Sustainable Japan | 世界のサステナビリティ・ESG投資・SDGs

【インタビュー】RTRSに聞く持続可能な大豆の促進への課題と対応 ~日本企業との対話に見た今後への期待~

 私たちの生活に直接的、間接的に密接に関わり、最も馴染み深い食材の一つとも言える大豆。日本では、豆腐や納豆、食用油等の加工食品だけでなく、家畜の配合飼料としても利用されている。馴染み深さにも関わらず、大豆の自給率は2016年時点で7%程度と低く、大半は輸入頼り。さらに大豆サプライチェーン上には、人権侵害や環境破壊等の課題も多く、それらは見落とされがちである。

 こうした課題を背景に、持続可能な大豆生産認証策定「持続可能な大豆のための円卓会議(RTRS)」は、大豆バリューチェーン上のステークホルダーらと協働。大豆生産、サプライヤー、大豆関連商品製造、小売、金融機関、NGO等との対話を通じ、持続可能な大豆の生産、取引、活用を促進している。同認証は、東京オリンピックの「持続可能性に配慮した調達コード」にも採用されており、今後、日本企業との関わりも大きくなることが想定される。

 今回は、同団体のエグゼクティブ・ディレクターのマルセロ・ヴィスコンティ氏、およびテクニカル・ユニット・オフィサーのダニエル・カジミエルスキ氏に話を聞いた。同氏らは、日本に対しても積極的なエンゲージメントを実施。インタビュー当日2020年1月22日も、一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC;アスク)と協働で、セミナーを開催した。

大豆サプライチェーンの重要性

菊池
 グローバル企業の大豆サプライチェーンにおける課題をどのように見られていますか?

ヴィスコンティ氏
 私たちは、マルチステークホルダー型のプラットフォーム運営者および認証スキーム策定者として、包括的な見地のもと、大豆サプライチェーン上の課題に対応しています。RTRS認証では、環境・社会・経済をすべて同等に扱っており、それらすべてに偏りなく対応することが重要だと考えています。

 RTRS認証は、法令順守や責任あるビジネス慣行に焦点を当てていますが、たとえば、環境観点では、森林伐採ゼロ基準を採用し、このスキームの基にした生物多様性の保護等を促進しています。社会観点では、性差別だけでなく児童労働、労働基本権、地域コミュニティとの関係等もカバーしています。

菊池
 RTRSは、大豆サプライチェーン上の企業に対し、どのようなエンゲージメントを行っているのでしょうか?

ヴィスコンティ氏
 私たちは、ステークホルダーとの対話や協働を通じたエンゲージメントを行っております。今回のASSCとのセミナー開催も、その一つです。適切な認証スタンダードでなければならないと考えているため、ステークホルダーとの声を積極的に吸い上げ、継続的な改善に取り組んでいます。

マクロ観点で見た大豆

菊池
 今後も世界の大豆需要は高まる一方、従来の森林開拓を伴う大豆生産拡大は持続可能ではありません。どのようにして大豆生産を拡大すべきとお考えでしょうか。

ヴィスコンティ氏
 持続可能な形での大豆生産が必要となってきており、まさに持続可能な大豆生産、取引、利用を促進する私たちが貢献できる点だと考えています。優れたバイオ製品や化学物質等、生産性向上に役立つ最新技術が今後開発されていくでしょうが、そうした技術を促進する役割を担って参ります。

菊池
 大豆は、肉に替わる代替たんぱく質としても注目も集めていますが、こうしたトレンドに関して何か課題視していることはありますでしょうか。

ヴィスコンティ氏
 大豆が代替たんぱく質として注目されること関しては、何ら問題と考えてはおりません。事実、2007年から2017年の間に、グローバルでの大豆生産は37%伸びましたが、持続可能な大豆の生産面積は、それ以上に拡大しています。私が取り組むべきは、代替たんぱく質の拡大に向けた努力です。こうしたトレンドを避けようものなら、私たちの社会は瓦解に向けっていくでしょう。歩みを進めることが重要です。

 また、現在、市場の成熟度に応じ、認証スタンダードの基準を高めようとしています。もちろん、持続可能な大豆生産のかたちは一つではないため、ステークホルダーらの取り組みも、しっかりと認識しなければならないと考えております。

菊池
 パーム油のRSPO認証では、認証取得農園であっても実際には、環境破壊があったことが発見される等の問題が生じています。RTRSでは、認証農園等へのガバナンスやモニタリング、デューデリジェンスを、どのように担保していくのでしょうか?

カジミエルスキ氏
 まず、RTRS自身のガバナンスについて説明しますと、私たちは、上流工程や下流工程に偏ったマネジメントにならないよう、サプライチェーン上の各業種から会員企業を募っています。そして、認証農園等へのデューデリジェンスについては、認定機関からの第三者認証を受けることを、農園に対し要求しています。

 遺伝子組換え作物(GMO)・非GMO共に、世界中の小規模農家から、大規模農家に至るまでカバーしており、すべての情報は監査され、透明性が担保されなければならないと考えております。事実、RTRS認証スキームは、国際環境NGO国際自然保護連合(IUCN)による「Forested wetlands and biodiversity protection」「Standards level of assurance」 の2つの評価において、他の認証スタンダードを抑え、最高レベルの評価を受けています。

日本企業について

菊池
 欧米系のグローバル企業とは異なる、日本企業独自の課題は何かありますでしょうか?

ヴィスコンティ氏
 基本的にグローバルの課題は、日本にも当てはまると言えるでしょう。東京オリンピックの「持続可能性に配慮した調達コード」のもと、日本企業はグローバルスタンダードに従う必要が出てきます。こうしたプロセスの中で、日本独自の課題はより浮彫になると考えており、その際には対話を通じて共に乗り越えていきたいと考えています。

菊池
 たとえば認証大豆に対し、コスト増を懸念する日本企業も少なくありませんが、認証大豆の使用を推進するにあたり、こうした懸念を解消するにはどうすれば良いとお考えでしょうか?

ヴィスコンティ氏
 私たちは生産者の価格には、関与しておりません。しかしながら、投資家の動向が一つポイントになるのではないかと考えております。昨今、投資家はリスク管理の観点から、持続可能な調達ポリシーのない企業への投資を手控えるようになってきています。その点、RTRS等の認証大豆は、投資家から歓迎され、競争優位を築くことができるため、単なるコスト増にはならないと言えるでしょう。

菊池
 RTRSはセミナー等を通じ、質疑応答や事後の個別相談会等で、積極的に日本企業との対話やエンゲージメントに取り組まれていると思います。一方で、企業側の自主的な意見表明が必要な面もあり、また言語が足枷となる場合もあるため、十分な対話が行われるかに懸念もあります。こうした点について、どのようにお考えでしょうか。また、今後、日本企業にどのようなことを期待されますか?

ヴィスコンティ氏
 対話については、あまり心配しておりません。実際、今回のセミナー参加企業から上がった質問は、非常に的を得たもので、驚かされました。1964年のオリンピック同様、2020年東京オリンピックは、日本にとってターニングポイントになり得ると考えています。歴史的、革新的なイベントを有効活用し、包括的な戦略策定や消費者の認識を醸成することを推奨します。

 RTRSコミュニティへの参画や、私たちの開催するセミナーに参加いただくのも、その一つ。対話は大きな一歩となるでしょう。私たちとしても、対話なくして、日本企業独自の課題を詳しく理解することはできず、また認証スタンダードに反映することもできません。RTRS年次総会への日本企業の参加を心よりお待ちしています。まだまだ取り組みべきことは山積していますが、必ずや乗り越えられると信じております。

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 私たちの生活に直接的、間接的に密接に関わり、最も馴染み深い食材の一つとも言える大豆。日本では、豆腐や納豆、食用油等の加工食品だけでなく、家畜の配合飼料としても利用されている。馴染み深さにも関わらず、大豆の自給率は2016年時点で7%程度と低く、大半は輸入頼り。さらに大豆サプライチェーン上には、人権侵害や環境破壊等の課題も多く、それらは見落とされがちである。

 こうした課題を背景に、持続可能な大豆生産認証策定「持続可能な大豆のための円卓会議(RTRS)」は、大豆バリューチェーン上のステークホルダーらと協働。大豆生産、サプライヤー、大豆関連商品製造、小売、金融機関、NGO等との対話を通じ、持続可能な大豆の生産、取引、活用を促進している。同認証は、東京オリンピックの「持続可能性に配慮した調達コード」にも採用されており、今後、日本企業との関わりも大きくなることが想定される。

 今回は、同団体のエグゼクティブ・ディレクターのマルセロ・ヴィスコンティ氏、およびテクニカル・ユニット・オフィサーのダニエル・カジミエルスキ氏に話を聞いた。同氏らは、日本に対しても積極的なエンゲージメントを実施。インタビュー当日2020年1月22日も、一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC;アスク)と協働で、セミナーを開催した。

大豆サプライチェーンの重要性

菊池
 グローバル企業の大豆サプライチェーンにおける課題をどのように見られていますか?

ヴィスコンティ氏
 私たちは、マルチステークホルダー型のプラットフォーム運営者および認証スキーム策定者として、包括的な見地のもと、大豆サプライチェーン上の課題に対応しています。RTRS認証では、環境・社会・経済をすべて同等に扱っており、それらすべてに偏りなく対応することが重要だと考えています。

 RTRS認証は、法令順守や責任あるビジネス慣行に焦点を当てていますが、たとえば、環境観点では、森林伐採ゼロ基準を採用し、このスキームの基にした生物多様性の保護等を促進しています。社会観点では、性差別だけでなく児童労働、労働基本権、地域コミュニティとの関係等もカバーしています。

菊池
 RTRSは、大豆サプライチェーン上の企業に対し、どのようなエンゲージメントを行っているのでしょうか?

ヴィスコンティ氏
 私たちは、ステークホルダーとの対話や協働を通じたエンゲージメントを行っております。今回のASSCとのセミナー開催も、その一つです。適切な認証スタンダードでなければならないと考えているため、ステークホルダーとの声を積極的に吸い上げ、継続的な改善に取り組んでいます。

マクロ観点で見た大豆

菊池
 今後も世界の大豆需要は高まる一方、従来の森林開拓を伴う大豆生産拡大は持続可能ではありません。どのようにして大豆生産を拡大すべきとお考えでしょうか。

ヴィスコンティ氏
 持続可能な形での大豆生産が必要となってきており、まさに持続可能な大豆生産、取引、利用を促進する私たちが貢献できる点だと考えています。優れたバイオ製品や化学物質等、生産性向上に役立つ最新技術が今後開発されていくでしょうが、そうした技術を促進する役割を担って参ります。

菊池
 大豆は、肉に替わる代替たんぱく質としても注目も集めていますが、こうしたトレンドに関して何か課題視していることはありますでしょうか。

ヴィスコンティ氏
 大豆が代替たんぱく質として注目されること関しては、何ら問題と考えてはおりません。事実、2007年から2017年の間に、グローバルでの大豆生産は37%伸びましたが、持続可能な大豆の生産面積は、それ以上に拡大しています。私が取り組むべきは、代替たんぱく質の拡大に向けた努力です。こうしたトレンドを避けようものなら、私たちの社会は瓦解に向けっていくでしょう。歩みを進めることが重要です。

 また、現在、市場の成熟度に応じ、認証スタンダードの基準を高めようとしています。もちろん、持続可能な大豆生産のかたちは一つではないため、ステークホルダーらの取り組みも、しっかりと認識しなければならないと考えております。

菊池
 パーム油のRSPO認証では、認証取得農園であっても実際には、環境破壊があったことが発見される等の問題が生じています。RTRSでは、認証農園等へのガバナンスやモニタリング、デューデリジェンスを、どのように担保していくのでしょうか?

カジミエルスキ氏
 まず、RTRS自身のガバナンスについて説明しますと、

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 私たちの生活に直接的、間接的に密接に関わり、最も馴染み深い食材の一つとも言える大豆。日本では、豆腐や納豆、食用油等の加工食品だけでなく、家畜の配合飼料としても利用されている。馴染み深さにも関わらず、大豆の自給率は2016年時点で7%程度と低く、大半は輸入頼り。さらに大豆サプライチェーン上には、人権侵害や環境破壊等の課題も多く、それらは見落とされがちである。

 こうした課題を背景に、持続可能な大豆生産認証策定「持続可能な大豆のための円卓会議(RTRS)」は、大豆バリューチェーン上のステークホルダーらと協働。大豆生産、サプライヤー、大豆関連商品製造、小売、金融機関、NGO等との対話を通じ、持続可能な大豆の生産、取引、活用を促進している。同認証は、東京オリンピックの「持続可能性に配慮した調達コード」にも採用されており、今後、日本企業との関わりも大きくなることが想定される。

 今回は、同団体のエグゼクティブ・ディレクターのマルセロ・ヴィスコンティ氏、およびテクニカル・ユニット・オフィサーのダニエル・カジミエルスキ氏に話を聞いた。同氏らは、日本に対しても積極的なエンゲージメントを実施。インタビュー当日2020年1月22日も、一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC;アスク)と協働で、セミナーを開催した。

大豆サプライチェーンの重要性

菊池
 グローバル企業の大豆サプライチェーンにおける課題をどのように見られていますか?

ヴィスコンティ氏
 私たちは、マルチステークホルダー型のプラットフォーム運営者および認証スキーム策定者として、包括的な見地のもと、大豆サプライチェーン上の課題に対応しています。RTRS認証では、環境・社会・経済をすべて同等に扱っており、それらすべてに偏りなく対応することが重要だと考えています。

 RTRS認証は、法令順守や責任あるビジネス慣行に焦点を当てていますが、たとえば、環境観点では、森林伐採ゼロ基準を採用し、このスキームの基にした生物多様性の保護等を促進しています。社会観点では、性差別だけでなく児童労働、労働基本権、地域コミュニティとの関係等もカバーしています。

菊池
 RTRSは、大豆サプライチェーン上の企業に対し、どのようなエンゲージメントを行っているのでしょうか?

ヴィスコンティ氏
 私たちは、ステークホルダーとの対話や協働を通じたエンゲージメントを行っております。今回のASSCとのセミナー開催も、その一つです。適切な認証スタンダードでなければならないと考えているため、ステークホルダーとの声を積極的に吸い上げ、継続的な改善に取り組んでいます。

マクロ観点で見た大豆

菊池
 今後も世界の大豆需要は高まる一方、従来の森林開拓を伴う大豆生産拡大は持続可能ではありません。どのようにして大豆生産を拡大すべきとお考えでしょうか。

ヴィスコンティ氏
 持続可能な形での大豆生産が必要となってきており、まさに持続可能な大豆生産、取引、利用を促進する私たちが貢献できる点だと考えています。優れたバイオ製品や化学物質等、生産性向上に役立つ最新技術が今後開発されていくでしょうが、そうした技術を促進する役割を担って参ります。

菊池
 大豆は、肉に替わる代替たんぱく質としても注目も集めていますが、こうしたトレンドに関して何か課題視していることはありますでしょうか。

ヴィスコンティ氏
 大豆が代替たんぱく質として注目されること関しては、何ら問題と考えてはおりません。事実、2007年から2017年の間に、グローバルでの大豆生産は37%伸びましたが、持続可能な大豆の生産面積は、それ以上に拡大しています。私が取り組むべきは、代替たんぱく質の拡大に向けた努力です。こうしたトレンドを避けようものなら、私たちの社会は瓦解に向けっていくでしょう。歩みを進めることが重要です。

 また、現在、市場の成熟度に応じ、認証スタンダードの基準を高めようとしています。もちろん、持続可能な大豆生産のかたちは一つではないため、ステークホルダーらの取り組みも、しっかりと認識しなければならないと考えております。

菊池
 パーム油のRSPO認証では、認証取得農園であっても実際には、環境破壊があったことが発見される等の問題が生じています。RTRSでは、認証農園等へのガバナンスやモニタリング、デューデリジェンスを、どのように担保していくのでしょうか?

カジミエルスキ氏
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 私たちの生活に直接的、間接的に密接に関わり、最も馴染み深い食材の一つとも言える大豆。日本では、豆腐や納豆、食用油等の加工食品だけでなく、家畜の配合飼料としても利用されている。馴染み深さにも関わらず、大豆の自給率は2016年時点で7%程度と低く、大半は輸入頼り。さらに大豆サプライチェーン上には、人権侵害や環境破壊等の課題も多く、それらは見落とされがちである。

 こうした課題を背景に、持続可能な大豆生産認証策定「持続可能な大豆のための円卓会議(RTRS)」は、大豆バリューチェーン上のステークホルダーらと協働。大豆生産、サプライヤー、大豆関連商品製造、小売、金融機関、NGO等との対話を通じ、持続可能な大豆の生産、取引、活用を促進している。同認証は、東京オリンピックの「持続可能性に配慮した調達コード」にも採用されており、今後、日本企業との関わりも大きくなることが想定される。

 今回は、同団体のエグゼクティブ・ディレクターのマルセロ・ヴィスコンティ氏、およびテクニカル・ユニット・オフィサーのダニエル・カジミエルスキ氏に話を聞いた。同氏らは、日本に対しても積極的なエンゲージメントを実施。インタビュー当日2020年1月22日も、一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC;アスク)と協働で、セミナーを開催した。

大豆サプライチェーンの重要性

菊池
 グローバル企業の大豆サプライチェーンにおける課題をどのように見られていますか?

ヴィスコンティ氏
 私たちは、マルチステークホルダー型のプラットフォーム運営者および認証スキーム策定者として、包括的な見地のもと、大豆サプライチェーン上の課題に対応しています。RTRS認証では、環境・社会・経済をすべて同等に扱っており、それらすべてに偏りなく対応することが重要だと考えています。

 RTRS認証は、法令順守や責任あるビジネス慣行に焦点を当てていますが、たとえば、環境観点では、森林伐採ゼロ基準を採用し、このスキームの基にした生物多様性の保護等を促進しています。社会観点では、性差別だけでなく児童労働、労働基本権、地域コミュニティとの関係等もカバーしています。

菊池
 RTRSは、大豆サプライチェーン上の企業に対し、どのようなエンゲージメントを行っているのでしょうか?

ヴィスコンティ氏
 私たちは、ステークホルダーとの対話や協働を通じたエンゲージメントを行っております。今回のASSCとのセミナー開催も、その一つです。適切な認証スタンダードでなければならないと考えているため、ステークホルダーとの声を積極的に吸い上げ、継続的な改善に取り組んでいます。

マクロ観点で見た大豆

菊池
 今後も世界の大豆需要は高まる一方、従来の森林開拓を伴う大豆生産拡大は持続可能ではありません。どのようにして大豆生産を拡大すべきとお考えでしょうか。

ヴィスコンティ氏
 持続可能な形での大豆生産が必要となってきており、まさに持続可能な大豆生産、取引、利用を促進する私たちが貢献できる点だと考えています。優れたバイオ製品や化学物質等、生産性向上に役立つ最新技術が今後開発されていくでしょうが、そうした技術を促進する役割を担って参ります。

菊池
 大豆は、肉に替わる代替たんぱく質としても注目も集めていますが、こうしたトレンドに関して何か課題視していることはありますでしょうか。

ヴィスコンティ氏
 大豆が代替たんぱく質として注目されること関しては、何ら問題と考えてはおりません。事実、2007年から2017年の間に、グローバルでの大豆生産は37%伸びましたが、持続可能な大豆の生産面積は、それ以上に拡大しています。私が取り組むべきは、代替たんぱく質の拡大に向けた努力です。こうしたトレンドを避けようものなら、私たちの社会は瓦解に向けっていくでしょう。歩みを進めることが重要です。

 また、現在、市場の成熟度に応じ、認証スタンダードの基準を高めようとしています。もちろん、持続可能な大豆生産のかたちは一つではないため、ステークホルダーらの取り組みも、しっかりと認識しなければならないと考えております。

菊池
 パーム油のRSPO認証では、認証取得農園であっても実際には、環境破壊があったことが発見される等の問題が生じています。RTRSでは、認証農園等へのガバナンスやモニタリング、デューデリジェンスを、どのように担保していくのでしょうか?

カジミエルスキ氏
 まず、RTRS自身のガバナンスについて説明しますと、私たちは、上流工程や下流工程に偏ったマネジメントにならないよう、サプライチェーン上の各業種から会員企業を募っています。そして、認証農園等へのデューデリジェンスについては、認定機関からの第三者認証を受けることを、農園に対し要求しています。

 遺伝子組換え作物(GMO)・非GMO共に、世界中の小規模農家から、大規模農家に至るまでカバーしており、すべての情報は監査され、透明性が担保されなければならないと考えております。事実、RTRS認証スキームは、国際環境NGO国際自然保護連合(IUCN)による「Forested wetlands and biodiversity protection」「Standards level of assurance」 の2つの評価において、他の認証スタンダードを抑え、最高レベルの評価を受けています。

日本企業について

菊池
 欧米系のグローバル企業とは異なる、日本企業独自の課題は何かありますでしょうか?

ヴィスコンティ氏
 基本的にグローバルの課題は、日本にも当てはまると言えるでしょう。東京オリンピックの「持続可能性に配慮した調達コード」のもと、日本企業はグローバルスタンダードに従う必要が出てきます。こうしたプロセスの中で、日本独自の課題はより浮彫になると考えており、その際には対話を通じて共に乗り越えていきたいと考えています。

菊池
 たとえば認証大豆に対し、コスト増を懸念する日本企業も少なくありませんが、認証大豆の使用を推進するにあたり、こうした懸念を解消するにはどうすれば良いとお考えでしょうか?

ヴィスコンティ氏
 私たちは生産者の価格には、関与しておりません。しかしながら、投資家の動向が一つポイントになるのではないかと考えております。昨今、投資家はリスク管理の観点から、持続可能な調達ポリシーのない企業への投資を手控えるようになってきています。その点、RTRS等の認証大豆は、投資家から歓迎され、競争優位を築くことができるため、単なるコスト増にはならないと言えるでしょう。

菊池
 RTRSはセミナー等を通じ、質疑応答や事後の個別相談会等で、積極的に日本企業との対話やエンゲージメントに取り組まれていると思います。一方で、企業側の自主的な意見表明が必要な面もあり、また言語が足枷となる場合もあるため、十分な対話が行われるかに懸念もあります。こうした点について、どのようにお考えでしょうか。また、今後、日本企業にどのようなことを期待されますか?

ヴィスコンティ氏
 対話については、あまり心配しておりません。実際、今回のセミナー参加企業から上がった質問は、非常に的を得たもので、驚かされました。1964年のオリンピック同様、2020年東京オリンピックは、日本にとってターニングポイントになり得ると考えています。歴史的、革新的なイベントを有効活用し、包括的な戦略策定や消費者の認識を醸成することを推奨します。

 RTRSコミュニティへの参画や、私たちの開催するセミナーに参加いただくのも、その一つ。対話は大きな一歩となるでしょう。私たちとしても、対話なくして、日本企業独自の課題を詳しく理解することはできず、また認証スタンダードに反映することもできません。RTRS年次総会への日本企業の参加を心よりお待ちしています。まだまだ取り組みべきことは山積していますが、必ずや乗り越えられると信じております。

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