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【ステークホルダーダイアログ】海外責任投資リーダーの実践:企業とのエンゲージメント~(2)Sparinvest~ 2016/10/05 ESGレポート

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 2014年のスチュワードシップ・コード、2015年6月のコーポレートガバナンス・コード施行に続き、2015年9月には日本が誇る世界最大規模の年金基金、GPIFがPRI(責任投資原則)に署名した。日本企業と投資家を取り巻く環境は刻々と変化し、日本でも責任投資への関心が高まっている。このような日本国内での動きに加え、責任投資で先行する海外から日本企業へのアプローチも始まっており、実際に海外の投資家からエンゲージメントを受けるケースも出始めている。

 では、海外機関投資家からのエンゲージメントやPRI署名機関から成る協働エンゲージメントを求められた場合、どのように対応すべきか?日本企業には経験が乏しい分野であり、対応に苦慮することも考えられる。そこで今回は、先般NTTとのエンゲージメントを成功に導いたSparinvest(スパーインベスト)のシニア・ポートフォリオマネジャーであり、日本企業でのビジネス経験もあるDavid Orr(デイヴィッド・オー)氏に、エンゲージメントの目的やプロセス、また企業から見たエンゲージメントを受けるメリットについて聞いた。

◇David Orr 氏
 David Orr氏は、世界の先進国及び新興国市場でのバリュー株ファンドを担当するチームでシニア・ポートフォリオマネージャを務めており、Sparinvest Ethical Emerging Markets Value fund の共同リーディングマネジャーである。また、Sparinvestの責任投資委員会メンバーとして、株式資産クラスでのRI 方針の策定、ESGインテグレーションやアクティブオーナーシッププログラム(活動的所有者プログラム)の実践において先導的な役割を果たしている。

 2007年10月のSparinvest入社以前、日本の投資銀行である現大和証券キャピタル・マーケッツヨーロッパリミテッド(旧大和証券SMBC ヨーロッパ)で日本及びアジア株式の営業として勤務し、さらにそれ以前には、日本の奈良県庁で勤務した経験もある。

 オクスフォード大学で英国法並びにフランス法学学士を取得、シェフィールド大学東アジア研究科にて日本研究に関する上級修士号を取得。

◇Sparinvest
 Sparinvestは、1968年にデンマークで設立され、2001年から全欧州業務をルクセンブルグで開始した国際的な資産運用会社である。同グループは、株式及び債券ファンドにおけるバリュー投資で知られている。Sparinvestのオーナーは多様なデンマークの機関投資家であり、リスク調整後の長期リターンに焦点をあて、同グループの独立した慎重な投資戦略を支持している。2016年現在、同グループは103億ユーロの資産を運用している。

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(写真)David Orr氏

質問

1.Sparinvestの投資戦略

(Q)どのような投資戦略を持ち、ESG課題をどのように投資戦略に組み入れているのか?

(A)投資するということは、顧客の資産を守り増やすために最善を尽くすという義務を負うことである。つまり、いかなる投資においても、そのポテンシャルとリスクを把握するという事である。基本的に、私たちは株式ファンドにおいて、5年ないしそれ以上の期間、長期保有するバリュー投資戦略を採用している。もちろん、早めに売却することもあるが、大半は長期的に保有する。そのため私たちにとって、投資先企業の長期的なポテンシャルだけでなく、リスクも理解することが重要である。ESGリスクは短期的・長期的に実現し得るが、おそらくその内の多くは長期的なリスクであると言って過言でない。それゆえ、私たちがESGを考慮するのは当然のことだ。

(Q) Sparinvestの投資戦略におけるエンゲージメントの重要性は?

(A)投資先企業と対話することは、彼らを理解し、進捗をモニタリングすることに役立つ。もちろん、エンゲージメントとは、さらに一段踏み込んだものである。エンゲージメントとは、私たちが株主として、投資先企業に対してリスクの低減またはオポチュニティの把握や活用に役立つフィードバックを行う、建設的で双方向な対話なのだ。それはすなわち、責任を負うという事でもある。私たちは顧客に対し、積極的な投資家であり、受託者責任を果たす義務を負っている。また株主として、単なる紙切れに投資しているのではなく、そのポテンシャルを見込んで選択した企業の一所有者であるとも考えている。エンゲージメントは企業に対し、その潜在的な可能性を十分に発揮させる一つの方法である。

(Q)エンゲージメントの目的は?

(A)第一に、エンゲージメントは一方的な行動ではなく、双方向的な活動と捉えている。私は、投資家は謙虚であるべきだと考えている。これは、投資家として意見を述べることに対してだけではなく、企業に影響を与える多様で複雑な要因や、企業が採用している方針や戦略について我々が理解を深めるという事である。実際、エンゲージメントの具体的な目的は多岐に渡る。汚職行為防止や人権問題の場合、私たちは投資先企業に対して会社の方針の変更を求めることがあるが、企業が単に正しい方針を掲げるだけでは、実行される保証がないので、方針の実行についても考慮する。より特定された実際の問題に関するエンゲージメントを行う場合もあり、たとえば企業に対してエネルギー効率化に向けたより積極的な取り組みを推奨する場合や、国際的基準に対する違反を正すよう対策を講じる場合もある。

2.エンゲージメントプロセス

(Q)エンゲージメントを開始するきっかけは?

(A)私たちは企業の長期的な価値や持続可能性に重要な影響を与えうる課題に関して、建設的な対話の可能性がないか常に探している。エンゲージメントには様々なきっかけが存在し、それがエンゲージメント手法の選択に結び付いている。通常、私たちは(社内の投資チームによる)直接的なエンゲージメント、または(他社との)協働エンゲージメントを実施している。

 直接的なエンゲージメントの要因としては、

  • 特定のESGリスクまたはオポチュニティ(社内の株式アナリストによって重要な課題と認識され、意味ある変化が期待できる場合)
  • 議決権関連(議案に異論がある場合や、行使方針に反する場合)
  • 環境、人権、汚職、労働基準に関する国際的な規範への違反

 協働エンゲージメントは通常、PRIのような機関を通じて実施している。ここでも私たちは課題の重要性や生産的な対話が実現可能か否か考慮している。もう一つのきっかけとして、ある種の追い風があるかどうかを見ている。たとえば、もしもある国でコーポレートガバナンスにおいて大きな転換点を迎える場合、その国でのエンゲージメントにより一層フォーカスする合理的なタイミングかもしれない。

(Q)エンゲージメントで取り上げる主な項目はどのように決めているのか?

(A)主な議題はもちろん、懸念される根本的なESGリスクとオポチュニティである。しかしそれらは漠然としすぎていることがある。重要なのは、現場で一度にどの程度の項目について対話が可能か、現実に即して考える事である。もしも企業に対して汚職に関する一般的な懸念がある場合、包括的な方針、ガバナンス構造、従業員のトレーニング、内部告発メカニズム、または汚職の具体的な例など、どの項目にフォーカスするか検討する必要がある。通常のエンゲージメントは、企業文化を知り、また企業の強みやどの方面から対話することにメリットがあるのか見抜くために、実情の把握から始める。これが、のちに何を主要な議題とするかに役立つことになる。

(Q)ターゲットとする企業とのエンゲージメントは、どのように始めるのか?

(A)これは個々のエンゲージメントにより異なる。もしもかなり深く複雑なエンゲージメントを求める場合は、まず企業のシニアマネージャーや取締役とのミーティング時にそのことを伝える。そこから展開され、私たちは企業内の異なる部署の担当者へのコンタクトを始める。IRやCSR部署へのコンタクトから始めるケースもある。実際、各々の企業はそれぞれ異なる趣向があるため、それを尊重している。

(Q)エンゲージメント対象先企業との連絡頻度は?

(A)エンゲージメントごとに、また同じエンゲージメント内でも全く異なる。時には数か月ごとという場合もあるが、エンゲージメントが盛り上がってきた際、その機会を十分に活用するため早急に動くことが重要となる。そのため、一週間に数回連絡することもある。

(Q)地域や国、その他要因によってエンゲージメントの手法を分けているか?

(A)文化の違いを理解するよう努めている。いくつかの国においては、現地語を話すことや、その地域の慣習を尊重することが重要だ。私たちは、ベストなコーポレートガバナンスの単一モデルは存在せず、国や地域によりバリエーションがあると考えている。

(Q)ターゲット先の企業がエンゲージメントに対応しているか、どのように確認しているのか?

(A)企業によるエンゲージメントへの対応の確認は、時として比較的容易である。なぜなら、企業によっては、KPIの開示改善や政策の変更、特定の協定や方針への署名を推奨するという目標を持っている場合があるからである。そのようなケースでは、企業が対応しているか否か簡単に評価できる。

 より難しいケースは、企業内で本当に対応しているかモニタリングを行うことである。私は、企業文化の課題に最も関心を持っている。企業における日々の業務慣習はESGとその他リスク要因に多大なる影響を及ぼすが、変えることが最も難しい事の一つであり、また外部からの判断が難しいものでもある。私たちは常により良い判断手法に関心を持っている。

(Q)もしもターゲット先の企業がエンゲージメントに対応していない場合、より厳しいエンゲージメントアプローチに切り替えるのか?

(A)私たちは企業と敵対関係になることは望んでいない。経験上、エンゲージメントは双方が快く対話の席につくことでのみ成功する。私たちは根気強く対応するよう努力する。もちろんいかなる形であったとしても、対話が非常に難しい場合、それ自体がその投資先企業を知ることに役立つのだ。

(Q)ターゲット企業とのエンゲージメントをどのように終了させるのか?

(A)全てのエンゲージメントにおいて、私たちは、社内でその進捗をモニタリングできるよう特定の目的を持つようにしている。通常の協働エンゲージメントにおいては、タイムラインとゴールを定めているため、エンゲージメントの終了タイミングが決まっている。直接的なエンゲージメントにおいてはゴールを定めているものの、大半はタイムラインの終わりを決めていない。つまり企業との関係は、投資を続ける限りエンゲージメントの主な目標が達成されたとしても継続するということであり、課題について連絡を取り進捗をモニタリングし続けるのだ。

3.エンゲージメントのコストとベネフィット

(Q)エンゲージメントの費用はだれが負担するのか?

(A)資産運用会社として、私たちが費用を負担している。他機関との協働エンゲージメントにおいては、我々が主導的役割を担っているエンゲージメントと、それほど積極的には関わっていないエンゲージメントとの適切なバランスを保つよう努めている。これは、担う役割によって必要になるリソースが異なるからである。もちろん、私たちは、顧客がエンゲージメントへの労力を理解し評価してくれることを望んでいる。

(Q)エンゲージメントの受益者は?

(A)エンゲージメントの成功は、“win-winな関係”であることだと考えている。健全な対話とは、上場企業と資金を出資している投資家の間でより相互の理解が深まるという事である。また、エンゲージメントの目標は企業価値と企業の持続可能性に非常に関連しているため、理論上、エンゲージメントは企業と出資者、双方にとって利益となる。

 ただ、実際問題として、エンゲージメントのターゲット企業にはある種のジレンマがある。もしも私たちがターゲット企業に対して排出量削減の第一人者となってくれるよう求めた場合、それは企業にとっては、競合先と比べてコスト増につながることになる。社会にとっては利益であっても、短期的には企業の負担となるのだ。しかしながら、ここで長期的な視点が必要となる。つまり、企業に対し、短期的なコストに目を向けるのではなく、長期的に最も優位性があり持続可能な地位を築く第一歩を踏み出すよう促している。

4.日本企業とのエンゲージメント

(Q)次のエンゲージメント対象となる日本企業は?

(A)人権に関するPRIの協働エンゲージメントに参加しており、他2機関と共に日本企業に対するエンゲージメントを主導している。

(Q)エンゲージメントに対応することは日本企業にとってどのようなメリットがあるか?

(A)エンゲージメントに対応することで、投資家と密な関係性が築けるので、それ自体がメリットであると言える。場合によって、企業が率直で建設的な対話に快く対応することが株式市場において評価を得ることがある。

 エンゲージメント先の企業は対話を成功させるために時間とリソースを掛ける必要があるが、同時に投資家も企業にインプットを提供することで企業にとってのリソースの一部となりえるのではないか。そして最後にエンゲージメントの特定の成果は、リスクの低減またはより良い機会の活用につながる。それゆえ企業にとって、エンゲージメントに対応することは大きなメリットになると考えている。例としては、直近で行ったNTTとのエンゲージメントの後、エンゲージメントが企業価値向上に貢献したと感じているというNTTからのコメントを目にしたことが挙げられる。

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取材日:2016年9月26日

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