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【政府・レギュレーションの動向】確定給付企業年金のガバナンスについて ~ESG投資 定性評価項目に~ 2016/08/03 ESGコラム

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 6月14日、社会保障審議会企業年金部会(部会長:神野直彦 東京大学名誉教授 事務局:厚生労働省年金局企業年金国民年金基金課)の第18回会合が開催され、「確定給付企業年金のガバナンス」について議論が行われた。

 今回のテーマは「総合型DB基金」および「資産運用」に関するガバナンスである。スチュワードシップ責任、およびESG投資に関連する話題は2章「資産運用について」内で展開されている。

1.総合型DB基金への対応

 DB基金の設立形態として、

  • 単独設立(1つの企業が単独で設立するもの)
  • 連合設立(企業グループなど、企業相互間に有機的連携性がある場合に、共同で設立するもの)
  • 総合設立(企業相互間での人的関係が緊密ではない実施事業主を広く募集して規模を拡大して、共同で設立するもの)

 の3つがある。

 厚生年金基金の設立形態の一つであった「総合型厚生年金基金」は、基金を設立しようとする企業に対して、強力な指導統制力を有する組織母体または健康保険法に基づく健康保険組合などの存在が設立認可基準の一つとなっていたため、同業種で複数の事業主が共同して基金を設立する形態が通常であった。

 総合型DB基金は、地域的および業種的な共通性ならびに組織母体等が求められていないため、企業年金部会で、次に掲げる問題が生じる可能性があるとして、ガバナンスの強化および公認会計士監査の活用等を検討すべきであるとの意見が出た。

  • 総合型DB基金では、企業間の牽連性がないことから、各事業主が基金の組織運営の全体像や会計の正確性等を適切に把握することが困難であること。
  • 基金等からの募集により実施事業所となった事業主は、自身が組織の実施主体であるという意識が低くなりがちなため、DB加入に伴うリスクを事業主が認識しておらず、実施事業所の事業主としての責務を果たさない。一部の事業主が代議員を独占し、基金運営を決定するといった問題につながる懸念がある。

2.資産運用

 確定給付企業年金法施行令および施行規則では、「運用の基本方針」は、加入者数300人未満かつ資産額が3億円未満の規約型DBおよび受託保証型確定給付企業年金を除き、全てのDBが策定しなければならないと規定されている。「政策的資産構成割合の策定」は努力義務とされている。

 「資産運用ガイドライン」は、資産運用関係者に課されている善管注意義務、忠実義務について、業務を行う場面を想定して具体的な行動指針を規定したものである。

 今回の企業年金部会では、資産運用に関して「資産運用ガイドライン」の見直しについて議論された。注目すべきは、運用受託機関の選任・契約締結(定量評価・定性評価の基準)において、スチュワードシップ責任およびESG投資を定性評価項目の例示とすることが提起された点である。

 昨今の環境変化として、2015年9月にはGPIFがPRI(国連責任投資原則)に署名し「ESGの取組に関する基本方針」を公表している。また、2016年6月に閣議決定された「日本再興戦略2016」では、加入者等の老後所得の充実を図るため、企業年金等におけるスチュワードシップ・コードの受け入れ促進が求められている。

 しかしながら、2016年5月27日現在で、スチュワードシップ・コードの受け入れを表明しているDB関係機関は8機関(内訳:企業年金連合会、金融機関の企業年金基金6、非金融機関の企業年金基金1)にとどまっている。

 今後、スチュワードシップ・コードの取組みや議決権行使の考え方を評価して運用受託機関を選任した場合、当該運用受託機関が議決権行使を行う際には、企業年金として次のような対応が考えられる。

  • 定期的に運用受託機関から議決権行使、スチュワードシップ行動の実績等の説明を求める。
  • 運用受託機関からの説明内容をその評価項目の一つとする。
  • 運用受託機関の議決権行使、スチュワードシップ行動の状況を代議員会等へ報告する。

 今回、「DBの資産運用ガイドライン」の見直しに関する論点として、以下の内容が提起された。

①資産運用委員会

資産規模100億円以上のDBに資産運用委員会の設置を義務づける。

②分散投資

分散投資の重要性等に鑑み、分散投資を行わない場合には基本方針への記載および加入員への周知を求めるとともに、運用委託先が特定の運用機関に集中しないための方針を定めることとする。

③オルタナティブ投資

オルタナティブ投資について、注意喚起を促す意味からも、運用の基本方針の節に新たに項目を設けて、運用の基本方針にその位置づけ等を記載し、運用機関の選任および商品選択等についての留意事項を示す。

④運用受託機関の選任・評価

厚生年金基金ガイドラインに記載されている具体的事例を追加するほか、「スチュワードシップ責任、ESG投資」および「受託業務監査」、「投資パフォーマンス基準(GIPS)」を運用受託機関の選任・評価の際の定性評価項目の一つとして例示する。

⑤運用コンサルタント

運用コンサルタント会社の信頼性および中立・公正性を担保する観点から、運用コンサルタントは金融商品取引法上の投資助言・代理業者であるとともに、その採用の際に運用受託機関との間で利益相反がないか確認することとする。

⑥代議員会・加入者への報告・周知事項

厚生年金基金ガイドラインでは、ガバナンスや情報開示の観点から、資産運用に関して運用受託機関の選任・評価状況などを代議員会に報告するとともに、資産運用委員会の議事記録を保存し、議事概要を加入員に周知することとされた。DBのガイドラインでも、規約型DBがあることに留意しつつ、同様の見直しを行う。

 確定給付企業年金の資産運用のガバナンスに関しては、企業年金部会で引き続き審議が進められる予定である。

 確定給付企業年金において、資産規模の大きい基金についてはPRI(国連責任投資原則)の署名、スチュワードシップ・コードの受け入れが進むことであろう。

 ESG投資に関しては、資産規模に関わらず、取り入れることは可能であることから、資産運用のガイドラインの見直しに伴って、我が国の年金資産運用においてメインストリームになることもそう遠い将来のことではないだろう。

 アセットオーナーである年金基金およびアセットマネジャーである運用受託機関がESG投資に本格的に動き出せば、投資対象先企業も早急にしっかりとした対応を進めていかなくてはならないであろう。

参考:配布資料「確定給付企業年金のガバナンスについて」の目次(抜粋)

1.総合型DB基金への対応

  • 総合型確定給付企業年金(総合型DB)とは
  • 総合型DB基金に内在する問題点

(1)代議員の専任のあり方に関する論点

  • DB基金の名称に関する現状と基準

(2)基金の名称に関する論点

  • 総合型DB基金における会計の正確性に関する論点
  • 企業年金の決算書類に対する専門家による会計監査のあり方

(3)会計監査に関する論点

2.資産運用について

  • 資産運用ルール等に関する企業年金部会の議論
  • 運用の基本方針・政策的資産構成割合に関する規定
  • DBにおける政策的資産構成割合の策定の現状

(1)運用の基本方針・政策的資産構成割合の策定に関する論点

  • 資産運用ガイドラインの位置づけとこれまでの経緯
  • 資産運用委員会
  • 分散投資
  • オルタナティブ投資
  • 運用受託機関の選任・契約締結(定性評価・定量評価の基準)
  • 運用受託機関の選任・契約締結(スチュワードシップ責任、ESG投資)
  • 運用受託機関の選任・契約締結(受託業務監査)
  • 運用受託機関の選任・契約締結(投資パフォーマンス基準(GIPS))
  • 運用コンサルタント
  • 代議員会・加入者への報告・周知事項

(2)資産運用ガイドラインの見直しに関する事項

3.加入者等への説明・開示その他

  • 加入者等への説明・開示その他に関する論点

(注)上記文中の下線は、QUICK ESG研究所による。

【関連資料】
第18回社会保障審議会企業年金部会(2016年6月14日)
第15回社会保障審議会企業年金部会 社会保障審議会企業年金部会における議論の整理(案)(2015年1月16日)

QUICK ESG研究所 菅原晴樹

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