【機関投資家】スチュワードシップ活動とESG投資の最前線〜(8)アーク東短オルタナティブ〜 2016/02/24 ESGレポート

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 「プライベート・エクイティ・ファンド」という資産運用の仕組みがある。通常「プライベート・エクイティ(以下、PE)」と呼び、その投資対象や投資手法は様々だが、主に未上場・非公開企業に出資し、株式を取得して経営に深く関与。企業価値を高めて、転売益や新規株式公開(IPO)による上場益を狙う「バイ・アウト」が代表的な投資スタイルだ。バイは株式の取得、アウトは株式を売却する出口を意味する。

 ベンチャー企業に出資するベンチャー・キャピタルや経営破綻した企業の立て直しを図る事業再生・企業再生ファンドなどもPEに該当する。上場株式や債券など伝統的資産への投資と異なるので、投資スタイルはオルタナティブ(代替)投資として区分されることが多い。

 このPEの分野でも責任投資・ESG投資の考え方が広がっている。国内のPE業界でも数社が既に国連の責任投資原則(PRI=Principles for Responsible Investment)に署名している。アーク東短オルタナティブもそのうちの一社だ。

 代表取締役社長の棚橋俊介氏に、「なぜPEが責任投資なのか」について聞いた。棚橋氏は日本でのPRIネットワーキング活動の推進役の一人で、PRI分科会の一つであるPEワーキンググループの議長を2013年4月から務め現在に至っている。

 同社のESG投資とスチュワードシップ活動の特徴として、次のような点があげられる。

  • ESGの本質は、その考え方に共鳴する人のネットワーキング、リレーションにあり、ネットワークで社会の持続的成長を重視する考え方を共有することにある。
  • PRI署名機関にPEが多いのは、出資先企業の企業価値を高めることが投資リターンに直結するので、責任投資やESG投資の効果を測りやすいため。
  • 責任投資原則とスチュワードシップ責任の考え方は、同社の運営方針とマッチしている。
  • PEのバイアウト・ファンドは投資先企業の株式(議決権)を100%取得し、経営権を握り、経営者となる。そのため議決権行使は行わない。
  • 上場株式投資に比べて、投資家の声が、投資先企業に届きやすい。上場株式投資の投資家はマイノリティだから、みんなで集まって大きな力を作り、声を上げる。PEは逆に、投資家の企業に対する力を抑えることが必要になる。

質問

1. 事業/業務

(Q)PEの仕組みや役割も含めて、事業内容の全体像と、責任投資にフォーカスした業務について、特徴や独自性を教えてください。

(A)当社の設立は2010年だが、それまでに、私自身は、三菱商事株式会社と農林中央金庫の合弁企業のアント・キャピタル・パートナーズ株式会社というPEの老舗でIR(営業)を担当していたが、スピンアウトして当社を立ち上げた。

 予備知識としてPEの仕組みの概略を説明すると、PEでは「GP・LPストラクチャー」で投資を行うのが基本型で、ジェネラル・パートナー(以下、GP)が無限責任を負って投資組合を運営し投資判断を行う。リミテッド・パートナー(LP)は、この投資組合に投資する。このストラクチャーでは、GPの権限が強いので、GPへの牽制機能を働かせるために主要なLPで構成する諮問委員会を設け、GPへのガバナンスを強化する。上場株式のようなセルサイドアナリストはいないので、投資先企業に関する情報は、M&A関連の調査会社から購入するか、自分で集めるしかない。

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出所:アーク東短オルタナティブ株式会社

 通常の上場株式投資ファンドと大きく異なる点は、ファンド運用開始後でもLPが運用方針に関わる条件を変える交渉を行えるなど、ある程度融通が効く点だ。これは、LPは原則解約ができず、解約や譲渡をするにはGPの承諾が必要になるためだ。

 このようにPEは、上場企業への投資と全く異なる業界と捉えた方がよい。PE業界の発展段階も異なっており、上場株式投資や米国のPEは成熟段階に近いが、日本のPEはまだ導入段階だ。この段階では、色々な事業に並行して取り組まないとなかなかうまくいかない。成熟段階にある業態と同じようなことを求められがちな中、顧客のことを考えた結果、当社はGPとLP双方に対応できる事業部門を持っている。

 当社の事業は大きく3つに分かれる。一つは設立当初からの事業の「プレースメント・エージェント業務」だ。GPが運用するPEファンドを、LPとしてファンドに出資する投資家に販売するうえでの関連業務を請負い、GPから手数料を受け取り収益源にする。 

 2つ目は「セカンダリー業務」であり、一般にPEファンドは売買の流動性が乏しいので、ファンドの買い手と売り手を見つけ、売買の仲介を行う。本業務は2012年に開始した。当社は、日本初、今でも唯一のPE専門のセカンダリー・ブローカーである。 

 3つ目が「アセット・マネジメント業務」だ。一定の残高の維持や各種規制のクリア、要員の確保など簡単ではないものの、当社発足以来ビジネス化を目指してきた分野であり、2013年に始めた。これは投資家との間で投資一任契約を結び、複数のPEファンドをアレンジして投資家に提供する、いわばファンド・オブ・ファンズ運用を行う。PE業界では「ゲート・キーパー・サービス」とも呼ばれる。本業務を実施するに当たって、信用力を高めるなど盤石な体制を築くため、当社は2014年に東短ホールディングス株式会社から65%の出資を受けた。

 直近では2015年に、米ブルック・プライベート・エクイティ社と業務提携した。同社は、世界でも指折りのPE運用会社の米TAアソシエーツ社と米アドバント・インターナショナル社を創設したピーター・ブルック氏が立ち上げたゲート・キーパーである。当社は、国内のPEについては、3業務を通じてノウハウを蓄積してきたが、海外のPEに関してはノウハウが不足しているので同社と業務提携に至った。

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出所:アーク東短オルタナティブ株式会社

 当社の顧客に当たるLPは主に企業年金を中心とした機関投資家であり、アセット・マネジメント業務の運用規模は現在、計100億円程度になる。

2. 歴史/経緯

(Q)責任投資を巡る歩み(例えば、PRI署名など)や取り組みと、その背景・目的を具体的にご教えてください。また、スチュワードシップ・コード受け入れにおいて、特徴や独自性を教えてください。

(A)私自身の話になるが、2006年にスタートしたPRIの策定活動に、日本からの唯一の参加者として加わった。当時はまだPEに関わる前だったが、勤務していた三菱信託銀行(現、三菱UFJ信託銀行)から年金総合研究センター(現、年金シニアプラン総合研究機構)に出向し、資産運用関係の研究を行っていた。その際、2005年に、PRIの立ち上げをリードしたジェームズ・ギフォード氏と知り合う機会があり、PRIの普及活動に加わった。PRI原則文の日本語訳をUNEP FI(国連環境計画・金融イニシアティブ)に寄贈したため、ありがたいことに現在でも翻訳者として私の名前が残っている。

その後しばらくPRIの活動とは離れていたが、2010年に当社を設立した後に、当時知り合った仲間から「PEがESG投資に熱心で、PRIにも数多く署名をしている」と聞かされ、「署名したらどうか」と誘われた。PRI署名機関にPEが多いのは、出資先企業の企業価値を高めることが投資リターンに直結するので、責任投資やESG投資の効果を測りやすいためだろう。

そして、会社創立日のちょうど1年後、2011年の10月1日に当社もPRIに署名。PRIの責任投資原則は、会社全体の方針にマッチしている。

海外ではPRI活動の一つに「PEワーキングストリーム」というレベルの高い集いがある。それにならい、日本での「PEワーキンググループ」の発足を働きかけ、3年前から議長を務めている。直近2015年12月に開催された会合で12回目となり、毎回30名程度、最大で50名が参加している。2015年は次のような内容で情報交換を行った。

PEワーキンググループ、2015年の活動内容
◆第10回 PEワーキンググループ 10回記念開催(2015年5月27日 )
①「ロナルド・コーエン卿講演と意見交換会」
②PRI制定のGPガイド研究:日本語版のGPガイド事例について当日セレモニーを実施
◆第11回 PEワーキンググループ(2015年9月28日)
「PRI『プライベートエクイティの進捗状況報告書』及び『LPの責任投資デューディジェンス質問ガイド』について」:
PRI インプリメンテーション・サポート・マネジャー PE担当 Natasha Buckley
◆第12回PEワーキンググループ(2015年12月18日)
① 「日本のGPとしてのESG実践」:東京海上キャピタル 取締役会長 深沢英昭氏
②  PE 投資における環境省データベースの活用法」:環境省 総合環境政策局 環境経済課 課長補佐 齋藤英亜 氏
③「最近の PRI における PE 関連の動きについて報告」:アーク東短オルタナティブ株式会社 代表取締役社長 兼 PRI 日本ネットワーク プライベートエクイティ・ワーキンググループ議長 棚橋俊介

◆PE Steering Committee(PESC) への電話会議参加(2015年12月18日、2016年1月21日)
●PE WG議長の棚橋が、12月と1月にPESCに電話会議参加。立場はオブザーバー
●2016年1月からPESCはPE Advisory Committeeに改組されメンバーも若干入れ替わり

出所:アーク東短オルタナティブ株式会社

3. 調査業務の体制

(Q)責任投資に関わる調査業務の全体像を教えてください。(具体的には、組織、体制、専任担当者の配置や役割、トレーニング、調査手法、PRI ネットワークへの参加姿勢など)

(A)大きく分けて、プレースメント・エージェント部門、ファンド流動化推進部門、投資顧問部門の3部門体制だ。各部有機的に話をしているが、利益相反の話があるので、コンプライアンスオフィサーを2名任命し、施錠可能な部屋に分け顧客の話は厳格に対応している。
ESG担当部は経営企画室だが、全員がESGオリエンテッドだ。スチュワードシップ基本方針も全員で話し合って決めた。社長が率先してやらないと、こういう組織では動かないだろう。

4. ESG情報の具体的な投資への活用

(Q)ESG情報やその他の非財務情報の活用方法を教えてください。

(A)まず、LPとして、GPへのガバナンスの視点で回答する。スチュワードシップ基本方針にも掲げているが、GPの運営が投資先企業の持続的成長を促すようなガバナンスを行っているかのファンド・ガバナンスが重要だ。フィデューシャリー(受託者責任)を負うマネージャーとして高いレベルのサービスを提供するために、GPを審査(デューデリジェンス)する。

 このプロセスには時間がかかる。GPとの契約交渉も含めて、通常早くて半年、長ければ数年をかけて、LPに有利な条件を整える。そうしなければ、投資家を守れない。ESG的な観点から、GPはガバナンスができているのか、経営者としての資質があるのか、きちんとレポーティングできるのか、IRはしっかりしているのか等を見極めなければいけない。

 次に、GPが評価する場合は、ESGのEであれば、環境関連は一つの投資テーマになるので、アルファ(超過収益)の創出につながるかといった部分を評価する。もっとも、あえてESGを前面に出しては言わない。日本のPEはまだまだ導入段階にある。PE専門のアセット・マネージャーは当社だけである。もし当社がESGの切り口だけを強調してしまうと、あまりにもドラスティックな変化やハレーションが起きてしまう。伝統的な方法を引き継ぎながら、実はESGにも取り組んでいることを外部に伝えて行くことで、少しずつ変化が起こると思う。

 ESGのあり方については、PE業界全体で決めていくプロセスの途上にあると思う。その核の一つがPRIの PEワーキンググループである。そこに業界のキーマンになるべく参加してもらうようにしている。デューデリジェンスのひな型をつくるようなことに取り組むと、GPにもESGの位置づけが分かりやすいと思う。時間をかけて信頼関係を築きながら、関係者で共有していく。一番大切なのはネットワーキングだ。

5. エンゲージメントなどの対応について

(Q)責任投資において日本版スチュワードシップ・コード適用への対応、特にGPとのエンゲージメント、ファンドの投資先企業とのエンゲージメントをどのように実践していますか。具体的な内容をできれば事例に即して教えてください。

(A)LPとして、GPと行うエンゲージメントは、年間1200回(毎月100回)以上の面談を実現している。一度のミーティングでは、絶対に判断しない。1度目の面談、2度目、1年後の印象、全然違う。PE業界で、10年間生き残っている人はそんなにいない。生き残っているのはどんな方々かというのをよく分析をしている。生き残った方々が実践していることは、ESG投資に近いと思う。

 当社としては、基本的にファンドの投資先企業とのエンゲージメントはしないが、GPから頻繁に意見を聞かれる。これこそ当社の強みだと思う。私も日々経営で、労務問題などで悩んでいる。悩みを共有できるディスカッションパートナーに当社のようなアセット・マネージャーがなれたら、いいことだと思う。ファンドとアセット・マネージャーと言う関係を超えた個人的な関係をいかに作れるかが、投資家に貢献する。当社のビジネスをより発展させることにつながると思う。

 GPのエンゲージメントについては、PEの投資組合は投資先企業の議決権を100%持つ場合が多い。その意味ではGPが投資先企業そのものとさえ言える。そのため、上場株式投資に比べて、投資家の声が、会社に届きやすい。上場株投資の投資家はマイノリティだから、みんなで集まって大きな力を作り、声を上げる。PEは全く逆で、投資家の企業に対する力を抑えることが必要だ。この点は強調したい。

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出所:アーク東短オルタナティブ株式会社

6. 企業のディスクロージャーについて

(Q)責任投資に関して、企業が発行しているコーポレートガバナンス報告書、統合報告書や年次(アニュアル)レポート、CSRレポート、環境報告書などの活用状況や注目点を教えてください。現在の活用状況のみではなく、今後の活用の方向性に関する何か見通しのようなものはありますか(例えば、今年6月以降のコーポレートガバナンス・コード適用後のコーポレートガバナンス報告書の扱いなど)。

(A)PE業界でLPがGPから受け取る開示資料の内容は決まっている。LPはGPから年次報告書と四半期報告書を受け取り、年次報告書は監査法人の監査が入る。四半期報告書は、四半期ごとに投資先企業の概要が出てくる。そのため、実はあまり議論の余地がない。

 GPが投資先企業から情報を受け取る場合、ファンドの投資先企業には監査を受けていない企業もある。上場企業に比べ開示資料は全くないと言ってよい。有価証券報告書や統合報告書が発行されることは無い。従業員の就業状況などは企業に聞かないと分からないが、尋ねると情報は得られる。そこから先の話は、GPとコミュニケーションをとって把握しなければならないが、どこまで行っても分からないことがあるのも事実である。最後はGPの能力や誠実さで、ESGの観点で投資前にデューデリジェンスして、変化度をモニタリングしていくことは、開示の観点からも大切だ。

 LPがGPに対峙する場合と、その先の企業に対峙する場合とで共通しているのは、聞く側のレベルが高くないと情報を出してくれないということだ。この人の意見は参考になる、この人と一緒に過ごす時間に意味があると思われたら、対応してくれるようになる。アセット・マネージャーもどうすれば、常に接するGPに役に立つか、ということを考えなければならない。

7. 具体的なファンドの事例

(Q)責任投資をキーワードに掲げた投資にはどのようなものがあり、その運用資産規模、リスクとリターン特性(配当込みTOPIXまたはTOPIXと比較)をご教示ください。

(A)責任投資型国内バイアウト・ファンドとして、GPのACA革新基金運用が2015年6月に立ちあげた「JAPAN革新継承基金」を紹介する。同社もPRIに署名済みであり、中心メンバーは私と同じくアント・キャピタル・パートナーズ出身だ。

 ファンド名の「継承」にあるようにコンセプトは「事業継承型」の投資だ。日本にはオーナー企業が多く、250万社は下らない。中には創業100年超も珍しくない。だが、日本で人口減、少子高齢化が進む中、オーナー企業の多くが後継者不足の問題に直面している。後継者問題だけではなく、同族経営による経営力やリーダーシップの欠如、従業員の処遇、事業を売るにしても経営には関与したい、競合会社には売りたくないなど、様々な問題を抱えている。

 同ファンドはこうした問題点の解決を図ることを念頭に、GPが方針を決め、独自の強みを持つ中小・中堅企業を買い取り、事業価値を高めて投資リターンを狙う。

8. 今後の方向性

(Q)何か、メッセージはありますか。

(A)私はPEに携わっているが、PEに関係なく、ESG投資は普通のことだと思う。「ESGはネットワーキングが大切」と再三述べてきたが、ESG投資をしていても運用パフォーマンスには優劣がつくだろう。ESGは投資を行う者として最低限携行が必要なパスポートのようなものだ。投資環境を整える考え方と捉えている。ESG投資するファンドのパフォーマンスが悪いからESGは考慮すべきではないというような短絡的な発想に陥って欲しくない。ESG投資の効果はPEで出やすい、ESG投資の効果測定がしやすいという意味で、ESG投資への入り口として、PEへの投資は一つの方法ではないか。

◇プロファイル(会社概要):
PEファンド投資専門会社としての「アーク・オルタナティブ・アドバイザーズ株式会社」が2010年に創立。2012年に日本で初めてのPE専門のセカンダリー・ブローカー業務を開始し、現在でも唯一の取り扱い会社である。2014年に東短ホールディングスからの出資を受け入れ、「アーク東短オルタナティブ株式会社」へ商号変更し、現在にいたる。

◇PRI署名:
2011年に署名
日本版スチュワードシップ・コード受け入れ内容
◇運用資産の概要
すべてプライベートエクイティ(国内、国外)で運用。

取材日:2015年11月11日

QUICK ESG研究所 (聞き手:中村友亮、真中克明)

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