Sustainable Japan QUICK ESG研究所

【機関投資家】スチュワードシップ活動とESG投資の最前線 〜(5)ブラックロック・ジャパン 〜 2015/12/03 ESGレポート

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 機関投資家の責任ある投資原則としての「日本版スチュワードシップ・コード」が始動してからまもなく2年になろうとしている。投資先企業に適用される「コーポレートガバナンス・コード」と併せ、本格的な普及段階に入った。持続的な企業価値向上に向け、両コードの実効性を高めることを目的とした「フォローアップ会議」も金融庁と東証の主催により9月から毎月開催されることが決定し、機関投資家のスチュワードシップ活動への注目度が一段と増している。

 今回は、米ブラックロックの日本支社であるブラックロック・ジャパンに責任投資の現状を聞いた。世界で最大規模の運用資産を有し、多くのトップ企業の大株主リストの上位に顔を出す同社の幹部は、日本企業の投資などの促進を目指し安倍総理大臣が主宰する「未来投資に向けた官民対話」に参加している。

 ブラックロックは、ニューヨークを本拠として北米、南米、欧州、アジア、オーストラリア、中東、アフリカ等、世界30ヵ国以上に拠点を置いて資産運用事業を展開。運用資産残高はグループ全体で総額4.51兆米ドル(約540兆円:1米ドル=119.765円、2015年9月末時点)。国連が提唱している責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)には、2008年に署名している。同社は企業の長期的、持続的成長へ向けた同社の取り組みを「21st Century Engagement」と題して公表している。

 同社ヴァイスプレジデントのコーポレートガバナンス・チーム江良明嗣氏とディレクター商品開発部長の内藤豊氏に、責任投資に対する取り組みをインタビューした。また、インパクト投資戦略に着目し、日本、欧州、米国で設定したファンドについても聞いた。江良氏は前記「フォローアップ会議」のメンバーでもある。

 同社のスチュワードシップ活動とESG投資の特徴として、次のような点が挙げられる。

◆投資判断において、責任投資の観点で企業調査するかどうかは運用戦略次第。

◆議決権行使と企業とのエンゲージメントは、コーポレートガバナンス・チームが全社を横断して担当。各国の拠点のチームがそれぞれの国、地域の企業に対して行い、その結果をグローバルに共有する。

◆企業のESG情報は、あくまで投資先企業の価値向上や運用戦略のパフォーマンスを上げる観点で使用し、評価する。

◆取締役選任議案では、企業の自発性を尊重しながら、少数株主の利益を守る立場で議決権を行使する。

◆取締役選任議案への反対票が以前よりも減ってきたのが、議決権行使結果の最近の傾向。

◆CSRやアニュアルレポートは特定の読み手を意識した報告書だと活用価値が高い。

◆インパクト投資戦略に着目し、先進国株式を主な投資対象とするファンド「ブラックロック・インパクト株式ファンド(愛称:ビッグ・インパクト)」を設定。ビッグデータを活用した社会的インパクトの計量化が特色。

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(写真)向かって右側が江良氏、左が内藤氏

 

以下、インタビュー内容をQ&A形式でまとめた。

質問

1.      歴史/経緯

(Q)責任投資を巡る大まかな歩み(例えば、PRI署名など)や取り組みと、その背景・狙いを具体的に教えてください。また、日本版スチュワードシップ・コードの受け入れにおいて、特徴や独自性を教えてください。

(A)当社は責任投資には積極的に取り組んできた。中でも、議決権行使や企業とのエンゲージメント(目的を持った対話)については、当社と経営統合した旧バークレイズ・グローバル・インベスターズ(以下旧BGI)の活動を含めると、10年以上前から積極的に実践してきた。旧BGIはパッシブ(指数連動型)運用資産の割合が高かったため、パッシブインベスターとして、企業との対話や議決権の行使に対してどのように取り組み、実行すべきかが重要であった。それを引き継ぎ、現在は専任部署としてのコーポレートガバナンス・チームには全世界で約20名、日本では3名が所属している。

 当社の運用戦略は、他の運用会社と比べて多岐にわたる。パッシブ運用の比重が大きく、アクティブ運用では、ボトムアップ・アプローチのファンダメンタル運用やクオンツ運用の科学的アクティブ運用などがある。そういった運用の多様性を踏まえながら、「議決権行使」と「企業とのエンゲージメント」については、運用戦略ごとではなく全社で極力統一的な対応を行う考え方に立って、コーポレートガバナンス・チームが各運用戦略を横断し、会社を代表する格好で一括して対応している。コーポレートガバナンス・チームは、銘柄の選定などの投資判断には原則的に関与しない。各運用戦略からESG要素を取り入れたいという相談があれば、共に検討している。

 全世界でグローバルな投資を行う当社では、各地域や国のルール、文化を最もよく知っている者が議決権行使や対話の方針を定め、実施する原則を採っている。グローバルに共通するガイドラインは原則としてあるが、それをベースに各国の法体系、文化、歴史、企業の問題や課題などを踏まえて、実態に沿った基準を策定するというのが大きな方針になる。このため、日本で運用するファンドでなくても、投資先の日本企業についてはブラックロック・ジャパンが対話と議決権行使を行う。スチュワードシップ・コードでも英国版と日本版があるように、各国で定められた原則には、国ごとに各拠点が対応し、それをグローバルで共有する。

 

2.      調査業務の体制

(Q)責任投資に関わる調査業務の全体像を教えてください(具体的には、組織、体制、専任担当者の配置や役割、トレーニング、調査手法、PRIネットワークへの参加姿勢など)。

(A)運用戦略・手法によって、調査部隊が必要かどうかを判断し、必要であれば調査担当の人材を確保する。例えば、パッシブ運用では調査の必要性が無いし、クオンツ運用は市場ファクターの分析が中心で、個別企業の分析はしない。多くの日系運用会社と異なり、当社は組織上、「調査部」のような全社に亘る調査専門の部門を設けていない。

 「責任投資」についても、専任の調査部門があるわけではない。ただし、全世界の拠点で、外部の関連情報や各運用戦略に関わるリサーチ情報を数多く共有している。企業のESG情報はその一つであり、定性、定量含めて多くのデータがある。

 

3.      ESG情報の投資への活用

(Q)責任投資において、ESG情報ならびに非財務情報について、その活用方法を教えてください。その中で、企業の経営戦略・理念、ESG・非財務情報全般などの区別と分類が明確になっていますか。財務情報と関連付けした活用(インテグレーション)などについて、具体的にその内容を教えて下さい。

(A)独自性にもつながる話だが、当社では運用戦略ごとに運用チームを組織化している。ESG情報を採用するかどうかの判断は、運用戦略に委ねる。ESG情報と運用戦略には相性があり、ファンド受益者の要望に沿う必要もある。必ず考慮する訳ではなく戦略次第だ。

 大まかに当社では運用戦略を「責任投資」と「伝統的投資」に区分している。SRIインデックス運用などを含む責任投資では確実にESG要素を考慮する。ファンダメンタル運用、科学的アクティブ運用といった伝統的投資においては、必要に応じてESG要素を考慮する。パッシブ運用ではESGを考慮してはいけないということになる(前述の通り、エンゲージメントでは考慮する)。現時点の資産規模は伝統的投資の割合が多いが、大口顧客である機関投資家の意向も受け、責任投資については急増している、といった認識だ。

 コーポレートガバナンス・チームが行う対話では、企業のESG要因を議論することもあり、責任投資にも伝統的投資にもその評価を定性・定量両面でレポートしている。運用戦略によって、投資判断のインテグレーションの材料として使うなど、活用している。

 企業との対話の内容はより価値の高い情報になる。例えば、企業の担当者が対話に臨む姿勢の積極性をみることで、ガバナンスについての取り組み具合は感触として大体分かる。そのような情報をレーティングのような形ではなく、定性的に評価している。一方、定量的な情報に頼ろうとすると形式基準に準拠せざるを得なくなる。コーポレートガバナンス・チームでは、企業の対話姿勢など定性的な情報によって、形式を超えた実質面を見るようにしている。

 このESG要因というのは、企業の経営課題に挙げられるようなもの、と考えている。社会的な理念と言うよりは、各社ごとに中長期的な観点から対応しなくてはならない課題である。トイレタリー業界にとっての水の使用量、自動車業界にとっての環境課題、食品業界にとっての安全性などだ。経営課題をきちんとマネジメントしている企業ほど、将来業績動向の予見可能性が高いと考えており、高く評価する。ESG課題は、全企業に共通したテーマを採用しているわけではなく、会社ごとに設定している。業種で共通するESG課題の設定も検討していないわけではない。伝統的投資などでもより活用できるESGの評価システムの構築も模索しているところだ。

 ただし、ESG評価が高い会社の株だからといって必ず買うわけではない。常に、市場価格の割安・割高度を判断している。このため、伝統的投資では、ESG評価を考慮する・しないの柔軟性を持っている。どちらかというと運用パフォーマンス重視であり、パフォーマンスを上げる観点から、ある局面においてESGを考慮するに値すると判断すれば考慮するし、関係ないとみる場合は考慮しない。もっとも最近は、受託者責任の一貫としてESG課題に対応することが求められるようになり、関連する調査活動を強化している。

 

4.      エンゲージメントなどの対応

(Q)責任投資において、日本版スチュワードシップ・コード受け入れへの対応、特に、企業とのエンゲージメント(目的を持った対話)をどのように実践していますか。具体的な内容をできれば事例に即して教えてください。

(A)当社はパッシブ運用を含め、日本企業1900~2000社の株式に投資している。そのうち、コーポレートガバナンス・チームが実際に対話を行うのは年間約100社で、対話回数は延べ140~150回に上る。投資家の意向をきちんと理解しておきたいという会社から、対話要請を受けることも多い。その割合は7~8割に上る。株主総会議案や企業価値に影響のありそうな問題など企業側が設定した議題について、「相談相手」として投資家の観点からアドバイスする。残り2~3割の企業は何か問題が起きている会社や、逆に目立ってプラスのガバナンス強化をしている会社で、当社から対話を申し入れる。

 最近は企業側の対話の相手が役員クラスになることが多く、経営状況の幅広い理解につながっている。

 対話のテーマは、今一番注目されている課題がコーポレートガバナンスであるため、結果的にガバナンスを中心に取り扱っている。ガバナンスは米国をはじめ他国でも主要なテーマだが、欧州では環境、社会に関する注目度が高いと感じる。

 対話を実施するタイミングは、株主総会の招集通知が届く前や議案が固まる前が多い。双方で建設的な対話が成立しやすいためだ。議案決定前に対話し、支持できる議案内容を明らかにすることで、変化が起きることも多い。議案の書き方や役員の選任案に影響することもある。

 対話の手ごたえとして、配当水準を心配していた企業の相談を受けた際に、当社からは正直にその配当水準では低いと返答したところ、増配へつながったという例がある。実は、多くの企業は何が問題か認識していて、どう対応したら投資家に評価されるかを知っている。当社を含め投資家が、企業の背中を押してあげるイメージだ。

 

5.      議決権行使基準

(Q)責任投資において、日本版スチュワードシップ・コード受け入れへの対応、特に、議決権行使に関する実践方法を教えてください。

(A)当社が企業のコーポレート・ガバナンスを評価する根本には、投資家がこうあるべきとする姿をただ企業に押し付けるのではいけない、という考えがある。企業が自らの事情を踏まえて最善の取り組みを考え、そこに至る検討プロセスや結果を投資家に責任をもって説明し、その説明を基に投資家が企業と対話する、というループ自体を重視している。国によってガバナンスの課題が違うので、対話のあり方や重点を置くバランスが微妙に異なることはあっても、全世界で同様にこの考え方を採っている。

 日本の議決権行使基準は日本版スチュワードシップ・コード受け入れ表明時から、当社ウェブサイトで公開している。

 当社独自の特徴的な点として、取締役の選任基準が挙げられる。少数株主の利益が毀損しやすい4つの条件[1]のいずれかに当てはまった場合のみ、社外取締役の有無の判断を行う。つまり、4項目のいずれにも該当しなければ、社外取締役数がゼロでも反対票を投じない。この基準は日本版スチュワードシップ・コード受け入れ表明やコーポレートガバナンス・コード制定前に定まっており、コード適用後も変更していない。

 最近の議決権行使結果の大きな特徴として、取締役選任議案への反対票が以前に比べ減ってきた。企業側で社外取締役の活用が進み、前期の4項目での反対が少なくなったためだ。

 

6.      日本版スチュワードシップ・コード受け入れ後の変化

(Q)上記のESG情報の調査、活用、エンゲージメント、議決権行使において、昨年の日本版スチュワードシップ・コード受け入れの前後で、注力点など何か特徴的な変化はありますか。また、特に企業とのエンゲージメントにおいてESGそれぞれの観点の変化があれば教えて下さい。

(A)日本版スチュワードシップ・コード受け入れ表明前から積極的に活動してきたこともあり、考え方や方針について大きな変化はないが、日本版スチュワードシップ・コード受け入れ表明後に、議決権行使の取締役選任基準にROE基準を採用した。

 ROEの絶対水準を求めるのではなく、ROEの変化率を見ている。過去からのトレンドが減少傾向にある企業は、厳しい議決権行使や対話の対象となる可能性があるが、対話を行って取り組みを聞いた結果、改善の可能性がある場合、取締役の再任案に反対はしない。改善の見込みがない場合、取締役の再任案に反対することもある。

 

7.      アセットオーナーについて

(Q)責任投資を対象とした現在の資産運用の委託者(国内、海外のアセットオーナー)層を、企業年金基金、金融機関などの区分で教えてください。また、最近のアセットオーナーにおいて、ESGをはじめとする責任投資の考え方に変化は見られますか。あるとすればどのような変化ですか。

(A)当社と企業との対話に対するアセットオーナーの関心は高まった。対話方針や取り組み、考え方について説明する機会が増えてきている。どちらかと言うと、アセットオーナーが対話をどのように評価したらよいのか、参考にするための質問が多いように見受けられる。こうしたアドバイスができるのも、以前から責任投資を積極的に行ってきた当社の役目の一つだと感じている。ESG全般に対する関心は、これからだと思う。

 海外のアセットオーナーは、地域、国ごとに関心の度合いが違う。欧州は以前から責任投資やESGへの関心が高い。ただ欧州と言っても、国による差がある。例えば、フランス、オランダ、ノルウェーは責任投資に対して元々関心が高く当然のように捉えているが、ドイツはそこまででもない、といった印象だ。米国は、以前からガバナンスへフォーカスしてきたが、最近は環境問題への関心が高まっている。これは異常気象現象が毎年のように起きていて、気候変動が身近な問題となっていることが背景にある。ESGへの関心度合いはその国の社会の価値観に大きく影響されると感じている。

 

8.      企業のディスクロージャーについて

(Q)責任投資に関して、企業が発行しているコーポレート・ガバナンス報告書、統合報告書や年次(アニュアル)レポート、CSRレポート、環境報告書などの活用状況や注目点を教えてください。現在の活用状況のみではなく、今後の活用の方向性に関する何か見通しのようなものはありますか。例えば、今年6月以降のコーポレートガバナンス・コード適用後のコーポレート・ガバナンス報告書の扱いなど。

(A)運用戦略により分析対象は異なるが、対話に際して、会社への理解を深めるのに必要であれば、アニュアルレポートやCSR報告書などの中から適当な報告書を選び、読み込む。

 コーポレート・ガバナンス報告書が新様式に改定されたばかりなので、最近は、新様式のガバナンス報告書を開示した企業については、その内容が対話のテーマになるケースが多い。ガバナンス報告書は特に最初のページの基本的な方針やエクスプレイン(原則を順守しない説明)内容が充実しているかどうかに注目している。また、自分の言葉で書いてあるかどうかも重視している。

 様々な公開情報に接している中で、CSR報告書やアニュアルレポートは誰向けに書いてあるのか分からないケースが多いのは気にかかる。反対に、従業員向けというように読み手が誰かを意識している報告書は、他の開示資料とは違った観点から分析できるため情報価値が高い。

 日本企業は内部昇進型が多く、終身雇用が崩れたとはいえ長期雇用者が多い。そのため、従業員の考え方やモチベーションが経営に与える影響が他国に比べて大きく、会社の将来の方向性に与える影響も大きい。そういったことを理解したうえで、経営陣との対話に臨むことは、とても有用だと思う。

 

9.      投資先企業について

(Q)上記に該当するファンド、特に企業とのエンゲージメントをキーワードに掲げたファンドで実際に投資している企業に何か共通点や特徴はありますか。可能な範囲で具体的に教えてください。

(A)企業側からの対話依頼が増えている。コーポレートガバナンス・コード制定後、どの企業も対応に頭を悩ませている。投資家の考え方への興味、関心は高い。会社側の担当役員と直接、対話する機会も多い。

 

10.   具体的なファンドの事例

(Q)責任投資をキーワードに掲げて運用しているファンドにはどのようなものがあり、その運用資産規模、アセットオーナーの属性(年金基金、金融機関の資産運用、事業法人の資産運用など)、リスクとリターン特性(配当込みTOPIXまたはTOPIXと比較)を教えてください。

(A)あくまで、多岐にわたる運用戦略の一例だが、「インパクト投資」戦略に基づく、一般個人向けのファンド「ブラックロック・インパクト株式ファンド(愛称:ビッグインパクト)」を最近設定したので紹介する。社会の持続的成長に焦点をあてたファンドで、ESG投資とも関連する部分がある。

 「インパクト投資」とは、「社会的課題の解決」と「投資収益」を同時に追求する投資戦略を指す。計測可能な社会的インパクトを定義し、その成果を継続的に計測していくと同時に、財務的リターンを得るという点に特徴がある。2007年にロックフェラー財団(Rockefeller Foundation)が主催した会議で初めて使われた言葉で、2013年の先進8ヵ国首脳会議(G8サミット)で、議長国のキャメロン英首相が「社会的インパクト・インベストメント・フォーラム」を開催して以降、世界的な注目を浴び始めた[2]。

 当社が考えている以上にインパクト投資の世界が大きく広がっており、その中で当社ができることは何かを昨年から検討し始めた。この時当社の商品には、厳密な意味で上場企業の株式に投資するインパクト投資関連の運用プロダクトが無いことに気付いた。そこで、2015年中のリリースを目標に、プロダクト開発に取り組み、この9月に欧州、日本および米国で「ビッグ・インパクト」をローンチした。

 計量モデルを用いた株式の運用を得意とする当社の運用チームが、公開データなどのビックデータを活用した定量分析を行い、社会的インパクトを計測。継続的にモニタリングしながら銘柄選別指標を作成していくサイクルを生み出す投資モデルが大きな特徴だ。「ビッグ・インパクト」では、「健康」「環境」「経営姿勢」などのテーマ・課題に注目している。こういった大きなカテゴリーの中で、具体的に社会的インパクトの大きい企業を探す。

 

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※上記は当ファンドが採用する運用戦略で資料作成時点で着目している社会的課題の一例であり、今後予告なく変更されることがあります。
出所:ブラックロック・ジャパン株式会社

 

 例えば、健康カテゴリー中の疾病研究の強化では、社会貢献度が高い治療法を研究している企業を発掘するにあたり、WHO(World Health Organization:世界保健機構)やNIH(National Institutes of Health:米国国立衛生研究所)の臨床試験などのデータを活用している。global burden of disease(疾病負荷)[3]の高い障害に対して、積極的に調査、研究している企業を、特許取得や臨床試験段階などから分析している。

 疾病負荷の測定に当たっては、障害、早死によって失われた年数を意味し、疾病負荷を総合的に示す指標「DALY(disability-adjusted life year:障害調整生命年)」[4]を利用する。

 また、環境カテゴリーでは、「環境に良い技術(environmentally sound technologies)」をランク付けし、それに対する企業の研究開発の状況を、WIPO(World Intellectual Organization:世界知的所有権機関)[5]の特許データなどを利用して、モニタリングしている。

 

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※1 世界中で疾病により失われた生命や生活の質の総合計
※2 疾病により失われた生命や生活の質を包括的に測定するための指標
出所:ブラックロック・ジャパン株式会社、一般社団法人日本国際保健医療学会 国際保健用語集

 

 以上のような手法で、世界中で社会的インパクトを与えているのはどの企業かを分析する。ただ、この分析だけだと株価リターンとの関連性が確認しきれないので、当社が運用戦略で標準的に利用している投資収益面の分析を行うアルファモデルを取り入れ、インパクト投資モデルとアルファモデルを融合する。先進国株式を中心にとした約3700銘柄からスクリーニング(銘柄選別)し、200~800銘柄に分散投資し、ポートフォリオを構築する。日本株ではエーザイや東京ガス、外国株では、仏LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)などが組み入れられている。

 「インパクト投資」の具体的な投資プロダクトといえば、従来からあるワクチン債やマイクロファイナンス債[6]といった特定のプロジェクト実施に向けた資金を債券発行で調達し、直接的なインパクトを目指すというイメージが強いかもしれない。しかし、当社のインパクト投資はビッグデータ分析を活用し、上場企業の株式に投資する点で一線を画している。社会的インパクト向上の点では、企業の株式を通じた間接的なアプローチといえるものの、トータルで見た場合の影響は大きいとみている。この新しいアプローチは、インパクト投資を推進するコミュニティーでも評価されている。 

 「ビッグ・インパクト」は9月に設定したばかりで、現段階ではまだ、運用成績を開示できるような運用期間に乏しい。過去に遡ったパフォーマンスのシミュレーションでは、2010年4月から2015年6月までの約5年間で、米ドル建ての運用報酬控除前のリターンが年率12.22%。MSCIワールドインデックスの同期間年率10.20%を2%程度上回った。この間の価格変動リスクの大きさは双方、同程度だった。

 

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出所:ブラックロック・ジャパン株式会社

 

 インパクト投資の体制づくりも進めている。本年3月には、CEOのラリー・フィンク直下に、当社のインパクト・ビジネスをリードするインパクト・インベストメント・チームを組織し、チーム・リーダーとしてデボラ・ウィンシェルを招いた。同氏は最近まで、貧困問題解決などで有名な米ロビンフット財団 [7]のトップを務めていた。当社のインパクト・ビジネスへの取り組みを内外ともにコミットメントした格好だ。なお、当社CEOのラリー・フィンクは現在もロビンフッド財団の理事を務めている。

 「ビッグ・インパクト」は当社の計量モデルのノウハウを生かしたユニークな取り組みと考えているが、今後は、インフラファンド、プライベートエクイティなどの分野でも、インパクト投資に近いプロダクトを検討していく。

 

11.   今後の方向性とメッセージ

(Q)他に、責任投資に関し、何か独自の取り組みや考え方がありますか。

(A)ESG課題への取り組みが社会にとって重要だという認識が社会で強まりつつある。ただ、責任投資という別枠があるのではなく、通常の企業評価軸の中に自然にESG要因をインテグレーションするような方向性が強まってくると考えている。このような課題に運用会社として、積極的に取り組んで行きたい。

 

◇プロファイル(会社概要)

 ブラックロック・ジャパンはブラックロックの日本拠点であり、国内では2006年10月のメリルリンチ・インベストメント・マネージャーズとブラックロック・インクの経営統合に伴い日本法人も経営統合し、ブラックロック・ジャパン株式会社が発足。その後2009年12月に「iShares」のブランド名で有名なETF(上場投信)の運用を主に手掛けていたバークレイズ・グローバル・インベスターズ株式会社と経営統合し、現在に至っている。ブラックロック・ジャパンでは、投信残高4兆1595億円(2015年9月末時点、ファンド・オブ・ファンズ形式等による一部重複あり)、投資一任契約残高20兆627億円(2015年9月末時点、投信残高には年金私募投信が含まれるため、重複計上あり)の年金委託や投資信託を運用している。日本版スチュワードシップ・コードには2014年当初より受け入れを表明している。

◇PRI署名

2006年に署名:PRI Public Transparency Report 2014/15

日本版スチュワードシップ・コード受け入れ内容

◇運用資産の概要

 ブラックロックグループ
 預かり資産総額:4.51兆米ドル(2015年9月末時点)
 資産別内訳:債券32.2%、株式50.3%、オルタナティブ2.5%、マルチアセット8.3%、キャッシュ・マネジメント/短期資金6.3%、ファイナンシャル・マーケット・アドバイザリー0.3% など

 

[1]少数株主の利益が毀損しやすい4つの条件:(「議決権行使に関するガイドライン(日本株式)」内に記載)

① 買収防衛策を新規に導入するか、あるいは既に導入している場合。
② 会社定款に基づき取締役会が剰余金配当の決定権限をもつ場合。
③ 直接間接の株式保有や取締役選任を通して、大株主が会社に対する支配力を有すると認められる場合。
➃ 当期において重大な社会的不祥事が発生し、経営上影響が生じている場合。

[2]社会的インパクト投資、ESG研究所発の関連コラム:
【水口教授のヨーロッパ通信】社会的インパクト投資の可能性 ‐ リスク・リターン・インパクト ‐  2015/10/28 ESGコラム

【PRI活動報告】第10回 PEワーキンググループ -  2015/06/01 ESGコラム

[3] global burden of disease(疾病負荷):疾病により失われた生命や生活の質を、世界中で総合計した指標。

[4] DALY(disability-adjusted life year:障害調整生命年):global burden of disease(疾病負荷)の一つで、理想的な平均余命から、疾病や障害により失われた年数を示す指標。

[5] WIPO(World Intellectual Property Organization:世界知的所有権機関):国際連合の専門機関の内の一つ。知的財産権の保護を全世界的に促進することを目的に1970年に設立された。

[6]ワクチン債、マイクロファイナンス債:
 ワクチン債は、IFFIm(The International Finance Facility for Immunisation:予防接種のための国際金融ファシリティ)、GAVIアライアンス(The Global Alliance for Vaccines and Immunization :ワクチンと予防接種のための世界同盟)と、世界銀行が発行する債券。債券は、各国の取り消し不能で法的に拘束力を有する将来の寄付金(主にODA(Official Development Assistance:政府開発援助))を返済原資とする。調達資金は、新興国のワクチン接種支援に使われる。

 マイクロファイナンス債は、IFC(International Finance Corporation:国際金融公社)が発行する債券。調達資金で、MFI(Microfinance Institutions:マイクロファイナンス機関)の活動の支援を行う。

[7]ロビンフット財団(Robin Hood Foundation):ニューヨークの貧困問題を解決するため、1988年に設立された。寄付金を元に、ジョブトレーニングプログラムや学校の設立、問題解決に取り組んでいる。

取材日:2015年10月13日

QUICK ESG研究所 (聞き手:高瀬浩、中村友亮、真中克明)

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