Sustainable Japan | 世界のサステナビリティ・ESG投資・SDGs

【インタビュー】MUFGが国内民間金融機関初のソーシャルボンド発行 〜グローバル水準での資金使途設計〜

 2018年に国内初の外貨建て公募型グリーンボンドを発行した三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が、今度は国内民間金融機関初のソーシャルボンドを発行した。12月6日に発表された発行条件では、発行額9,000万米ドル(約100億円)、年限10年、利率2.847%(UST+104bp)。ソーシャルボンド・ストラクチャリング・エージェントと主幹事は、同社グループの三菱UFJモルガン・スタンレー証券が単独で担った。

 MUFGは、グリーンボンドやソーシャルボンドの発行で、日本初や世界初の事例を相次いで成功させている。今回のソーシャルボンドは、外貨建て国内発行での公募債の形で発行される初のケースでもある。2019年10月には、日本の銀行として初めて豪ドル建てのグリーンボンドも発行し、オフショア(オーストラリア国外)の民間発行としては世界初のケースとなった。

 MUFGの先進的なアクションを裏付ける一つとして、2019年10月に国内企業で初めての包括的なフレームワークとなるグリーン/ソーシャル/サステナビリティボンドフレームワークを策定し、セカンドパーティ・オピニオンを取得したことを挙げることができる。このオピニオンでは、ESG評価機関世界大手Sustainalyticsによって、同社のフレームワークが、国際資本市場協会(ICMA)のグリーンボンド原則2018(GBP)、ソーシャルボンド原則2018(SBP)、サステナビリティボンド・ガイドライン2018(SBG)、そして環境省グリーンボンドガイドライン2017年版に適合することが、確認された。

 MUFGには今なにが見えているのか。そして何を考えているのか。MUFG財務企画部CFO室資本政策グループの山田潤世氏と小林亮祐氏に話を伺った。

ESGに対する取組について

夫馬

 MUFGのサステナブルファイナンスに対する取組について教えてください。

小林亮祐氏

 当社は2019年5月に「サステナブルファイナンス目標」を設定し、2019年度から2030年までに環境分野で8兆円、社会分野で12兆円、全体で20兆円のファイナンスを実行することを宣言しました。

 環境分野の案件には、再生可能エネルギーやグリーンビルディング、気候変動適応などに向けた融資やプロジェクトファイナンスの組成、グリーンボンドの引受や販売があります。社会分野の案件には、公共インフラや社会インフラサービス等への融資やプロジェクトファイナンス、MUFG地方創生ファンド、ソーシャルボンドの引受や販売があります。

 また、プロジェクトファイナンス目標の設定と同時に、「MUFG 環境・社会ポリシーフレームワーク」の改定も行いました。その中で、石炭火力発電所の新設に関するファイナンスは原則禁止しました(*筆者注)。森林・パーム油・石炭鉱業向けの案件は留意案件とし、環境・社会への配慮状況を確認することも定め、山頂除去採掘(MTR)方式での炭鉱採掘に関わるファイナンスを禁止しました。

[筆者注] 同フレームワークでは「但し、当該国のエネルギー政策・事情等を踏まえ、OECD 公的輸出信用アレンジメントなどの国際的ガイドラインを参照し、他の実行可能な代替技術等を個別に検討した上で、ファイナンスを取り組む場合があります」としている。

 今回のソーシャルボンドは、サステナブルファイナンスの社会分野12兆円を資金調達面でサポートするものになっています。具体的には、融資やプロジェクトファイナンスの実行を担う三菱UFJ銀行において適格案件に充当していきます。リファイナンスに充当する際のルックバック期間は、36ヶ月間です。

ソーシャルボンドの資金使途

夫馬

 MUFGのフレームワークで設定したソーシャルボンドの資金使途について、もう少し詳しく聞かせてください。

小林氏

 ソーシャルボンドの資金使途としては、医療、教育、雇用創出、手頃な価格の住宅(Affordable Housing)の4分野を設定しました。

 医療向けの対象は3つです。まず、国内外の公的病院。次に、救急医療、災害医療、遠隔医療、周産期医療、小児医療などの社会的弱者にある人々のニーズに応えられる社会医療法人が運営する国内病院。そして、高齢者、障がい者、幼児などの社会的弱者の人々のニーズに応えられる社会福祉法人が運営する国内病院です。

 教育向けは、公立学校のみを対象。雇用創出向けは、東日本大震災からの復興を目的とした日本政府の制度融資である「復興特区支援利子補給金制度」と「津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金」などを利用する事業者への融資を対象とします。手頃な価格の住宅向けは、イングランドの公共住宅当局に登録された公共住宅供給業者のみが対象です。

夫馬

 住宅ではイングランド向けのみとしたのですね。資金使途の設計でいろいろな議論があったことが伺えます。

小林氏

 当社では今後、グリーンボンドやソーシャルボンドの海外市場での発行も予定しています。フレームワークの設計では、グローバルで求められる水準を強く意識しました。

 当社が20兆円の目標を設定したサステナブルファイナンス目標では、国際基準等を基にしつつも、当社内で独自に定義を設定しました。一方で、グリーンボンドやソーシャルボンドでは、セカンドパーティ・オピニオンを取得するため、Sustainalyticsとの協議の中で、高い適合性が認められるもののみに、資金使途を限定することにしました。

 例えば、病院や学校は、私立の施設でも社会的なインフラを担っている側面はあります。但し、SBPで設定されている「手頃な価格の基本的なインフラ設備」や「必要不可欠なサービスへのアクセス」のカテゴリーに対する高い適合性を持つため、あえて公的病院や公立学校のみに限定しました。

 手頃な価格の住宅でも、イングランドでは2008年の住宅・再開発法で「公共住宅」を明確に定義しており、「商業住宅市場でニーズが十分に満たされていない人々を対象」とし、「市場賃料以下の賃料または共同所有制度に従って提供される住宅」と定めています。一方、日本ではこれに該当する公的な定義がなかったため、最終的にイングランドのみとなりました。

適格プロジェクトの選定と発行後の報告

夫馬

 事業会社でのソーシャルボンドやグリーンボンドの発行では、発行前にある程度充当するプロジェクトが見えています。一方、金融機関での発行では、発行後に適格性のある案件を定め、ファイナンス資金として充当していくことになります。適格性プロジェクトの選定はどうしていますか?

小林氏

 今回のソーシャルボンドでは、三菱UFJ銀行の複数の部門が適格性を評価した上で、最終的にMUFG財務企画部CFO室が選定に関する意思決定を行います。

 プロジェクトファイナンスの適格性評価では、国内外の案件を三菱UFJ銀行のソリューションプロダクツ部が担当します。一般融資については、災害復興等の雇用創出に関する制度融資については、三菱UFJ銀行のコーポレート情報営業部、国内医療施設については、MUFG財務企画部CFO室が直接担当します。

夫馬

 発行後のレポーティングは?

小林氏

 発行後のインパクトレポーティングは、年1回実施します。社会インパクトの測定基準としては、医療分野では「医療サービスを受けた患者数」または「病床数」、教育では「教育サービスを受けた学生数」、雇用創出では「創出された雇用数」と「制度融資の融資件数」、住宅では「住宅供給件数」を設定しました。

ソーシャルボンドとして発行することのメリット

夫馬

 MUFGほどの存在であれば、ソーシャルボンドではなく通常社債でも問題なく発行できるような気もします。それでもMUFGがソーシャルやグリーンとしての発行を進める背景は何でしょうか。

山田潤世氏

 MUFGは、国際的な大手金融機関に課す健全性基準「総損失吸収力(TLAC)」の規制対象金融機関に指定されており、定期的にTLAC適格社債で資金調達をしなければいけない状態にあります。一方、TLAC適格社債の発行は、発行時の市況などの影響を常に受けるものですので、私達は常日頃から少しでも発行条件を良くしたいと考えています。

 今回の発行では、一般社債ではなくソーシャルボンドとしたことで、ソーシャルボンドのフォーマットに好感し、オーダー金額を増額した投資家がいたのは事実です。

小林氏

 MUFGは、社会分野でのESG向上による非財務的な企業価値の向上が、長期の時間軸の中では財務的な企業価値の向上に繋がるものと考えています。グリーンボンドに続くソーシャルボンドの発行は、ESG分野に積極的かつ先進的な企業としてESG評価の向上といったアナウンスメント効果も期待されます。
 なお、昨年12月に当社として初のグリーンボンド国内発行から1年を経て、今般のソーシャルボンド発行となりましたが、私自身、実際に投資家向けに説明をする中で、この1年間でESGへの関心は格段に上がったと実感しました。これまで接点のなかった複数の投資家からも、ソーシャルという接点で話が聞きたいという要望も頂き、初めて当社としてIRを実施させていただいたところもありました。ESG投資が確実に広がる中、ソーシャルボンドやグリーンボンドでの発行は、当社の安定的な調達に大きく寄与しています。

社会分野へのファイナンスを拡大する背景

夫馬

 社会分野へのファイナンスを拡大するために、ソーシャルボンドを発行するという目的はよくわかりました。一方でそもそもなぜ社会分野へのファイナンスを拡大することにしたのでしょうか。社会分野へのファイナンスは収益性が低いという声もあります。

山田氏

 社会分野のビジネスには収益性が低かったり、民間金融機関として与信がとりにくい地域・分野があります。しかし、MUFGとしては、より大きいところに目的を置いています。今後、様々な社会課題や環境課題が予想される中、金融機関はそれらと向き合い、解決に貢献していく存在にならなければいけないと思っています。したがって、20兆円のサステナブルファイナンスの実行を通じて、当社の事業全体に対するレピュテーションを高められると考えています。

 実際にグリーンボンドやソーシャルボンドの発行を通じてサステナブルファイナンスを実行することにより、当社グループ内におけるサステナブルファイナンスへの関心がより高まってきていることを実感しています。例えば、今回ソーシャルボンドを発行したことをきっかけに、三菱UFJ銀行のある部署から「当部署でも社会的なファイナンスに取り組んでいる」という反応がありました。

 私達自身の業務は、資金調達ですが、グリーンボンドやソーシャルボンドの発行を通じて、グループ内でのサステナブルファイナンスの機運を盛り上げていこうと思っています。

日本に向けてメッセージ

夫馬

 今回MUFGは、日本の民間金融機関によるソーシャルボンド発行第1号案件となりました。何か皆さんから日本社会に向けたメッセージはありますか?

山田氏

 投資家の中で「ファイナンスにおいて何がソーシャルとして認められるのかわかりかねている」という感覚を持っておられ、当社のソーシャルボンドに興味を持ってくださった方もいました。当社は外部のESG評価機関からも評価を受け、きちんとした基準を設定していますので、今回のソーシャルボンドの発行がある意味、日本にとっての道標的な存在になれればと思っています。

小林氏

 当社が今回発行に至った経験を、ぜひ広く皆様と共有し、日本のソーシャルボンドマーケットを一緒に作っていければと思っています。さらに今回の当社ソーシャルボンド発行によるノウハウを、今後グループ証券会社である三菱UFJモルガン・スタンレー証券を通じて国内市場に積極的に還元していただくなど、グループ一体となったESGへの積極的な取組を行うことで、日本におけるソーシャルボンドの発展に貢献できればと考えています。

山田氏

 ソーシャルボンドでの「ソーシャル」の基準は、基本的に欧州で設定されています。確かに、日本では、欧州と同じような切り口での制度がない場合もありますが、だからといってソーシャルを何もしていないわけではない。そうした中で、日本の取組を示す意味でも、MUFGとしてソーシャルボンドを発行したわけです。今後、海外での発行も予定していますので、海外の投資家にも日本のソーシャルを発信していきたいと思いますし、海外のESG評価機関にも私たちが日本の状況を説明していくことで、日本への理解も高めていきたいです。

ここから先は登録ユーザー限定のコンテンツとなります。ログインまたはユーザー登録を行って下さい。

 2018年に国内初の外貨建て公募型グリーンボンドを発行した三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が、今度は国内民間金融機関初のソーシャルボンドを発行した。12月6日に発表された発行条件では、発行額9,000万米ドル(約100億円)、年限10年、利率2.847%(UST+104bp)。ソーシャルボンド・ストラクチャリング・エージェントと主幹事は、同社グループの三菱UFJモルガン・スタンレー証券が単独で担った。

 MUFGは、グリーンボンドやソーシャルボンドの発行で、日本初や世界初の事例を相次いで成功させている。今回のソーシャルボンドは、外貨建て国内発行での公募債の形で発行される初のケースでもある。2019年10月には、日本の銀行として初めて豪ドル建てのグリーンボンドも発行し、オフショア(オーストラリア国外)の民間発行としては世界初のケースとなった。

 MUFGの先進的なアクションを裏付ける一つとして、2019年10月に国内企業で初めての包括的なフレームワークとなるグリーン/ソーシャル/サステナビリティボンドフレームワークを策定し、セカンドパーティ・オピニオンを取得したことを挙げることができる。このオピニオンでは、ESG評価機関世界大手Sustainalyticsによって、同社のフレームワークが、国際資本市場協会(ICMA)のグリーンボンド原則2018(GBP)、ソーシャルボンド原則2018(SBP)、サステナビリティボンド・ガイドライン2018(SBG)、そして環境省グリーンボンドガイドライン2017年版に適合することが、確認された。

 MUFGには今なにが見えているのか。そして何を考えているのか。MUFG財務企画部CFO室資本政策グループの山田潤世氏と小林亮祐氏に話を伺った。

ESGに対する取組について

夫馬

 MUFGのサステナブルファイナンスに対する取組について教えてください。

小林亮祐氏

 当社は2019年5月に「サステナブルファイナンス目標」を設定し、2019年度から2030年までに環境分野で8兆円、社会分野で12兆円、全体で20兆円のファイナンスを実行することを宣言しました。

 環境分野の案件には、再生可能エネルギーやグリーンビルディング、気候変動適応などに向けた融資やプロジェクトファイナンスの組成、グリーンボンドの引受や販売があります。社会分野の案件には、公共インフラや社会インフラサービス等への融資やプロジェクトファイナンス、MUFG地方創生ファンド、ソーシャルボンドの引受や販売があります。

 また、プロジェクトファイナンス目標の設定と同時に、「MUFG 環境・社会ポリシーフレームワーク」の改定も行いました。その中で、石炭火力発電所の新設に関するファイナンスは原則禁止しました(*筆者注)。森林・パーム油・石炭鉱業向けの案件は留意案件とし、環境・社会への配慮状況を確認することも定め、山頂除去採掘(MTR)方式での炭鉱採掘に関わるファイナンスを禁止しました。

[筆者注] 同フレームワークでは「但し、当該国のエネルギー政策・事情等を踏まえ、OECD 公的輸出信用アレンジメントなどの国際的ガイドラインを参照し、他の実行可能な代替技術等を個別に検討した上で、ファイナンスを取り組む場合があります」としている。

 今回のソーシャルボンドは、サステナブルファイナンスの社会分野12兆円を資金調達面でサポートするものになっています。具体的には、融資やプロジェクトファイナンスの実行を担う三菱UFJ銀行において適格案件に充当していきます。リファイナンスに充当する際のルックバック期間は、36ヶ月間です。

ソーシャルボンドの資金使途

夫馬

 MUFGのフレームワークで設定したソーシャルボンドの資金使途について、もう少し詳しく聞かせてください。

小林氏

 ソーシャルボンドの資金使途としては、医療、教育、雇用創出、手頃な価格の住宅(Affordable Housing)の4分野を設定しました。

 医療向けの対象は3つです。まず、国内外の公的病院。次に、救急医療、災害医療、遠隔医療、周産期医療、小児医療などの社会的弱者にある人々のニーズに応えられる社会医療法人が運営する国内病院。そして、高齢者、障がい者、幼児などの社会的弱者の人々のニーズに応えられる社会福祉法人が運営する国内病院です。

 教育向けは、公立学校のみを対象。雇用創出向けは、東日本大震災からの復興を目的とした日本政府の制度融資である「復興特区支援利子補給金制度」と「津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金」などを利用する事業者への融資を対象とします。手頃な価格の住宅向けは、イングランドの公共住宅当局に登録された公共住宅供給業者のみが対象です。

夫馬

 住宅ではイングランド向けのみとしたのですね。資金使途の設計でいろいろな議論があったことが伺えます。

小林氏

 当社では今後、グリーンボンドやソーシャルボンドの海外市場での発行も予定しています。フレームワークの設計では、

ここから先は登録ユーザー限定のコンテンツとなります。ログインまたはユーザー登録を行って下さい。

 2018年に国内初の外貨建て公募型グリーンボンドを発行した三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が、今度は国内民間金融機関初のソーシャルボンドを発行した。12月6日に発表された発行条件では、発行額9,000万米ドル(約100億円)、年限10年、利率2.847%(UST+104bp)。ソーシャルボンド・ストラクチャリング・エージェントと主幹事は、同社グループの三菱UFJモルガン・スタンレー証券が単独で担った。

 MUFGは、グリーンボンドやソーシャルボンドの発行で、日本初や世界初の事例を相次いで成功させている。今回のソーシャルボンドは、外貨建て国内発行での公募債の形で発行される初のケースでもある。2019年10月には、日本の銀行として初めて豪ドル建てのグリーンボンドも発行し、オフショア(オーストラリア国外)の民間発行としては世界初のケースとなった。

 MUFGの先進的なアクションを裏付ける一つとして、2019年10月に国内企業で初めての包括的なフレームワークとなるグリーン/ソーシャル/サステナビリティボンドフレームワークを策定し、セカンドパーティ・オピニオンを取得したことを挙げることができる。このオピニオンでは、ESG評価機関世界大手Sustainalyticsによって、同社のフレームワークが、国際資本市場協会(ICMA)のグリーンボンド原則2018(GBP)、ソーシャルボンド原則2018(SBP)、サステナビリティボンド・ガイドライン2018(SBG)、そして環境省グリーンボンドガイドライン2017年版に適合することが、確認された。

 MUFGには今なにが見えているのか。そして何を考えているのか。MUFG財務企画部CFO室資本政策グループの山田潤世氏と小林亮祐氏に話を伺った。

ESGに対する取組について

夫馬

 MUFGのサステナブルファイナンスに対する取組について教えてください。

小林亮祐氏

 当社は2019年5月に「サステナブルファイナンス目標」を設定し、2019年度から2030年までに環境分野で8兆円、社会分野で12兆円、全体で20兆円のファイナンスを実行することを宣言しました。

 環境分野の案件には、再生可能エネルギーやグリーンビルディング、気候変動適応などに向けた融資やプロジェクトファイナンスの組成、グリーンボンドの引受や販売があります。社会分野の案件には、公共インフラや社会インフラサービス等への融資やプロジェクトファイナンス、MUFG地方創生ファンド、ソーシャルボンドの引受や販売があります。

 また、プロジェクトファイナンス目標の設定と同時に、「MUFG 環境・社会ポリシーフレームワーク」の改定も行いました。その中で、石炭火力発電所の新設に関するファイナンスは原則禁止しました(*筆者注)。森林・パーム油・石炭鉱業向けの案件は留意案件とし、環境・社会への配慮状況を確認することも定め、山頂除去採掘(MTR)方式での炭鉱採掘に関わるファイナンスを禁止しました。

[筆者注] 同フレームワークでは「但し、当該国のエネルギー政策・事情等を踏まえ、OECD 公的輸出信用アレンジメントなどの国際的ガイドラインを参照し、他の実行可能な代替技術等を個別に検討した上で、ファイナンスを取り組む場合があります」としている。

 今回のソーシャルボンドは、サステナブルファイナンスの社会分野12兆円を資金調達面でサポートするものになっています。具体的には、融資やプロジェクトファイナンスの実行を担う三菱UFJ銀行において適格案件に充当していきます。リファイナンスに充当する際のルックバック期間は、36ヶ月間です。

ソーシャルボンドの資金使途

夫馬

 MUFGのフレームワークで設定したソーシャルボンドの資金使途について、もう少し詳しく聞かせてください。

小林氏

 ソーシャルボンドの資金使途としては、医療、教育、雇用創出、手頃な価格の住宅(Affordable Housing)の4分野を設定しました。

 医療向けの対象は3つです。まず、国内外の公的病院。次に、救急医療、災害医療、遠隔医療、周産期医療、小児医療などの社会的弱者にある人々のニーズに応えられる社会医療法人が運営する国内病院。そして、高齢者、障がい者、幼児などの社会的弱者の人々のニーズに応えられる社会福祉法人が運営する国内病院です。

 教育向けは、公立学校のみを対象。雇用創出向けは、東日本大震災からの復興を目的とした日本政府の制度融資である「復興特区支援利子補給金制度」と「津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金」などを利用する事業者への融資を対象とします。手頃な価格の住宅向けは、イングランドの公共住宅当局に登録された公共住宅供給業者のみが対象です。

夫馬

 住宅ではイングランド向けのみとしたのですね。資金使途の設計でいろいろな議論があったことが伺えます。

小林氏

 当社では今後、グリーンボンドやソーシャルボンドの海外市場での発行も予定しています。フレームワークの設計では、

ここから先は登録ユーザー限定のコンテンツとなります。ログインまたはユーザー登録を行って下さい。

ここから先は有料登録会員限定のコンテンツとなります。有料登録会員へのアップグレードを行って下さい。

 2018年に国内初の外貨建て公募型グリーンボンドを発行した三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が、今度は国内民間金融機関初のソーシャルボンドを発行した。12月6日に発表された発行条件では、発行額9,000万米ドル(約100億円)、年限10年、利率2.847%(UST+104bp)。ソーシャルボンド・ストラクチャリング・エージェントと主幹事は、同社グループの三菱UFJモルガン・スタンレー証券が単独で担った。

 MUFGは、グリーンボンドやソーシャルボンドの発行で、日本初や世界初の事例を相次いで成功させている。今回のソーシャルボンドは、外貨建て国内発行での公募債の形で発行される初のケースでもある。2019年10月には、日本の銀行として初めて豪ドル建てのグリーンボンドも発行し、オフショア(オーストラリア国外)の民間発行としては世界初のケースとなった。

 MUFGの先進的なアクションを裏付ける一つとして、2019年10月に国内企業で初めての包括的なフレームワークとなるグリーン/ソーシャル/サステナビリティボンドフレームワークを策定し、セカンドパーティ・オピニオンを取得したことを挙げることができる。このオピニオンでは、ESG評価機関世界大手Sustainalyticsによって、同社のフレームワークが、国際資本市場協会(ICMA)のグリーンボンド原則2018(GBP)、ソーシャルボンド原則2018(SBP)、サステナビリティボンド・ガイドライン2018(SBG)、そして環境省グリーンボンドガイドライン2017年版に適合することが、確認された。

 MUFGには今なにが見えているのか。そして何を考えているのか。MUFG財務企画部CFO室資本政策グループの山田潤世氏と小林亮祐氏に話を伺った。

ESGに対する取組について

夫馬

 MUFGのサステナブルファイナンスに対する取組について教えてください。

小林亮祐氏

 当社は2019年5月に「サステナブルファイナンス目標」を設定し、2019年度から2030年までに環境分野で8兆円、社会分野で12兆円、全体で20兆円のファイナンスを実行することを宣言しました。

 環境分野の案件には、再生可能エネルギーやグリーンビルディング、気候変動適応などに向けた融資やプロジェクトファイナンスの組成、グリーンボンドの引受や販売があります。社会分野の案件には、公共インフラや社会インフラサービス等への融資やプロジェクトファイナンス、MUFG地方創生ファンド、ソーシャルボンドの引受や販売があります。

 また、プロジェクトファイナンス目標の設定と同時に、「MUFG 環境・社会ポリシーフレームワーク」の改定も行いました。その中で、石炭火力発電所の新設に関するファイナンスは原則禁止しました(*筆者注)。森林・パーム油・石炭鉱業向けの案件は留意案件とし、環境・社会への配慮状況を確認することも定め、山頂除去採掘(MTR)方式での炭鉱採掘に関わるファイナンスを禁止しました。

[筆者注] 同フレームワークでは「但し、当該国のエネルギー政策・事情等を踏まえ、OECD 公的輸出信用アレンジメントなどの国際的ガイドラインを参照し、他の実行可能な代替技術等を個別に検討した上で、ファイナンスを取り組む場合があります」としている。

 今回のソーシャルボンドは、サステナブルファイナンスの社会分野12兆円を資金調達面でサポートするものになっています。具体的には、融資やプロジェクトファイナンスの実行を担う三菱UFJ銀行において適格案件に充当していきます。リファイナンスに充当する際のルックバック期間は、36ヶ月間です。

ソーシャルボンドの資金使途

夫馬

 MUFGのフレームワークで設定したソーシャルボンドの資金使途について、もう少し詳しく聞かせてください。

小林氏

 ソーシャルボンドの資金使途としては、医療、教育、雇用創出、手頃な価格の住宅(Affordable Housing)の4分野を設定しました。

 医療向けの対象は3つです。まず、国内外の公的病院。次に、救急医療、災害医療、遠隔医療、周産期医療、小児医療などの社会的弱者にある人々のニーズに応えられる社会医療法人が運営する国内病院。そして、高齢者、障がい者、幼児などの社会的弱者の人々のニーズに応えられる社会福祉法人が運営する国内病院です。

 教育向けは、公立学校のみを対象。雇用創出向けは、東日本大震災からの復興を目的とした日本政府の制度融資である「復興特区支援利子補給金制度」と「津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金」などを利用する事業者への融資を対象とします。手頃な価格の住宅向けは、イングランドの公共住宅当局に登録された公共住宅供給業者のみが対象です。

夫馬

 住宅ではイングランド向けのみとしたのですね。資金使途の設計でいろいろな議論があったことが伺えます。

小林氏

 当社では今後、グリーンボンドやソーシャルボンドの海外市場での発行も予定しています。フレームワークの設計では、グローバルで求められる水準を強く意識しました。

 当社が20兆円の目標を設定したサステナブルファイナンス目標では、国際基準等を基にしつつも、当社内で独自に定義を設定しました。一方で、グリーンボンドやソーシャルボンドでは、セカンドパーティ・オピニオンを取得するため、Sustainalyticsとの協議の中で、高い適合性が認められるもののみに、資金使途を限定することにしました。

 例えば、病院や学校は、私立の施設でも社会的なインフラを担っている側面はあります。但し、SBPで設定されている「手頃な価格の基本的なインフラ設備」や「必要不可欠なサービスへのアクセス」のカテゴリーに対する高い適合性を持つため、あえて公的病院や公立学校のみに限定しました。

 手頃な価格の住宅でも、イングランドでは2008年の住宅・再開発法で「公共住宅」を明確に定義しており、「商業住宅市場でニーズが十分に満たされていない人々を対象」とし、「市場賃料以下の賃料または共同所有制度に従って提供される住宅」と定めています。一方、日本ではこれに該当する公的な定義がなかったため、最終的にイングランドのみとなりました。

適格プロジェクトの選定と発行後の報告

夫馬

 事業会社でのソーシャルボンドやグリーンボンドの発行では、発行前にある程度充当するプロジェクトが見えています。一方、金融機関での発行では、発行後に適格性のある案件を定め、ファイナンス資金として充当していくことになります。適格性プロジェクトの選定はどうしていますか?

小林氏

 今回のソーシャルボンドでは、三菱UFJ銀行の複数の部門が適格性を評価した上で、最終的にMUFG財務企画部CFO室が選定に関する意思決定を行います。

 プロジェクトファイナンスの適格性評価では、国内外の案件を三菱UFJ銀行のソリューションプロダクツ部が担当します。一般融資については、災害復興等の雇用創出に関する制度融資については、三菱UFJ銀行のコーポレート情報営業部、国内医療施設については、MUFG財務企画部CFO室が直接担当します。

夫馬

 発行後のレポーティングは?

小林氏

 発行後のインパクトレポーティングは、年1回実施します。社会インパクトの測定基準としては、医療分野では「医療サービスを受けた患者数」または「病床数」、教育では「教育サービスを受けた学生数」、雇用創出では「創出された雇用数」と「制度融資の融資件数」、住宅では「住宅供給件数」を設定しました。

ソーシャルボンドとして発行することのメリット

夫馬

 MUFGほどの存在であれば、ソーシャルボンドではなく通常社債でも問題なく発行できるような気もします。それでもMUFGがソーシャルやグリーンとしての発行を進める背景は何でしょうか。

山田潤世氏

 MUFGは、国際的な大手金融機関に課す健全性基準「総損失吸収力(TLAC)」の規制対象金融機関に指定されており、定期的にTLAC適格社債で資金調達をしなければいけない状態にあります。一方、TLAC適格社債の発行は、発行時の市況などの影響を常に受けるものですので、私達は常日頃から少しでも発行条件を良くしたいと考えています。

 今回の発行では、一般社債ではなくソーシャルボンドとしたことで、ソーシャルボンドのフォーマットに好感し、オーダー金額を増額した投資家がいたのは事実です。

小林氏

 MUFGは、社会分野でのESG向上による非財務的な企業価値の向上が、長期の時間軸の中では財務的な企業価値の向上に繋がるものと考えています。グリーンボンドに続くソーシャルボンドの発行は、ESG分野に積極的かつ先進的な企業としてESG評価の向上といったアナウンスメント効果も期待されます。
 なお、昨年12月に当社として初のグリーンボンド国内発行から1年を経て、今般のソーシャルボンド発行となりましたが、私自身、実際に投資家向けに説明をする中で、この1年間でESGへの関心は格段に上がったと実感しました。これまで接点のなかった複数の投資家からも、ソーシャルという接点で話が聞きたいという要望も頂き、初めて当社としてIRを実施させていただいたところもありました。ESG投資が確実に広がる中、ソーシャルボンドやグリーンボンドでの発行は、当社の安定的な調達に大きく寄与しています。

社会分野へのファイナンスを拡大する背景

夫馬

 社会分野へのファイナンスを拡大するために、ソーシャルボンドを発行するという目的はよくわかりました。一方でそもそもなぜ社会分野へのファイナンスを拡大することにしたのでしょうか。社会分野へのファイナンスは収益性が低いという声もあります。

山田氏

 社会分野のビジネスには収益性が低かったり、民間金融機関として与信がとりにくい地域・分野があります。しかし、MUFGとしては、より大きいところに目的を置いています。今後、様々な社会課題や環境課題が予想される中、金融機関はそれらと向き合い、解決に貢献していく存在にならなければいけないと思っています。したがって、20兆円のサステナブルファイナンスの実行を通じて、当社の事業全体に対するレピュテーションを高められると考えています。

 実際にグリーンボンドやソーシャルボンドの発行を通じてサステナブルファイナンスを実行することにより、当社グループ内におけるサステナブルファイナンスへの関心がより高まってきていることを実感しています。例えば、今回ソーシャルボンドを発行したことをきっかけに、三菱UFJ銀行のある部署から「当部署でも社会的なファイナンスに取り組んでいる」という反応がありました。

 私達自身の業務は、資金調達ですが、グリーンボンドやソーシャルボンドの発行を通じて、グループ内でのサステナブルファイナンスの機運を盛り上げていこうと思っています。

日本に向けてメッセージ

夫馬

 今回MUFGは、日本の民間金融機関によるソーシャルボンド発行第1号案件となりました。何か皆さんから日本社会に向けたメッセージはありますか?

山田氏

 投資家の中で「ファイナンスにおいて何がソーシャルとして認められるのかわかりかねている」という感覚を持っておられ、当社のソーシャルボンドに興味を持ってくださった方もいました。当社は外部のESG評価機関からも評価を受け、きちんとした基準を設定していますので、今回のソーシャルボンドの発行がある意味、日本にとっての道標的な存在になれればと思っています。

小林氏

 当社が今回発行に至った経験を、ぜひ広く皆様と共有し、日本のソーシャルボンドマーケットを一緒に作っていければと思っています。さらに今回の当社ソーシャルボンド発行によるノウハウを、今後グループ証券会社である三菱UFJモルガン・スタンレー証券を通じて国内市場に積極的に還元していただくなど、グループ一体となったESGへの積極的な取組を行うことで、日本におけるソーシャルボンドの発展に貢献できればと考えています。

山田氏

 ソーシャルボンドでの「ソーシャル」の基準は、基本的に欧州で設定されています。確かに、日本では、欧州と同じような切り口での制度がない場合もありますが、だからといってソーシャルを何もしていないわけではない。そうした中で、日本の取組を示す意味でも、MUFGとしてソーシャルボンドを発行したわけです。今後、海外での発行も予定していますので、海外の投資家にも日本のソーシャルを発信していきたいと思いますし、海外のESG評価機関にも私たちが日本の状況を説明していくことで、日本への理解も高めていきたいです。

ここから先は登録ユーザー限定のコンテンツとなります。ログインまたはユーザー登録を行って下さい。