Sustainable Japan | 世界のサステナビリティ・ESG投資・SDGs

【金融】世界と日本のSRI・ESG投資最前線

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変化の時を迎えるSRI・ESG

CSRやサステナビリティ概念が世の中に普及するとともに、SRIやESGという言葉を耳にする機会も増えてきました。今、世界ではこのSRI、ESG投資の考え方が大きく進化しようとしています。一般的に、SRIやESG投資という言葉には「経済的リターンだけを追求する従来の投資行動とは違い、社会的・環境的リターンを追求する特別な投資」というイメージがありました。このイメージが今大きく変化し、SRIやESG投資という言葉は、一部の社会・環境に関心のある投資家や金融機関だけでなく、あらゆる企業に影響を与えるものに発展しようとしています。今、世界で何が起きているのか。見て行きましょう。

ESG投資・SRIの投資パフォーマンス

社会や環境を考慮した投資と言うと「コストを余分にかけて利益が少なくなるのではないか?」「投資リターンが小さくなるのではないか?」というイメージが従来大きくありました。「社会、環境に配慮するためには従来よりもコストが高く付き、経済的なリターンが犠牲となる」。今でも日本ではこのように考える方が少なくありません。ところが、SRIやESG投資は経済的なリターンが多いというデータが発表されています。

こちらは、MSCI Barra社が発表している世界を代表する市場指数の比較です。ちなみに、MSCI Barra社とは、MSCI(モルガンスタンレー・キャピタル・インターナショナル社)とBarra(バーラ社)が2004年に合併により設立した企業で、世界でも高い信頼を得ています。図にある”MSCI US Index”は米国株全体を対象とした指数。もう一つの”MSCI KLD 400 Social Index”は、米国株の中でESG格付が高い400社を抽出した指数で、ESG投資の指数として有名なものです。この図は、ESG投資が市場全体よりも高いパフォーマンスを出しているということを示しています。

実際には、ESG投資のパフォーマンス測定については様々な意見があり、研究途中であることは否めません。しかしながら、ESG投資が高いパフォーマンスを上げるという論文もどんどん登場しています。この「ESG投資が経済的にもメリットがある」という見方は世界でどんどん増えてきており、ESG投資市場全体はこの下で示しているように、驚くべきスピードで成長しているのです。今や「ESG投資(SRI)は高コストでパフォーマンスが低い」という一辺倒の考え方は、時代遅れのものになりつつあります。

そもそもSRIとは?ESGとは?

東京証券取引所のホームページには、SRIとESGの言葉についてこのように説明されています。

ESGとは、Environmental(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治:ガバナンス)のことです。企業がESGの課題に適切に配慮・対応すること、また、そのことを評価して投資する株主の存在が、地球環境問題や社会的な課題の解決・改善、さらに、資本市場の健全な育成・発展につながり、持続可能な社会の形成に寄与すると考えられています。通常の株式投資では、財務の観点からのみ投資を行うところを、ESG投資では、それに加えて、環境問題への取り組みや、株主、顧客、従業員、地域社会など、利害関係者(ステークホルダー)に対し、いかにCSR(企業の社会的責任)を果たしているかをチェックして、投資をします。ESGに配慮している企業は、経営の持続的な成長が見込めるとして、投資パフォーマンス向上にもつながると捉えられています。一般的に、このような投資は、SRI(社会的責任投資)と呼ばれます。(東京証券取引所グループ「ESGと企業を視る」)

ESGという言葉と、SRIという言葉は、ほぼ同義として使われることが多いですが、生い立ちは大きく異なります。SRI(Socially Responsible Investing)という言葉が登場したのは1920年代の米国。1920年代の米国といえば、フォード生産方式やロックフェラーの石油など米国の金融・産業が一斉に開花し、空前の投資ブームが沸き起こっていた時代。そんな金融の黎明期に既にSRIという言葉は誕生していました。SRIの生みの親は、米国のキリスト教団体。倫理の観点から、武器、ギャンブル、タバコ、アルコールなどに関わる企業へは投資しないという概念がその発端でした。その後も、公民権運動、ベトナム戦争など社会を大きく揺さぶる情勢が起こるたびにSRIという概念が叫ばれ、現在にまで続いています。キリスト教団体などが資産運用をする際に、倫理的に好ましくない企業を投資先から排除する(ネガティブスクリーニング)という特別な運用方式のことを、人々はSRIと呼んできました。

一方、ESGという言葉は、2000年に入ってから登場してきた言葉です。背景には、社会課題や環境課題が広く社会全体で共有されるようになったことや、企業不祥事を原因としたガバナンスに対する関心の高まりがありました。2006年にコフィー・アナン国連事務総長が提唱した「国連責任投資原則」の中にESGという単語が使用されて以降、ESG投資という言葉が投資家の間で定着します。以前のSRIの概念が「特定の会社をリストから外す」「特定の会社を応援する」という一部の企業への投資に関する原則であったのに対し、ESG投資という言葉の出現により対象範囲が全体へと広がり、いかなる会社への投資であっても環境・社会・ガバナンスを考慮する必要があるという概念に発展しつつあります。同時に、以前のSRIは、特定の倫理的投資家の間での話であったのに対し、今はどんな投資家であってもESG要素を考慮することが求められる時代へと移ってきています。その結果、SRIという言葉もESG投資と同様、投資活動全体において環境・社会・ガバナンスを考慮するという概念へと進化してきています。

世界のESG投資市場規模


(出所)Social Investment Forum Foundation

上図は、米国でのESG投資の業界団体であるSocial Investment Forum Foundationが発表した数字です。1995年にはまだまだニッチであったESG投資は2000年頃から急速に増加し、2010年の時点では3兆ドル(約300兆円)の規模にまで拡大しました。


(出所)GSIA “2012 Global Sustainable Investment Review”

こちらは、2012年に各国のESG業界団体を世界全体でとりまとめているGlobal Sustainable Investment Alliance(GSIA)が発表した数字です。ヨーロッパではESG投資運用額は約8.7兆ドル(約870兆円)、アメリカで3.7兆ドル(約370兆円)、アフリカでも2,290億ドル(約23兆円)という規模にまで拡大しています。日本を除くアジア地域では640億ドル(約6.4兆円)で、この地図上で一番数字が小さいのが、残念ながら日本の100億ドル(約1兆円)です。何百兆と言われても、それがどのぐらいの規模なのかイメージがつきづらいかもしれません。大きなウェイトを占めているのか、小さいままなのか、それを知るために、ESG投資がそれぞれの地域でどのぐらいのシェアを占めているのかを続いてみていきましょう。


(出所)GSIA “2012 Global Sustainable Investment Review”

こちらは、各地域で運用されている資産額の内、ESG投資で運用されている割合を示したものです。最も大きいのはヨーロッパ地域で、運用されている資産の内、既になんと49%がESG投資で運用されています。環境アンフレンドリーなイメージが強い米国でも11.2%がESG投資になっています。一方、一番割合が小さいのは、日本です。運用資産額の0.2%しかESGが考慮されていません。このように海外では、ESG投資が全体に占める割合は、私たちの想像を超えて大きくなっています。また、日本のESG投資額が少ないことに対し、世界からは「日本はESGに関する考え方が遅れている」と言われてしまう状況が発生しています。

ESG投資・SRIの種類

大きく普及してきたESG投資・SRI。社会・環境・ガバナンスに配慮しているといってもどのように配慮されているのでしょうか。実際には、ESG投資の種類は多様です。世界全体のESG投資の業界団体であるGSIAが行っているESG投資のカテゴリーを見て行きましょう。

1. 投資先スクリーニング型

1-a. ネガティブスクリーニング
1920年代に米国で始まった最も歴史の古い手法。武器、ギャンブル、タバコ、アルコール、原子力発電、アダルト業界など倫理的でないと定義される特定の業界、会社を投資先から除外する戦略。

1-b. ポジティブスクリーニング(Best-in-class)
1990年代にヨーロッパで始まった手法。同種の業界の中でESG関連の評価が最も高い企業に投資する戦略。ESG考慮の高い企業は中長期的に業績が高くなるという発想に基づく。ポジティブスクリーニングをすると、投資ユニバース(投資先企業リスト)が非常に小さくなると言われることもあり(一説では30%から70%小さくなる)、倫理ベーススクリーニングを推奨する人もいる。

1-c. 倫理ベーススクリーニング(Norms-based Screening)
2000年代に北欧で始まった比較的新しい概念。ESG分野での国際基準に照らし合わせ、その基準をクリアしていない企業を投資先リストから除外する手法。ポジティブスクリーニングに比べ投資ユニバースが大きくできると評価する人もいる。

2. ESG要素統合型(Integration)
最も広く普及しつつあるスタイル。投資先選定の過程で、従来考慮してきた財務情報だけでなく非財務情報も含めて分析をする戦略。特に年金ファンドなど長期投資性向の強い資金を運用するファンドなどが、将来の事業リスクや競争力などを図る上で積極的に非財務情報(ESG情報)を活用し、アルファ(市場指数よりも大きなリターン)を目指すために使われている。

3. サステナビリティテーマ投資型(Sustainability-themed)
サステナビリティを全面に謳ったファンドを組成し、サステナビリティ関連企業やプロジェクト(特に再生可能エネルギー、サステナブル農業等)に対する投資。太陽光発電プラント事業への投資ファンド、グリーン債などもこのカテゴリーに属する。

4. インパクト投資・コミュニティ投資型(Impact/community investing)
社会・環境に貢献する技術やサービスを保有する企業に対して行うベンチャーキャピタル。最近では個人投資家からも資金提供を募ることも多くなってきている。インパクト投資の中で、社会的弱者や支援の手が行き届いていないコミュニティに対するものは、コミュニティ投資と呼ばれる。

5. 株主行動型(Shareholder action)
株主として企業に対してESGに関する案件に積極的に働きかける投資手法。株主総会での議決権行使、日常的な経営者への働きかけ、情報開示要求などを通じて投資先企業にESGへの配慮を迫るというもの。


(出所)GSIA “2012 Global Sustainable Investment Review”

市場規模としては伝統的なネガティブスクリーニングがまだまだ主力ですが、より企業社会全体への影響が大きいESG要素統合型や株主行動型のスタイルが大きく成長してきています。他方、インパクト投資の分野では、スタートアップ投資が活発な米国がリードしています。日本ではクリーンテクノロジーや地域支援の新興企業を支援するインパクト投資や、サステナビリティテーマ型ファンドの割合が比較的高く表れています。

ESG投資・SRIの最新動向

ESG要素統合型と統合報告書

上記でも見てきたようにESG要素統合型の投資スタイルは一般的になりつつあります。それが意味することとは、従来型ファンドのファンドマネージャーがESGを考慮するようになってきているということです。このトレンドは、投資を受ける側の企業経営者にとって大きな意味をもっています。従来、企業を取り巻くステークホルダーへの報告として、投資家向けのものを「IRレポート」、その他のステークホルダー向けに非財務情報をまとめたものを「サステナビリティ(CSR)レポート」と位置づける傾向にありましたが、今や投資家が非財務情報を欲している状況です。そのため、今や企業は、財務情報と非財務情報両方を求めている投資家向けに統合報告書を作成し、財務情報と非財務情報を有機的に結びつけて発表する必要が出てきています。特に日本企業が今後の資金調達をする上での重要となる海外投資家、海外での資金調達をする上で、統合報告書の重要性はますます増えていくことになります。

株主行動とスチュワードシップ・コード

同様に株主行動型のESG投資も増えてきています。日本国内ではまだあまり実感がないかもしれませんが、海外では投資家がESGへの配慮を企業に対して迫る状況になってきています。日本企業のIR活動の上で、ESG情報の重要性は増えていきますし、海外投資家からの株主行動も今後増えていくと予想されます。さらに、このような背景の中、今年日本にも「日本版スチュワードシップ・コード」が誕生し、ほとんどの主要機関投資家がスチュワードシップ・コードの受入を表明しました。国内の投資家がどの程度株主行動を積極的に活用するかはまだ未知数ですが、海外からも日本の機関投資家に対するアクションへの圧力は高まっていきそうです。

【参考】2012 Global Sustainable Investment Review

文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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変化の時を迎えるSRI・ESG

CSRやサステナビリティ概念が世の中に普及するとともに、SRIやESGという言葉を耳にする機会も増えてきました。今、世界ではこのSRI、ESG投資の考え方が大きく進化しようとしています。一般的に、SRIやESG投資という言葉には「経済的リターンだけを追求する従来の投資行動とは違い、社会的・環境的リターンを追求する特別な投資」というイメージがありました。このイメージが今大きく変化し、SRIやESG投資という言葉は、一部の社会・環境に関心のある投資家や金融機関だけでなく、あらゆる企業に影響を与えるものに発展しようとしています。今、世界で何が起きているのか。見て行きましょう。

ESG投資・SRIの投資パフォーマンス

社会や環境を考慮した投資と言うと「コストを余分にかけて利益が少なくなるのではないか?」「投資リターンが小さくなるのではないか?」というイメージが従来大きくありました。「社会、環境に配慮するためには従来よりもコストが高く付き、経済的なリターンが犠牲となる」。今でも日本ではこのように考える方が少なくありません。ところが、

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変化の時を迎えるSRI・ESG

CSRやサステナビリティ概念が世の中に普及するとともに、SRIやESGという言葉を耳にする機会も増えてきました。今、世界ではこのSRI、ESG投資の考え方が大きく進化しようとしています。一般的に、SRIやESG投資という言葉には「経済的リターンだけを追求する従来の投資行動とは違い、社会的・環境的リターンを追求する特別な投資」というイメージがありました。このイメージが今大きく変化し、SRIやESG投資という言葉は、一部の社会・環境に関心のある投資家や金融機関だけでなく、あらゆる企業に影響を与えるものに発展しようとしています。今、世界で何が起きているのか。見て行きましょう。

ESG投資・SRIの投資パフォーマンス

社会や環境を考慮した投資と言うと「コストを余分にかけて利益が少なくなるのではないか?」「投資リターンが小さくなるのではないか?」というイメージが従来大きくありました。「社会、環境に配慮するためには従来よりもコストが高く付き、経済的なリターンが犠牲となる」。今でも日本ではこのように考える方が少なくありません。ところが、

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変化の時を迎えるSRI・ESG

CSRやサステナビリティ概念が世の中に普及するとともに、SRIやESGという言葉を耳にする機会も増えてきました。今、世界ではこのSRI、ESG投資の考え方が大きく進化しようとしています。一般的に、SRIやESG投資という言葉には「経済的リターンだけを追求する従来の投資行動とは違い、社会的・環境的リターンを追求する特別な投資」というイメージがありました。このイメージが今大きく変化し、SRIやESG投資という言葉は、一部の社会・環境に関心のある投資家や金融機関だけでなく、あらゆる企業に影響を与えるものに発展しようとしています。今、世界で何が起きているのか。見て行きましょう。

ESG投資・SRIの投資パフォーマンス

社会や環境を考慮した投資と言うと「コストを余分にかけて利益が少なくなるのではないか?」「投資リターンが小さくなるのではないか?」というイメージが従来大きくありました。「社会、環境に配慮するためには従来よりもコストが高く付き、経済的なリターンが犠牲となる」。今でも日本ではこのように考える方が少なくありません。ところが、SRIやESG投資は経済的なリターンが多いというデータが発表されています。

こちらは、MSCI Barra社が発表している世界を代表する市場指数の比較です。ちなみに、MSCI Barra社とは、MSCI(モルガンスタンレー・キャピタル・インターナショナル社)とBarra(バーラ社)が2004年に合併により設立した企業で、世界でも高い信頼を得ています。図にある”MSCI US Index”は米国株全体を対象とした指数。もう一つの”MSCI KLD 400 Social Index”は、米国株の中でESG格付が高い400社を抽出した指数で、ESG投資の指数として有名なものです。この図は、ESG投資が市場全体よりも高いパフォーマンスを出しているということを示しています。

実際には、ESG投資のパフォーマンス測定については様々な意見があり、研究途中であることは否めません。しかしながら、ESG投資が高いパフォーマンスを上げるという論文もどんどん登場しています。この「ESG投資が経済的にもメリットがある」という見方は世界でどんどん増えてきており、ESG投資市場全体はこの下で示しているように、驚くべきスピードで成長しているのです。今や「ESG投資(SRI)は高コストでパフォーマンスが低い」という一辺倒の考え方は、時代遅れのものになりつつあります。

そもそもSRIとは?ESGとは?

東京証券取引所のホームページには、SRIとESGの言葉についてこのように説明されています。

ESGとは、Environmental(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治:ガバナンス)のことです。企業がESGの課題に適切に配慮・対応すること、また、そのことを評価して投資する株主の存在が、地球環境問題や社会的な課題の解決・改善、さらに、資本市場の健全な育成・発展につながり、持続可能な社会の形成に寄与すると考えられています。通常の株式投資では、財務の観点からのみ投資を行うところを、ESG投資では、それに加えて、環境問題への取り組みや、株主、顧客、従業員、地域社会など、利害関係者(ステークホルダー)に対し、いかにCSR(企業の社会的責任)を果たしているかをチェックして、投資をします。ESGに配慮している企業は、経営の持続的な成長が見込めるとして、投資パフォーマンス向上にもつながると捉えられています。一般的に、このような投資は、SRI(社会的責任投資)と呼ばれます。(東京証券取引所グループ「ESGと企業を視る」)

ESGという言葉と、SRIという言葉は、ほぼ同義として使われることが多いですが、生い立ちは大きく異なります。SRI(Socially Responsible Investing)という言葉が登場したのは1920年代の米国。1920年代の米国といえば、フォード生産方式やロックフェラーの石油など米国の金融・産業が一斉に開花し、空前の投資ブームが沸き起こっていた時代。そんな金融の黎明期に既にSRIという言葉は誕生していました。SRIの生みの親は、米国のキリスト教団体。倫理の観点から、武器、ギャンブル、タバコ、アルコールなどに関わる企業へは投資しないという概念がその発端でした。その後も、公民権運動、ベトナム戦争など社会を大きく揺さぶる情勢が起こるたびにSRIという概念が叫ばれ、現在にまで続いています。キリスト教団体などが資産運用をする際に、倫理的に好ましくない企業を投資先から排除する(ネガティブスクリーニング)という特別な運用方式のことを、人々はSRIと呼んできました。

一方、ESGという言葉は、2000年に入ってから登場してきた言葉です。背景には、社会課題や環境課題が広く社会全体で共有されるようになったことや、企業不祥事を原因としたガバナンスに対する関心の高まりがありました。2006年にコフィー・アナン国連事務総長が提唱した「国連責任投資原則」の中にESGという単語が使用されて以降、ESG投資という言葉が投資家の間で定着します。以前のSRIの概念が「特定の会社をリストから外す」「特定の会社を応援する」という一部の企業への投資に関する原則であったのに対し、ESG投資という言葉の出現により対象範囲が全体へと広がり、いかなる会社への投資であっても環境・社会・ガバナンスを考慮する必要があるという概念に発展しつつあります。同時に、以前のSRIは、特定の倫理的投資家の間での話であったのに対し、今はどんな投資家であってもESG要素を考慮することが求められる時代へと移ってきています。その結果、SRIという言葉もESG投資と同様、投資活動全体において環境・社会・ガバナンスを考慮するという概念へと進化してきています。

世界のESG投資市場規模


(出所)Social Investment Forum Foundation

上図は、米国でのESG投資の業界団体であるSocial Investment Forum Foundationが発表した数字です。1995年にはまだまだニッチであったESG投資は2000年頃から急速に増加し、2010年の時点では3兆ドル(約300兆円)の規模にまで拡大しました。


(出所)GSIA “2012 Global Sustainable Investment Review”

こちらは、2012年に各国のESG業界団体を世界全体でとりまとめているGlobal Sustainable Investment Alliance(GSIA)が発表した数字です。ヨーロッパではESG投資運用額は約8.7兆ドル(約870兆円)、アメリカで3.7兆ドル(約370兆円)、アフリカでも2,290億ドル(約23兆円)という規模にまで拡大しています。日本を除くアジア地域では640億ドル(約6.4兆円)で、この地図上で一番数字が小さいのが、残念ながら日本の100億ドル(約1兆円)です。何百兆と言われても、それがどのぐらいの規模なのかイメージがつきづらいかもしれません。大きなウェイトを占めているのか、小さいままなのか、それを知るために、ESG投資がそれぞれの地域でどのぐらいのシェアを占めているのかを続いてみていきましょう。


(出所)GSIA “2012 Global Sustainable Investment Review”

こちらは、各地域で運用されている資産額の内、ESG投資で運用されている割合を示したものです。最も大きいのはヨーロッパ地域で、運用されている資産の内、既になんと49%がESG投資で運用されています。環境アンフレンドリーなイメージが強い米国でも11.2%がESG投資になっています。一方、一番割合が小さいのは、日本です。運用資産額の0.2%しかESGが考慮されていません。このように海外では、ESG投資が全体に占める割合は、私たちの想像を超えて大きくなっています。また、日本のESG投資額が少ないことに対し、世界からは「日本はESGに関する考え方が遅れている」と言われてしまう状況が発生しています。

ESG投資・SRIの種類

大きく普及してきたESG投資・SRI。社会・環境・ガバナンスに配慮しているといってもどのように配慮されているのでしょうか。実際には、ESG投資の種類は多様です。世界全体のESG投資の業界団体であるGSIAが行っているESG投資のカテゴリーを見て行きましょう。

1. 投資先スクリーニング型

1-a. ネガティブスクリーニング
1920年代に米国で始まった最も歴史の古い手法。武器、ギャンブル、タバコ、アルコール、原子力発電、アダルト業界など倫理的でないと定義される特定の業界、会社を投資先から除外する戦略。

1-b. ポジティブスクリーニング(Best-in-class)
1990年代にヨーロッパで始まった手法。同種の業界の中でESG関連の評価が最も高い企業に投資する戦略。ESG考慮の高い企業は中長期的に業績が高くなるという発想に基づく。ポジティブスクリーニングをすると、投資ユニバース(投資先企業リスト)が非常に小さくなると言われることもあり(一説では30%から70%小さくなる)、倫理ベーススクリーニングを推奨する人もいる。

1-c. 倫理ベーススクリーニング(Norms-based Screening)
2000年代に北欧で始まった比較的新しい概念。ESG分野での国際基準に照らし合わせ、その基準をクリアしていない企業を投資先リストから除外する手法。ポジティブスクリーニングに比べ投資ユニバースが大きくできると評価する人もいる。

2. ESG要素統合型(Integration)
最も広く普及しつつあるスタイル。投資先選定の過程で、従来考慮してきた財務情報だけでなく非財務情報も含めて分析をする戦略。特に年金ファンドなど長期投資性向の強い資金を運用するファンドなどが、将来の事業リスクや競争力などを図る上で積極的に非財務情報(ESG情報)を活用し、アルファ(市場指数よりも大きなリターン)を目指すために使われている。

3. サステナビリティテーマ投資型(Sustainability-themed)
サステナビリティを全面に謳ったファンドを組成し、サステナビリティ関連企業やプロジェクト(特に再生可能エネルギー、サステナブル農業等)に対する投資。太陽光発電プラント事業への投資ファンド、グリーン債などもこのカテゴリーに属する。

4. インパクト投資・コミュニティ投資型(Impact/community investing)
社会・環境に貢献する技術やサービスを保有する企業に対して行うベンチャーキャピタル。最近では個人投資家からも資金提供を募ることも多くなってきている。インパクト投資の中で、社会的弱者や支援の手が行き届いていないコミュニティに対するものは、コミュニティ投資と呼ばれる。

5. 株主行動型(Shareholder action)
株主として企業に対してESGに関する案件に積極的に働きかける投資手法。株主総会での議決権行使、日常的な経営者への働きかけ、情報開示要求などを通じて投資先企業にESGへの配慮を迫るというもの。


(出所)GSIA “2012 Global Sustainable Investment Review”

市場規模としては伝統的なネガティブスクリーニングがまだまだ主力ですが、より企業社会全体への影響が大きいESG要素統合型や株主行動型のスタイルが大きく成長してきています。他方、インパクト投資の分野では、スタートアップ投資が活発な米国がリードしています。日本ではクリーンテクノロジーや地域支援の新興企業を支援するインパクト投資や、サステナビリティテーマ型ファンドの割合が比較的高く表れています。

ESG投資・SRIの最新動向

ESG要素統合型と統合報告書

上記でも見てきたようにESG要素統合型の投資スタイルは一般的になりつつあります。それが意味することとは、従来型ファンドのファンドマネージャーがESGを考慮するようになってきているということです。このトレンドは、投資を受ける側の企業経営者にとって大きな意味をもっています。従来、企業を取り巻くステークホルダーへの報告として、投資家向けのものを「IRレポート」、その他のステークホルダー向けに非財務情報をまとめたものを「サステナビリティ(CSR)レポート」と位置づける傾向にありましたが、今や投資家が非財務情報を欲している状況です。そのため、今や企業は、財務情報と非財務情報両方を求めている投資家向けに統合報告書を作成し、財務情報と非財務情報を有機的に結びつけて発表する必要が出てきています。特に日本企業が今後の資金調達をする上での重要となる海外投資家、海外での資金調達をする上で、統合報告書の重要性はますます増えていくことになります。

株主行動とスチュワードシップ・コード

同様に株主行動型のESG投資も増えてきています。日本国内ではまだあまり実感がないかもしれませんが、海外では投資家がESGへの配慮を企業に対して迫る状況になってきています。日本企業のIR活動の上で、ESG情報の重要性は増えていきますし、海外投資家からの株主行動も今後増えていくと予想されます。さらに、このような背景の中、今年日本にも「日本版スチュワードシップ・コード」が誕生し、ほとんどの主要機関投資家がスチュワードシップ・コードの受入を表明しました。国内の投資家がどの程度株主行動を積極的に活用するかはまだ未知数ですが、海外からも日本の機関投資家に対するアクションへの圧力は高まっていきそうです。

【参考】2012 Global Sustainable Investment Review

文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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