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【金融】日本版スチュワードシップ・コード〜機関投資家のサステナビリティ責任〜

sri

サステナビリティと投資家

 

今日、サステナビリティ(CSR)と投資家との接点と言えば、多くの人が「社会責任投資」というキーワードを思い浮かべると思います。「社会的責任投資」は、英語でSRI(Socially Responsible Investment)とも呼ばれ、一般的には「企業の社会的責任の状況を考慮して行う投資のことと定義されています。

SRIの具体例として実施されてきたのがSRIファンド。SRIファンドには、?CSRの観点で望ましくない企業を投資先から外す投資信託(ネガティブ・スクリーニング)、?CSRの観点で優れている企業のみを投資先として選ぶ投資信託(ポジティブ・スクリーニング)があります。欧米では、SRIファンドには大きなお金がすでに集まっており、アメリカで約3.5兆ドル(2012年)、ヨーロッパでも約5兆ユーロ(2011年)のお金が運用されています。2013年末時点での日本の投資信託残高合計が127兆円ですので、欧米でのSRIファンドの大きさをイメージしていただけると思います。

一方、日本のSRIファンドの残高は2013年末時点で8577億円と大きくはありません。企業(投資先)にとって、投資家は重要なステークホルダーのひとつであり、投資家は企業の経営に重要な影響力をもつ主体です。SRIファンドが注目されないことは、日本の投資家はCSRに対する関心が低いことの現れなのではないかと、日本でCSRに携わる方々の中では懸念の持つ人が少なくなりませんでした。

日本には投資家からのCSR経営促進は図られないのか。そんな懸念が高まる中、2014年に新たなアプローチが始まりました。それが「日本版スチュワードシップ・コード」です。

 

日本版スチュワードシップ・コード

 

日本版スチュワードシップ・コードとは、2014年2月に日本の金融庁が公表した「責任ある機関投資家」の諸原則のことを言います。もともと、スチュワードシップ・コードは、イギリスの企業財務報告評議会(Financial Reporting Council)が2010年7月に公表した、英国企業株式を保有する機関投資家向けに策定した株主行動に関するガイドラインのことをいいます。今回日本の金融庁が策定した「責任ある機関投資家」の諸原則は、このイギリスの制度を参考にして作られたため、日本版スチュワードシップ・コードという名称がつけられました。

イギリスのスチュワードシップ・コードは、なぜ生まれたのでしょうか。発端は2008年のリーマン・ショックにまで遡ります。世界規模の金融危機を引き起こした事件の原因究明に際し、イギリスでは金融機関のコーポレート・ガバナンスが十分に機能していなかったことが主な原因だという見方が強くありました。そこで、その対策として、上場企業が自らコーポレート・ガバナンスを律するだけでなく、機関投資家が上場企業のコーポレート・ガバナンスにおいて積極的な役割を果たす必要があると考えられるようになりました。そして、資産運用を受託する機関投資家が、委託者の利益を実現するとともに、企業の長期的成功を促すことを目的に、スチュワードシップ・コードが策定されました。

日本で日本版スチュワードシップ・コードが作成された背景も、イギリスと同様。長期間の経済低迷からの脱却するための一つの策として、投資家から企業の持続的な成長を促すことの重要性が認識されたことにあります。

 

日本版スチュワードシップ・コードの内容

 

定められている原則は以下の7つです。

  1. 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
  2. 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
  3. 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。
  4. 機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである。
  5. 機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。
  6. 機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に報告を行うべきである。
  7. 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。

この中で、サステナビリティの観点で特に重要なのは、原則の3、5、6です。

ESG重視

原則3では、「機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。」と定められています。ここでいう「当該企業の状況について」、金融庁は「把握する内容としては、例えば、投資先企業のガバナンス、企業戦略、業績、資本構造、リスク(社会・環境問題に関連するリスクを含む)への対応など、非財務面の事項を含む様々な事項が想定されるが、(中略)機関投資家は、自らのスチュワードシップ責任に照らし、自ら判断を行うべきである。」と指針をだしており、ESG(環境・社会・ガバナンス)の側面が書かれています。

議決権行使

原則5、6では、スチュワードシップ責任を果たすために、議決権を積極的に行使することを求めています。これまで、日本の機関投資家や受託銀行たる信託銀行は議決権行使を積極的に行ってきておらず、この議決権行使の積極化が、日本版スチュワードシップ・コードの大きな目玉として取り上げられています。

 

日本版スチュワードシップ・コードによって何が変わるか?何を変えなければいけないか?

 

日本版スチュワードシップ・コードは、機関投資家、受託銀行、投資先企業それぞれに大きな影響を与えていきます。

機関投資家

機関投資家は、自らのスチュワードシップ責任に関する方針を定め、それを出資者に公開し、その方針のもとで投資先企業と対話をし、議決権行使をすることを求められていきます。日本版スチュワードシップ・コードは、イギリスのものと同様、法的拘束力を持つわけではありません。「Comply or Explain」という原則が採用され、スチュワードシップ・コードを順守するか、順守しない場合には相応の理由を説明することが求められています。しかし、先行しているイギリスでの実情としては、ほとんどの機関投資家がウェブサイトなどを通じてスチュワードシップ方針を公表し、その中でESGの側面を掲げるようになってきています。金融庁は、機関投資家に対して受入を表明するよう求めています。初回の公表期限は、2014年5月末で、受入を表明した企業名は金融庁により公開されます。

受託銀行

受託銀行は、これまで議決権を積極的に行使しなかった傾向がありますが、スチュワードシップ・コードに基づき、委託者である機関投資家に対し、議決権行使の対応を仰ぎ、機関投資家の意思を反映し積極的に議決権行使をするというオペレーションが求められていくことになります。

投資先企業

投資先企業は、企業の長期的継続を実現していく上でのESGを含むリスクを明らかにし、それを機関投資家や受託銀行と対話をしていくことが求められるようになります。これまで日本では、投資家対応は経営企画・IRの担当、CSRはCSR部署の担当と、業務が大きく分かれていた可能性がありますが、今後は機関投資家や投資顧問企業からCSRなど非財務情報も積極的に開示を求められたり、企業の意思決定に議決権を通じて介入することへの対応が必要となっていきます。

(夫馬賢治)

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サステナビリティと投資家

 

今日、サステナビリティ(CSR)と投資家との接点と言えば、多くの人が「社会責任投資」というキーワードを思い浮かべると思います。「社会的責任投資」は、英語でSRI(Socially Responsible Investment)とも呼ばれ、一般的には「企業の社会的責任の状況を考慮して行う投資のことと定義されています。

SRIの具体例として実施されてきたのがSRIファンド。SRIファンドには、?CSRの観点で望ましくない企業を投資先から外す投資信託(ネガティブ・スクリーニング)、?CSRの観点で優れている企業のみを投資先として選ぶ投資信託(ポジティブ・スクリーニング)があります。欧米では、SRIファンドには大きなお金がすでに集まっており、アメリカで約3.5兆ドル(2012年)、ヨーロッパでも約5兆ユーロ(2011年)のお金が運用されています。2013年末時点での日本の投資信託残高合計が127兆円ですので、欧米でのSRIファンドの大きさをイメージしていただけると思います。

一方、日本のSRIファンドの残高は2013年末時点で8577億円と大きくはありません。企業(投資先)にとって、投資家は重要なステークホルダーのひとつであり、投資家は企業の経営に重要な影響力をもつ主体です。SRIファンドが注目されないことは、日本の投資家はCSRに対する関心が低いことの現れなのではないかと、日本でCSRに携わる方々の中では懸念の持つ人が少なくなりませんでした。

日本には投資家からのCSR経営促進は図られないのか。そんな懸念が高まる中、2014年に新たなアプローチが始まりました。それが「日本版スチュワードシップ・コード」です。

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サステナビリティと投資家

 

今日、サステナビリティ(CSR)と投資家との接点と言えば、多くの人が「社会責任投資」というキーワードを思い浮かべると思います。「社会的責任投資」は、英語でSRI(Socially Responsible Investment)とも呼ばれ、一般的には「企業の社会的責任の状況を考慮して行う投資のことと定義されています。

SRIの具体例として実施されてきたのがSRIファンド。SRIファンドには、?CSRの観点で望ましくない企業を投資先から外す投資信託(ネガティブ・スクリーニング)、?CSRの観点で優れている企業のみを投資先として選ぶ投資信託(ポジティブ・スクリーニング)があります。欧米では、SRIファンドには大きなお金がすでに集まっており、アメリカで約3.5兆ドル(2012年)、ヨーロッパでも約5兆ユーロ(2011年)のお金が運用されています。2013年末時点での日本の投資信託残高合計が127兆円ですので、欧米でのSRIファンドの大きさをイメージしていただけると思います。

一方、日本のSRIファンドの残高は2013年末時点で8577億円と大きくはありません。企業(投資先)にとって、投資家は重要なステークホルダーのひとつであり、投資家は企業の経営に重要な影響力をもつ主体です。SRIファンドが注目されないことは、日本の投資家はCSRに対する関心が低いことの現れなのではないかと、日本でCSRに携わる方々の中では懸念の持つ人が少なくなりませんでした。

日本には投資家からのCSR経営促進は図られないのか。そんな懸念が高まる中、2014年に新たなアプローチが始まりました。それが「日本版スチュワードシップ・コード」です。

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サステナビリティと投資家

 

今日、サステナビリティ(CSR)と投資家との接点と言えば、多くの人が「社会責任投資」というキーワードを思い浮かべると思います。「社会的責任投資」は、英語でSRI(Socially Responsible Investment)とも呼ばれ、一般的には「企業の社会的責任の状況を考慮して行う投資のことと定義されています。

SRIの具体例として実施されてきたのがSRIファンド。SRIファンドには、?CSRの観点で望ましくない企業を投資先から外す投資信託(ネガティブ・スクリーニング)、?CSRの観点で優れている企業のみを投資先として選ぶ投資信託(ポジティブ・スクリーニング)があります。欧米では、SRIファンドには大きなお金がすでに集まっており、アメリカで約3.5兆ドル(2012年)、ヨーロッパでも約5兆ユーロ(2011年)のお金が運用されています。2013年末時点での日本の投資信託残高合計が127兆円ですので、欧米でのSRIファンドの大きさをイメージしていただけると思います。

一方、日本のSRIファンドの残高は2013年末時点で8577億円と大きくはありません。企業(投資先)にとって、投資家は重要なステークホルダーのひとつであり、投資家は企業の経営に重要な影響力をもつ主体です。SRIファンドが注目されないことは、日本の投資家はCSRに対する関心が低いことの現れなのではないかと、日本でCSRに携わる方々の中では懸念の持つ人が少なくなりませんでした。

日本には投資家からのCSR経営促進は図られないのか。そんな懸念が高まる中、2014年に新たなアプローチが始まりました。それが「日本版スチュワードシップ・コード」です。

 

日本版スチュワードシップ・コード

 

日本版スチュワードシップ・コードとは、2014年2月に日本の金融庁が公表した「責任ある機関投資家」の諸原則のことを言います。もともと、スチュワードシップ・コードは、イギリスの企業財務報告評議会(Financial Reporting Council)が2010年7月に公表した、英国企業株式を保有する機関投資家向けに策定した株主行動に関するガイドラインのことをいいます。今回日本の金融庁が策定した「責任ある機関投資家」の諸原則は、このイギリスの制度を参考にして作られたため、日本版スチュワードシップ・コードという名称がつけられました。

イギリスのスチュワードシップ・コードは、なぜ生まれたのでしょうか。発端は2008年のリーマン・ショックにまで遡ります。世界規模の金融危機を引き起こした事件の原因究明に際し、イギリスでは金融機関のコーポレート・ガバナンスが十分に機能していなかったことが主な原因だという見方が強くありました。そこで、その対策として、上場企業が自らコーポレート・ガバナンスを律するだけでなく、機関投資家が上場企業のコーポレート・ガバナンスにおいて積極的な役割を果たす必要があると考えられるようになりました。そして、資産運用を受託する機関投資家が、委託者の利益を実現するとともに、企業の長期的成功を促すことを目的に、スチュワードシップ・コードが策定されました。

日本で日本版スチュワードシップ・コードが作成された背景も、イギリスと同様。長期間の経済低迷からの脱却するための一つの策として、投資家から企業の持続的な成長を促すことの重要性が認識されたことにあります。

 

日本版スチュワードシップ・コードの内容

 

定められている原則は以下の7つです。

  1. 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
  2. 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
  3. 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。
  4. 機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである。
  5. 機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。
  6. 機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に報告を行うべきである。
  7. 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。

この中で、サステナビリティの観点で特に重要なのは、原則の3、5、6です。

ESG重視

原則3では、「機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。」と定められています。ここでいう「当該企業の状況について」、金融庁は「把握する内容としては、例えば、投資先企業のガバナンス、企業戦略、業績、資本構造、リスク(社会・環境問題に関連するリスクを含む)への対応など、非財務面の事項を含む様々な事項が想定されるが、(中略)機関投資家は、自らのスチュワードシップ責任に照らし、自ら判断を行うべきである。」と指針をだしており、ESG(環境・社会・ガバナンス)の側面が書かれています。

議決権行使

原則5、6では、スチュワードシップ責任を果たすために、議決権を積極的に行使することを求めています。これまで、日本の機関投資家や受託銀行たる信託銀行は議決権行使を積極的に行ってきておらず、この議決権行使の積極化が、日本版スチュワードシップ・コードの大きな目玉として取り上げられています。

 

日本版スチュワードシップ・コードによって何が変わるか?何を変えなければいけないか?

 

日本版スチュワードシップ・コードは、機関投資家、受託銀行、投資先企業それぞれに大きな影響を与えていきます。

機関投資家

機関投資家は、自らのスチュワードシップ責任に関する方針を定め、それを出資者に公開し、その方針のもとで投資先企業と対話をし、議決権行使をすることを求められていきます。日本版スチュワードシップ・コードは、イギリスのものと同様、法的拘束力を持つわけではありません。「Comply or Explain」という原則が採用され、スチュワードシップ・コードを順守するか、順守しない場合には相応の理由を説明することが求められています。しかし、先行しているイギリスでの実情としては、ほとんどの機関投資家がウェブサイトなどを通じてスチュワードシップ方針を公表し、その中でESGの側面を掲げるようになってきています。金融庁は、機関投資家に対して受入を表明するよう求めています。初回の公表期限は、2014年5月末で、受入を表明した企業名は金融庁により公開されます。

受託銀行

受託銀行は、これまで議決権を積極的に行使しなかった傾向がありますが、スチュワードシップ・コードに基づき、委託者である機関投資家に対し、議決権行使の対応を仰ぎ、機関投資家の意思を反映し積極的に議決権行使をするというオペレーションが求められていくことになります。

投資先企業

投資先企業は、企業の長期的継続を実現していく上でのESGを含むリスクを明らかにし、それを機関投資家や受託銀行と対話をしていくことが求められるようになります。これまで日本では、投資家対応は経営企画・IRの担当、CSRはCSR部署の担当と、業務が大きく分かれていた可能性がありますが、今後は機関投資家や投資顧問企業からCSRなど非財務情報も積極的に開示を求められたり、企業の意思決定に議決権を通じて介入することへの対応が必要となっていきます。

(夫馬賢治)

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