髪の毛の生え際まで上方移動し、びっくり見開いた目つきの大人に頻繁に遭遇する。今日のファッションは年齢に関係なく着られるカジュアルなものが多く、一昔前のように身にまとっている衣類で年齢を判断することも少なくなった。丘の多い地域に住む私の周りには、80代・90代になっても自ら車を運転し、一人または老夫婦で生活している人が多い。老いを否定する文化があちこちに見られる、とでも言おうか。

 それでも、老いは確実にやってくる。老いと共に医療費は大きな支出項目となる。国連の経済社会局人口部が2013年に発表したレポート "World Population Ageing 2013"[1] によれば、老齢依存度(15歳から64歳までの就労者100人に対する65歳以上の人口数)が低いにもかかわらず、北米は一人当たりの医療費が年間8000ドルを超える。これに比べ、老齢依存度が飛びぬけて高い日本は、一人当たりの医療費が年間3000ドル程度となっている。

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 先進国では、ヨーロッパを中心に多くの国が老人の生活費の半分以上を年金や公的な保険でカバーしているが、日米については例外的に生活費のカバー割合が3割から5割程となっている。公的な財源からの補填は他の先進国に比べてだいぶ少ない。"World Population Ageing 2013" には、北米で65歳以上の就労者割合が年々増加している事実が示されており、これは医療費を含む生活費を捻出する必要があるからであろうことが推測される。

 こうしたシビアな状況にもかかわらず、米国の老人は精神衛生と幸福感という尺度では全世界で第8位という結果が "Global AgeWatch Index 2013:Insight report" で発表されている[2]。老人大国日本は第10位となっている。本レポートでは、米国を上位に位置づけた理由として、お年寄りに対する教育と雇用の機会が世界有数である点を挙げている[3]。人間は社会との繋がりを重視し、社会に貢献することで自身に価値を見出す動物とのことで、教育・雇用で年齢差別をされない米国は老人にとってはありがたい。米国では雇用にあたり年齢差別を禁止する法令(年齢差別禁止法)が1967年に施行され、40歳以上の就労者への差別を禁止している。企業面接で年齢を問うことも、婚姻ステータスや性的志向、家族構成を聞くこともタブーになって久しい。

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 米国企業数の90%近くは従業員20人未満の小企業であり[4]、シリコンバレーに代表されるスタートアップ企業も多い。このような企業の多くが40歳以上の中高年による起業である[5]ことも興味深い。起業家の多くは、高学歴で所帯持ちであり、富の蓄積やアイデアの実現が起業の動機となっているという。敬老の精神に欠ける分、いくつになっても新しいことに挑戦することを奨励し、若者とさして変わらぬ機会のあることは、老化防止に繋がるように思う。同じ年代の友人を日米で比較して最近よく感じるのは、日本に住む高学歴・所帯持ちの友人・知人は既に風格ある人生の先輩の雰囲気を醸し出しているのに対して、米国ではまだまだこれから頑張らなければという意欲のある「若さ」を持っている人が多いことである。人生80年も稀でなくなった今日、新しい自分を二度三度発見することは快適な老後のために必要なのかもしれない。

QUICK ESG研究所 Mari Kawawa

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