Sustainable Japan QUICK ESG研究所

【機関投資家】スチュワードシップ活動とESG投資の最前線〜(10)日本コムジェスト〜 2016/06/20 ESGレポート

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 独立系の投資信託運用会社にも、早くから投資判断にESG要因を取り込んできた会社がある。フランスの独立系運用会社コムジェストがその1社だ。フランスでは大手銀行系列の運用会社の数が多く、金融機関と資本関係のない独立系は珍しい。コムジェスト((以下、仏コムジェスト)の日本法人である日本コムジェスト代表取締役の高橋庸介氏と、同じく代表取締役の山本和史氏に、仏コムジェストのESG投資の考え方を聞いた。なお、日本コムジェストは、仏コムジェストの運用サービスを日本の顧客に提供すること及び企業リサーチの強化が目的であり、高橋氏は主に営業関係、山本氏は投信経理など管理業務を統括している。

 仏コムジェストの運用の特色は、世界の株式を地域や国で分け、その中で30~40銘柄に集中投資することだ。長期で市場平均を上回る超過リターンを追求する際に、市場平均などのベンチマークを意識しないことを運用哲学としている。株式は買い持ちのみ(ロングオンリー)で売り建てることはない。

 同社のESG投資とスチュワードシップ活動の特徴として、次のような点が挙げられる。

◆ESG要因の取り込みは特定ファンドではなく、全ファンドに適用。

◆長期的に株価はEPS(一株利益)の成長度合いに収れんするという信念を持ち、株式集中投資の判断材料として注視するのは、何よりもEPSの成長性。EPS成長率が5年平均で10%を超すと予想できる銘柄にのみ投資する。

◆ESG要因を活用するのは銘柄選別における2つの段階。1つ目は投資対象から特定の銘柄を取り除くネガティブスクリーニング。2つ目は、バリュエーション(企業評価)時。

◆バリュエーション時に、「配当割引モデル」を用いており、モデルの中で使用する計算分母の割引率(ディスカウントレート)の算出にESGレーティングを採用している。ESG評価が高いほど割引率が小さくなる。

◆ESG評価は4段階に区分。ESG評価を決める評価項目は国や業種というよりは、企業のビジネス形態に大きく依存する。

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(写真)左が高橋氏、右が山本氏

質問

1. 歴史/経緯

(Q)責任投資を巡る大まかな歩み(例えば、PRI署名など)や取り組みと、その背景・狙いを具体的に教えてください。また、日本版スチュワードシップ・コードの受け入れにおいて、特徴や独自性を教えてください。

(A)フランスでは大手銀行(ユニバーサルバンク)系列の運用会社が市場を占有している。こうした中、仏コムジェストは、1985年にパリで創業したフランス初の独立系運用会社である。日本コムジェストは、仏コムジェストの運用サービスを日本の顧客に提供すること及び企業リサーチの強化を目的として、2007年に設立された。

 仏コムジェストの特徴は、「アンコンストレインド」、「クオリティグロース」、「集中投資」という言葉で表すことができる。「アンコンストレインド(Unconstrained)」運用とは、市場平均のベンチマークに運用を束縛・拘束されないという意味だ。ベンチマークを意識した運用(アクティブ運用含む)が大勢を占める中、「ベンチマークを意識すると成長性に乏しい会社も組み入れることになるが、投資家にとって本当にそれで良いのか」という創業者の強い思いがあり、当社はベンチマークを意識しないスタイルを採用している。

 「クオリティグロース(Quality growth)」と「集中投資」は、当社の信念を表している。我々は質の高い成長銘柄を選定し、確信度が高ければ銘柄分散する必要がなく、集中して投資することが当社の付加価値と位置づけて運用している。このような考えを持って日欧米の先進国や新興(エマージング)国の株式に投資し、運用資産残高は約2兆7千億円(2015年末時点)に成長した。

 当社のPRI(責任投資原則)への署名は2010年3月、署名前も運用プロセスにESG投資を自然と組み込んでいた。欧州では年金など機関投資家中心に早い時期(2000年頃)からESGの視点が運用で重視されてきたこともあり、顧客に機関投資家の割合が多い当社は、高い要求水準を持つ顧客の要望に応えながら、ESG要因を積極的に運用に取り込んできた。PRIに署名することで、さらに掘り下げて体系化を進めている。

 他にも、ICGN(International Cooperate Governance Netwoek)、CDP、英国版スチュワードシップコード、日本版スチュワードシップコード、AFG(フランス資産運用協会:Association Française de la Gestion financière)のSRI委員会ならびにコーポレートガバナンス委員会のメンバーなどに積極的に参加している。

2. 調査業務の体制

(Q)責任投資に関わる調査業務の全体像を教えてください(具体的には、組織、体制、専任担当者の配置や役割、トレーニング、調査手法、PRIネットワークへの参加姿勢など)。

(A)当グループ全体で世界20ヵ国に約130名の社員がおり、そのうち40名程度が実際に運用を行うファンドマネジャーだ(2016年1月末時点)。ファンドマネジャーの大半が調査業務を行うアナリストを兼ねている。アナリストのうち、ESG専任のアナリストが2名おり、各地域のアナリストをサポートしている。アナリストは、ESG調査会社のデータを踏まえつつ、企業と対話した上で、投資対象候補として絞り込んだ全世界の株式(各国別・地域に各150銘柄程度)のESG評価を行っている。

3. ESG情報の具体的な投資への活用

(Q)責任投資において、ESG情報ならびに非財務情報について、その活用方法を教えてください。その中で、企業の経営戦略・理念、ESG・非財務情報などの区別と分類が明確になっていますか。財務情報と関連付けした活用(インテグレーション)などについて、具体的にその内容を教えて下さい。

(A)投資候補として絞り込む前段階で、ESG要因によるネガティブスクリーニングを行っている。対人地雷の条約とクラスター爆弾の条約に基づき、企業がクラスター爆弾の開発など反人道的なビジネスに関係していないか、児童労働問題に抵触していないかなど、ESGのS(社会)の観点から問題のある企業は投資候補から除外する。該当企業だけではなく、該当企業に20%以上出資している企業も除外される。リストは四半期に一度見直している。

 銘柄選別では各地域・国ごとに、企業の成長性を見極め、成長性の確信度の高い銘柄を長期(5年~10年)保有する前提で30~40に絞り込む。その際、カギになるのは何をおいてもEPSの成長だ。当社は5年先にEPSの2ケタ成長が実現できる銘柄を選定する。

 株式保有期間は長く、平均で5年を超えており、10年を超える企業もある。これは「クオリティグロース」の象徴であり、長期では株価はEPSの成長度合いに収れんするという信念を持っている。将来予測は時に外れることもあるが、その確信度を高めるために、非財務情報であるESG要因の考慮が不可欠だ。また、将来予測ができない業態は選択肢に入れない。例えば、エネルギーや総合商社などの業界は、資源価格に大きく左右され、予測しづらいため、投資対象に入らなくなる。 

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出所:日本コムジェスト株式会社

 ESG評価はESG評価機関5~6社の評価データを当社が統合・総合化して4段階に点数化している。評価データは参考情報として利用し、最終的には担当アナリストの判断で独自のESG評価を付与する。当社は配当割引モデルで企業価値を算出しており、割引率にESG評価を組み入れている。ESGに対する評価が低いほど、企業価値を計算する際の計算分母の割引率が大きくなり、企業価値が小さくなる(※)。最低のESG評価の場合、割引率にESG評価対応値として2%~3%を加算する。

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出所:日本コムジェスト株式会社

(※)配当割引モデル=「配当 ÷ 割引率」。「割引率 = リスクフリーレート + 株式リスクプレミアム + 企業のリスクファクター + ESG評価」

 ESG評価で重視する項目は、国や業種より企業のビジネス形態で大きく変わる。例えば、低賃金の新興国で縫製を行うアパレル関連の場合、作業所が地震などで崩壊しないか、労働環境の安全性なども評価項目になる。

 他の例では、新興国株ファンドでは一時期、中国株に一切投資していなかった。中国企業のガバナンス面の評価が低いためだ。ところが、米国で企業経営を学んだ人材が中国に戻り、米国流のガバナンスを中国企業にも活用し始めたことなどを評価し、最近では中国株の組み入れが増えている。

 一方、一族全体の株式保有率は低いのにも関わらず同族経営を続けている企業はガバナンスの面で問題があると判断する。通常のベンチマーク運用では組み入れざるを得ないケースでも、我々は一切組み入れていないケースもある。

 また、ESG評価が低くても、長期的にパフォーマンス改善が期待できるとアナリストが判断した場合は投資することもある。現在のESG評価が低くても将来に向けた改善の余地がある場合だ。反対にESG評価の高低に関わらず、5年先の事業環境の予測がつかない銘柄には投資しない。例えば、日本株では将来予測不能な資源価格に収益が左右される商社などだ。

4. エンゲージメントなどの対応

(Q)日本版スチュワードシップ・コード受け入れへの対応、特に、企業とのエンゲージメント(目的を持った対話)をどのように実践していますか。具体的な内容をできれば事例に即して教えてください。

(A)基本的に当社は、対象企業に投資する前や何か問題が起きた時、必ずエンゲージメントを行う。昨年の第3四半期は11件、第4四半期は30件実施した。

 エンゲージメント時には、ESGの専門家から見て改善した方がいいポイント、例えばESG情報の開示不足、などを指摘する。水準が高い企業は、指摘することが少ないため、ヒアリングの割合が高い。エンゲージメントした結果、海外で積極的な情報開示を実施するようになった日本企業もある。

 企業とのエンゲージメントは本拠地のパリで行うことが多い。日本企業でもIRの一環で企業経営者のパリ来訪が珍しくないため、その機会を捉えてエンゲージメントをするようにしている。より深く対話を行いたい場合は、ESG専任アナリストが来日して企業を訪問する。

5. 議決権行使基準

(Q)責任投資において、日本版スチュワードシップ・コード受け入れへの対応、特に、議決権行使に関する実践方法を教えてください。

(A)株主総会の議決権行使の賛否判断は外部助言会社の意見を参照しているが、当社自身が判断を下し、外部助言会社の意見に従わないこともある。また、最終的にはアナリストの意見が最優先される。当社は、担当アナリストが誰よりもその企業について詳しいとの信念があるからだ。例えば、取締役の年齢に関し、助言会社と弊社基本方針では80才以上の取締役選任には反対だが、当社独自の人物本位の考えで賛成票を投じたケースもある。

6. 日本版スチュワードシップ・コード受け入れ後の変化

(Q)上記のESG情報の調査、活用、エンゲージメント、議決権行使において、昨年の日本版スチュワードシップ・コード受け入れの前後で、注力点など何か特徴的な変化はありますか。また、特に企業とのエンゲージメントにおいてESGそれぞれの観点の変化があれば教えて下さい。

(A)仏コムジェストとして日本版スチュワードシップ・コード受け入れを表明しているが、もともと英国版スチュワードシップ・コードを受け入れており、英国版コードに即した運用プロセスを日本版コードに当てはめることが可能なため、運用面での大きな変化はない。

7. 企業のディスクロージャーについて

(Q)責任投資に関して、企業が発行しているコーポレート・ガバナンス報告書、統合報告書や年次(アニュアル)レポート、CSRレポート、環境報告書などの活用状況や注目点を教えてください。現在の活用状況のみではなく、今後の活用の方向性に関する何か見通しのようなものはありますか。例えば、今年6月以降のコーポレートガバナンス・コード適用後のコーポレート・ガバナンス報告書の扱いなど。

(A)多くの日本企業の開示情報の質や水準については、世界水準ではまだ「初期段階」にあるように感じる。コーポレート・ガバナンス報告書を例に挙げると、大半はガバナンス関連の現況数値を参考程度に掲げる説明にとどまり、ガバナンスをどう改善していくという情報開示内容に関してはまだまだ検討の余地がある。

8. アセットオーナーについて

(Q)責任投資を対象とした現在の資産運用の委託者(国内、海外のアセットオーナー)層を、企業年金基金、金融機関などの区分で教えてください。また、最近のアセットオーナーにおいて、ESGをはじめとする責任投資の考え方に変化は見られますか。あるとすればどのような変化ですか。

(A)フランスでは機関投資家の動きを中心にESG投資(責任投資)の考え方が日本よりも早い時期(2000年頃)から重視されるようになった。国内ではこれからだと考えており、特に地域や機関によって、大きな差がある状態だ。ただ、ESG重視の流れは年々強まっていると感じている。

9. 具体的なファンドの事例

(Q)責任投資をキーワードに掲げて運用しているファンドにはどのようなものがあり、その運用資産規模、アセットオーナーの属性(年金基金、金融機関の資産運用、事業法人の資産運用など)、リスクとリターン特性(配当込みTOPIXまたはTOPIXと比較)を教えてください。

(A)ESG要因は全ファンドの運用に取り込んでいる。表に示すよう、地域・国別の株式運用戦略のリターン(円ベース、費用控除前)は2008年以降、各地域や国を代表する配当込みの指数を上回っている。また、ボラティリティ(株価変動率)が低いという特徴がある。

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出所:日本コムジェスト株式会社

 日本では例えば、セゾン投信の「セゾン資産形成の達人ファンド」が、欧州、新興国、日本それぞれの株式で運用している当社の集中投資型ファンドをファンド・オブ・ファンズ形態で組み入れている。ありがとう投信の「ありがとうファンド」には、当社の欧州株、新興国株ファンドが組み入れられている。

10. 投資先企業について

(Q)上記に該当するファンド、特に企業とのエンゲージメントをキーワードに掲げたファンドで実際に投資している企業に何か共通点や特徴はありますか。可能な範囲で具体的にお教え下さい。

(A)国内においては、共通点がないと言える。例えば、ヨーロッパの戦略においてはESGについて取り組みが進んでいる会社が多い。国内はまだこれからの企業もあり、ESG評価はばらばらだ。先ほどの配当割引モデルから考えると、ESG評価が低くてもキャッシュフローが高ければ投資対象になる。

11. 今後の方向性、その他

(Q)他に、責任投資に関し、何か独自の取り組みや考え方がありますか。貴社からのメッセージがありますか。

(A)機関投資家向けには、どんな企業とどのようなエンゲージメントを行ったか、四半期ごとに報告書を発行している。この中では投資企業に対するESG関連のアラート(懸念事項)に関する当社の見解をまとめている。

 日本では今後、機関投資家のみではなく個人投資家にもESG投資の考え方が浸透していくよう取り組んで行きたい。日本では個人投資家層の裾野拡大にまだまだ課題と余地が残されている。そうした中で「市場平均を意識しないでリターンに結びつく株式投資」の考え方があることを個人投資に普及させたい。その際に、ESG投資の考え方が活用できると思う。

◇プロファイル(会社概要)
 日本コムジェストは、1985年にパリに設立された独立系の資産運用会社Comgest S.A.の日本法人であり、仏コムジェストの運用サービスを日本の顧客に提供すること及び企業リサーチの強化を目的に2007年に設立された。ベンチマークを意識せずに1ファンド30~40銘柄の集中投資や、ESGを割引率に組み入れるなど、特色のある投資を実践している。

◇PRI署名
2010年署名:PRI Public Transparency Report 2014/15

◇運用資産の概要

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出所:日本コムジェスト株式会社

取材日:2016年4月1日

QUICK ESG研究所 (聞き手:高瀬浩、真中克明、内川滉平)

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