【セミナー参加報告】RI Asia2015 責任投資で機関投資家はどのように変わるのか 2015/05/26 ESGコラム

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 2015年4月21日と22日の2日間にわたって、英国の責任投資メディアのResponsible Investorが主催するイベント「RI Asia2015」が、昨年に引き続き東京証券取引所で開かれた。

 同イベントは、社会的責任投資に関する世界最大級の国際会議であり、米国では「RI Americas」、欧州では「RI Europe」が毎年開催されている。「RI Asia2014」では、英国「Kay Review」を執筆したJohn Kay氏も登壇した。今年も日本版スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コード、ESG投資を始めとした、多岐にわたるテーマについて講演とパネル・ディスカッションが行われた。 

1. 1日目基調講演 :一橋大学 伊藤特任教授、富国生命保険 米山代表取締役社長、PRI Board Martin Skancke会長

 基調講演では一橋大学 伊藤特任教授が登壇し、伊藤レポート(「持続的成長への競争力とインセンティブ ~企業と投資家の望ましい関係構築~」)プロジェクトが発足した背景とその後の活動について講演した。日本のコーポレート・ガバナンスに関する一連の流れを3本の矢に例え、第1の矢を「日本版スチュワードシップ・コード」、第2の矢を「伊藤レポート」、第3の矢を「コーポレートガバナンス・コード」としたうえで、変革を推進していくにはさらに次の矢を用意することが肝要であるとの考えを示した。そして、企業と投資家の対話の場が必要として創設が検討されている「経営者・投資家フォーラム」(Management-Investor Forum: MIF)が第4の矢になりえるとの考えを示した(2015年6月10日第1回会合開催)。また、CFO人材の育成として2015年度から、一橋大学財務リーダーシップ・プログラム(HFLP)を創設することも報告された。

 富国生命保険相互会社 米山代表取締役社長は、日本版スチュワードシップ・コード署名後の活動について講演を行った。同社では、株主として企業約50社の経営者に訪問インタビューを行っている。社長自ら電話してアポイントを取り、訪問インタビューを行うこともあり、メインのレポ―ティングは株式部長・課長が行っていることが報告された。

 また、国内企業のROEが低いのは、間接金融主体の経済構造や消費者志向が強い一方で、株主志向が弱いことが原因と見ていること、ROEの目標値については、数値達成のみを目的化することは良くないが、現在まで低水準過ぎたことが問題であるとの考えを述べた。加えて、社外取締役も2人か3人かなど形式的な議論になってしまっては意味がないとの意見を述べた。そして、非財務的な事項、経営理念、創業精神などを聞くことは、形式的な議論にならないために意義のある事であり実行していることが報告された。

 PRI BoardのMartin Skancke会長は、PRIと責任投資に関して講演した。PRIでは、オープンに参加者を募集している。「Responsible」とは、促進して実現、実施することであり、一連の行動を価値あるものとすることである。そのため、親切であるだけではなく、他人のために良いスチュワードになることが重要で、それがスチュワードシップ・コードの意味するところであると述べた。その中でも、責任投資の存在や中核はプリンシパル・エージェント問題であり、両者のインセンティブを一貫させるのは難しいが、十分なインセンティブを与えることは重要であるとの考えを述べた。

 PRIでは、エンゲージメント・プラットフォームを用意しており、研究結果や責任投資に関する経験の共有が図られている。日本の参加者はPRIの報告書を文章でしっかりと記載しており、水準は世界でも高くとても評価していることを報告した。

 また、世界で責任投資の重要度が増していることを感じており、PRIは気候問題、水リスクに関して積極的に取り組み、市場参加者と共に進む考えであることを述べた。

2. 1日目パネル・ディスカッション:「投資チェーンを通じた持続的成長の創出」、「日本版スチュワードシップ・コード」「受託者責任」

 「より効率的かつ衡平な投資チェーンを通じて持続的成長を創出」では、持続的成長を創出するために対話をどのように行うべきかについて、政府、民間、大学、運用者の各立場からディスカッションした。経済産業省 企業会計室 福本室長は、政府の目線からすれば、「国富増大」と言うより国富を減らさないことが重要であり、そのために目的を持って背景や共通項について対話することが大切と述べた。野村総合研究所の堀江氏は、日本版スチュワードシップ・コードに署名した機関の意見表明を熟読し、NAPF(National Association of Pension Fund ※英国年金基金協会)評価シートに沿って採点を行ったが、C・D評価を付けざるを得ず、悲観していると述べた。対話においては、「企業価値とは何か」を定義し「何を高めるか」について話し合うことが重要であるとの考えを示した。青山学院大学の北川教授は、現在は壮大な実験中であり、問題点が山ほどあると述べた。例えば、議決権行使基準やショートターミズムへの対処、中期経営計画の扱いなどがあげられ、英国で言うNAPFのような、いわゆるスチュワードシップ・コードの番人をどうするかが重要だとの考えを示した。

 「日本版スチュワードシップ・コード」では、コード策定後、次にとるステップについての議論を行った。富国生命保険相互会社 米山代表取締役社長は、投資家として企業にモノを言うとき、投資家も企業から意見を言われることになる。この相互関係がまさにwin-winな関係である、と感じていると述べた。QUICK 広瀬取締役ESG研究所長は、日本版スチュワードシップ・コードの署名機関が次に進むためには、自助努力でエンゲージメントやモニタリングを行い、短期・中長期の時間軸の中でフレームワークを作ることが大切であるとの考えを示した。また、アセットオーナーとアセットマネージャーが問題点の共有ができるMIFなどのフレームワークが重要である、と述べた。アクサインベストマネージャー Matt Christensen 投資責任グローバルヘッドは、人材管理やサプライチェーン全体のリレーションの開示を例とした議論は多彩に存在するが、対話の一貫性を保つことが重要であり、早く国際的な投資家を巻き込んで議論してほしいと発言した。日興フィナンシャル・インテリジェンスの杉浦氏は、国内外の投資家や専任部署にエンゲージメントに対する取り組みに関するアンケートの結果、国内ではエンゲージメントにおける優先順位が一貫しておらず「目的を持った対話」ができていないことがわかった、と疑問を呈した。

 同パネルディスカッションの中では「どのように誰がスチュワードシップの方針を監視するのか」というモデラ―の質問があり、米山氏は外部からの監視だと形式化しやすいため、社内で行うことが望ましい、との考えを示した。広瀬氏は、アセットオーナーがどうアセットマネージャーを監視するかは、レポ―ティングが重要であり、議決権行使とエンゲージメントに関しては、プロセスと結果の報告を行うべきである。また、アセットマネージャーは年金基金が監視を行い、企業年金は代議委員会が監視を行うべき、との意見を述べた。杉浦氏は、アセットオーナーと受益者が本来監視するべきはカルテルや児童労働への対応、反社会的行為に対する取り組みなどであるとしたうえで、アセットオーナーは、FRC(Financial Reconstruction Commission)を例とする外部調査や開示を利用したモニタリングが重要であるとの考えを示した。

 「日本版コーポレート・ガバナンス・コード」では、金融庁の油布企業開示課長がコーポレート・ガバナンス・コード内のESGに関する記載は原則2で取り上げており、重要なのは①グローバルなコンセンサス(リスクマネジメント)、②グローバルなコンセンサスを超えて自分の会社はどうするのか、を記載すること、との見解を示した。

3. 2日目基調講演 : ERAFP(国民退職年金補完基金)Philippe Desfosses CEO 

 2日目は環境投資に関する議題を中心に講演が行われた。ERAFP(国民退職年金補完基金)Philippe Desfosses CEOは、投資は未踏の領域に踏み込みつつあると感じていることを述べた。年金については、積立金、生保、年金がデフォルトしたらどうなるのか。中央銀行の様な最後の番人はおらず政治家、政府が考えなければいけないのは将来であるとの考えを示した。フランスでは年金はいつでも引き出せるよう流動性も提供してきたが、検討し直したほうが良いとの考えを示した。賦課方式では、すでに赤字が予測され保険は太っ腹すぎるのではないか。要求リターンを減らさざるを得ないなら、給付を減らしていくのは、当然と言わざるを得ないとの意見を述べた。

 カーボンは、ビジネスにとってのリスクである。カーボンバジェット、すなわち許容される量と実際に排出している炭素の差は座礁資産(stranded assets)となる。しかしながら座礁資産はもはや価値がないものである。ポートフォリオマネージャーならば、最善を尽くしてリスクを評価しないではいられないのではないかとの考えを示した。ポートフォリオの脱炭素化やインデックスも作っている。こういった取り組みがカーボンの排出量、そしてソリューションの一部になることを強調したい。ただ将来に悲観的な終末論者の話ではなく世論を喚起するべきで今がその時だと感じているとの考えを示した。

4. 2日目パネル・ディスカッション:「機関投資家と低炭素経済」「ESGと気候変動指数:ベンチマーク・指数の今後の動向」

 「機関投資家と低炭素経済」では、低炭素経済における投資リスクとその取り組みについて議論が交わされた。環境省 環境経済課 大熊課長は、低炭素経済のために政府の試みを紹介した。IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)の第5次報告によると、カーボンは40から70%削減しなければならず、COP21 Parisで世界中の枠組み交渉を行っている。日本も2030年までに削減目標(注:6月2日政府は2013年比26%削減目標を了承)を出すが、2030年目標はその過程値であり、2050年には、80%削減する事は確定していると報告した。そのための取り組みとして、①ディスクロージャー、②財政支援、③金融界の自発的な取り組みの後押し、の3つを行う予定であるとも報告した。マーサー社 Helga Birgdenパートナーは、投資リスクとしての課題を提示した。日本はいい位置にいるし、徳川時代からの長期的なビジョンは、気候変動にも通ずる。投資において、炭素はかなり大切な要素であり、最悪の事態の損害額を予想できるのではないか。また、農業への影響、物理的な損害、政策などがアセットクラスに影響するだろう。そのために、ポートフォリオを使うなどソリューションの手段はあるというのがその内容である。CDP 米インベスター・イニシアティブ・ヘッド Chris Fowle氏は、CDPの動向について説明した。最近、CDPでは水も都市も自然資本を扱っている。署名投資家がCDPに権限を与え、企業に質問し、それを投資家にフィードバックしている。署名機関は北米200、欧州366、アジア70うち日本は20となっている。それは、ポートフォリオ・カーボンフットプリントとしても使われている。

 「ESGと気候変動指数:ベンチマーク・指数の今後の動向」では、ESGにまつわるベンチマークの利用状況についてディスカッションを行った。Amundi 機関投資・政府系ファンド部門 グローバルヘッド代理のFredericSamama氏は、気候変動は金融リスクであるが、ESG投資があまり進まなかった理由は不理解であり、現状はツールがあるため実施することは難しくないとの考えを示した。インデックスを使えば、カーボンフットプリント、座礁資産を明らかにできる。そこからトラッキングエラーを下げ、ウェイトを変えれば良い。汚染会社は、 改善されるまで投資から排除するというものである。気候変動リスクに関する動きは世界中にあり、先日コロンビア大学で脱炭素化ポートフォリオの発表会があり、6兆ドル相当のファンドマネージャーが集まった。こういった考えは、どこでもうまくいくだろうとの考えを示した。また、ノーザントラスト・アセットマネジメント シニア・バイスプレジデント 兼 シニア・エクイティ・ストラテジスト Mamadou-Abou Sarr氏は、アセット・オーナーにとってのリスクを問うた。カーボンは、COP21で議論され、近いうちに国レベルの課税など何かしらの規制がかかる。そのため、カーボンもエネルギーも集約型企業はコスト以上にデメリットが大きいと感じている。そのため、インデックスと投資は望ましく、ポートフォリオのカーボンフットプリントをできるだけ小さくすることが重要だとの見解を示した。

5. 世界の取り組みと日本に対する評価

 2日間の議論では、責任投資に関連する世界の取り組みが議論されると共に、現在の日本の取り組みを評価するコメントが幾つかあった。海外の運用会社では、ポートフォリオのカーボンフットプリントの測定、モニタリングは珍しいことではなく、気候変動リスクに対する備えを着実に進めている。その一方で、規制が入れば、日本の取り組みは先進的であり他国よりも前向きに検討できるものである、と高い評価を行っていた。

 6月2日と3日には、英国スチュワードシップ・コードの実効性やEUで実践されている長期投資をテーマとして、「RI Europe2015」が開催された。

 また、来年のRI Asiaも東京で開催される予定である。

 

執筆:QUICK ESG研究所 真中克明

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