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【金融】ESGエンゲージメントの投資ダウンサイドリスク低減効果の実証 〜国際研究チームの論文を読む〜


 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、全アセットクラスに対し、ESGエンゲージメントクラス型のESG投資を実施するようになってから、日本国内の運用会社による投資先企業へのエンゲージメントが一般的となりました。時価総額の大きい企業を中心に、運用会社から積極的にエンゲージメントのためのアポイントメントが入るようになりました。

 ESGをテーマにしたエンゲージメントは、企業に対しESG課題に対するリスク低減を目的とすることが多く、平たくいえば投資先企業のESGスコア向上に関するアドバイスをするものが一般的なスタイルといえます。では、実際にESGエンゲージメントは、株価に対するインパクトがあるのでしょうか。それを検証した海外の論文があります。

 ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンのアンドレアス・ヘプナー教授らの研究チームは、2018年のアメリカファイナンス学会で、機関投資家によるESGエンゲージメントの株価のダウンサイドリスクの低減効果を定量分析した論文「ESG Shareholder Engagement and Downside Risk」を発表しました。そして、その後、2020年4月16日にヨーロッパ・コーポレート・ガバナンス協会にワーキングペーパーとして掲載されています。

 同論文では、機関投資家から直接、2005年から2018年にまでに主要国で実施された573社に対する合計1,712のエンゲージメントの内容と結果を収集し、そのデータを分析対象としました。エンゲージメントの地域別の数は、米国が353、英国が347、日本139、韓国84、フランス73、ドイツ67、ブラジル66、香港64、カナダ59、中国43、スイス43のように30ヶ国以上を対象としています。

 エンゲージメントの内容区分では、役員報酬や取締役会構成等のコーポレートガバナンス関連が最も多く43%。気候変動等の環境関連が22%。ソーシャル関連が20%、戦略に関するものが16%でした。業種も比較的分散しています。

 この論文の特徴は、エンゲージメントを達成ステータスに応じて4段階に分類し、それぞれの効果を検証したことにあります。4段階の分類は、

  1. 投資家が企業に課題を提起
  2. 企業が提起された課題を認識
  3. 企業が課題を緩和するためのアクションを実施
  4. 投資家がエンゲージメントが成功したことを認識

となっています。

 エンゲージメントの効果を測るの指標としては、リスク(ボラティリティ)の内の下方リスクのみを対象とした下方部分積率(LPM)と、バリュー・アット・リスク(VaR)の双方を用いています。そして、その効果を、「差分の差分法(DID)」アプローチと、ファクターアプローチの2つの統計分析モデルを使って検証しました。

 その結果、LPMアプローチでは、投資家が企業に課題を提起しただけの第1段階では、ダウンサイドリスクを低減する効果が確認できなかったのに対し、第2段階では効果が確認され、さらに第3段階まで進むとその効果が5倍にまで大きくなるという統計上有意な結果が出ました。またファクターアプローチでも、同様に、第2段階で効果が確認され、第3段階まで進むと効果が非常に大きくなる結果となりました。

 同論文は、新型コロナウイルス・パンデミックでテールリスクが広がった後の8月6日に、ハーバード・ロー・スクールのホームページでも紹介されました。ESGエンゲージメントが、ダウンサイドリスクを低減する効果があることが定量的に示されたと語っています。

【参照ページ】ESG Shareholder Engagement and Downside Risk
【論文】ESG Shareholder Engagement and Downside Risk

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 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、全アセットクラスに対し、ESGエンゲージメントクラス型のESG投資を実施するようになってから、日本国内の運用会社による投資先企業へのエンゲージメントが一般的となりました。時価総額の大きい企業を中心に、運用会社から積極的にエンゲージメントのためのアポイントメントが入るようになりました。

 ESGをテーマにしたエンゲージメントは、企業に対しESG課題に対するリスク低減を目的とすることが多く、平たくいえば投資先企業のESGスコア向上に関するアドバイスをするものが一般的なスタイルといえます。では、実際にESGエンゲージメントは、株価に対するインパクトがあるのでしょうか。それを検証した海外の論文が

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 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、全アセットクラスに対し、ESGエンゲージメントクラス型のESG投資を実施するようになってから、日本国内の運用会社による投資先企業へのエンゲージメントが一般的となりました。時価総額の大きい企業を中心に、運用会社から積極的にエンゲージメントのためのアポイントメントが入るようになりました。

 ESGをテーマにしたエンゲージメントは、企業に対しESG課題に対するリスク低減を目的とすることが多く、平たくいえば投資先企業のESGスコア向上に関するアドバイスをするものが一般的なスタイルといえます。では、実際にESGエンゲージメントは、株価に対するインパクトがあるのでしょうか。それを検証した海外の論文が

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 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、全アセットクラスに対し、ESGエンゲージメントクラス型のESG投資を実施するようになってから、日本国内の運用会社による投資先企業へのエンゲージメントが一般的となりました。時価総額の大きい企業を中心に、運用会社から積極的にエンゲージメントのためのアポイントメントが入るようになりました。

 ESGをテーマにしたエンゲージメントは、企業に対しESG課題に対するリスク低減を目的とすることが多く、平たくいえば投資先企業のESGスコア向上に関するアドバイスをするものが一般的なスタイルといえます。では、実際にESGエンゲージメントは、株価に対するインパクトがあるのでしょうか。それを検証した海外の論文があります。

 ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンのアンドレアス・ヘプナー教授らの研究チームは、2018年のアメリカファイナンス学会で、機関投資家によるESGエンゲージメントの株価のダウンサイドリスクの低減効果を定量分析した論文「ESG Shareholder Engagement and Downside Risk」を発表しました。そして、その後、2020年4月16日にヨーロッパ・コーポレート・ガバナンス協会にワーキングペーパーとして掲載されています。

 同論文では、機関投資家から直接、2005年から2018年にまでに主要国で実施された573社に対する合計1,712のエンゲージメントの内容と結果を収集し、そのデータを分析対象としました。エンゲージメントの地域別の数は、米国が353、英国が347、日本139、韓国84、フランス73、ドイツ67、ブラジル66、香港64、カナダ59、中国43、スイス43のように30ヶ国以上を対象としています。

 エンゲージメントの内容区分では、役員報酬や取締役会構成等のコーポレートガバナンス関連が最も多く43%。気候変動等の環境関連が22%。ソーシャル関連が20%、戦略に関するものが16%でした。業種も比較的分散しています。

 この論文の特徴は、エンゲージメントを達成ステータスに応じて4段階に分類し、それぞれの効果を検証したことにあります。4段階の分類は、

  1. 投資家が企業に課題を提起
  2. 企業が提起された課題を認識
  3. 企業が課題を緩和するためのアクションを実施
  4. 投資家がエンゲージメントが成功したことを認識

となっています。

 エンゲージメントの効果を測るの指標としては、リスク(ボラティリティ)の内の下方リスクのみを対象とした下方部分積率(LPM)と、バリュー・アット・リスク(VaR)の双方を用いています。そして、その効果を、「差分の差分法(DID)」アプローチと、ファクターアプローチの2つの統計分析モデルを使って検証しました。

 その結果、LPMアプローチでは、投資家が企業に課題を提起しただけの第1段階では、ダウンサイドリスクを低減する効果が確認できなかったのに対し、第2段階では効果が確認され、さらに第3段階まで進むとその効果が5倍にまで大きくなるという統計上有意な結果が出ました。またファクターアプローチでも、同様に、第2段階で効果が確認され、第3段階まで進むと効果が非常に大きくなる結果となりました。

 同論文は、新型コロナウイルス・パンデミックでテールリスクが広がった後の8月6日に、ハーバード・ロー・スクールのホームページでも紹介されました。ESGエンゲージメントが、ダウンサイドリスクを低減する効果があることが定量的に示されたと語っています。

【参照ページ】ESG Shareholder Engagement and Downside Risk
【論文】ESG Shareholder Engagement and Downside Risk

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