Sustainable Japan QUICK ESG研究所

【機関投資家】スチュワードシップ活動とESG投資の最前線〜(1)ニッセイアセットマネジメント〜 2015/08/05 ESGレポート

nissay asset management

 「責任ある機関投資家」の諸原則である日本版スチュワードシップ・コードが2014年2月26日に制定されてから1年半が過ぎようとしている。同コードの受け入れを表明した機関は、どのようにスチュワードシップ責任を遂行しているのだろうか。

 日本生命グループの資産運用会社としてファンド(投資信託)や年金の運用を手掛けるニッセイアセットマネジメントの運用資産総額は8.6兆円(2015年3月末日現在)を超す。同社は日本版スチュワードシップ・コードを受け入れた2014年に先立つこと約10年前から、ESG投資を取り入れた責任投資に取り組んできた。国連が提唱している責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)にも2006年に署名している[1]。

 現在、同社でESGの取り組みを推進している、井口譲二チーフ・コーポレート・ガバナンス・オフィサーに、スチュワードシップ活動とESG投資の最前線の実際を聞いた。井口氏は今年、コーポレート・ガバナンス向上に取り組む世界的な団体の国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(ICGN,[2])の理事に就任している。

 同社のスチュワードシップ活動とESG投資のポイントをまとめると次のような点が特徴的であった。 

  ◆中長期投資にはESG要素が不可欠

  ◆日本株アクティブ運用におけるESGのメインストリーム化

  ◆ESGの観点で企業と対話。企業を深く知り、中長期投資に役立てる

  ◆ESGで高い評価を得ている企業の株価リターンは平均を超過

 

 以下、インタビュー内容をQ&A形式でまとめた。

 

1. 歴史/経緯

(Q)責任投資を巡る大まかな歩み(例えば、PRI署名など)や取り組みと、その背景・狙いを具体的に教えてください。また、日本版スチュワードシップ・コードの受け入れに関し、その特徴や独自性を教えてください。

(A)当社は責任投資に関わる取り組みを日本版スチュワードシップ・コードの受け入れ前から始めており、PRIにも2006年当初に署名した。

 当社では中長期的なパフォーマンス向上を運用の目的としてESG 要因を分析し、評価した結果を銘柄選別に反映することが、運用目的の実現とファンドの中長期的なパフォーマンスの向上をもたらし、ひいては、持続可能な社会の実現と、資産運用の専門家としての社会的責任を果たすことにつながると考えている。

 そのため、企業の財務面の中長期分析評価を重視しているが、PRIへの署名(2006年)に先立つ2004年から、企業の5年後の収益予想を行うよう改革を進めた。主に、将来キャッシュフローの5年予想に重点を置いている。こうしたESG要素の分析を行うにはアナリスト部隊の充実が重要になると考えている。

 

2. 調査業務の体制

(Q)責任投資に関わる調査業務の全体像を教えてください(具体的には、組織、体制、専任担当者の配置や役割、トレーニング、調査手法、PRIネットワークへの参加姿勢など)。

(A)前述のとおり、当社は2004年から企業の5年後の収益予想を行うよう改革を進めた。繰り返しになるが、ESG要因を分析し、評価した結果を銘柄選別に反映することが、ファンドの中長期的なパフォーマンスの向上をもたらし、ひいては、持続可能な社会の実現と資産運用の専門家としての社会的責任を果たすことにつながると考えている。ESGの要素はあくまで投資家に資するという観点で運用プロセスに取り入れる。運用パフォーマンスの向上を抜きに考えるESGには意味がない。

 重要なのは、「中長期」のパフォーマンス向上を狙う点だ。短期の運用パフォーマンスにESG要因はさほど関係しない。これに対し、ESGは中長期のパフォーマンス向上に不可欠であり、企業の経営戦略や理念などの評価が重要となる。

 

3. ESG情報の具体的な投資への活用

(Q)責任投資における、ESG情報ならびに非財務情報の活用方法を教えてください。その中で、企業の経営戦略・理念、ESG、非財務情報全般などの区別と分類化などが明確になっていますか。財務情報と関連付けした活用(イングレーション)などは、具体的にその内容を教えてください。

(A)当社では、日本株のアクティブ運用すべてにおいてESG要素を少なからず考慮しており、これを「ESGのメインストリーム化」と呼んでいる。

 当初は非財務情報の分析を行うESGの専任チームを立ち上げたが、7-8年前から企業アナリストがESG評価も併せて行う体制に変えた。その結果、ESGや中長期(5年)の収益予想に精通した中堅のアナリストも育ち、ESGのメインストリーム化を支えている。

 当社ではエンゲージメント(目的を持った対話)には以前より力を入れており、2013年度には、アナリスト約20名が企業と計3609回のミーティングを行い、そのうち630回は経営陣との個別対話に費やした。ESGの観点でエンゲージメントを行うアナリスト部隊の役割は大きい。

 上場している日本株のうち売買流動性などを考慮すると、実際にファンド運用の投資対象となるのは500~600社程度に絞り込まれる。この500~600社について、調査部門の20名ほどの企業アナリストが、各自担当企業を分析する。その際、上記の財務的分析に加え、非財務情報であるESGの分析、評価を行い、財務的な収益予想と非財務情報の評価を分析シートにまとめる。分析シートには非財務の評価を反映した、将来キャッシュフローを軸とした収益予想が記載されている。

 最終的に、評価分析対象の500~600社については個々に、大きく4段階のESGレーティングを付与する。収益予想と合わせてESGレーティングを銘柄選別の判断材料とする仕組みだ。

 ESGレーティングは最低でも年1回、更新する。ただ、各社のレーティングが大きく変動することはあまりなく、中長期の評価という意味でもそれが自然と考えている。

4. エンゲージメントなどの対応

(Q)責任投資において、日本版スチュワードシップ・コード受け入れへの対応、特に、企業とのエンゲージメント(目的を持った対話)をどのように実践していますか。具体的な内容をできれば事例に即して教えてください。

(A)ESG評価分析の基になるのは、企業、特に経営者との対話の内容だ。建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)の実施については、機関投資家の責任ある投資原則である「日本版スチュワードシップ・コード」の原則4で定められている。

 目的を持った対話(エンゲージメント)を効果的に行うには、企業の経営状況についての十分な把握が前提となる。そのためにESG調査と評価を行うアナリストが前線にいる。その意味では、「日本版スチュワードシップ・コード」の原則3への当社の対応として、ESG評価を運用プロセスに組み込んでいる意義は大きい。ESGの観点で企業を調査することで企業を深く知ることができ、経営陣との1対1の対話に耐えうる実りある対話が可能になる。

 前述のように、ESGの評価は投資家に資する観点で行う。社会に何かいいことをしているかではなく、中長期の持続的な企業価値向上の可能性が評価の軸になる。下記表はESG要因を大まかに区分したものであり、担当アナリストが企業毎の特性などと照らし合わせながら、自らの判断基準で子細に分析評価する。

 

ESG要因を評価する視点
(株主価値・業績・投資判断に与える影響を中心に評価)

E評価:環境 環境問題を自社の強みとし、株主価値拡大につなげる
 ・事業へのインパクト事項
 ・対応策
S評価:社会 長期的な企業価値創造に向けたステークホルダーとの関係構築
 ・ステークホルダー(社会・従業員・顧客 等)の一体感
G評価:ガバナンス 株主価値を持続的に向上させる経営陣、経営の仕組み
 ・株主価値を重視しているか
 ・経営陣への信頼度・ガバナンス構造
 ・事業戦略の妥当性
 ・資本効率の意識
 ・その他
総合評価

ESG要因を自社の強みとし、株主価値拡大につなげているか

企業価値・収益・投資判断へのインパクト 

出所:ニッセイアセットマネジメント株式会社

 

5. 議決権行使基準

(Q)責任投資において、日本版スチュワードシップ・コード受け入れへの対応、特に、議決権行使に関する実践方法を教えてください。

(A)株主総会における議決権行使の考え方や結果公表に関する取り組みは以前から行っており、日本版スチュワードシップ・コードの受け入れ前からサイトで公開している[3]。なお、議決権行使に関しては、助言会社には頼らず当社の判断で議案への賛否を行っている。

 

6. 日本版スチュワードシップ・コード受け入れ後の変化

(Q)上記、ESG情報の調査、活用、エンゲージメント、議決権行使において、昨年の日本版スチュワードシップ・コード受け入れの前後で、注力点など何か特徴的な変化はありますか。また、特に企業とのエンゲージメントにおいてE、SとGそれぞれの観点で変化があれば教えてください。

(A)当社は早くから運用にあたってESG要素を考慮し、企業との対話を実践してきたこともあり、日本版スチュワードシップ・コード受け入れの表明前後で、取り組み内容に大きな変化はない。

 

7. アセットオーナーについて

(Q)責任投資を対象とした現在の資金の委託者(国内、海外のアセットオーナー)層を、企業年金基金、金融機関などの区分で教えてください。また、最近のアセットオーナーにおいて、ESGをはじめとする責任投資の考え方に変化は見られますか。あるとすればどのような変化ですか。

(A)国内外の顧客(アセットオーナー)からは従来にも増して、責任投資への関心が高くなっており、その点でも「対話力」の向上に一層磨きをかける必要があると感じている。

 

8. 企業のディスクロージャーについて

(Q)責任投資に関して、企業が発行しているコーポレート・ガバナンス報告書、統合報告書や年次(アニュアル)レポート、CSRレポート、環境報告書などの活用状況や注目点を教えてください。現在の活用状況のみではなく、今後の活用の方向性に関する何か見通しのようなものはありますか。例えば、今年6月以降のコーポレートガバナンス・コード適用後のコーポレート・ガバナンス報告書の扱いなどです。

(A)企業が発行するCSRレポート、環境報告書やサステナビリティーレポートの類は総じて企業価値や企業の収益率向上との関係が明確でない記載事項が多く、それほど参考にしていない。

 アニュアルレポートと統合する形の統合報告書については、今後、企業のESG活動と企業価値向上との関連性が明確化するようになれば、評価情報として利用価値が高まってくるのではないかと期待している。6月から施行になったコーポレートガバナンス・コードに関しては、新たなコーポレート・ガバナンス報告書(コードの原則に基づく開示や原則を実施しない理由を明記)の発行が今後、続いてくる。その内容に関しては、注目しているところだ。

 

9. 具体的なファンドの事例

(Q)責任投資をキーワードに掲げて運用しているファンドにはどのようなものがあり、その運用資産規模、アセットオーナーの属性(年金基金、金融機関の資産運用、事業法人の資産運用など)、リスクとリターン特性(配当込みTOPIXまたはTOPIXと比較)を教えてください。

(A)当社では「ESGのメインストリーム化」として、企業分析においてESG要素を取り入れ、日本株運用に活かしているが、中でも積極的に対話を活用して運用成果をあげようとしているのが、国内外の機関投資家向けに提供している「ジャパンスチュワードシップ対話型集中投資運用」である。2005年から運用している当ファンドはその名前が示すようにエンゲージメント(目的を持った対話)と集中投資に焦点を当て、組み入れ銘柄数を20銘柄程度に絞り込んで運用している。

 運用実績は下記の通り。リスクを抑えながらリターンを追求してきた。

◆ファンド(注)の運用実績

〇運用開始来10年のうち、9年で市場を上回る収益
〇過去3年間、過去5年間の超過リターン(年率)は目標超過リターン(+5.0%)を達成
〇過去3年間のIRは1.05と高い水準

TOPIX return

(注)期間は2005年4月~2015年6月で、2015年度は4~6月で非年率です。

・上記は外国籍投信の運用実績で、国内株式の配当にかかる税引き後のパフォーマンスで、運用報酬控除前ベースです。
・TOPIXは配当込みであり、超過リターンは配当込みTOPIXと比較したリターンです。
・TEはトラッキングエラー、IRはインフォメーションレシオの略です。
・上記データは過去の運用実績であり、将来のパフォーマンスを保証するものではありません。
出所:ニッセイアセットマネジメント株式会社

 

10. 投資先企業について

(Q)上記に該当するファンド、特に企業とのエンゲージメントをキーワードに掲げたファンドで実際に投資している企業に何か共通点や特徴はありますか。可能な範囲で具体的に教えてください。

(A)ESG評価が高い企業ほど、アナリストによる売上高や利益率の改善度合いの予想値が高い傾向にある。アナリスト予想が外れる可能性もあるが、過去6年程度の株価のリターンとの関係性をみても、ESG高評価企業の株価リターンは平均リターンを上回った傾向がある。これは、ESG評価は中長期的な企業価値の評価と相関があることを裏打ちしている。

 ESGレーティングに関しては、要因をE(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)に区分してみると、全産業の平均ではGの要因がアナリストのレーティング評価に与える影響が最も大きい。ただ、業種によってE、S、Gの影響度合いは異なり、Sは医薬品やサービス業、Eは石油・石炭製品、金属、繊維などの素材関連作業で、アナリスト評価への影響度が高いことが分かっている。

 

11. 今後の方向性

(Q)他に、責任投資に関し、何か独自の取り組みはありますか。

(A)当社の場合、しっかりとした軸を作るため、他社のESG情報を使用せずに独自のESG評価手法を確立してきた。その情報源は、やはり企業との対話がメインである。例えば、S(社会)の観点では従業員の会社満足度や定着率などの把握と評価が重要になるが、こうした非財務情報に関する的確な情報は対話を通じて得られることが多く、企業にも投資家としての意見を述べることができる。

なお、独自のESG評価を続けてきたことで、この評価手法をしっかりと自分のものにしたアナリストが育ってきており、今は他社が提供しているESG 情報についても、新たな気づきを得るための参考になるのではないかと考えている。


◇プロフィール(会社概要)

 ニッセイアセットマネジメントは、約9兆円の投資信託や年金の運用を手掛ける日本生命グループの資産運用会社。平成10年7月にニッセイ投資顧問とニッセイ投信の2社が合併して設立された。

PRI署名

 2006年に署名

◇日本版スチュワードシップ・コード受け入れ内容

 ニッセイアセットマネジメント-「責任ある投資家」としての取組み

◇運用資産の概要

 預かり資産総額 8.6兆円

 内訳:公募投信 1.6兆円、投資一任・助言私募投資信託など 7.0兆円

  • 資産別内訳:国内株式16%、外国株式17%、国内債券25%、外国債券20%、オルタナティブ6%、その他17%
    assets under the custody
    出所:ニッセイアセットマネジメント株式会社

[1] ニッセイアセットマネジメント-「責任ある投資家」としての取組み

[2] ICGN(International Corporate Governance Network)
グローバルのコーポレート・ガバナンス向上に取り組む中心的な組織団体。英国ロンドンを拠点とし、海外の大手年金基金やグローバルな運用機関が参加。その会員数は法人・個人を合わせて約600にのぼる。ICGNの理事は12名で構成され、ICGNの活動を牽引している。

[3] ニッセイアセットマネジメント-議決権行使について
 

 

執筆:QUICK ESG研究所

(聞き手:松川恵美、高瀬浩、真中克明)

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