Sustainable Japan QUICK ESG研究所

【機関投資家】スチュワードシップ活動とESG投資の最前線〜(4)大和証券投資信託委託 2015/11/27 ESGレポート

大和投信-ロゴ

 安倍総理大臣は、9月下旬に開催された持続可能な環境・社会づくりの実施に関する国連サミットにおいて、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRI(国連責任投資原則、Principles for Responsible Investment)に署名したことを宣言[1]。世界最大規模の年金運用がESGへの取り組みを強めるという大きなニュースが飛び込んできた。

 大和証券グループの資産運用会社として国内トップクラスの運用資産規模を有する大和証券投資信託委託株式会社(以下、大和投信)は、これに先立つこと今から10年近く前の2006年5月、国連がPRIの考え方を打ち出した時点でいち早く賛同。国内機関投資家としては先陣を切って署名した金融機関の1社に名を連ねた[2]。

 大和投信に、PRI署名後の責任投資に関わるESG調査の歩みやスチュワードシップ責任への取り組みを聞いた。インタビューしたのは、同社でPRIや議決権行使に関する取りまとめ事務局でありスチュワードシップ活動を推進している運用企画管理部次長の田原一彦氏、同・網野直英氏、実際にESG調査・評価を手掛けている調査部の企業調査課長でチーフ・アナリストの菊池勝也氏の3氏。菊池氏は数年前にはSRI関連ファンドの運用責任者(ファンドマネジャー)を務めていた。

 同社のESG投資とスチュワードシップ活動の特徴として、次の点があげられる。

  • ESG要因の中では、企業価値評価において特にG(ガバナンス)要因を重視。企業と積極的に対話し、ガバナンス体制に問題がある場合は取締役の選任議案に反対
  • S(社会)要因については、ネガティブ・スクリーニングにてクラスター爆弾製造企業を投資対象から除外
  • S(社会)およびE(環境)への取り組みが進んでいる企業に投資するテーマファンドを複数設定
  • 今後は、ESG評価を資本コストの推計に反映させるなどの手法により、ESG要因を投資判断材料にするインテグレーションを目指す
  • 企業価値評価では、ROEから資本コストを差し引いたエクイティ・スプレッドに注目
  • ESG調査・評価はESG専任ではない企業アナリスト自身が実施
  • エンゲージメントの方針を広く公開
  • 社内横断的なエンゲージメント・チームを編成。これまで、中小型株中心の10社程度に企業価値向上を目的とした積極的なエンゲージメントを実施
  • 議決権行使方針の詳細を公開し、行使結果についてもできるだけ子細に開示説明
  • ESG評価情報は特定ファンドではなく、日本株アクティブ運用全般に適用

以下、インタビュー内容をQ&A形式でまとめた。

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(写真)向かって左から、菊池氏、田原氏、網野氏

質問

1. 歴史/経緯

(Q)責任投資を巡る大まかな歩み(例えば、PRI署名など)や取り組みと、その背景・狙いを具体的に教えてください。また、日本版スチュワードシップ・コードの受け入れにおいて、特徴や独自性を教えてください。

(A)当社は、2004年5月に「ダイワSRIファンド」、2006年3月に「ダイワ・エコ・ファンド」を設定するなど、以前から責任投資に積極的に取り組んできた。

 2006年5月にPRIに署名したが、いち早く署名したのは、PRIがグローバルな観点で掲げた、持続可能な社会づくりに寄与する「ESG重視の運用姿勢が今後一層重要になる」と判断したためだ。

 PRIには年1回、活動内容を報告する必要があるが、社内関係者に確認しながら1~2ヵ月かけて回答書を作成している。

 2011年には同様の趣旨で、環境省が打ち出した「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則(21世紀金融行動原則)」に、㈱大和証券グループ本社とともに署名している。

 日本版スチュワードシップ・コードの取り組み方針や活動状況報告の詳細を当社サイトに公開している[4]。投資信託の運用を受託している立場として、パフォーマンスの追及、向上という受託者責任を全うするスタンスに立ち、とりわけ投資先企業とのエンゲージメント(目的を持った対話)に力点を置いている。

 これまでの活動を列挙すると:

◇日本版スチュワードシップ・コードの策定プロセスに参画 (「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」に当社運用本部長(CIO)が参加)

◇2014年5月に日本版スチュワードシップ・コードの「受け入れ表明」と「取り組み方針」を同時公表

◇「取り組み方針」では次の点に言及
 ・運用業務の第一義は受託者責任(忠実義務、善管注意義務)の遂行であること
 ・スチュワードシップ責任を果たすための活動は運用業務の一環であること
 ・企業との対話は、投資信託のパフォーマンス向上のための企業価値の向上を目的とすること

◇2014年6月に「投資先企業との建設的な対話の方針」を公表。「経営方針・財務戦略」「投資家との対話・情報開示」「環境・社会・企業統治(ESG課題)」の3つの観点につき、重点的に投資先企業との対話を深めていくことを宣言

◇2015年8月に「スチュワードシップ活動の状況に関する報告」をウェブサイトで公表

2. 調査業務の体制

(Q)責任投資に関わる調査業務の全体像を教えてください(具体的には、組織、体制、専任担当者の配置や役割、トレーニング、調査手法、PRIネットワークへの参加姿勢など)。

(A)責任投資に関わる調査については、特に専任担当者は配置しておらず、調査部企業調査課のアナリスト(17名)が各自の担当企業についての調査活動を行っている。

 PRI署名後、今に至るまでの日本株に関するESG調査の経緯は次の通りである。初期段階ではESG関連情報の調査会社と連携し、二人三脚で企業のESG情報を調べて行くことから始めた。調査会社に全面委託するのではなく、自社内で評価し、ノウハウを蓄積していくことを目指した。

 具体的には、企業が環境ビジネスで中長期的な経済的利益を上げているかどうか、CSR(企業の社会的責任)への取り組みはどうかという2つの項目をマッピング(組み合わせ)することにより整理した。日本企業数百社を対象とし、CSV(Creating Shared Value) [4]に近い考え方に沿ったものだ。

 その後現在まで、マッピングリストの活用を始めとして、ESG情報を投資判断材料に取り込むよう試行錯誤を繰り返してきた。非財務情報のESG評価をレーティング化し、財務情報を企業収益予想と組み合わせて投資判断材料にするアプローチもアイデアとしてはあったが、レーティング化することで、ESG評価が孤立化してしまい、真のインテグレーションには結びつかないのではないかと現時点では考えている。

 また、企業ごとに考えると、E、S、Gそれぞれの要素の重要性が大きく異なる。だからこそ、企業ごとにKPI(Key Performance Indicator)を設定しなくてはいけないと考えている。このような点を踏まえ、ESGレーティングよりもきめ細かく企業ごとの資本コストに落とし込んで考えた方が、企業との対話にも有用性が高いと判断している。

 そして、2014年からの取り組みとして、調査部では、アナリスト全員で企業評価・企業との対話の論点整理を実施した。この作業を通じて、ESG情報に関する考え方も共有している。

 今後の方向性としては、企業価値を評価する基になる資本コストの推計に、ESG要因を反映させることを検討しており、主力企業から始める予定である。

3. ESG情報の具体的な投資への活用

(Q)責任投資において、ESG情報ならびに非財務情報について、その活用方法を教えてください。その中で、企業の経営戦略・理念、ESG・非財務情報全般などの区別と分類が明確になっていますか。財務情報と関連付けした活用(インテグレーション)などについて、具体的にその内容を教えて下さい。

(A)企業価値評価で資本コストに着目し、それを重視するのは、ROEから資本コストを差し引いた差分にあたる「エクイティ・スプレッド」が、企業が価値を生み出しているか否かの判断指標となるからである。

 また、資本コストにESG要因を取り込むことは、長期投資の視点から、企業との対話を実りあるものにする意味合いが大きい。実務的には資本コストはCAPM(Capital Asset Pricing Model, 資本資産評価モデル)などで定量計算可能だが、単純計算したこの資本コストだけでは対話が深まっていかないと考えている。

 ESG要因を含めた資本コストを算出することで、対話においても、資本コストを巡る当社と企業の間の認識ギャップを埋めることにつながり、対話の歯車がかみ合うのではないだろうか。

 お互いが考える資本コストの1%や2%程度の差異はさほど重要ではない。企業と資本コストの考え方を「同期化」するのが大切だ。異なる業種間で共通するESG要因は、今後アナリストで意見を出し合いながら見出していきたい。

4. エンゲージメントなどの対応

(Q)責任投資において、日本版スチュワードシップ・コード受け入れへの対応、特に、企業とのエンゲージメント(目的を持った対話)をどのように実践していますか。具体的な内容をできれば事例に即して教えてください。

(A)エンゲージメントの具体的な方針は「投資先企業との建設的な対話の方針」として当社サイトで開示している。例えば、企業のROE向上への施策や資本コストに関する考え方を対話で確認する。対話の最中に、インサイダー情報にあたる未公表の重要事実を知った場合、それを速やかに公表することを企業に促すことも方針の中で明記している。

 こうした対話の取り組み方針の公表自体を「対話の第一歩」と位置づけている。お互いの問題意識のすり合わせに効果的であり、対話の方針を公にすることで、企業との対話を深めていくことを狙っている。通常、エンゲージメントはファンドマネジャーや調査部のアナリスト、議決権行使に関わる運用企画管理部員が、本対話の方針に基づいて、それぞれの目的に応じて行っている。2014年4月から15年6月までの間に約1000社の間で、約1700件のエンゲージメントを行った[5]。

 各部横断的なメンバーによる特別のエンゲージメント・チームも編成している。同チームでは、企業価値改善の余地がある企業に対して、当社からエンゲージメントを積極的に働きかけている。これまで、主に当社ファンドで保有の多い中小型株企業約10社とエンゲージメントを実施した。IR活動の改善が必要な企業、キャッシュリッチ企業については、各社ごとに設定したKPIを介して、濃密な対話を行っている。

5. 議決権行使基準

(Q)責任投資において、日本版スチュワードシップ・コード受け入れへの対応、特に、議決権行使に関する実践方法を教えてください。

(A)当社は、議決権は株主にとって重要な権利であり、その行使は投資先企業の企業価値向上と持続的成長のための重要な手段であるとの考え方に基づき、アクティブ(積極運用型)ファンド、パッシブ(指数連動運用型)ファンドを問わず、保有しているすべての銘柄の議案を同じ基準で精査し、議決権を行使している。原則として白紙委任は行わず、各議案に対し、賛成、反対、棄権のいずれかを選択し、議決権指図行使を行っている。

 当社の場合、誰がみても同じ賛否判断ができるような仕組みにするため、議決権行使の基準を明確にしている。議決権行使判断の独立性・中立性を確保するため、「議決権の指図行使に関する方針」や「議決権の指図行使に関する実務基準」の策定は、運用本部長(CIO)を委員長とし、インベストメント・オフィサーや運用各部門およびコンプライアンス部門の部長で構成する「スチュワードシップ委員会」の審議を経て行っている。

 当該方針や実務基準に基づき、株主総会の個別議案への賛否判断の実務作業は、運用企画管理部が基本的に行っている。

 当社は、会社提案議案については、原則として肯定的に判断している。ただし、「議決権の指図行使に関する方針」や「議決権の指図行使に関する実務基準」に基づき、株主価値を毀損すると判断される議案については、反対している。

 実務基準には、投資先企業の持続的成長に資する目的で、きめ細かな判断を行うよう、社内取締役の選任議案の判断に使用するROEの水準を業種ごとに定めるなど、精緻な基準も盛り込んでいる。株主提案議案については、当該提案が株主価値の増大に寄与するものとなっているかを判断基準としている。会社提案、株主提案ともに、議案によっては「スチュワードシップ委員会」で個別に審議し、指図内容を決定している。

 議決権行使に関わる方針や実務基準は、アナリストの意見、会社法の改正および投資先企業との対話の内容などを踏まえ、かなり頻繁に改定している。一回一回は部分的な改定ながら、この1年で8回変更した。

 議決権行使結果については、投資信託協会ルールに基づき、毎年5月及び6月に開催された総会における議決権行使の結果を、議案の主な種類ごとに整理・集計して公表している。本年は8月18日に公表した。

 本年は反対議案が増加した。特に、社外取締役や監査役の選任議案への反対比率が高かった。主要借入先出身者など独立性に疑義がある場合や、在任期間が通算で12年以上の社外監査役などに反対する基準を導入したためだ。こうした基準の改定はスチュワードシップ・コード受け入れがきっかけにはなっているが、受け入れ前からも基準の改定は随時行っており、社会情勢に照らしてあるべき姿を不断に追求する流れに沿ったものと考えている。

 なお当社と資本関係を有する企業や営業上の関係を有する企業に対する議決権行使については、外部の専門機関からの助言に基づいて議決権を行使することで、利益相反の排除と、行使判断の中立性を確保している。

6. 日本版スチュワードシップ・コード受け入れ後の変化

(Q)上記のESG情報の調査、活用、エンゲージメント、議決権行使において、昨年の日本版スチュワードシップ・コード受け入れの前後で、注力点など何か特徴的な変化はありますか。また、特に企業とのエンゲージメントにおいてESGそれぞれの観点の変化があれば教えて下さい。

(A)スチュワードシップ・コード受け入れを踏まえ、スチュワードシップ活動に関わる意思決定を行うための社内機関として、「スチュワードシップ委員会」を設置した。

 運用企画管理部のコーポレートガバナンス担当者と投資先企業とのミーティングに、企業調査アナリストやファンドマネジャーが必要に応じ同席する体制とした。また、ミーティングの内容については、社内データベースで共有化している。

 議決権行使方針や実務基準の策定作業は、従来は運用企画管理部のコーポレートガバナンス担当者が行っていたが、スチュワードシップ・コード受け入れ後は、企業調査アナリストも関与する体制とした。

 また、取締役選任議案等について、企業業績面の定量データに加え、アナリストの定性的な判断も考慮した上で議案判断を行う体制とした。

 スチュワードシップ・コード受け入れ後は、企業から様々な情報が以前にも増して入ってくるようになったと感じる。投資先企業からは、株主総会で「ROEをどう考えるのか」といった株主質問を受けるなど、個人投資家の間でも企業ガバナンスに関する関心、意識が高まってきたという声も聞く。

7. 企業のディスクロージャーについて

(Q)責任投資に関して、企業が発行しているコーポレート・ガバナンス報告書、統合報告書や年次(アニュアル)レポート、CSRレポート、環境報告書などの活用状況や注目点を教えてください。現在の活用状況のみではなく、今後の活用の方向性に関する何か見通しのようなものはありますか。例えば、今年6月以降のコーポレートガバナンス・コード適用後のコーポレート・ガバナンス報告書の扱いなど。

(A)率直に言って、現在のところ、統合報告書、CSRレポート、環境報告書などに記載されているESG情報を、企業価値評価や株価評価に結びつけることは難しいと感じている。

 統合報告書には注目しているが、国内での統合報告書への全般的な取り組みはスタートしたばかりであるため、対話を通じてコミュニケーションギャップを埋めていけるよう投資家としても努力したい。

 コーポレートガバナンス報告書については、エクスプレイン(コードの原則に準拠しないことの説明)はネガティブには評価せず、どのように説明しているかを吟味する。社外取締役や取締役会に関する情報も充実しつつあり、それをどう評価するかが今後の課題になる。

8. アセットオーナーについて

(Q)責任投資を対象とした現在の資産運用の委託者(国内、海外のアセットオーナー)層を、企業年金基金、金融機関などの区分で教えてください。また、最近のアセットオーナーにおいて、ESGをはじめとする責任投資の考え方に変化は見られますか。あるとすればどのような変化ですか。

(A)当社の運用資産の大半は公募投信と私募投信であり、投資家(個人投資家および金融機関)には販売会社を通じて販売しているため、資産運用の委託者(投資家)と直接対話をする機会は限定されている。

 個人投資家のESG投資に関する意識や関心に変化が起こるのはこれからではないか。GPIFのPRI署名でESG投資の機運が高まっていくように感じており、当社としても海外事例を含めてESG投資の展開に関する動向調査を始めたところだ。

9. 具体的なファンドの事例

(Q)責任投資をキーワードに掲げて運用しているファンドにはどのようなものがあり、その運用資産規模、アセットオーナーの属性(年金基金、金融機関の資産運用、事業法人の資産運用など)、リスクとリターン特性(配当込みTOPIXまたはTOPIXと比較)を教えてください。

(A)当社は、「ダイワ新成長株主還元株ファンドー株主の微笑みー」「ダイワ・エコ・ファンド」「女性活躍応援ファンド」など責任投資に関連したファンドを設定しており、資産残高は数百億円規模である。受益者は主に個人投資家と思われる。

 しかし何より、前述したESG調査や議決権行使の基準は、特定のファンドではなく、当社の日本株運用全般に適用している。つまり日本株運用資産全額が、責任投資を構成すると考えている。

10. 今後の方向性、その他

(Q)他に、責任投資に関し、何か独自の取り組みや考え方がありますか。貴社からのメッセージがありますか。

(A)ESG調査、評価の深化についてはまだ試行錯誤の面があり、ESG要因を取り込んだ資本コストの推計などのESG評価情報が、いずれ実際のファンド運用で目に見える成果となって現れると期待している。中長期投資の時間軸で考えている。

◇ プロファイル(会社概要)
 1959年に設立(母体の前身会社は1937年設立)。大和証券グループ中核の運用会社として公募の投資信託を中心に資産運用を手掛ける。

◇PRI署名
 2006年に署名:PRI Public Transparency Report 2014/15

◇運用資産の概要
 公募投資信託(ETF含む)の運用資産残高は約14.9兆円(2015年6月末時点)。うち、株式投信(債券投資型などを含む税制上の区分)が約5兆円、公社債投信やMMFなどが約7.1兆円。公募株式投信のうちパッシブ運用は3分の2の約3.2兆円。

[1]外務省サイト「安倍総理大臣ステートメント、持続可能な開発のための2030アジェンダを採択する国連サミット
  GPIFのPRI署名発表文
[2]PRI Founding signatories
[3]大和投信のスチュワードシップ活動
[4]CSV(Creating Shared Value) :企業の利益と社会貢献を両立して追求する考え方。経営論で著名な米学者のマイケル・ポーター氏が提唱した。
[5]スチュワードシップ活動の状況に関する報告(2014年4月~2015年6月)

取材日:2015年10月6日

執筆:QUICK ESG研究所 (聞き手:中塚一徳、高瀬浩、真中克明)

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