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【「ESG(環境・社会・ガバナンス)法務」シリーズ】第1回 ESG課題としての海外贈賄問題と企業の対処策 2017/03/16 ESGコラム

 ESG(環境・社会・ガバナンス)法務シリーズは、弁護士の視点から、各専門分野におけるESG課題と企業、金融機関および機関投資家の対応策について、議論するものである。
(本シリーズの概要、掲載目的については序論のページを参照)

 本シリーズ第1回は、海外贈賄について、以下の通り解説する。

  1. 各国の海外贈賄規制強化の動きと企業価値への影響
  2. 日本企業に強化が求められる海外贈賄防止対策
  3. 海外贈賄リスクに関する情報開示の必要性

1. 各国の海外贈賄規制強化の動きと企業価値への影響

 外国公務員等への贈賄行為を企業犯罪として処罰する海外贈賄防止規制が、近年、世界各国で急速に強化されている。

 日本では、不正競争防止法に基づき取り締まりがなされている外国公務員贈賄罪の執行体制が強化されている。警察庁は、2014年4月、各都道府県警察に対し、外国公務員贈賄対策担当者の設置に関する通達を発した。さらに、2016年5月、日本版の司法取引を導入する刑事訴訟法改正法が成立し 、捜査機関に対する内部告発等により海外贈賄問題が発覚するケースも増加することが予想されている。

 また、経済産業省は2015年7月「外国公務員贈賄指針」(以下「経産省指針」)を改訂しており、日本弁護士連合会も2016年7月「経産省指針」を補完する実務指針として「海外贈賄防止ガイダンス(手引)」(以下「日弁連ガイダンス」)を発表しており、企業はこれらのガイドラインに整合する形で海外贈賄防止対策のための体制強化が求められている。

 一方、米国の海外腐敗行為防止法(FCPA:Foreign Corrupt Practices Act)や英国の贈賄法(UKBA: Bribery Act)などの外国規制が日本企業に適用される可能性も高まっている。特にFCPAに関しては、米国当局は域外適用を積極化しており、たとえ非米国企業が米国以外の第三国で贈賄に関与した場合であっても、米国で贈賄行為の一部が行われた事実や米国企業と共謀した事実などがある場合には、適用される可能性がある。実際、過去に複数の日本企業が摘発、処罰を受けている。米国国内産業の保護を優先する保護主義的な政策を掲げるトランプ政権の下、非米国企業に対する域外適用・摘発の可能性が弱まることは考えにくく、日本企業は引き続き慎重な対応が必要である。

 さらに、現在、日本企業が進出する中国、ブラジル、インド、タイおよびメキシコなどの新興国においても、現地の贈賄規制やその執行が強化されており、日本企業が現地規制に違反して処罰されるリスクも高まっている 。

 日本企業が海外事業において贈賄に関与したことが発覚した場合、各国規制に違反したとして巨額の罰金が科せられたり、役職員が身柄拘束を受けるなど、厳罰に処せられる可能性がある。

 贈賄行為の影響は、法的制裁のみならず、公共事業への入札参加資格の停止措置、取引先および金融機関からの取引の停止または解除、機関投資家が投資対象銘柄からの除外することによる株価下落などの様々な経済的な制裁を受けるリスクも高まっている。海外贈賄問題は、現在、企業価値の毀損に直結する重大なリスクとなっており、その対応を誤れば経営トップである取締役が善管注意義務、内部統制システム整備義務に違反したものとして株主代表訴訟を提起され、損害賠償責任を負う結果ともなりかねない。

 海外贈賄防止規制が強化され、海外贈賄問題が企業価値に対する重大なリスクとなっている背景には、海外贈賄がESG課題として深刻な悪影響を及ぼしているという懸念が高まっていることが考えられる。

 贈賄が公正な競争を阻害し、社会全体の腐敗を助長することはいうまでもない。加えて、特に法制度が確立していない新興国・途上国における贈賄への関与は、相手国政府による規制の適正な執行をゆがめ、本来環境・労働・人権などの観点から執行されるべき規制が適切に機能しない結果となり得る。また、同様に本来環境・労働・人権などの観点から国民に対して提供されるべき政府のサービスも適切に提供されない結果となり得る。その結果、当該国の環境・労働・人権に関する問題を深刻に悪化させるものとなる。

 例えば、メキシコのウォルマート現地法人による贈賄事件では、アステカ文明の遺跡として世界遺産にも登録されているテオティワカン遺跡に近接した場所などに店舗を開設するにあたり、文化財保護・環境などに関する規制に関する許可を不正に取得するため、同社が多数回にわたって地元当局関係者に対し賄賂を渡していることが判明した。本事件については、ニューヨーク・タイムズで2012年4月にスクープ報道され、同記事は大きな反響を呼び、ピュリッツァー賞を受賞するまでに至った。一方、ウォルマート社は贈賄という不正の手段により文化財や環境を破壊したとして厳しい社会的批判を受けた。

 このように企業が海外贈賄に関与していることが判明した場合には、企業を取り巻くステークホルダーの信頼を損ない、メディア、NGOからも厳しい批判を受け、企業ブランドの失墜を招く可能性もある。

表1. 海外贈賄問題が企業価値に与えるリスク

種類

内容

法令違反による処罰のリスク

・日本の外国公務員贈賄罪の執行

・米国FCPA・英国UKBAなどの域外適用

・進出先の現地贈賄規制の執行

経済的制裁リスク 

 

・公共事業への入札参加資格の停止措置

・取引先・金融機関からの取引停止または解除

・投資対象銘柄からの除外、株価下落

・株主代表訴訟

・メディア・NGOからの批判

・社会的信頼・企業ブランドの失墜

 そのため、海外贈賄防止は、企業がその社会的責任(CSR)や人権尊重責任を果たすに当たっても不可欠な取組みの一つとなっている 。国連グローバル・コンパクトにおいては、腐敗防止は、企業が社会的責任を果たすための10原則の一つに位置付けられている。また、企業の社会的責任に関する国際規格ISO26000においても、腐敗防止をはじめとする公正な事業慣行の確保が7つの中核主題の1つとしてなっている。OECD多国籍企業行動指針第7章においても、贈賄防止が要求されている。さらに、国連ビジネスと人権に関する指導原則の解説においても、人権救済手続が腐敗によって阻害されることがないようにする必要性が規定されている。国連が2015年に採択した持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)においても、17の基本目標の16(平和で包摂的な社会の実現)に関連して、あらゆる形態の汚職や贈賄を大幅に減少させることを目標として明記している(目標16.5)

 

表2. 海外贈賄防止に関連するCSR・人権に関する規範

規範

腐敗防止に関する該当箇所

国連グローバル・コンパクト

原則10:企業は、強要と贈賄を含むあらゆる形態の腐敗の防止に取り組むべきである

ISO26000

中核主題:公正な事業慣行に関連する課題として汚職防止が規定 6.6.3

OECD 多国籍企業行動指針

第7章:贈賄、贈賄要求、金品の強要の防止に規定

国連ビジネスと人権指導原則

原則25・26の解説によって人権救済手続を腐敗から守る必要性が記載

国連持続可能な開発目標SDGs

基本目標16(平和で包摂的な社会の実現)に関連した目標16.5として汚職・贈賄の減少を規定

2. 日本企業に強化が求められる海外贈賄防止対策

 海外贈賄問題が企業価値に対する重大なリスクとなる状況において、日本企業はどのように海外贈賄防止対策を強化することができるか。

 「経産省指針」の改訂においては、特に第2章の外国公務員贈賄防止体制の有効性の向上を図るための方策の内容について抜本的な改訂がなされた。「経営トップの姿勢・メッセージの重要性」「リスクベース・アプローチ」「子会社における対応の必要性」「有事における対応の必要性」などの新たな視点が盛り込まれており、参考となる。ただし、「経産省指針」はあくまで日本の不正競争防止法の遵守のための体制に重点を置いたものに過ぎず、必ずしも外国法令の遵守やESG課題としての海外贈賄問題への対応を射程とするものではない。

 そのため、「経産省指針」を補完する実務指針として「日弁連ガイダンス」も活用することは有益である。同ガイダンスは、日本企業および日本企業に助言を行う弁護士を対象として、海外贈賄防止を推進する上での実務指針を、序論に加え、全4章18条を通じて示している。第1章は平時における海外贈賄防止のための内部統制システムの要素、第2章は有事(外国公務員等から賄賂の不当要求を受けた場合及び贈賄が発覚した場合)の対応、第3章は子会社管理及び企業買収、第4章はその他の事項に関する実務指針を解説している。

 「日弁連ガイダンス」は、①取締役が内部統制システム整備義務を果たす上で必要な贈賄防止体制の要素を明確にする、②各国法令による処罰の減免にも一助となり得る内部統制システムの要素を明確にする、③企業及び弁護士における海外贈賄防止のための実務対応の在り方を明確にすることを目的としている。

 「日弁連ガイダンス」において強調されている海外贈賄防止対策のポイントは、第1に、海外贈賄リスクを遠ざけるのではなく直視し対処することの必要性である。日本企業は、従来、海外贈賄収賄問題の対応を海外拠点の現場担当者に委ねてる傾向があったが、上述の通り、海外贈賄が企業価値に直結する重大なリスクとなっていることからすれば、日本企業の本社、経営トップがそのリスクを十分に認識した上で、対処するための体制を整備する必要がある。

 第2に、個別の行為の結果よりむしろ内部統制のプロセスを重視し記録化することの重要性である。接待贈答などの行為は腐敗の意図に基づくものではない限り犯罪とはならないが、日本企業は贈賄行為と認定されることを恐れて、支払の記録・証拠を残しておくことを躊躇する傾向がある。しかし、このような対応は、かえって不正行為を隠蔽せざるを得ない状況を作り出し、リスクの発見や管理を困難とするものである。たとえ企業が贈賄に関与したことが発覚した場合でも、適切な内部統制システムを整備していれば、各国規制においては処罰が減免され得るし、取締役が善管注意義務違反として法的責任を問われることもほとんどない。内部統制システムを整備していることを外部に証明するためにも、そのプロセスや支払を記録化しておくことが重要である。

 第3に、賄賂の不当要求から現場担当者を守るためことも必要である。特に、腐敗が深刻な新興国・途上国においては、日本企業の現地拠点の役職員は、積極的に贈賄を申し出なくとも、外国公務員等から有形無形の圧力を受け、賄賂を強要される場合も少なくない。そのため、海外贈賄問題の対処を現場担当者に丸投げすることは、現場担当者を規制の遵守と賄賂の不当要求との間で板挟みの状況におき孤立させることになりかねず、現場担当者の労働環境・人権の確保の観点からも問題がある。賄賂の不当要求に対しては、現場担当者に対し初動対応のトレーニングを行うことに加え、企業全体として組織的に対応しつつ、外部機関と連携しながら対応を進めていくことが必要である。

表3. 「日弁連ガイダンス」の構成

序論

第1章 海外贈賄防止体制の整備

第1条 経営トップがとるべき姿勢と行動

第2条 リスクベース・アプローチ

第3条 基本方針及び社内規程の策定

第4条 組織体制

第5条 第三者の管理

第6条 教育

第7条 モニタリングと継続的改善

第8条 ファシリテーション・ペイメント

第9条 記録化

 

第2章 有事の対応(危機管理)

第10条 有事の定義

第11条 外国公務員等から賄賂の不当要求を受けた場合の有事対応

第12条 外国公務員等に賄賂を供与・申込み・約束した事実を把握した場合の有事対応

第13条 有事対応(危機管理)体制

第14条 記録化
 

第3章 子会社管理・企業買収

第15条 親会社による子会社の海外贈賄防止体制に対する支援

第16条 企業買収


第4章 その他

第17条 情報開示

第18条 本ガイダンス(手引)の実践表明

出所:「日弁連ガイダンス」より筆者作成


3. 海外贈賄リスクに関する情報開示の必要性

 海外贈賄問題が企業価値に直結する重大なリスクとなっている現在、機関投資家を含むステークホルダーも、企業の海外贈賄リスクに関して高い関心を有している。そのため、企業は、単に海外贈賄防止対策を強化するのみならず、その取組み状況などについて、外部に開示していくことも期待されている。

 2014年に採択されたEU非財務情報指令は、従業員500人超の公的な利益を有する企業(上場企業・金融機関)に対し、年次報告書において非財務情報の開示を要求するものである。同指令は、従来から開示が要求されていた環境・労働に関する事項に加え、贈賄防止と人権尊重に関する事項についても開示分野を拡大した。対象企業は、贈賄防止をはじめ各分野に関する会社の方針、その方針の結果、関連するリスクとその対象方法、重要業績評価指標などを開示することが要求される。2016年12月までにEU各国において国内法化がなされることとなっている。

 CSR報告書の国際的な基準であるGRI(Global Reporting Initiative)のガイドライン第4版(以下、G4)においても、腐敗防止は、社会に関する側面の特定表示開示項目の要素として位置づけられており、企業・ステークホルダーにとって重要性が高い場合には、その項目及び指標を開示することが要請されている。

表4. G4における腐敗防止に関する開示項目・内容・指標

項目

内容

指標

G4-SO3

腐敗に関するリスク評価を行っている事業の総数と比率、特定した著しいリスク

a. 腐敗に関するリスク評価の対象とした事業の総数と比率を報告する。

b. リスク評価により特定した腐敗関連の著しいリスクを報告する。

G4-SO4

腐敗防止の方針や手順に関するコミュニケーションと研修

a. ガバナンス組織メンバーのうち、腐敗防止に関する組織の方針や手順の通達を行った者の総数と比率を、地域別に報告する。

b. 従業員のうち、腐敗防止に関する組織の方針や手順の通達を行った者の総数と比率を、従業員区分別、地域別に報告する。

c. ビジネスパートナーのうち、腐敗防止に関する組織の方針や手順について通達を行った者の総数と比率を、ビジネスパートナー種類別、地域別に報告する。

d. ガバナンス組織メンバーのうち、腐敗防止に関する研修を受講した者の総数と比率を、地域別に報告する。

e. 従業員のうち、腐敗防止に関する研修を受講した者の総数と比率を、従業員区分別、地域別に報告する。

G4-SO5

確定した腐敗事例、および実施した措置

a. 確定された腐敗事例の総数と性質を報告する。

b. 確定された腐敗事例のうち、腐敗を理由に従業員を解雇または懲戒処分したものの総数を報告する。

c. 確定された腐敗事例のうち、腐敗関連の契約違反を理由にビジネスパートナーと契約破棄または更新拒否を行ったも のの総数を報告する。

d. 報告期間内に組織または組織の従業員に対して腐敗に関連した訴訟が提起されている場合、その事例と結果を報告す る。

出所:GRI G4より筆者作成

 

 以上のような規制・国際基準の導入を踏まえ、ESG投資においても海外贈賄防止は重要な評価項目となっていることが多い。日本企業は、贈賄防止に関する取組みを実施しているにもかかわらず、取組みの不十分さを外部から指摘されることを恐れてか、外部に情報開示することを躊躇するケースが少なくない。開示を行わなければ、積極的に取組みを行っていないと評価されるか、むしろ隠ぺいしようとしていると疑念を抱かれる危険性もある。その結果、日本企業のESG評価を引き下げる原因ともなりかない状況となっている。

 「日弁連ガイダンス」においても、ステークホルダーへの配慮と企業の透明性確保の観点から、17条においても、海外贈賄防止に関する情報開示について規定している。同条1項においては、平時における情報開示として、企業は、企業価値に重要な影響を及ぼし得るリスクとして贈賄リスクを認識するときは、適時開示書類、事業報告書、有価証券報告書、コーポレート・ガバナンスに関する報告書、CSR報告書などの開示書類において、企業が直面する贈賄リスクの内容やこれに対処するための海外贈賄防止体制の整備状況を記載することを推奨している。同条2項においては、贈賄発覚時における情報開示として、企業は、企業価値に重要な影響を及ぼす海外贈賄に関する問題が発覚したときは、その内容を開示書類において記載することを要請している。

 海外贈賄問題が企業価値に直結する重要なリスクとして認識され、国内外の規制・基準においても贈賄防止に関する情報開示が要求されていることをふまえれば、金融機関等においても、投融資先企業の海外贈賄リスクに関連する情報を積極的に取得・活用し、そのリスクを考慮して投融資を実施していくことが望ましい。

 金融機関等による海外贈賄リスクに関する分析・評価の方法や投融資先企業との間のエンゲージメントのあり方については、今後より積極的な議論が必要であり、この点について、別途、後日論じることとしたい。

◇執筆者プロファイル:弁護士 高橋 大祐氏

 真和総合法律事務所パートナー弁護士。法学修士(米・仏・独・伊)。企業・金融機関に対し、グローバルコンプライアンス・CSR/ESGリスクマネジメント・危機管理に関する案件に対応するほか、社内規程整備・社内研修などの内部統制システム構築支援も担当。日弁連弁護士業務改革委員会CSRと内部統制プロジェクトチーム副座長のほか、国際法曹協会CSR委員会オフィサー、早稲田大学日米研究所招聘研究員、ジェトロアジア経済研究所研究会外部委員、上智大学法学部非常勤講師なども務める。

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ESG(環境・社会・ガバナンス)法務研究会 弁護士 高橋大祐

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