Sustainable Japan | 世界のサステナビリティ・ESG投資・SDGs

【金融】HBSセラフェイム教授講演、「機会」としてのESGとインパクト測定 ~RI Digital: Japan 2020から~

 ESG投資を推進するニュースメディア英Responsible Investor。その日本支部が開催する年次カンファレンスのレスポンシブル・インベスター・カンファレンス東京(RI Tokyo 2020)が新型コロナウイルス・パンデミックを受け2021年に延期となり、10月28日から29日、オンライン版カンファレンス「RI Digital: Japan 2020『Designing the sustainable ‘new normal’』」が開催された。

 当社ニューラルもメディアサポーターとなった同カンファレンスには、ESG投資研究の大家であるハーバード・ビジネス・スクールのジョージ・セラフェイム教授も登壇。基調講演として、ESG投資の捉え方や日本企業の方向性について、自身の研究を踏まえ語った。

 まず同氏は、ESGが「リスク管理」として捉えられることが多い背景として、歴史と定量測定のしやすさがあると言及。歴史的には、ネガティブスクリーニングが発端となっており、ダウンサイドリスクの回避が根底にあるとした。また、リスクは定量的なVaR計測が容易だと指摘。例えば、気候変動リスクについては、スコープ1、スコープ2二酸化炭素排出量や、将来の想定炭素価格から、想定損失額が計算できる。それに対し、将来の低炭素社会における消費者や市場ニーズを理解し、測定するのは容易ではない。

 一方、定量化の難しい「機会」の重要性を理解している企業や投資家は、将来志向で価値創造の指標を捉えていると評価。リスク管理の重要性は認めつつも、電気自動車(EV)市場の勃興や、消費者の健康意識の高まり等、経済のシステマチックな転換点を迎えているとした。

 また同氏は、価格競争力がある形で持続可能な商品・サービスを提供するには、膨大なイノベーション創出が必要だと指摘。現状では、炭素価格等の規制がない国が多く、持続可能な商品・サービスの適正価格が無いことを課題視した。イノベーションのジレンマとしては、既存商品・サービスの競合となってしまい、短期的に利益が減少することが多いと分析。経営の効率性を求めるのではなく、戦略的にESGを活用すべきだとした。

 同氏は、経営の効率性を「与えられた環境の中で、競争優位を作り出すために取り組むこと」、戦略を「差別化」と定義。競争から抜け出し、長期にわたり利益を創出するためには、近視眼的な効率性を追い求めるのではなく、長期志向で取り組むことが重要とした。

 具体的には、組織内の責任構造を明確化が必要だとし、トップダウン・ボトムアップ双方に言及。トップダウンについては、長期志向の適切なインセンティブのもと、取締役が取り組みを進め、その結果に応じて報酬委員会で判断すべきだとした。監査委員会は、自社コンプライアンスにとってマテリアルなESG指標について、査定すべきだとした。

 ボトムアップについては、多くの企業において、取締役が策定した目標やビジョンが、上手く現場レベルの日常業務まで落とし込めれていないと指摘。組織内の文化と共通したパーパスが必要だと語った。

 長期志向の時間軸については、機関投資家と企業による長期志向での資本投入へのシフトは、おおよそ5年から10年程かかると分析。企業には、長期間取り組むだけの余力が求められるだけでなく、機関投資家とのコミュニケーションを通じた、信頼関係を構築する必要があるとした。

 さらに話題は、将来志向のESGと国連持続可能な開発目標(SDGs)の関係性にまで至る。人口増加や気候変動等のメガトレンドへの対応には、数兆ドル規模の機会があり、そうした「機会」への対応を進めることは、結果的に、SDGsに密接に繋がってくるとした。

 逆に一部で根強く残る、ESG投資の収益性に関する懐疑論については、「誤ったアプローチ」と一蹴。ESGとして語られる非財務情報を考える上では、「より良い判断をするため、より良い情報をすべて持っているか」が本質的に重要だとした。

 その他、マクロ動向として米国の気候変動に対する方針にも触れた。米国では、トランプ政権下で気候変動に対する消極的な対応が目立つ中、9月16日に、米大手企業CEOの連合会ビジネス・ラウンドテーブル(BRT)が、前オバマ政権が掲げた米国の二酸化炭素排出量を2050年までに2005年比で80%削減する目標を支持すると発表した。

【参考】【アメリカ】ビジネス・ラウンドテーブル、オバマ時代の「米国CO2を2050年に80%減」支持。炭素価格導入要請(2020年9月17日)

 Responsible Investorとしても、どこまで米国が本気で取り組むのかについては様子見のようだったが、ジョージ・セラフェイム教授は、同様の動きは、米国に限らず、世界に共通すると回答。企業の多くが、インパクトの適正な管理にコミットするようになっており、組織の競争力にも影響し始めているという。今回のビジネス・ラウンドテーブルの声明も、同様の動きに呼応したものだと分析した。

 一方、日本については、現状の企業のESG評価が低いものの、製品のインパクトで見ると、他社比でポジティブインパクトなものも多く、競争力が高いと説明。多くの企業でイノベーションの創出に苦悩し、競争力を失っているが、従来から長期志向性の土壌があるため、不確実性に突き進むことが出来れば、リーダーとして牽引する存在にもなれると評価した。

 後半は、同氏の研究分野でもある「インパクト加重会計」にも言及。我々は、日々選択の中に生きているにも関わらず、これまでその選択のインパクトを測定してこなかったとし、インパクトの透明性の時代がくると強調した。

 同氏は、現状のESG関連の情報開示や目標設定等が、必ずしもインパクトという結果に繋がるわけではないことを課題視。結果としてのインパクト評価を追い求め、まずは環境インパクトと取り組みの測定に着手している。次いで、職場の質と機会、健康や幸福度、キャリアアップの可能性等、従業員やコミュニティへのインパクト測定を行い、その後、顧客やより広い範囲での地域コミュニティへの製品インパクトを測定。これらのインパクトを財務情報に統合する構え。

 最後に、EUタクソノミーやグリーンディールの議論や、IFRS、GRI、SSAB等の協働等の直近動きについては、適切なインパクト測定と透明性の向上に向け、世界が歩みを進めているとして歓迎。より良い情報を得るための土壌が整えられてきていると評価した。

【参照ページ】基調インタビュー【3】George Serafeim, Charles M. Williams Professor of Business Administration, Harvard Business School

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 ESG投資を推進するニュースメディア英Responsible Investor。その日本支部が開催する年次カンファレンスのレスポンシブル・インベスター・カンファレンス東京(RI Tokyo 2020)が新型コロナウイルス・パンデミックを受け2021年に延期となり、10月28日から29日、オンライン版カンファレンス「RI Digital: Japan 2020『Designing the sustainable ‘new normal’』」が開催された。

 当社ニューラルもメディアサポーターとなった同カンファレンスには、ESG投資研究の大家であるハーバード・ビジネス・スクールのジョージ・セラフェイム教授も登壇。基調講演として、ESG投資の捉え方や日本企業の方向性について、自身の研究を踏まえ語った。

 まず同氏は、ESGが「リスク管理」として捉えられることが多い背景として、歴史と定量測定のしやすさがあると言及。歴史的には、ネガティブスクリーニングが発端となっており、ダウンサイドリスクの回避が根底にあるとした。また、リスクは定量的なVaR計測が容易だと指摘。例えば、気候変動リスクについては、スコープ1、スコープ2二酸化炭素排出量や、将来の想定炭素価格から、想定損失額が計算できる。それに対し、将来の低炭素社会における消費者や市場ニーズを理解し、測定するのは容易ではない。

 一方、定量化の難しい「機会」の重要性を理解している企業や投資家は、

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 ESG投資を推進するニュースメディア英Responsible Investor。その日本支部が開催する年次カンファレンスのレスポンシブル・インベスター・カンファレンス東京(RI Tokyo 2020)が新型コロナウイルス・パンデミックを受け2021年に延期となり、10月28日から29日、オンライン版カンファレンス「RI Digital: Japan 2020『Designing the sustainable ‘new normal’』」が開催された。

 当社ニューラルもメディアサポーターとなった同カンファレンスには、ESG投資研究の大家であるハーバード・ビジネス・スクールのジョージ・セラフェイム教授も登壇。基調講演として、ESG投資の捉え方や日本企業の方向性について、自身の研究を踏まえ語った。

 まず同氏は、ESGが「リスク管理」として捉えられることが多い背景として、歴史と定量測定のしやすさがあると言及。歴史的には、ネガティブスクリーニングが発端となっており、ダウンサイドリスクの回避が根底にあるとした。また、リスクは定量的なVaR計測が容易だと指摘。例えば、気候変動リスクについては、スコープ1、スコープ2二酸化炭素排出量や、将来の想定炭素価格から、想定損失額が計算できる。それに対し、将来の低炭素社会における消費者や市場ニーズを理解し、測定するのは容易ではない。

 一方、定量化の難しい「機会」の重要性を理解している企業や投資家は、

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 ESG投資を推進するニュースメディア英Responsible Investor。その日本支部が開催する年次カンファレンスのレスポンシブル・インベスター・カンファレンス東京(RI Tokyo 2020)が新型コロナウイルス・パンデミックを受け2021年に延期となり、10月28日から29日、オンライン版カンファレンス「RI Digital: Japan 2020『Designing the sustainable ‘new normal’』」が開催された。

 当社ニューラルもメディアサポーターとなった同カンファレンスには、ESG投資研究の大家であるハーバード・ビジネス・スクールのジョージ・セラフェイム教授も登壇。基調講演として、ESG投資の捉え方や日本企業の方向性について、自身の研究を踏まえ語った。

 まず同氏は、ESGが「リスク管理」として捉えられることが多い背景として、歴史と定量測定のしやすさがあると言及。歴史的には、ネガティブスクリーニングが発端となっており、ダウンサイドリスクの回避が根底にあるとした。また、リスクは定量的なVaR計測が容易だと指摘。例えば、気候変動リスクについては、スコープ1、スコープ2二酸化炭素排出量や、将来の想定炭素価格から、想定損失額が計算できる。それに対し、将来の低炭素社会における消費者や市場ニーズを理解し、測定するのは容易ではない。

 一方、定量化の難しい「機会」の重要性を理解している企業や投資家は、将来志向で価値創造の指標を捉えていると評価。リスク管理の重要性は認めつつも、電気自動車(EV)市場の勃興や、消費者の健康意識の高まり等、経済のシステマチックな転換点を迎えているとした。

 また同氏は、価格競争力がある形で持続可能な商品・サービスを提供するには、膨大なイノベーション創出が必要だと指摘。現状では、炭素価格等の規制がない国が多く、持続可能な商品・サービスの適正価格が無いことを課題視した。イノベーションのジレンマとしては、既存商品・サービスの競合となってしまい、短期的に利益が減少することが多いと分析。経営の効率性を求めるのではなく、戦略的にESGを活用すべきだとした。

 同氏は、経営の効率性を「与えられた環境の中で、競争優位を作り出すために取り組むこと」、戦略を「差別化」と定義。競争から抜け出し、長期にわたり利益を創出するためには、近視眼的な効率性を追い求めるのではなく、長期志向で取り組むことが重要とした。

 具体的には、組織内の責任構造を明確化が必要だとし、トップダウン・ボトムアップ双方に言及。トップダウンについては、長期志向の適切なインセンティブのもと、取締役が取り組みを進め、その結果に応じて報酬委員会で判断すべきだとした。監査委員会は、自社コンプライアンスにとってマテリアルなESG指標について、査定すべきだとした。

 ボトムアップについては、多くの企業において、取締役が策定した目標やビジョンが、上手く現場レベルの日常業務まで落とし込めれていないと指摘。組織内の文化と共通したパーパスが必要だと語った。

 長期志向の時間軸については、機関投資家と企業による長期志向での資本投入へのシフトは、おおよそ5年から10年程かかると分析。企業には、長期間取り組むだけの余力が求められるだけでなく、機関投資家とのコミュニケーションを通じた、信頼関係を構築する必要があるとした。

 さらに話題は、将来志向のESGと国連持続可能な開発目標(SDGs)の関係性にまで至る。人口増加や気候変動等のメガトレンドへの対応には、数兆ドル規模の機会があり、そうした「機会」への対応を進めることは、結果的に、SDGsに密接に繋がってくるとした。

 逆に一部で根強く残る、ESG投資の収益性に関する懐疑論については、「誤ったアプローチ」と一蹴。ESGとして語られる非財務情報を考える上では、「より良い判断をするため、より良い情報をすべて持っているか」が本質的に重要だとした。

 その他、マクロ動向として米国の気候変動に対する方針にも触れた。米国では、トランプ政権下で気候変動に対する消極的な対応が目立つ中、9月16日に、米大手企業CEOの連合会ビジネス・ラウンドテーブル(BRT)が、前オバマ政権が掲げた米国の二酸化炭素排出量を2050年までに2005年比で80%削減する目標を支持すると発表した。

【参考】【アメリカ】ビジネス・ラウンドテーブル、オバマ時代の「米国CO2を2050年に80%減」支持。炭素価格導入要請(2020年9月17日)

 Responsible Investorとしても、どこまで米国が本気で取り組むのかについては様子見のようだったが、ジョージ・セラフェイム教授は、同様の動きは、米国に限らず、世界に共通すると回答。企業の多くが、インパクトの適正な管理にコミットするようになっており、組織の競争力にも影響し始めているという。今回のビジネス・ラウンドテーブルの声明も、同様の動きに呼応したものだと分析した。

 一方、日本については、現状の企業のESG評価が低いものの、製品のインパクトで見ると、他社比でポジティブインパクトなものも多く、競争力が高いと説明。多くの企業でイノベーションの創出に苦悩し、競争力を失っているが、従来から長期志向性の土壌があるため、不確実性に突き進むことが出来れば、リーダーとして牽引する存在にもなれると評価した。

 後半は、同氏の研究分野でもある「インパクト加重会計」にも言及。我々は、日々選択の中に生きているにも関わらず、これまでその選択のインパクトを測定してこなかったとし、インパクトの透明性の時代がくると強調した。

 同氏は、現状のESG関連の情報開示や目標設定等が、必ずしもインパクトという結果に繋がるわけではないことを課題視。結果としてのインパクト評価を追い求め、まずは環境インパクトと取り組みの測定に着手している。次いで、職場の質と機会、健康や幸福度、キャリアアップの可能性等、従業員やコミュニティへのインパクト測定を行い、その後、顧客やより広い範囲での地域コミュニティへの製品インパクトを測定。これらのインパクトを財務情報に統合する構え。

 最後に、EUタクソノミーやグリーンディールの議論や、IFRS、GRI、SSAB等の協働等の直近動きについては、適切なインパクト測定と透明性の向上に向け、世界が歩みを進めているとして歓迎。より良い情報を得るための土壌が整えられてきていると評価した。

【参照ページ】基調インタビュー【3】George Serafeim, Charles M. Williams Professor of Business Administration, Harvard Business School

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