Sustainable Japan QUICK ESG研究所

【機関投資家】スチュワードシップ活動とESG投資の最前線 〜 (6)第一生命保険 〜 2015/12/25 ESGレポート

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 第一生命保険株式会社(以下、第一生命)は11月にPRI(国連責任投資原則、Principles for Responsible Investment)に署名した。アセットオーナー[1]としてのPRI署名は国内9社目、生命保険会社では太陽生命に次いで2社目となる。PRIネットワークを通じた情報交流やPRI事務局への年次活動報告などを通じて、自社の資産運用プロセスを責任投資の視点から確認していく狙いがある模様だ。

 9月のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)に続き、国内有数の大株主である大手生命保険会社がPRIの署名に踏み切ったことは、国際社会が持続可能となるよう、投資家、企業の双方に責任ある行動を求める投資の潮流が拡大していることを物語る。

 第一生命は上場企業でもある。今回は、アセットオーナーの立場で第一生命にインタビューした。銭谷美幸株式部スチュワードシップ活動推進チーム部長に同社のスチュワードシップ活動ならびに株式投資におけるESG投資への取り組みを聞いた。

 同社のスチュワードシップ活動とESG投資の特徴として、次の点があげられる。

 ◆独自の基準を設け、今年度はエンゲージメント(目的を持った対話)の相手企業を250社程度選定

 ◆エンゲージメント方針のポイントは、コーポレートガバナンスの強化、業績・資本効率の持続的向上、株主還元の充実の3点

 ◆従来からESG投融資に取り組んでいるが、このうち国内株式に関してはESG要因を投資判断材料にする日本株ファンド(「ESGファンド」)を自社運用中。現在は小規模だが、運用成績を見定めたうえで適用範囲の拡大を検討

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質問

1. 歴史/経緯

(Q)責任投資を巡る大まかな歩みや取り組みと、その背景・狙いを具体的に教えてください。また、スチュワードシップ・コード受け入れにおいて、特徴や独自性をお教えください。 第一生命の場合、アセットオーナーとアセットマネージャーのそれぞれの立場がありますが、今回はアセットオーナーとしてスチュワードシップ活動をどのように考えているか、教えてください。

(A)まず最初に、当社の資産運用の全体像の概略から説明する。生命保険会社の運用資金は大きく、一般勘定と特別勘定[2]に分かれる。当社は、一般勘定が大半であり、約35.7兆円(2014年度末)を保有している。

 生命保険契約の特性から、長期にわたる年金や保険金・給付金を安定的に契約者に支払うことを主眼とし、ALM[3]という考え方に基づいて確定利付資産を中心に運用している。その結果、現在、一般勘定資産の約45%を国内債券に投資。そのうえで、分散投資による収益補完のため、国内株式にも投資している。その割合は全体の約10%で約3.8兆円に上る。

 一般勘定の国内株式運用はそのほとんどを外部に委託せず当社が直接投資し、運用スタイルは基本的にアクティブ型である。

 その他運用資産には、外国証券、貸付金、不動産なども含まれる。当社では、2011年に環境省主導で策定された「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則(21世紀金融行動原則」に署名した頃から、これらの投融資においてESGの視点に配慮する取り組みを少しずつ実施してきた[4]。

 例えば、再生利用可能エネルギー事業への投融資、保有不動産における環境対応(省エネなど)、待機児童問題を受けた都心への保育所の誘致などだ。2014年には、開発途上国の経済成長を支援する目的で、国際金融公社(IFC:International Finance Corporation)が発行した「インクルーシブ・ビジネス・ボンド」にも投資した。

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出所:第一生命保険株式会社

 日本版スチュワードシップ・コードは、従来より、投資先の日本企業の持続的成長や企業価値向上をサポートしてきたので、趣旨が合致するコードをごく自然に受け入れ表明した。

 そのうえで、スチュワードシップ活動を強化するために、今年4月に株式部内にスチュワードシップ活動推進チームが発足した。エンゲージメントと議決権行使を活動の両輪に位置付け、特に対話重視の姿勢で臨んでいる。

 当社は生命保険会社として数少ない上場会社でもあり、一般的に理解が難しい生命保険会社の活動をディスクローズする責任や、保険契約者への説明責任も負っている。ステークホルダーへの様々な説明責任を果たすために、多面的に活動している点が特徴的だ。

2. 調査業務の体制

(Q)責任投資に関わる調査業務の全体像を教えて下さい。(具体的には、組織、体制、専任担当者の配置や役割、トレーニング、調査手法、PRI ネットワークへの参加姿勢など)

(A)国内株式は、投資調査室のアナリストが主に企業の財務面の分析、業績予想などのアナリスト業務を担当する。分析の際には、併せて統合報告書やCSR報告書、更には中期経営計画等にも目を通し、非財務情報も考慮している。

 スチュワードシップ活動推進チームは企業とのエンゲージメント、株主総会議案への議決権行使基準の制定や議案への賛否判断を行う。投資調査室のアナリストは現在15名(2015年4月時点)、スチュワードシップ活動推進チームは投資調査室兼務4名を含み計7名で構成している。実りある対話を行うため、メンバーは経験豊富なアナリストを投入している。

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出所:第一生命保険株式会社


 当社のエンゲージメントの相手はほとんどが企業の役員(経営者)クラスである。エンゲージメントでは足元の業績動向よりも、会社の目指す方向、取締役や監査役の役割を規定する機関設計の考え方、社外取締役の活躍状況、役員会の変化、その他コーポレートガバナンスに関わる経営方針の確認などに時間を割いている。

3. ESG情報の具体的な投資への活用

(Q)ESG情報やその他の非財務情報について、運用のタイプ(インハウス/外部委託運用、パッシブ/アクティブ、株式/債券、など)別に投資判断における活用方法を教えてください。また非財務情報を、経営戦略・理念、ESGなどに分類する定義が明確になっている場合や、ESG要因の投資判断へのインテグレーションなど具体的な内容を教えてください。

(A)前述のように、当社資産の大半を占める一般勘定の国内株式は基本的にアクティブ運用型であり、そのほとんどをインハウスで運用している。特別勘定の国内株式運用も基本的にはアクティブ運用であるが、一部でパッシブ運用も行っている。

 国内株式は、2010年にESGの観点での評価が高い100銘柄程度に投資する「ESGファンド」を生命保険会社で一番最初に立ちあげ、自社で運用している。資産規模は簿価ベースで30億円程度と小規模だが、今後、運用成績を吟味・評価しながら、資産規模の拡大を検討する。

 「ESGファンド」の銘柄選別の着眼点には、例えば、女性の活躍推進状況、障がい者雇用の状況、環境取り組み計画の策定・公表状況などが挙げられる。最終的に組み入れ銘柄を絞り込む前の投資先候補として、経済産業省と東京証券取引所が選定している「健康経営銘柄」や「なでしこ銘柄」参考にしている。

 当社の資産運用全般について言えば、現在はESG要因を定性評価している段階で、投資判断に用いる。本格的なインテグレーションに関しては、その方向性を含め調査中であり、今後の検討課題である。我々の資産運用は、保険契約者に運用成果を還元することが大前提であり、受託者責任を果たすために行動することが重要だと考えている。長期的な投資リターン拡大を図るためにESG要因の活用手法を検討していきたい。

4. エンゲージメントなどの対応

(Q)アセットオーナーとして、スチュワードシップ・コード適用への対応、特にインハウスの運用部門、外部委託運用先とのエンゲージメント、企業とのエンゲージメントをどのように実践していますか。具体的な内容をできれば事例に即して教えてください。

(A)一般勘定で投資している国内株式は現在1100社程度。これらに加え、新規投資を検討する企業を合わせた全対象の中から、今年度対話依頼を申し込む企業は約250社。その対話を依頼する企業の選定基準は、対話方針として投資先企業に明示している[5]。

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出所:第一生命保険株式会社

 これら250社の企業規模は、時価総額数兆円の大企業から数百億円の中堅企業まで様々だ。

 対話のポイントは大きく3点に集約。①取締役や監査役の選任など企業ガバナンスのあり方、②ROEに代表される業績・資本効率向上に向けた戦略や数値目標(KPI)、③配当性向、配当性向など株主還元の考え方(中長期的な配当性向は30%以上を目指すことを希望)、この3点に関する意見交換が、対話の中心となる。

 ただし、企業によってエンゲージメントの内容は千差万別なのが実情だ。例えば、企業の不祥事を抑止するうえで、内情に精通した監査役の役割が大きいと考えている。その点で、在任期間12年を超す監査役の再任には反対することを伝えたところ、株主総会前の退任に至ったケースがある。

 社外取締役の選任では、「取締役会への出席率が年間5割以上」を求めている。外国人の社外取締役は時差の関係で出席率が下がる傾向にあった。この点をエンゲージメントで指摘すると、電話会議を通じた参加により出席率が目に見えて上がったケースもある。企業サイドでも取締役会への参加率を強く意識し、社外取締役就任の打診時に取締役会の年間スケジュールを事前に提示する企業も出てきている。社外取締役を形式ではなく実質的に活用する意向が高まってきたと感じている。

5. 議決権行使基準

(Q)責任投資において、スチュワードシップ・コード適用への対応、特に、議決権行使の実践方法を教えてください。

(A)議決権行使も、対話の方針と同様に従来から行使基準を明確にし、公表している[5]。さらに日本版スチュワードシップ・コードの受け入れと同時に、議決権行使結果の開示も始めた。当社の議決権行使基準は決して厳しい内容ではないという印象を企業が抱く場合もあるようだが、それは、企業の長期の持続的成長を第一に優先する考えに立ち、対話を重視しているからだ。

 当社は生命保険会社として、企業に投資する際には、短期で収益を得るようなモデルではなく、企業の持続的な成長とそれによる中長期的なリターン拡大を志向している。そのため、ガバナンスなどの体制がしっかりしているか、成長路線を描けるか、株主還元の充実が期待できるかを見ていくことが重要になる。その観点が、企業から当社を大切な株主とみなしてもらう要素になると考えている。

6. 日本版スチュワードシップ・コード受け入れ後の変化

(Q)上記、ESG情報の調査、活用、エンゲージメント、議決権行使において、昨年のスチュワードシップ・コード受け入れの前後で、注力点など何か特徴的な変化はありますか。特に運用会社の選定方法や企業とのエンゲージメントにおいてESGのEとS、Gそれぞれの観点での変化があれば教えてください。

(A)投資先企業の意識の変化を実感している。例えば、社外取締役の役割として形式的ではなく実質的な貢献を求めている。そのことを企業に対話で強調しているが、社外取締役が自身の役割を認識し、その結果、取締役会が活性化した、と言う声を聞くことが少なくない。

 例として、取締役会の前後に、フリーディスカッションの時間を設け、社外取締役の知見を活かすよう試みた企業がある。それが企業経営に役立ち始めたことに気づいたという声も聞く。このように企業が、対話で意見交換したG(ガバナンス)の課題に素早く対応していることは、変化だと思う。

 株主総会の議決権行使結果については、上場企業としての透明性を確保するうえでも、コード受け入れ後から公表を始めた。

7. 企業のディスクロージャーについて

(Q)責任投資に関して、企業が発行しているコーポレートガバナンス報告書、統合報告書や年次(アニュアル)レポート、CSRレポート、環境報告書などの活用状況や注目点を教えてください。また、今後の活用についても、展望を教えてください(例えば、今年6月以降のコーポレートガバナンス・コード適用後のコーポレートガバナンス報告書の扱いなど)。

(A)対話を行う250社の決算短信、有価証券報告書、CSRレポート、年次(アニュアル)レポートや統合報告書、CSRレポート、環境報告書などの公開情報は、網羅的にすべて目を通す。企業の役員と対話をする以上、その企業の経営方針や内容をできるだけ事前に把握、ポイントを絞って対話に臨むのが効果的だからだ。有価証券報告書は最新版だけではなく、過去分も分析対象になる。

 アニュアルレポートやCSRレポートは社長のメッセージが込められているので、とても重要だ。環境への取り組み、地域貢献、地域社会とのコミュニケーションのあり方なども必見だ。

 ただ全体を通じ、出来不出来の評価は2分化しつつある。当社のような機関投資家ではなく、一般の個人がはじめてその会社を知るうえで役に立つ内容にすることが、フェアディスクロージャー(公正な情報公開)の点で重要だ。一般個人が企業サイトのCSRレポートを見て「この会社は、こんな考えでこんな取り組みを重点的に行っているのか。よく考えている。」というような評価を受けるには一工夫が必要だ。企業のIR部門とCSRの連携強化が必要だと感じる。

 こうした指摘を受け、社長主導でレポート類の作成に取り掛かる会社も出始めた。

 コーポレートガバナンス体制に関する企業側の説明会も増え、決算説明会後に社長臨席の経営者懇談会の場を設ける企業もあった。

 コーポレート・ガバナンス報告書に関しては、右へならえの横並びではなく、何より枠にはまらずに自分自身の言葉で説明することが投資家の印象に残るし説得力を持ち、意識が高い点のアピールになる。コーポ―レートガバナンス・コードの原則をコンプライ(順守)することに固執する必要はない。

8. 具体的なファンドの事例

(Q)責任投資をキーワードに掲げた投資にはどのようなものがあり、その運用資産規模、リスクとリターン特性(配当込みTOPIXまたはTOPIXと比較)を教えてください。

(A)前述した「ESGファンド」のほかに、エンゲージメント対象250社の中には新規公開(IPO)後の新興企業を投資対象にした「成長株ファンド」の組み入れ銘柄も含まれている。

 「成長株ファンド」では、今後投資先企業との対話の頻度を上げて行く。成長の持続性もさることながら、企業のステージによって観点は異なるが、企業成長に内部統制が追いついているか、増加する社員に対する教育体制が整っているか、情報開示の積極性なども焦点になる。

9. 今後の方向性、その他

(Q)他に、責任投資に関し、何か独自の取り組みや考え方がありますか。貴社からのメッセージがありますか。

(A)PDCA(Plan Do Check Action)のプロセスを回し、オーソドックスにまじめに積み重ねていくことに尽きる。従来からの取り組みを、奇をてらわずに発展させていく。それが、日本の資本市場の活性化にもつながる。

◇プロファイル(会社概要)

1902年の創業。総資産36兆8,287億円、1年間の保険料等収入3兆2,663億円(2015年3月末時点)を誇る国内有数の生命保険会社。皇居のお濠と日比谷公園に面する現在の日比谷本店は1945年、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の本部として、ダグラス・マッカーサー最高司令官の執務室が置かれ、戦後の始まりを象徴する舞台となった。
2010年4月に東京証券取引所第1部に上場。時価総額は約2.5兆円(2015年10月末時点)。「DSR=Dai-ichi’s Social Responsibility (第一生命グループの社会的責任)」として、一般的なCSR(企業の社会的責任)という言葉の枠を超えた価値創造経営を標榜している。

日本版スチュワードシップ・コード受け入れ内容

◇運用資産の概要
 総資産:36兆8,287億円(貸借対照表価額ベース、2015年3月末時点)
  うち一般勘定資産 35兆6,557億円
  一般勘定資産の内訳:国内公社債45.1%、国内株式10.5%、外国公社債19.5%、外国株式6.8%、貸付金8.5%、不動産3.4%、その他6.2%

[1] アセットオーナー
金融資産の保有者を指す。PRIでは年金や大学などの基金、生命保険会社、損害保険会社をアセットオーナー(Asset Owners)とみなし、アセットオーナーから資産運用を委託される運用会社をアセットマネージャー(Investment Managers)として区分している。
第一生命はアセットオーナーであるが、保険契約者からの保険金を中心とする自己資金の大半を、多くの年金基金とは異なり、外部運用委託せず自社で運用しており、運用機能の側面ではアセットマネージャーの性格も有する。
PRI 署名機関リスト(日本)

[2] 一般勘定と特別勘定
予定利率が定められた保険契約に加入した個々人の保険料を合同運用する仕組みが一般勘定。これに対し、特別勘定は運用の成果により契約者への還元額が変動するような商品の資産運用の総称。

[3] ALM(Asset Liability Management)
年金や保険の資産運用において、資産と負債の関係性を分析しながら、最適な資産配分を探し出す管理手法。

[4] 第一生命のESG投融資

[5] 第一生命のスチュワードシップ活動

取材日:2015年10月22日

QUICK ESG研究所 (聞き手:松川恵美、高瀬浩、真中克明)

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