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【RI 特約記事】日本における執行役員制度の終焉か? 2017/02/24 ESG

 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳したものです。

 ソニーが 『執行役員(Corporate Officer)』 を導入して約20年が経過したが、最近多くの日本企業がこの制度の見直しを始めている。

 報道によると、LIXILグループは2016年7月、この役職を全面的に廃止した。ロート製薬は5月、広栄化学工業も6月に執行役員制度を廃止した。

 公益社団法人 会社役員育成機構(BDTI: The Board Director Training Institute of Japan) の代表理事 ニコラス・ベネシュ氏(Nicholas Benes)に対し、日本における執行役員制度の見直しの流れはより幅広いガバナンスの変化の前兆と考えられるのかと尋ねたところ、「いくつかの日本企業が執行役員の人数を減らしている最大の要因は、役員の数が多すぎるからであり、意思決定を簡素化し、非生産的な役職をなくす必要がある。これは成果主義体制に向けたごく一般的な傾向の一部といえる。」とした。そして、こうした変化をより深く理解できるよう、日本の複雑なガバナンス制度のどこに執行役員が位置づけられるのかについて同氏から次のような説明があった。

 「執行役員というのは法律上の役員ではない。」「一般の人にこの役職について尋ねると、大半は取締役メンバーの一人、と答えるであろうが、これは誤りである。執行役員とは、約20年前に導入された上級管理職であり、30-40人を超える取締役の人数を大幅に減らすために与えられた役職名である。」

「上級とされる役職者全てを取締役メンバーとして扱うことはできないため、日本企業が法律に縛られない役職として単なる役職名を用意したのだ。役員とは英語で『取締役メンバー(board member)』の事であるが、日本における執行役員とは、取締役の一員ではなく、単に労使契約で雇われた上級管理職のことである。つまりこれは議決権行使の結果、取締役から外されたり、再任されない取締役とは異なり、執行役員は解雇することは難しく、また株主からの批判も受けづらい地位にいることを意味している。」

 この法的な裏付けのない役職名は日本企業が事業を営む上で問題を引き起こしかねない。

 「執行役員制度に伴う問題点の一つは、通常、執行役員は明らかに権威があるように見えるものの、受託者責任(善管注意義務と忠実義務)は負わないという点である。執行役員は、会社に対して契約解除はできないという取り決めを締結する事は可能であり、そのことに対して株主から訴えられることはないのだ。これは投資家から訴えられる可能性のある、米国の『執行役(Executive officer)』とは異なる。」

 しかし、「全ての日本企業が、この『名ばかり』執行役を置いているわけではない。」とベネシュ氏は言う。「日本には主に、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社という3つの会社形態がある。執行役員がよく置かれるのは最初の2つの形態においてである。」

 「指名委員会等設置会社の形態が最も米国におけるガバナンス形態に近く、約70%類似していると言われている。取締役会(Board)が会社の長期的な戦略や方針を決定し、法的な地位と責任を負う執行役を選任する。これら執行役は取締役会に報告をあげるが、執行役が必ずしも取締役会のメンバーであるとは限らない。実際、この会社形態の欠点の一つとして、5-6名と数多くの執行役が取締役を兼ねているケースが多々あり、取締役会の独立性のあり方が疑問視されている。また、監査、指名、報酬という3つの委員会のみが予め設けられており、それ以外は認められていない。」

 「監査役会設置会社には法的に認められた取締役会に付随する委員会は存在しないが、諮問委員会の設置を選択できる。法的には、監査役会設置会社には主要な取締役から構成される取締役会と、またそれとは別に諮問委員会と同様の機能をもつ『監査役会』が存在する。監査役会に席を置く監査役は取締役会での議決権は持たない。なぜなら、議決権を与えてしまうと、独立性を損なうと考えられているためである。議決権を持つということは、自ら決めた決定事項に対して、その正当性を監査する事になってしまうのだ。」とベネシュ氏は続けた。

 また、ベネシュ氏は、監査役は他の会社形態には見られない力を持つと、以下のように述べた。

 「取締役会の場で議決権を持たないものの、監査役は多大な影響力を持っている。彼らは内部監査を実施する際に、代表取締役からの承認を得る必要がないのだ。また、取締役に対して法律に違反する行為をやめさせることや裁判所に差止め請求訴訟を提起することが可能である。各監査役は独自の判断でこのような対応を実行できるのだ。」
さらに、この監視制度は極めて効率的であるように思われる一方で、本質的な課題も抱えている点について、以下のように続けた。

 「この制度の良い面の一つとして、企業の歴史の中で、監査役が管理職経験者であることが多い点が挙げられる。彼らは、現場で何が起きているのか敏感に察知することが出来る。しかしながら、このメリットが常に正しく働いているとは限らない。なぜなら、監査役は社長に選ばれた存在であるため、100%独立性を保っているとは言えないからである。また、監査役会設置会社の別のデメリットとして、管理職層による業務執行と取締役会による監督が十分に分離されていないため、取締役会が些細なことで行き詰まるという問題がある。」

 ベネシュ氏は、実際にはそれほど多くは採用されていない、指名委員会等設置会社のガバナンス制度を支持しているとして、「監査役会設置会社や監査等委員会設置会社とは異なり、指名委員会等設置会社の取締役メンバーは、アメリカと同様、法的に定められた受託者責任を負った執行役員を選任することが求められる。しかし、この指名委員会等設置会社制度を採用しているのは全上場企業の2%以下にとどまる。」と述べた。

 一方、要求されていないにも関わらず、監査役会設置会社のうち複数社は、指名委員会等設置会社に近い受託者責任を伴う執行役員を置く制度に移行しつつあるとも、同氏は指摘する。

 「ファーストリテイリングやサトーホールディングスのように、いくつかの企業は既に労使契約とは異なる『受託者責任』の契約をもとにした執行役員を置いている。彼らの職務はより詳細に定まっており、より容易な解雇や訴訟リスクにさらされる。その他のメリットとしては、このような契約形態が、執行役員に対しより高いレベルのプロフェッショナルとしての自覚を再認識させる点が挙げられる。こうした企業は、管理職に対して既存の労使契約を辞め、受託者責任契約を結ぶよう求めている。この契約では、成果が期待に満たない社員を解雇することが可能となる。これは、高収入だがよりリスクが高い、エグゼクティブとしての役割を任されるという、変化しつつある現在の日本にとって、健全なスタイルなのである。」

 ベネシュ氏に、執行役員制度の廃止もしくは受託者責任形態のエグゼクティブ、どちらが将来のモデルになるのか尋ねたところ、「どちらがより好まれるかは分からないが、ファーストリテイリングやサトーホールディングスといった事例がその他企業の先例となり、ある時点で法務省に対して『執行役員』の役割を法的に定義し、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社においても導入するように後押しするであろう。」「これは単に法的な基盤や執行役員制度における責任が欠けているという訳ではない」と述べた。「現在の課題は、もしも会社が突如CEOを外部から選任する必要がある場合、とても面倒で非効率的だということである。オリンパスを事例にとると、当時の全取締役メンバーは独占的な力を持つ会長であった菊川剛氏によって選ばれていたため、事件発覚に伴い、菊川氏と共に全員が失脚することになった。そのため、オリンパスは早急にディレクターを外部から選任しなければならなくなった。しかし、現状の制度では、取締役メンバーでないと誰一人としてCEOに任命できなかった。それゆえ、CEOを選任するための事前交渉と取締役メンバーの指名に数か月を要した。またその間、オリンパスに対する信頼を失っていた機関投資家との詳細な調整も行った上で、臨時株主総会を開催し選任しなければならなかった。このような事件を契機として、投資家の信頼を損ねることも無理からぬことであった。」

 日本のコーポレート・ガバナンスコードは、執行役員制度に対して特定の制度を推奨したり、企業に対して執行役員の人数を減少することを求めたりすることはない。しかし、企業自体がどの執行役員制度が効率的であり、またより効率的に出来るかについてそれぞれの企業が意思決定しようとしているように思える。「日本は何年かけても僅かしか変化してこなかった一方で、一度決定し動きだすと、その変化は極めて早い」とベネシュ氏は述べた。


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【関連ページ】
Is this the end of the Japanese corporate officer system? (2016年9月29日執筆)

Responsible Investor, Paul Hodgson 2016年9月29日(翻訳:QUICK ESG研究所)

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