Sustainable Japan QUICK ESG研究所

【機関投資家】スチュワードシップ活動とESG投資の最前線 〜(12)朝日ライフ アセットマネジメント〜 2017/01/10 ESGレポート

asahi-life-asset-management

 朝日ライフアセットマネジメントは2000年9月に、公募投資信託の「朝日ライフSRI社会貢献ファンド(愛称:あすのはね)」を設定。現在のESG投資につながる原型の一つであり、同ファンドの運用実績を重ねると同時に、ESG関連ファンドの機関投資家向け運用を始めるなど、ESG投資への取り組みを進化させてきたという。同社のESG投資の現状について、古舘克明 執行役員リサーチ運用部長、西山朋孝 資産運用統括部 運用企画グループ・チーフ、速水禎 リサーチ運用部 ESG運用グループチーフファンドマネジャー の3名に聞いた。

 同社のESG投資とスチュワードシップ活動の特徴として、次のような点が挙げられる。

◆スチュワードシップ・コードは、運用現場の実務に沿った形で、3つの原則への取り組み方をまとめる形で受け入れ表明。 

◆日本株アクティブ運用は伝統的なボトムアップによる企業調査をベースにし、ボトムアップ運用グループとESG運用グループの2つに分かれている。

◆ボトムアップ運用グループは、調査済みのユニバース銘柄に対し「質のスコア」を評価付けしている。

◆ESG運用グループは、投資候補企業のESG評価を考慮に入れて企業価値を分析し、3段階に格付けしている。その際、VigeoEiris Groupである VigeoBelgium社の定性分析を活用している。

◆エンゲージメントでは、企業価値向上の観点から資本効率や株主還元の向上、ガバナンス体制の強化へ向けた課題とその対応策についての話し合いを重視。

image2017-1-5-18-36-19

(写真)向かって左から、西山氏、古舘氏、速水氏

質問

1. 歴史/経緯

(Q)責任投資を巡る大まかな歩み(例えば、PRI署名など)や取り組みと、その背景・狙いを具体的に教えてください。また、日本版スチュワードシップ・コードの受け入れにおいて、特徴や独自性を教えてください。

(A)PRI(国連責任投資原則)には2013年10月に署名した。それまでに既にESG関連の運用を始めていたが、署名後の運用体制が万全となるよう準備を進めてきた結果、署名は比較的最近になったのが実情だ。ただ、その翌年に日本版スチュワードシップ・コードの制定があったが、コードの受け入れには素早く対応できた。

 コードの受け入れにあたり、運用現場の声を吸い上げて実務に沿った当社自身の解釈で受け入れ表明している。例えば、スチュワードシップ・コードの原則のうち、方針、企業の状況把握、目的を持った対話に関わる原則の1,3と4は合わせて捉えるのが、運用実務に沿って適当と判断した。当社Webサイトの「スチュワードシップ責任にかかわる基本方針」では、3つの原則への取り組み方をまとめる形で記載している[1]

 各原則に対してどのように対応するか、具体的に示すよう配慮したのも特色と捉えている。例えば、投資先企業とのエンゲージメントにおいては、資本効率、株主還元、ガバナンス体制に関する意見交換を重視する考えを明記している。

2. 調査業務の体制

(Q)責任投資に関わる調査業務の全体像を教えてください(具体的には、組織、体制、専任担当者の配置や役割、トレーニング、調査手法、PRIネットワークへの参加姿勢など)。

(A)当社の日本株アクティブ運用は伝統的なボトムアップによる企業調査をベースにし、ボトムアップ運用グループ9名(部長含む)とESG運用グループ2名の2つに分かれている。前者は運用スタイルとして、バリュー(割安)株、後者はグロース(成長)株を主な投資対象としている。後者には社会貢献を投資テーマの主軸に据えている「あすのはね」や「高配当ESG」という商品が該当する。

3. ESG情報の具体的な投資への活用

(Q)責任投資において、ESG情報ならびに非財務情報について、その活用方法を教えてください。その中で、企業の経営戦略・理念、ESG・非財務情報全般などの区別と分類が明確になっていますか。財務情報と関連付けした活用(インテグレーション)などについて、具体的にその内容を教えて下さい。

(A)ボトムアップ運用グループの企業調査では、調査済みのユニバース銘柄に対し「質のスコア」を1~5の5段階で評価付けし、株価とのミスマッチに着目した銘柄選別を行っている。質のスコアと銘柄のPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などの投資尺度を組み合せることで、ターゲット株価を算定し、実際の株価とのミスマッチを探し出す。

 質のスコアを測る項目は9つあるが、この中でESG情報に該当するのは、「有能かつ信頼できる経営陣」と「一般株主を意識した経営」である。「有能かつ信頼できる経営陣」においては、環境問題や社会的責任に関わるリスク管理体制などを評価し、「一般株主を意識した経営」においては、ガバナンス体制などを評価している。これらの評価はターゲット株価の算出にダイレクトに反映される。

▼ボトムアップ運用グループの定性プロセス(企業調査)

image2017-1-5-18-38-14

出所:朝日ライフ アセットマネジメント株式会社

 ESG運用グループでは、投資リターンの源泉を企業価値の成長に求め、「事業の魅力度」「競争優位性」「実態的なガバナンス」にフォーカスを当て、経済状態に関わらず経営改善によって成長が見込める会社に選別投資する点を基本に置いている。その中で、「事業の魅力度」と「競争優位性」の2つの角度からマトリックス評価して、企業価値分析を行い、AからCの3段階で格付け評価を行っている。A・B格付けの企業の中で、ROEに似た指標のROIC(投下資本利益率)の水準を特に重視し、今後もROICの維持または改善可能な企業を選別している。

 この「事業の魅力度」を評価する際に、財務的要素に加え、EとSに関する非財務的要因を統合した分析を行っている。環境、社会の課題から見たビジネス機会と脅威に対応しているかは、将来のキャッシュフローを安定的に獲得できるかを予測する材料になると考えている。

 Gは「実態的なガバナンス」で考慮し、ターゲット株価算定の際の資本コストに影響する。また、ESGの評価に当たっては、VigeoBelgium社の定性分析を参考にしている。

▼ESG運用グループの企業価値分析

image2017-1-10-11-29-13

出所:朝日ライフ アセットマネジメント株式会社

4. エンゲージメントなどの対応

(Q)責任投資において、日本版スチュワードシップ・コード受け入れへの対応、特に、企業とのエンゲージメント(目的を持った対話)をどのように実践していますか。具体的な内容をできれば事例に即して教えてください。

(A)ボトムアップ運用グループでは、投資対象企業約80社の中から選別し、エンゲージメントを行っている。エンゲージメントで特に重視しているのは、ガバナンス面で、企業価値向上の観点から資本効率や株主還元の向上、ガバナンス体制の強化へ向けた課題を確認しあい、その対応策について企業と話し合うことだ。詳細な議論内容は、「スチュワードシップ活動のご報告」[2]のB社とC社の例を公開している。

 ESG運用グループでは、株主として重視している社外取締役についてのエンゲージメントを活発に行った。ある会社とのエンゲージメントでは、社外取締役の候補者を提示しない場合、株主総会の取締役選任議案に反対することを社長との面談で伝え、取締役会構成は実質か形式どちらを重視すべきか、議論した。その結果、二ヵ月後の株主総会では、社外取締役が選任されることとなった。(詳細は「スチュワードシップ活動のご報告」[2]のD社を参照。)

5. 議決権行使基準

(Q)責任投資において、日本版スチュワードシップ・コード受け入れへの対応、特に、議決権行使に関する実践方法を教えてください。

(A)株主総会議案の賛否判断は、当社Webサイトで開示している議決権行使ガイドライン[3]に従って行っている。その結果、2016年6月まで1年間の議決権行使に関して、会社提案議案1337件に対し、反対したのは465件と比較的多いのではないかと捉えている。反対の多くは取締役選任の244件であり、社外取締役が1名も選任されていない企業には、株式総会での取締役選任議案に反対した旨を伝え、複数名の社外取締役選任が望ましいことを、エンゲージメントの中で伝えた。

6. 日本版スチュワードシップ・コード受け入れ後の変化

(Q)上記のESG情報の調査、活用、エンゲージメント、議決権行使において、昨年の日本版スチュワードシップ・コード受け入れの前後で、注力点など何か特徴的な変化はありますか。また、特に企業とのエンゲージメントにおいてESGそれぞれの観点の変化があれば教えて下さい。

(A)前述のように、PRI署名や日本版スチュワードシップ・コード受け入れ表明に至るまでに、ESG投資の実践を重ねてきたので、実質的には大きな変化はないが、体制は2014年6月に「コーポレートガバナンス委員会」を「責任投資委員会」に変更し、スチュワードシップ責任の履行に取り組んでいる。また、エンゲージメントの内容については、「スチュワードシップ活動のご報告」において、具体的な事例を紹介する形でWebサイトに開示している。

7. 企業のディスクロージャーについて

(Q)責任投資に関して、企業が発行しているコーポレート・ガバナンス報告書、統合報告書や年次(アニュアル)レポート、CSRレポート、環境報告書などの活用状況や注目点を教えてください。現在の活用状況のみではなく、今後の活用の方向性に関する何か見通しのようなものはありますか。

(A)統合報告書は投資判断において大いに参考になると思う。例えば、大手製薬企業の中には、医療費抑制という社会的要請に経営上どのように対応しているのか、幹部が誠実に語っている会社もある。こうした企業には投資する側としても共感を覚える。

8. アセットオーナーについて

(Q)責任投資を対象とした現在の資産運用の委託者(国内、海外のアセットオーナー)層を、企業年金基金、金融機関などの区分で教えてください。また、最近のアセットオーナーにおいて、ESGをはじめとする責任投資の考え方に変化は見られますか。あるとすればどのような変化ですか。

(A)GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のPRI署名を受け、公的年金のESGへの関心は高まっている。中でも、投資先企業との対話内容、ESG情報の投資判断への取り込み(インテグレーション)に関する関心が高い。企業年金基金でもPRIに署名し始めるなど、ESG投資への考え方が積極的になる動きがみられる。

 金融機関では、ワーカーズキャピタル(労働者が出資または労働者のために拠出された基金)で、社会的責任投資への意識が高い。

9. 具体的なファンドの事例

(Q)責任投資をキーワードに掲げて運用しているファンドにはどのようなものがあり、その運用資産規模、アセットオーナーの属性(年金基金、金融機関の資産運用、事業法人の資産運用など)、リスクとリターン特性を教えてください。

(A)個人向けの公募投信「あすのはね」や企業年金基金向けの「高配当ESG」が責任投資を軸にした代表的なファンドだ。他に公的年金や企業年金基金向けのバリュー株ファンドがあり、これら責任投資関連の運用資産残高は計1600億円程度となっている(2016年9月末時点)。

 また、これまでのエンゲージメントに関するノウハウを活かして、中小型の企業との対話に重きを置く集中型ファンドも現在企画中だ。

10. 今後の方向性、その他

(Q)他に、責任投資に関し、何か独自の取り組みや考え方がありますか。貴社からのメッセージがありますか。

(A)ESG投資については、マイケル・ポーター氏がCSVの概念で説明している通り、社会の様々な課題の解決が企業価値の向上につながる事例に着目している。ESG評価の高い企業に選別投資し、企業の持続的成長につなげることを考えている。例えば、パリ協定(COP21=国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)が実効段階に移る中で、今後、環境規制に関する企業の取り組みが重視されることになるが、日本企業が持つ関連技術は、代替フロンの生産規制への対応など長期的に世界をリードしているものが多い。こうした環境面での社会への企業の貢献度を投資判断に生かしていく。

 また、現在企画しているファンドの名前には特に、「ESG」という言葉を含めない予定だ。ESGを考慮して投資を実践することは、もはや当然だと考えており、それが弊社のメッセージでもある。

◇プロファイル(会社概要)
 朝日生命保険傘下の運用会社、朝日生命投資顧問株式会社として1985年に設立。1999年に朝日ライフ アセットマネジメント株式会社に社名変更。公募投信では米国Nベスト社(現ナティクシス・グローバル・アセット・マネジメント・エル・ピー)傘下のハリス・アソシエイツに運用委託している海外バリュー株運用や国内株式SRI運用で特色を出している。

◇PRI署名
2013年署名:PRI Public Transparency Report 2016

◇運用資産の概要
投資顧問(契約資産残高):6059億円(2016年3月末時点)
投資信託(純資産残高) :3209億円(2016年3月末時点)

【関連リンク】
[1] 日本版スチュワードシップ・コードへの取り組みについて
[2] スチュワードシップ活動のご報告
[3] 国内株式株主議決権行使ガイドライン(概要)

取材日:2016年10月18日

QUICK ESG研究所 (聞き手:高瀬浩、真中克明)

Facebookコメント (0)

ページ上部へ戻る