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【PRI活動報告】第10回 PEワーキンググループ 2015/06/01 ESGコラム

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 2015年5月27日、公益財団法人日本財団の会議室にて開催されたPRIジャパン・ネットワークの第10回PE(プライベート・エクイティ)ワーキンググループ*1では、G8社会的インパクト投資タスクフォース委員長であるロナルド・コーエン卿*2を招き、イギリスでの事例を交えた社会的インパクト投資の講演が行われた。

 G8社会的インパクト投資タスクフォースは、2013年G8サミット議長国であるイギリスのキャメロン首相の呼びかけのもと、社会的インパクト投資をグローバルに推進することを目的として創設され、現在は、イギリス、カナダ、フランス、日本、イタリア、ドイツ、アメリカ、EU、オーストラリア(オブサーバー)の200名に及ぶ参加者で構成されている。タスクフォースの下部組織としては、インパクト投資に関連する項目別の作業部会と、各国ごとに社会的インパクト投資を推進するための国内諮問委員会(National Advisory Board)が設置されている。日本における国内諮問委員会は2014年7月から活動を開始している。タスクフォース創設後、世界各国で会合が開かれており、日本からは外務省が政府代表、日本財団が民間代表として参加している。

 ロナルド・コーエン卿は、タスクフォース創設時より委員長を務めている。コーエン卿の講演の要旨は以下の通りである。

1. 社会的インパクト投資(Social Impact Investment)とは

 社会的インパクト投資は社会への還元のみならず、投資家に対しても利益を還元するものである。  

 “This is ground zero of a big deal(今回の投資は、一大革新のグランドゼロとなる)” これは、2014年に前アメリカ合衆国財務長官のローレンス・サマーズ氏がアメリカ初のソーシャル・インパクト・ボンド(以下SIB)に投資した際に述べた言葉である。

 社会的インパクトの追求は、投資に新たに加わった概念である。19世紀、投資にはリターンの概念のみが存在した。20世紀になると、投資にはリターンに加えてリスクの評価が、21世紀になるとリターンとリスクの評価に、社会的インパクトが加わった。以前、政府や企業、フィランソロピスト(財務的リターンを求めない慈善事家)は社会的インパクトの計測は難しいことと考えていたが、2010年を機に改革を進める動きが出始めた。社会的起業家に対する資本提供を目的としたソーシャル・ファイナンスの登場である。

  2010年初頭に、イギリス・バーミンガムの2人の若者がコーエン卿を尋ね、刑期を終えた受刑者が出所した後、再び犯罪を犯し再度収監される確率の多さを訴えた(18か月以内の再犯率は約3分の2)。その瞬間、コーエン卿の脳裏には金銭的な問題と刑務所における課題の解決、つまり利益追求型ではない新たな資本提供の仕組みが閃いたのである。

 現在、SIBは全世界で45本設定され、刑務所出所者の再犯防止やホームレス問題の解決、養子縁組の推進や学校中退の防止などのプロジェクトに活用されている。日本では、日本財団が中心的な役割を果たしており、若年層の就労支援や認知症の予防プロジェクト、特別養子縁組の推進プロジェクトへの活用が検討・開始されている。

  G8インパクト投資タスクフォースでは、社会的インパクト投資とは、「特定の社会目標の達成と共に、経済的なリターンを追求し、また両方の成果を評価する投資」と定義している。国によって社会的な課題や慣習など、社会的インパクト投資を取り囲む環境は異なるが、G8インパクト投資タスクフォースでは、各国の国内諮問委員会による調査や分析を通じ、活動を推進させるためのエコシステムの構築を目指している。

2. ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)とは

 以下の図は、SIBの概略図である。中央の青い丸は、社会的インパクト投資の中間支援組織であり、ベンチャー・キャピタルやプライベート・エクイティがそれにあたる。右の丸は資金源である投資家、その下の社会セクターのサービス・プロバイダーは投資先の民間企業や非営利組織、最終的な受益者はサービスの受給者である刑務所出所者や若年失業者があてはまる。一番上の丸は政府(または財団や企業、個人、もしくはその合弁組織)である。

 SIBのスキームでは、今まで政府が直接提供していた公共事業や社会的課題の予防的措置を民間のサービス・プロバイダーに委託し、そのコストを投資家から調達する。政府は、あらかじめ中間支援組織と設定した目標が達成された場合にのみ、投資家に対して出資金の払い戻しと利子を支払う。これは、成果報酬(Payment by Result)契約というアプローチであり、投資の社会的成果を一定期間後に評価する。逆に、成果が目標を満たさない場合は政府から投資家への資金還元はなく、出資金は寄付となる。政府にとって、SIBによるベネフィットは、社会的課題の改善に伴う政府貯蓄や税収の増加が考えられる。

 社会的インパクト投資には、SIBのほか、新興国の開発支援につながるデベロップ・インベストメント・ボンドや上場企業、不動産に対する投資も含まれる。何が社会的インパクト投資の対象となるかは、政府の意向にもよるが、日本においては政府よりも企業や資金の提供者である投資家からの意向が強いと考えられる。

Social Impact Bond

出所:社会的インパクト投資 市場の見えざる心 社会的インパクト投資タスクフォース報告書 2014年9月15日 p4

 

3. インパクト・コンティニュアム(Impact Continuum)

 社会的インパクト投資とは、社会的責任投資からフィランソロピーにいたるインパクト・コンティニュアムの中間に位置している。社会的インパクト投資の投資対象は、1)成果目標を掲げ、2)社会的成果の達成度を測定し、3)目標を長期的に保持するインパクト志向型組織であり、非営利組織やインパクト志向の企業がそれにあたる。インパクト志向型の企業には、社会的なインパクトを生んでいるが、それが事業の主目的ではない企業と、社会的使命を事業の主目的とし、ビジネスモデルに組み入れている企業がある。後者の事例としては、「1つ買うと、1つ途上国に寄付される」というビジネスモデルを取り入れているアメリカのTOMS(トムズ靴店)や、メガネ販売を展開するワービー・パーカーがあり、特にアメリカではべネフィット・コーポレーションと呼ばれている。

 ビル&メリンダ・ゲイツ財団(Bill & Melinda Gates FoundationのCEOは先日、「成果報酬型である社会的インパクト投資のモデルは、結果を出さなければならないという空気をうむため、最終的に良い成果が得られる仕組みである。フィランソロピーのモデルを破壊した。」と指摘した。

 

Impact Continuum

出所:社会的インパクト投資 市場の見えざる心,社会的インパクト投資タスクフォース報告書,2014年9月15日,p19

4. 社会的インパクト投資の促進

 社会的インパクト投資の促進には、市場への資金供給と、投資パイプラインを増やすことで資金需要を増やす2つの要素が重要である。

 市場への資金供給の促進としては、インパクト投資に資金が集まるような仕組みを作ることが大切である。イギリスの例では、2012年に世界初の社会投資銀行(仮訳:Social Investment Bank)であるビッグ・ソサエティ・キャピタル(Big Society Capital、以下BSC)を発足させた。BSCの資金源は、休眠口座預金を活用した政府からの400Mポンドと、主要銀行4行からの出資による200Mポンド(バークレイズ銀行、HSBC銀行、ロイズ銀行、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランドから各50Mポンド)の合計600Mポンドであり、社会的インパクト投資の中間支援組織への投融資による、市場への持続的な資金の流入を図っている。投資家に対する税控除の付与も資金供給の促進に重要である。

 一方の資金需要の促進に関して、イギリス政府は、600を超える社会的課題の対策費用をオンラインで公開しており、これら情報を使用した社会的リターンや経済的な効果の計測が進めば、ますます活動が促進するものと考えている。例えば、イギリスでは、再犯率の高さと、1人当たり年間約2万2000ポンドの収監コストという社会的な課題に対し、5MポンドをSIBにより調達し、受刑者の再犯防止プロジェクトを実施している。成果の指標としては、支援を受けた出所者と受けていない出所者の再犯率を比較し、その差が7.5%を上回ることとしているが、1000名をターゲットとした経過報告では、目標を上回る再犯率の低下が確認され、収監コストの削減や出資者への元本と利子の支払いという、リターンの還元が見込まれている。目標が達成され投資家に利益が還元されると再投資しようという流れが起き、市場に資金が還流するという流れができるのである。イギリスには、政府による社会的起業家を支援するための助成金やローン制度もある。

 このように社会的インパクト投資の促進には、資金の需要と供給の2つが機能するエコシステムが必要なのである。

 今後、社会的インパクト投資には、資金源として年金基金からの投資が望まれている。過去には1978年にアメリカでエリサ法が改正されて以降、年金基金の運用制限が緩和され投資が促進されたことがある。各国政府には、法制度の変更や市場の整備など、社会的インパクト投資を促すための役割を期待したい。

 

*1 PRI:正式名称をUnited Nations Principles for Responsible Investment(UNPRI=国連責任投資原則)といい、 機関投資家が環境・社会・ガバナンス(ESG) の課題を投資の意思決定プロセスに取り込み、受益者のための長期的な投資成果を向上させることを目的として、2006年4月にアナン元国連事務総長によって提唱された原則のこと。2010年には、日本国内における PRIと責任投資の普及活動を行うPRIジャパン・ネットワークが発足した。

   PE(プライベート・エクイティ)ワーキンググループ:2013年より開始した、PRI事務局が主催するワーキンググループ。PEワーキンググループでは、PRI署名機関に限らず幅広く参加者を募り、責任投資やPE(プライベートエクイティ)分野における最新動向など、毎回活発な意見交換の場を提供している。

*2 ロナルド・コーエン卿 略歴: 英国ビッグソサエティ・キャピタル創設者、ポートランド・トラスト(2003~現在)、ブリッジズ・ベンチャーズ創設者・会長(02~12)、英国ソーシャルファイナンス創設者・理事長(07~11)、米国ソーシャルファイナンス創設者・理事長(10~現在)。英国ベンチャー・キャピタル協会創設者・元会長、欧州ベンチャー・キャピタル協会創業者EASDAQ創業者元副会長、欧州NASDAQ全代表も務める。オックスフォード大学及びハーバード・ビジネス・スクール卒業後、26歳で後のエイパックス・パートナーズの前身となる企業を創業。会長を退くまでに同社を欧州最大のプライベート・エクイティに成長させた。英国の社会的投資タスクフォース、休眠資産委員会会長を務める他、オックスフォード大学投資委員会、ハーバード大学の資産管理組織メンバー。

 

【関連コラム】 【日本】「G8社会的インパクト投資シンポジウム」5月29日、30日に開催

【関連団体サイト】 日本財団

          PRI(Principles for Responsible Investment)

【関連資料】 社会的インパクト投資 市場の見えざる心,社会的インパクト投資タスクフォース報告書

執筆:QUICK ESG研究所 波多野 肇、小松 奈緒美

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