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【機関投資家】スチュワードシップ活動とESG投資の最前線〜(11)ドイチェ・アセット・マネジメント〜 2016/08/01 ESGレポート

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 欧州最大手の総合金融機関であるドイツ銀行グループの資産運用部門、ドイチェ・アセット・マネジメント(以下、独ドイチェ・アセット・マネジメント)は、2015年12月にハンブルグ大学と共同で行った調査により「ESG関連の調査研究では、企業のESG評価と財務パフォーマンスの間に密接な関係があるとするレポートが多い」という興味深い結果を発表している(注:当時はドイチェ・アセット&ウェルス・マネジメント)[1]

 こうした調査活動を始め、独ドイチェ・アセット・マネジメントはESG投資に本格的に取り組んでいる。同社日本拠点のドイチェ・アセット・マネジメント株式会社(以下、ドイチェ・アセット・マネジメント)資産運用研究所長の藤原延介氏、およびインベストメントスペシャリスト部ディレクターの高野太郎氏に、独ドイチェ・アセット・マネジメントグループ全体のESG投資の特徴を聞いた。

 ESG投資とスチュワードシップ活動の特徴として、次のような点があげられる。

◆ハンブルグ大学との企業のESG要因と財務パフォーマンスの関連性調査を発展させる形で、2016年2月から四半期ごとに「Sustainable Finance Report」を定期発行。

◆ESGレーティングは外部のESG評価レーティングを総合しA~Fの6段階に区分し、全世界の株式(各地域・国別に各150銘柄程度)に適用。ESGレーティングを全世界の拠点で共有できるよう「G-Cube©」という社内プラットフォームに表示。

◆ESG特化型のファンドのエンゲージメントに関して、エンゲージメント前に投資ユニバースの中で独ドイチェ・アセット・マネジメントのESG指針(Deutsche AM Active ESG Directive)や議決権行使基準(Deutsche AM Active Proxy Voting Policy)に反する企業や、反対にESGを組織戦略に取り入れている企業を特定する。

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(写真)左が藤原氏、右が高野氏

質問

1. 歴史/経緯

(Q)責任投資を巡る大まかな歩み(例えば、PRI署名など)や取り組みと、その背景・狙いを具体的に教えてください。また、日本版スチュワードシップ・コードの受け入れにおいて、特徴や独自性を教えてください。

(A)当社グループは1990年代初頭からESG運用戦略を機関投資家向けに提供し始め、PRIには2008年に署名した。

 その後、アセットオーナーや運用側のESGに対する意識とニーズの高まりを背景に、投資対象企業の調査分析情報を全世界の拠点で共有する社内のリサーチ・プラットフォーム「G-Cube©」にESG関連情報を追加し、ESGエンジン&ソリューション(ESG要因の調査分析・評価と実際の運用への適用)を強化してきた。

 直近では専任でESG調査やESG評価を行う組織「Center for Sustainable Finance」を設立するなど、ESG投資関連の社内インフラの整備に向けた取り組みを続けている。

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出所:ドイチェ・アセット・マネジメント

2. 調査業務の体制/手法

(Q)責任投資に関わる調査業務の全体像を教えてください(具体的には、組織、体制、専任担当者の配置や役割、トレーニング、調査手法、PRIネットワークへの参加姿勢など)。

(A)当社グループ全体で世界20ヵ国に約3,000名の社員がおり、そのうちファンドマネジャーを含む投資プロフェッショナルは約500名いる。このうち、ESG専任のアナリスト8名(Center for Sustainable Finance, ESG Engine & Solutions team, Corporate Governance teamなどが中心)が投資対象候補として絞り込んだ全世界の約1,800銘柄(今後最大10,000銘柄まで拡大予定)のESG評価を行っている。また、ESG専任のリサーチチームという形ではないが、各部門にESGスペシャリストを配置している。人数としては、アクティブ運用部門で14名、オルタナティブ運用部門で35名在籍している。

 当社では、投資候補として絞り込む前段階で、ESG要因によるネガティブスクリーニングを行っている。企業がクラスター爆弾の開発など反人道的なビジネスに関係していないか、児童労働問題に抵触していないかなど、ESGのS(社会性)の観点から問題のある企業は投資候補から除外する。

 ESG評価レーティングはA~Fの6段階に分かれ、外部のESG評価レーティングを統合している。G-Cube©では、このESG評価レーティングと二酸化炭素排出量を独自評価したCO2レーティング(下図の赤枠)を表示し、投資判断に活用できるようにしている。

 ESGの評価観点の例を挙げると、Eでは企業の商品・製品(プロダクト)の質や安全性、環境保護管理やサプライチェーン・マネジメントなど。Sについては、従業員や地域の安全や健康への配慮、人権保護、地域との関係などがある。Gにおいては汚職や贈収賄に関連するような企業の評判、従業員報酬に関係するESG戦略の実践などが項目の一例だ。

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出所:ドイチェ・アセット・マネジメント
G-Cube©は独ドイチェ・アセット・マネジメント独自のグローバル・リサーチ&リラティブ・バリュー・プラットフォームです。上表に記載した内容は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の推奨や投資勧誘を目的としたものではありません。

3. ESG情報の具体的な投資への活用

(Q)責任投資において、ESG情報ならびに非財務情報について、その活用方法を教えてください。その中で、企業の経営戦略・理念、ESG・非財務情報全般などの区別と分類が明確になっていますか。財務情報と関連付けした活用(インテグレーション)などについて、具体的にその内容を教えて下さい。

(A)ESG要因を取り込んで運用するファンドはまだ全体の一部だが、ESGレーティングの使い方はファンドマネジャー各々の判断に委ねている。

 各ファンドでESGレーティングに関するガイドラインを整備しており、通常、投資対象はAからCに限定している。Selected D&Eという形でDとEにも投資可能だが、その理由が必要(レーティング向上が期待できる、対話で改善を働きかけられる、等)となっている。Fの企業については投資対象から除外する、というのが一般的なガイドラインだ。

 外部のESG評価会社のレーティングを総合しレーティング付けを行った結果、A~FのヒストグラムはCまたはDあたりを中央値として分布している。また、各ランク内の企業、例えばAランク企業について、業種や時価総額等の偏りはなく、十分に分散されている。

4. エンゲージメントなどの対応

(Q)責任投資において、日本版スチュワードシップ・コード受け入れへの対応、特に、企業とのエンゲージメント(目的を持った対話)をどのように実践していますか。具体的な内容をできれば事例に即して教えてください。

(A)エンゲージメントはアナリストやファンドマネジャーが行うが、ESG特化型ファンドの運用においては、最初に投資ユニバースの中で当社グループのESG指針(Deutsche AM Active ESG Directive)や議決権行使基準(Deutsche AM Active Proxy Voting Policy)に反する企業、反対にESGを組織戦略に取り入れている企業を特定する。

 ESG指針に抵触する企業については、「Core ESG Portfolio Managers Group」のメンバーが集まって状況や対応を議論。深刻な場合には企業とのエンゲージメントを行うことになる。この場合、株式運用責任者とコーポレート・ガバナンス責任者に報告があがり、書面でのエンゲージメントを行う場合にはこの両名の他に担当アナリスト、ファンドマネジャーまたはビジネス責任者による署名の上、当該企業に送付する。

 一方、ESGを組織戦略に取り入れている企業に対するエンゲージメントはほとんどの場合、書面ではなく一対一の面談を行い、経営状況を確認する。

 問題の深刻度や企業側からの回答によって、アナリストは投資推奨を見直し、運用チームと連携する。ファンドマネジャーはアナリストの投資推奨の内容によってポートフォリオの銘柄配分の再考やリバランシング(配分変更)を行う。

 もし当初約束された期限内に、企業側がESG関連問題の解決を実現しなかった場合には、その企業の株式を売却することになる。実際に通信インフラ、製薬、保険等の銘柄で売却に至ったケースがある。一方で、ESG関連トピックに関し改善を見せた企業の株式を新たに購入したケースもある。

5. 議決権行使基準

(Q)責任投資において、日本版スチュワードシップ・コード受け入れへの対応、特に、議決権行使に関する実践方法を教えてください。

(A)基本的に、ファンドマネジャーが株主総会の議決権行使の賛否を判断し、行使している[2]

 議決権行使状況(2015年度)の例では、主に取締役会に関する反対票が多い。行使基準自体はかなり細かく策定している(Deutsche AM Active Proxy Voting Policy)。剰余金、取締役、社内監査役などについて具体的な数値目標を制定し、それに沿って議決権を行使を行している。行使基準については毎年、細かな部分で変更している。

 社外取締役の選任については、独立性に関係する経歴を重視する。主要取引会社に在籍していたかどうか、借入銀行での在籍経歴があるかないかなどが重要だ。

6. 日本版スチュワードシップ・コード受け入れ後の変化

(Q)上記のESG情報の調査、活用、エンゲージメント、議決権行使において、昨年の日本版スチュワードシップ・コード受け入れの前後で、注力点など何か特徴的な変化はありますか。また、特に企業とのエンゲージメントにおいてESGそれぞれの観点の変化があれば教えて下さい。

(A)日本版スチュワードシップ・コードは原則の「1(方針の策定と公表)」「2(利益相反に関する方針の策定と公表)」と「5(議決権の行使と行使結果の公表に関する方針の策定)」について受け入れ表明を行っている。

 日本拠点における日本株の保有比率はそれほど高くなく、個人向けの公募投信でのみ日本株を保有しているため、日本株アクティブ運用について当社のスチュワードシップ行動方針を定めている。前述の企業とのエンゲージメントと議決権行使がスチュワードシップ活動の主体になっている。

7. 具体的なファンドの事例

(Q)責任投資をキーワードに掲げて運用しているファンドにはどのようなものがあり、その運用資産規模、アセットオーナーの属性(年金基金、金融機関の資産運用、事業法人の資産運用など)、リスクとリターン特性を教えてください。

(A)独ドイチェ・アセット・マネジメントでは90年代の初めからESG運用商品を提供しており、株式、債券、実物資産、アクティブ、パッシブ及びオルタナティブなど様々なアセット・クラスや投資スタイルにおいてESG運用を行っている。

 ESG運用戦略の例としては、フランクフルト本社の欧州株アクティブ運用チームによるESG運用や、パッシブ運用チームによるESG新興国ソブリン債券運用、世界各国の会計制度の影響を取り除く形でドイツ銀行グループが独自に算出している「エコノミックPER」を基にした株式バリュエーション手法CROCI(クロッキー:Cash Return On Cash Invested)を用いたCROCI World ESG戦略、環境に考慮した資産を含む実物資産投資等がある。

 CROCI World ESG戦略ではESG要因によるネガティブスクリーニングにかけ、ESGに見合わない銘柄を投資対象から除外している。CROCI World ESG戦略の運用資産規模は2473万ユーロ[30.5億円、1ユーロ=123.23円換算、2016年5月末時点※]となっている。

 個人向けのESGファンドとしては、ドイツのポストバンク銀行が販売しているESGファンド(資産規模は1億3700万ユーロ[168.9億円、1ユーロ=123.23円換算、2016年5月末時点]※)などがある。

8. 今後の方向性、その他

(Q)他に、責任投資に関し、何か独自の取り組みや考え方がありますか。貴社からのメッセージがありますか。

(A)当社グループの運用資産は100兆円を超すが、そのうち、ESG特化型ファンドの資産規模はまだ1%未満だ。その点で、今後の伸び代は大きい。

 ハンブルグ大学との共同調査を発展する形で2016年2月から四半期ごとに「Sustainable Finance Report」を発行している。持続可能な社会を追求するうえでのESG投資の必要性を訴える観点からまとめたものだ。

 こうした活動を地道に行いながら、ESG投資の拡大につなげていく。

※インタビュー後に最新のデータを取材し、更新いたしました。

 

◇プロファイル(会社概要)
 ドイツ銀行グループの資産運用部門で、あらゆる資産クラスをカバーし、個人と機関投資家向けに伝統的資産からオルタナティブに至る幅広い資産運用ソリューションの提供。中核となるドイツの拠点は1956年に設立され、DWS(有価証券の専門家)の冠を付けたブランドを提供。ドイツ国内での個人向け投資信託の市場シェアは約2180億ユーロ[28兆4664億円、1ユーロ=130.58円換算、2015年12月31日時点]で約27%(2015年12月末時点)。日本拠点は1985年7月に設立。

PRI Public Transparency Report 2014/15

◇運用資産の概要
運用資産規模は、全世界で約7700億ユーロ(約102兆円、2015年末時点)。日本拠点の運用資産規模は約2兆5千億円。このうち公募の投資信託は約5158億円。

[1]【国際】ESGは財務リターンに好影響。ドイチェAWM、ハンブルグ大学調査 2016/01/07 

[2]議決権行使に関する基本方針

取材日:2016年4月26日

QUICK ESG研究所 (聞き手:高瀬浩、真中克明、内川滉平)

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