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【水口教授のヨーロッパ通信】ESG評価を評価する - ESG評価の信頼性確保に向けた動き 2015/06/05 ESGコラム

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 今、欧米ではESG評価機関に関するさまざまな規格やフレームワークが提案されている。常に評価する側に立ってきた評価機関が今度は評価される側に立つことになる。ばらばらに報じられるニュースをつなげてみると、時代の変化が見えてくる。ESG投資を表明するだけでよかった時代から、その質が問われる時代への転換である。

1.ESG投資の階層構造

  この動きを理解するためには、ESG投資の階層構造を理解する必要がある。図に示すように、企業のESG評価を投資判断に組み込むプロセスは複数の組織が関わる階層構造になっている。年金基金などの資産保有者(asset owner)は、資産を自ら運用する場合もあるが、通常は、資産の一部または全部の運用をいくつかの運用機関に委託している。ESG投資をする場合は、それを条件の1つとして運用機関に指示することになる。

 アムンディ(Amundi)やロベコ(Robeco)などの運用機関は、年金基金などからの委託を受けてESG投資を行う。その際、内部にESG調査のチームを持っていることもあるが、外部のESG調査機関(Research agency)の情報も利用する。英国のEIRISやオランダのサステナリティクスなどの調査機関は広範な企業のESG情報を収集し、評価し、レーティングして運用機関に提供している。1つの運用機関が複数の調査機関の情報を利用することも多い。このように網の目のように張り巡らされた分業体制の中で実際のESG投資が行われているのである。

 その結果、資産保有者のESG投資の成否は運用機関がそれをどのように行うかに左右され、運用機関のESG投資の内容は調査機関が提供する情報の質に依存することになる。それゆえESG評価機関(運用機関及びESG調査機関)の信頼性に対する関心が高まっているのである。

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2.資産保有者から運用機関へ

 2015年1月、英国の16の年金基金が連携して「上場株式に関する責任投資報告ガイド(A Guide to Responsible Investment Reporting in Public Equity)」を公表した。参加したのは環境庁年金基金、北アイルランド地方政府職員年金委員会、大学退職年金基金(USS)、BT、BBC、ユニリーバの企業年金など、責任投資に関わっている年金基金で、その資産総額は2000億ポンドに上る。

 このガイドは先に述べた階層構造の中で、資産保有者から運用機関に対する動きである。その目的は、年金基金等が運用機関に対して求める責任投資に関する報告の内容を明らかにし、報告の質を高めることだとしている。具体的には運用機関の行う責任投資活動を①ESG要素の投資プロセスへの統合と、②スチュワードシップ活動の2つに分け、それぞれどのような判断がなされたのかを例を挙げて説明することを求めている。ここでいう報告とは運用機関がその顧客に対して行うあらゆるタイプのコミュニケーションを含むとされ、定型的な年次報告書のようなものが想定されているわけではない。個々の顧客向けの報告書や一般に公表する報告書、ウエブ・サイトの記載、公式・非公式の口頭での報告などが例として挙げられている。報告の頻度も日常的な情報交換から年次報告まで幅広く捉えられている。

 年金基金等はこのガイドに示すような報告を、運用機関とのエンゲージメントやモニタリングに利用するという。運用の委託者として、彼らは当然今までも運用機関をモニターし、評価して、その後の委託先の選択などに反映させてきたはずである。しかしESG投資に関する評価はこれまでになかった分野である。当初は個々の年金基金等が独自に情報を要求し、評価方法を検討してきたものと思われるが、今回のガイドの公表はその経験を持ちより、標準化しようとする試みとして理解することができる。

3.運用機関から調査機関へ

 それでは階層構造の下部で、運用機関が利用するESG調査機関の信頼性はどのように担保されるのだろうか。アメリカのCERESとテラス研究所(Tellus Institute)が中心になって2011年に設立したGISR(Global Initiative for Sustainability Ratings)は、ESG調査とESGレーティングの透明性と品質を高めることを目的に掲げてきた。その背景には、すでに100社におよぶ調査機関から数百のESGレーティングやESGインデックスが商品化され提供されているという現実がある。この急成長する市場に規律と透明性を組み込むことで、ESG評価の質を維持しようというのである。

 彼らは今年新たにGISRコア・プログラムを立ち上げた。コア(CORE)とは、A Center of Rating Excellenceの略で、GISRの目的達成のための具体的なプログラムと言ってよいだろう。その内容はフレームワーク、ハブ(Hub)、ESGレーティングに関する研究(Labs)、イベント会議開催(convening)の4つの柱からなるとされるが、中心となるのはフレームワークとハブであると思われる。

 フレームワークとは彼らがESGレーティングに対して求める原則とそれに基づくESGレーティング商品の認証の全体的な枠組みを意味している。GISRはすでに2013年12月に「持続可能性レーティング基準(Sustainability Ratings Standard)」の最初の構成要素として、表に示す12の原則を公表している。この上にESG評価で考慮すべきサステナビリティ課題(Issues)とその評価指標(Indicators)の基準を加え、その3段階でESGレーティングの認証を行うという構想である。

 一方ハブとはESG調査機関に関するオンライン・データベースであり、運用機関や企業がESG調査機関を評価するのに役立てることを目指している。2015年5月時点ですでに83の調査機関による127のESGレーティングの情報が掲載されている。コア・プログラムは多様なステークホルダーが参加するプログラムという体裁をとっており、投資家の枠には米国最大の教員年金であるTIAA-CREFF、英国保険大手のアビバ(AVIVA)、ブルームバーグ、ドイツ銀行が、またNGOの枠にはCDP、GRI(Global Reporting Initiative)、SASB(Sustainability Accounting Standards Board)、IIRC(International Integrated Reporting Council)が入っている。

 これに対してESG調査機関の側でも自ら調査の信頼性を保証しようという試みがある。調査機関の連合体であるARISE(Association for Responsible Investment Services)が策定した「責任投資調査に関する自主品質基準ARISTA3.0」である。2003年10月に第1版が公表され、現在のものは2012年6月に改訂された第3版となっている。その内容を見ると、最初に「ARISTA3.0の品質原則」として、企業情報だけでなく独立の情報源を利用すること、当該企業の活動のグローバルな影響を考慮すること、法令順守以上のペスト・プラクティスを評価すること、重要性の高いサステナビリティ課題をきちんと把握することなど11項目の原則を示している。それに続いて文書化や品質マネジメントなどに関する具体的な要求事項があり、全体としてマネジメントシステムの規格となっている。

 ARISTA3.0の特徴は認証のシステムを持っていることである。ARISEが認定した監査人が監査を行い、その結果に基づいて最終的にはARISEの中の認証委員会(Certification Council)が認証する仕組みになっている。2015年5月現在、英国のEIRIS、ドイツのOekomリサーチ、フランスのVigeo、ベルギーのEthibelなど11機関が認証されている。ただし、数多くのESGインデックス商品をもつFTSEやMSCIなどの大手はまだこの動きに加わっていない。

 このようにESG投資や責任投資に関する議論の焦点は、「それを行うかどうか」から、「どのように行うか」に移りつつある。ESG投資や責任投資が期待された成果を生むかどうかはその質にかかっているからである。それでは「よいESG評価」とは何か。これは、スクリーニングかインテグレーション(統合評価)かといった運用側の手法との関連、定量評価か定性評価かといった評価側の方法論の多様性、そもそも何のためにESG評価を行うのかといった目的観など、多くの要因が複雑に絡んだ難しい問題である。その意味では議論はまだ始まったばかりである。

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執筆:QUICK ESG研究所 水口剛 [高崎経済大学 経済学部教授]

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