Sustainable Japan | 世界のサステナビリティ・ESG投資・SDGs

【対談】コムジェストの日本株アクティブ戦略を支える投資哲学 〜成長性判断とESGの結節点〜

 銘柄を厳選したアクティブ運用で知られる仏コムジェスト・アセット・マネジメント。同社の「コムジェスト日本株式戦略」は、投資パフォーマンスの高い運用会社を表彰する「マーサーMPA(JAPAN)アワード」の「国内株式大型部門」で、過去3年間連続で受賞しているほど、優れた投資戦略で知られる。また、同社は、いち早くESG投資を投資意思決定に体系的に組み入れたことでも有名だ。

 今回は、同社の日本株アナリスト兼ファンドマネジャーのチャンタナ・ワード氏、および同アナリスト兼ポートフォリオアドバイザーのリチャード・ケイ氏に話を聞いた。チャンタナ氏は、Citywire「女性ファンドマネジャーベスト30」にも選出されている。

投資哲学

夫馬
 コムジェストの投資哲学は?

リチャード・ケイ氏

 当社は、「クオリティグロース」を投資哲学としています。「5年年率2桁の成長ができるか?」という投資基準を設定し、経営者の「人」を見極めた長期投資を行っています。特に、

  • 経営者の考えや方向性に独自性があり、信頼のおける人物か?
  • 潜在性のある業界で、世界的に参入障壁の高い事業を展開する企業か?
  • 自分自身が投資を行いたいと心から思える企業か?

の3点が全ての運用戦略に共通していることも特徴です。投資対象の絞り込みとしては、まず時価総額や継続的な成長性でスクリーニングを実施。スクリーニング後の企業に対するファンダメンタル調査結果から投資ユニバースを設定しています。

 次に、ユニバースへのESG評価を行い、「ESGリーダー」「基本レベル」「最低限レベル」「要改善レベル」の4段階でレーティングし、それに応じて、バリュエーション時のディスカウントレートを一律加減することを決めています。そのため、同レーティングが「要改善レベル」でも、将来非常に高いグロースが期待できる場合には、投資をし、エンゲージメントを通じた改善を試みています。将来の成長を見通す上では、経営者のベクトルを長期的にウォッチした上で投資判断を行っています。

経営者を見るということ

夫馬
 コムジェストは長年、投資先の「経営者」に着目されていますが、ステークホルダーとの関係性や人柄は、ホームページ等だけでは見えづらいですよね。ESGというと、一般的にはESG評価機関のスコアに頼る運用会社も多い中、コムジェストはどういった情報源を基に判断していますか?

ケイ氏
 もちろん、企業データとしては、評価機関の定量データも活用していますが、アナリストが自分で見聞きした一次情報を重視しています。例えば、経営者の方とも最低年1回は、直接お話させていただいておりますし、ユニクロのような小売業であれば、実際に店舗に足を運んで、顧客との関係性等から本能的に感じ取る場合もあります。そうして選出した企業を長期間継続ウォッチすることで、人柄等の見えづらい部分を明らかにしていきます。そのため、オリエンタルランドのように、注目し始めてから実際の投資までに15年を要したケースもある程です。

夫馬

 非常に長期に渡りウォッチした上で投資判断されていますが、一方で日本企業の社長は、5年程度で交代することも多くあります。代替わりしてしまうと、長年築き上げてきた信頼関係が、ある意味では、振り出しに戻るようにも感じられますが、どのように対応されているのでしょうか?

ケイ氏
 たしかに、経営者を見た判断を行う上で、代替わりは正直悩ましい部分です。現状、コムジェストの投資先の約4分の1は創業経営者ですが、ポスト創業者となった時に、従来と同様の判断ができるかは、どうしても不確実性が残ります。しかし、だからこそガバナンス観点の注視が必要だと考えています。日本企業に対し、取締役会の機能を質問することは、あまり歓迎されませんが、ポスト創業者の体制が盤石であることは、非常に重要なポイントになります。

日本株アナリストとESGアナリストの関係性

夫馬
 コムジェストでは、各地域市場担当のアナリストとは別に、ESGアナリストも配置しはじめたと伺っています。チャンタナさん、リチャードさん共に日本株アナリストですが、ESGアナリストとはどのようなコミュニケーションをとっていますか?

ケイ氏
 ESGアナリストは、運用担当のアナリスト向けに投資レポートを作成しています。その際、評価機関の評価自体には着目せず、二酸化炭素排出量等のデータを集計し、独自判断の上で、ESGレーティングを行っています。ただし、ESGレーティングだけで杓子定規に投資判断するわけではありません。もちろん、カーボンフットプリントや社外取締役の数等のKPIは確認しますが、ESG観点を組み込む際には、地域的・文化的コンテクストを考慮することが重要です。たとえば、ESGレーティングが芳しくない企業があった場合には、「投資を控えるべきか?」「何をすれば良くなるのか?」等を、日本株アナリストとESGアナリスト協働で検討しています。ESG意識の高い海外ファンドも多くなる中だからこそ、地域的なコンテクストを踏まえ、説明できることが付加価値になると考えています。

夫馬
 コムジェストは、グロース株への投資を大事にされていますが、たとえば小型株には、評価機関にカバーされていない銘柄も多くあります。ESGアナリストの独自判断がますます重要になる領域ですね。

ケイ氏
 当社ポートフォリオの約半数は中小企業で構成されているため、仰る通り、評価機関にカバーされていない場合が少なくありません。そのため、たとえば英語が話せない企業には、当社日本人アナリストを介して、メールや面談をし、コミュニケーションを図るようにしています。

ESGと企業成長性をどう見るか

夫馬
 ESGは「機会」と「リスク」の面から語ることができます。ESGアナリストや評価機関は、ダウンサイドリスクの観点からESGを意識することが多いですが、成長性を重視するコムジェストでは、ESGをどのように捉えていますか。また、コムジェストとして、特に注目しているESG課題等がありましたら伺いたいです。

ケイ氏
 社会的なニーズを満たすことは、企業の成長性において重要なファクターだと考えています。たとえば日本では、人口減少や人手不足等の社会課題がありますが、そうした環境に適応できる会社に対し、投資を行うようにしています。

チャンタナ・ワード氏

 加えて、ESGはいずれ業績にインパクトを与え得る情報だと考えています。コムジェストは、長期的に高い利益成長を見込むことのできる企業に投資しているため、ESGとの親和性は高いと捉えています。ESG課題は、企業・業種ごとに注目するポイントが異なりますが、敢えて共通した課題を挙げるとすれば、企業側がESGを「積極的に発信すべき情報」だとは認識していないことだと思います。

手数料と顧客との関わり

夫馬
 コムジェストはきめ細やかな調査や分析を行われていますが、一方で機関投資家は手数料にも厳しくなってきています。コムジェストとしては、手数料についてどのような考えを持ち、今後どのように対応していこうと考えていますか?

ケイ氏
 戦略的に設定した投資キャパシティの限界が見えているファンドについては、これ以上のファンド規模拡大が困難なため、値下げは基本的に検討していません。コムジェストの投資哲学を理解いただき、手数料を許容してくださるお客様と長くお付き合いしたいと考えています。

ワード氏
 コムジェストは一貫した投資哲学の下、フラットな組織運営・チーム運用によってクオリティグロース企業を綿密に調査・発掘しております。多角的な分析、ノウハウの共有により、安定したファンドパフォーマンスに繋げることで応えたいと思います。

夫馬
 コムジェストとしての投資哲学が非常にユニークであることがよく伝わってきますが、アナリストの取り組み方にも特徴があるのでしょうか?

ケイ氏
 セクター別にアナリストを置かず、各自の関心高い銘柄の調査を行っているのは、当社の特徴だと思います。一部の経営者だけでなく、各社員がコムジェストの自社株を保有しているため、各自が「自分自身が投資を行いたいと心から思える企業か?」という当事者意識を強く持ち、投資判断でも活発な議論がなされています。また、フラットな組織で、互い良いところも悪いところも共有する文化のため、離職率が低く、各自が楽しんで仕事ができる環境だと考えています。

今後の日本市場と日本企業

夫馬
 日本市場は、長年、低成長に苦しんできました。コムジェストとしては、日本市場の将来性をどのように見られていますか。また、日本株を見ている中で、どういった分野に成長性の兆しを感じています?。

ワード氏
 日本には、クオリティグロース企業が数多くあり、魅力的な市場だと捉えています。ただし、TOPIX等のインデックスで大きなウエイトを占める銀行や自動車株が、今後の日本の成長性や資本効率を示しているとは考えていません。TOPIX連動のインデックス運用よりもアクティブ運用でこそ、日本の魅力を体現できると考えています。

ケイ氏
 上場しているのが日本というだけで、事業のメイン市場を海外にフォーカスしている日本企業も多くあります。また、日本独特のニーズから生まれた医療技術が、世界で通用するケースもある等、成長性を見出せる企業はまだまだ日本にも存在していると考えています。

夫馬
 日本企業に共通する課題や改善点としては、何があると考えていますか?

ワード氏
 日本独特の終身雇用からくる危機感の希薄さや、若い経営者の欠如は、日本企業全体を通じて課題として感じています。その他にも高い法人税率や規制等、日本が構造的に抱える弊害があります。こうした課題を一朝一夕で改善するのは困難ですが、他国と同等の水準で「株主を尊重した経営」が求められると考えています。

ケイ氏
 日本企業には、中国等のアジア市場を主戦場とする成長企業があるにも関わらず、日本国のGDP成長が鈍化しているため、海外投資家から注目を浴びづらい面があります。一方、昨今では日本企業のEPS改善を見て、海外投資家から日本企業を見直す動きもあるため、当社でも海外投資家向けに日本株のPRを積極的に行うようにしています。

ワード氏
 日本市場に閉じず、海外市場に打ち出していく必要があるため、「形式的な株主の共通した利益に配慮した行動をとる」「資本コストと回収率、回収期間を事業ごとに定め、外向きにコミットする」「海外M&Aの際に、焦らず綿密な調査の下で海外展開を進める」の大きく3つのポイントが重要になると考えています。

夫馬
 日本企業は、欧州と比べESG観点で遅れをとっていると見られがちです。海外投資家に対し、日本の現状をどう説明していきますか?

ワード氏
 たしかに、日本ではまだ情報開示やESGの概念が欧州企業ほど浸透していません。しかし、日本企業は理念や企業文化を大切にしてきた背景があり、自主的に情報開示をしていなくとも、個別に質問をすると回答が得られることも少なくありません。こうした実態を当社がPRすることで、ESGに高い意識を持った投資家にも理解を得ています。特に創業者が長く経営に関わっている場合、一貫した戦略があるにも関わらず、未開示ゆえに評価されていないケースも多く見られます。今後、日本企業には情報開示レベルの向上を期待します。

ここから先は登録ユーザー限定のコンテンツとなります。ログインまたはユーザー登録を行って下さい。

 銘柄を厳選したアクティブ運用で知られる仏コムジェスト・アセット・マネジメント。同社の「コムジェスト日本株式戦略」は、投資パフォーマンスの高い運用会社を表彰する「マーサーMPA(JAPAN)アワード」の「国内株式大型部門」で、過去3年間連続で受賞しているほど、優れた投資戦略で知られる。また、同社は、いち早くESG投資を投資意思決定に体系的に組み入れたことでも有名だ。

 今回は、同社の日本株アナリスト兼ファンドマネジャーのチャンタナ・ワード氏、および同アナリスト兼ポートフォリオアドバイザーのリチャード・ケイ氏に話を聞いた。チャンタナ氏は、Citywire「女性ファンドマネジャーベスト30」にも選出されている。

投資哲学

夫馬
 コムジェストの投資哲学は?

リチャード・ケイ氏

 当社は、「クオリティグロース」を投資哲学としています。「5年年率2桁の成長ができるか?」という投資基準を設定し、経営者の「人」を見極めた長期投資を行っています。特に、

  • 経営者の考えや方向性に独自性があり、信頼のおける人物か?
  • 潜在性のある業界で、世界的に参入障壁の高い事業を展開する企業か?
  • 自分自身が投資を行いたいと心から思える企業か?

の3点が全ての運用戦略に共通していることも特徴です。投資対象の絞り込みとしては、まず時価総額や継続的な成長性でスクリーニングを実施。スクリーニング後の企業に対するファンダメンタル調査結果から投資ユニバースを設定しています。

 次に、ユニバースへのESG評価を行い、「ESGリーダー」「基本レベル」「最低限レベル」「要改善レベル」の4段階でレーティングし、それに応じて、バリュエーション時のディスカウントレートを一律加減することを決めています。そのため、同レーティングが「要改善レベル」でも、将来非常に高いグロースが期待できる場合には、投資をし、エンゲージメントを通じた改善を試みています。将来の成長を見通す上では、経営者のベクトルを長期的にウォッチした上で投資判断を行っています。

経営者を見るということ

夫馬
 コムジェストは長年、投資先の「経営者」に着目されていますが、ステークホルダーとの関係性や人柄は、ホームページ等だけでは見えづらいですよね。ESGというと、一般的にはESG評価機関のスコアに頼る運用会社も多い中、コムジェストはどういった情報源を基に判断していますか?

ケイ氏
 もちろん、企業データとしては、評価機関の定量データも活用していますが、

ここから先は登録ユーザー限定のコンテンツとなります。ログインまたはユーザー登録を行って下さい。

 銘柄を厳選したアクティブ運用で知られる仏コムジェスト・アセット・マネジメント。同社の「コムジェスト日本株式戦略」は、投資パフォーマンスの高い運用会社を表彰する「マーサーMPA(JAPAN)アワード」の「国内株式大型部門」で、過去3年間連続で受賞しているほど、優れた投資戦略で知られる。また、同社は、いち早くESG投資を投資意思決定に体系的に組み入れたことでも有名だ。

 今回は、同社の日本株アナリスト兼ファンドマネジャーのチャンタナ・ワード氏、および同アナリスト兼ポートフォリオアドバイザーのリチャード・ケイ氏に話を聞いた。チャンタナ氏は、Citywire「女性ファンドマネジャーベスト30」にも選出されている。

投資哲学

夫馬
 コムジェストの投資哲学は?

リチャード・ケイ氏

 当社は、「クオリティグロース」を投資哲学としています。「5年年率2桁の成長ができるか?」という投資基準を設定し、経営者の「人」を見極めた長期投資を行っています。特に、

  • 経営者の考えや方向性に独自性があり、信頼のおける人物か?
  • 潜在性のある業界で、世界的に参入障壁の高い事業を展開する企業か?
  • 自分自身が投資を行いたいと心から思える企業か?

の3点が全ての運用戦略に共通していることも特徴です。投資対象の絞り込みとしては、まず時価総額や継続的な成長性でスクリーニングを実施。スクリーニング後の企業に対するファンダメンタル調査結果から投資ユニバースを設定しています。

 次に、ユニバースへのESG評価を行い、「ESGリーダー」「基本レベル」「最低限レベル」「要改善レベル」の4段階でレーティングし、それに応じて、バリュエーション時のディスカウントレートを一律加減することを決めています。そのため、同レーティングが「要改善レベル」でも、将来非常に高いグロースが期待できる場合には、投資をし、エンゲージメントを通じた改善を試みています。将来の成長を見通す上では、経営者のベクトルを長期的にウォッチした上で投資判断を行っています。

経営者を見るということ

夫馬
 コムジェストは長年、投資先の「経営者」に着目されていますが、ステークホルダーとの関係性や人柄は、ホームページ等だけでは見えづらいですよね。ESGというと、一般的にはESG評価機関のスコアに頼る運用会社も多い中、コムジェストはどういった情報源を基に判断していますか?

ケイ氏
 もちろん、企業データとしては、評価機関の定量データも活用していますが、

ここから先は登録ユーザー限定のコンテンツとなります。ログインまたはユーザー登録を行って下さい。

ここから先は有料登録会員限定のコンテンツとなります。有料登録会員へのアップグレードを行って下さい。

 銘柄を厳選したアクティブ運用で知られる仏コムジェスト・アセット・マネジメント。同社の「コムジェスト日本株式戦略」は、投資パフォーマンスの高い運用会社を表彰する「マーサーMPA(JAPAN)アワード」の「国内株式大型部門」で、過去3年間連続で受賞しているほど、優れた投資戦略で知られる。また、同社は、いち早くESG投資を投資意思決定に体系的に組み入れたことでも有名だ。

 今回は、同社の日本株アナリスト兼ファンドマネジャーのチャンタナ・ワード氏、および同アナリスト兼ポートフォリオアドバイザーのリチャード・ケイ氏に話を聞いた。チャンタナ氏は、Citywire「女性ファンドマネジャーベスト30」にも選出されている。

投資哲学

夫馬
 コムジェストの投資哲学は?

リチャード・ケイ氏

 当社は、「クオリティグロース」を投資哲学としています。「5年年率2桁の成長ができるか?」という投資基準を設定し、経営者の「人」を見極めた長期投資を行っています。特に、

  • 経営者の考えや方向性に独自性があり、信頼のおける人物か?
  • 潜在性のある業界で、世界的に参入障壁の高い事業を展開する企業か?
  • 自分自身が投資を行いたいと心から思える企業か?

の3点が全ての運用戦略に共通していることも特徴です。投資対象の絞り込みとしては、まず時価総額や継続的な成長性でスクリーニングを実施。スクリーニング後の企業に対するファンダメンタル調査結果から投資ユニバースを設定しています。

 次に、ユニバースへのESG評価を行い、「ESGリーダー」「基本レベル」「最低限レベル」「要改善レベル」の4段階でレーティングし、それに応じて、バリュエーション時のディスカウントレートを一律加減することを決めています。そのため、同レーティングが「要改善レベル」でも、将来非常に高いグロースが期待できる場合には、投資をし、エンゲージメントを通じた改善を試みています。将来の成長を見通す上では、経営者のベクトルを長期的にウォッチした上で投資判断を行っています。

経営者を見るということ

夫馬
 コムジェストは長年、投資先の「経営者」に着目されていますが、ステークホルダーとの関係性や人柄は、ホームページ等だけでは見えづらいですよね。ESGというと、一般的にはESG評価機関のスコアに頼る運用会社も多い中、コムジェストはどういった情報源を基に判断していますか?

ケイ氏
 もちろん、企業データとしては、評価機関の定量データも活用していますが、アナリストが自分で見聞きした一次情報を重視しています。例えば、経営者の方とも最低年1回は、直接お話させていただいておりますし、ユニクロのような小売業であれば、実際に店舗に足を運んで、顧客との関係性等から本能的に感じ取る場合もあります。そうして選出した企業を長期間継続ウォッチすることで、人柄等の見えづらい部分を明らかにしていきます。そのため、オリエンタルランドのように、注目し始めてから実際の投資までに15年を要したケースもある程です。

夫馬

 非常に長期に渡りウォッチした上で投資判断されていますが、一方で日本企業の社長は、5年程度で交代することも多くあります。代替わりしてしまうと、長年築き上げてきた信頼関係が、ある意味では、振り出しに戻るようにも感じられますが、どのように対応されているのでしょうか?

ケイ氏
 たしかに、経営者を見た判断を行う上で、代替わりは正直悩ましい部分です。現状、コムジェストの投資先の約4分の1は創業経営者ですが、ポスト創業者となった時に、従来と同様の判断ができるかは、どうしても不確実性が残ります。しかし、だからこそガバナンス観点の注視が必要だと考えています。日本企業に対し、取締役会の機能を質問することは、あまり歓迎されませんが、ポスト創業者の体制が盤石であることは、非常に重要なポイントになります。

日本株アナリストとESGアナリストの関係性

夫馬
 コムジェストでは、各地域市場担当のアナリストとは別に、ESGアナリストも配置しはじめたと伺っています。チャンタナさん、リチャードさん共に日本株アナリストですが、ESGアナリストとはどのようなコミュニケーションをとっていますか?

ケイ氏
 ESGアナリストは、運用担当のアナリスト向けに投資レポートを作成しています。その際、評価機関の評価自体には着目せず、二酸化炭素排出量等のデータを集計し、独自判断の上で、ESGレーティングを行っています。ただし、ESGレーティングだけで杓子定規に投資判断するわけではありません。もちろん、カーボンフットプリントや社外取締役の数等のKPIは確認しますが、ESG観点を組み込む際には、地域的・文化的コンテクストを考慮することが重要です。たとえば、ESGレーティングが芳しくない企業があった場合には、「投資を控えるべきか?」「何をすれば良くなるのか?」等を、日本株アナリストとESGアナリスト協働で検討しています。ESG意識の高い海外ファンドも多くなる中だからこそ、地域的なコンテクストを踏まえ、説明できることが付加価値になると考えています。

夫馬
 コムジェストは、グロース株への投資を大事にされていますが、たとえば小型株には、評価機関にカバーされていない銘柄も多くあります。ESGアナリストの独自判断がますます重要になる領域ですね。

ケイ氏
 当社ポートフォリオの約半数は中小企業で構成されているため、仰る通り、評価機関にカバーされていない場合が少なくありません。そのため、たとえば英語が話せない企業には、当社日本人アナリストを介して、メールや面談をし、コミュニケーションを図るようにしています。

ESGと企業成長性をどう見るか

夫馬
 ESGは「機会」と「リスク」の面から語ることができます。ESGアナリストや評価機関は、ダウンサイドリスクの観点からESGを意識することが多いですが、成長性を重視するコムジェストでは、ESGをどのように捉えていますか。また、コムジェストとして、特に注目しているESG課題等がありましたら伺いたいです。

ケイ氏
 社会的なニーズを満たすことは、企業の成長性において重要なファクターだと考えています。たとえば日本では、人口減少や人手不足等の社会課題がありますが、そうした環境に適応できる会社に対し、投資を行うようにしています。

チャンタナ・ワード氏

 加えて、ESGはいずれ業績にインパクトを与え得る情報だと考えています。コムジェストは、長期的に高い利益成長を見込むことのできる企業に投資しているため、ESGとの親和性は高いと捉えています。ESG課題は、企業・業種ごとに注目するポイントが異なりますが、敢えて共通した課題を挙げるとすれば、企業側がESGを「積極的に発信すべき情報」だとは認識していないことだと思います。

手数料と顧客との関わり

夫馬
 コムジェストはきめ細やかな調査や分析を行われていますが、一方で機関投資家は手数料にも厳しくなってきています。コムジェストとしては、手数料についてどのような考えを持ち、今後どのように対応していこうと考えていますか?

ケイ氏
 戦略的に設定した投資キャパシティの限界が見えているファンドについては、これ以上のファンド規模拡大が困難なため、値下げは基本的に検討していません。コムジェストの投資哲学を理解いただき、手数料を許容してくださるお客様と長くお付き合いしたいと考えています。

ワード氏
 コムジェストは一貫した投資哲学の下、フラットな組織運営・チーム運用によってクオリティグロース企業を綿密に調査・発掘しております。多角的な分析、ノウハウの共有により、安定したファンドパフォーマンスに繋げることで応えたいと思います。

夫馬
 コムジェストとしての投資哲学が非常にユニークであることがよく伝わってきますが、アナリストの取り組み方にも特徴があるのでしょうか?

ケイ氏
 セクター別にアナリストを置かず、各自の関心高い銘柄の調査を行っているのは、当社の特徴だと思います。一部の経営者だけでなく、各社員がコムジェストの自社株を保有しているため、各自が「自分自身が投資を行いたいと心から思える企業か?」という当事者意識を強く持ち、投資判断でも活発な議論がなされています。また、フラットな組織で、互い良いところも悪いところも共有する文化のため、離職率が低く、各自が楽しんで仕事ができる環境だと考えています。

今後の日本市場と日本企業

夫馬
 日本市場は、長年、低成長に苦しんできました。コムジェストとしては、日本市場の将来性をどのように見られていますか。また、日本株を見ている中で、どういった分野に成長性の兆しを感じています?。

ワード氏
 日本には、クオリティグロース企業が数多くあり、魅力的な市場だと捉えています。ただし、TOPIX等のインデックスで大きなウエイトを占める銀行や自動車株が、今後の日本の成長性や資本効率を示しているとは考えていません。TOPIX連動のインデックス運用よりもアクティブ運用でこそ、日本の魅力を体現できると考えています。

ケイ氏
 上場しているのが日本というだけで、事業のメイン市場を海外にフォーカスしている日本企業も多くあります。また、日本独特のニーズから生まれた医療技術が、世界で通用するケースもある等、成長性を見出せる企業はまだまだ日本にも存在していると考えています。

夫馬
 日本企業に共通する課題や改善点としては、何があると考えていますか?

ワード氏
 日本独特の終身雇用からくる危機感の希薄さや、若い経営者の欠如は、日本企業全体を通じて課題として感じています。その他にも高い法人税率や規制等、日本が構造的に抱える弊害があります。こうした課題を一朝一夕で改善するのは困難ですが、他国と同等の水準で「株主を尊重した経営」が求められると考えています。

ケイ氏
 日本企業には、中国等のアジア市場を主戦場とする成長企業があるにも関わらず、日本国のGDP成長が鈍化しているため、海外投資家から注目を浴びづらい面があります。一方、昨今では日本企業のEPS改善を見て、海外投資家から日本企業を見直す動きもあるため、当社でも海外投資家向けに日本株のPRを積極的に行うようにしています。

ワード氏
 日本市場に閉じず、海外市場に打ち出していく必要があるため、「形式的な株主の共通した利益に配慮した行動をとる」「資本コストと回収率、回収期間を事業ごとに定め、外向きにコミットする」「海外M&Aの際に、焦らず綿密な調査の下で海外展開を進める」の大きく3つのポイントが重要になると考えています。

夫馬
 日本企業は、欧州と比べESG観点で遅れをとっていると見られがちです。海外投資家に対し、日本の現状をどう説明していきますか?

ワード氏
 たしかに、日本ではまだ情報開示やESGの概念が欧州企業ほど浸透していません。しかし、日本企業は理念や企業文化を大切にしてきた背景があり、自主的に情報開示をしていなくとも、個別に質問をすると回答が得られることも少なくありません。こうした実態を当社がPRすることで、ESGに高い意識を持った投資家にも理解を得ています。特に創業者が長く経営に関わっている場合、一貫した戦略があるにも関わらず、未開示ゆえに評価されていないケースも多く見られます。今後、日本企業には情報開示レベルの向上を期待します。

ここから先は登録ユーザー限定のコンテンツとなります。ログインまたはユーザー登録を行って下さい。