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【人権】ハーバード大、アファーマティブ・アクション違憲判決。企業への影響は

 米連邦最高裁判所は6月29日、ハーバード大学とノースカロライナ大学が実施している入試での人種関連アファーマティブ・アクション・プログラムは、1964年公民権憲法第6条に違反、合集国憲法修正第14条に対しても違憲との判断を多数決で下した。2003年に合憲とした合衆国憲法判決を事実上破棄し、歴史的な判決となった。

 今回の訴訟は、ハーバード大学学部入試を不合格となった匿名のアジア系米国人の原告団として、Students for Fair Admissionsが(SFFA)、ハーバード大学を相手取り2014年に連邦地方裁判所に提訴。入試でアジア系受験生が、白人受験者より不利に扱われていると主張していた。SFFAは、保守派で知られる米シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)」の客員研究員が創設した。

 アファーマティブ・アクション・プログラムでは、社会的な人種構成比に学生構成比が近づくよう、入試制度の中で考慮するというもの。主に人種や性別に基づく様々な差別の積極的な是正又はダイバーシティ確保のためのマイノリティーの優先的取扱いに関する政策や施策をいう。ケネディ政権の1961 年大統領令第10925号や、ジョンソン政権の1965年大統領令第11246号が起源と言われている。かつては、アフリカ系米国人を優遇するための措置として導入されていたが、近年、アジア系受験者が急増する中で、アジア系合格者を抑制する結果となっていた。そのため、アファーマティブ・アクションを巡っては、アフリカ系米国人は賛成、白人及びアジア系は反対という大きな構図が生まれている。

 過去の判例では、カリフォルニア大学デービス校医学部で合格者の人種割当を実施したアファーマティブ・アクションを連邦最高裁判所が違憲と判決した1978年の「カリフォルニア大学理事会vsバッキ事件」がある。

 さらに1996年には、テキサス大学法科大学院は、入学者を選抜するにあたり、アフリカ系米国人とメキシコ系米国人は別個の基準で審査していたアファーマティブ・アクションが違憲と判断された。同「ホップウッドvsテキサス州事件」では、地方裁判所は、別個の審査を行うマイノリティ小委員会を組成したことは違憲としたが、プログラム自体は合憲と判断。しかし、二審を担当した連邦第五巡回裁判所は、下級審の判決を破棄し、ダイバーシティ理論と過去の差別に対する是正理論の双方を否定。2対1でテキサス大学側が敗訴した。その後、連邦最高裁判所は上告を受理せず、二審判決が最終確定した。

 しかし、2003年にはミシガン大学の入試でのアファーマティブ・アクションに関し、法科大学院に対しては連邦裁判所判事の5対4で合憲、法学部に対しては6対3で違憲とする「グラッターvsボリンジャー事件」の判決があった。同判決では、人種マイノリティに対し自動的に加点した法学部に関しては違憲、定性判断での考慮材料とした法科大学院については合憲というものだった。

 「ホップウッドvsテキサス州事件」での違憲判決を受けて、アファーマティブ・アクションを停止していたテキサス州は、「グラッターvsボリンジャー事件」での合憲判決を考慮し、アファーマティブ・アクションを再開。今度は、入試審査での「学術的要因」と「個人達成指標」のうち、「個人達成指標」の中に一要素として「人種」観点を組み入れた。しかし、テキサス州オースティン校の白人女性が2008年、同大学の不合格判定後に、差別的と主張し提訴した。連邦最高裁判所は2016年、連邦最高裁判所判事4対3の僅差でアファーマティブ・アクションを合憲とし、テキサス大学勝訴の判決を下した。理由としては、「学生のダイバーシティから溢れ出る教育的恩恵」を獲得することこそが、大学にとっての「やむにやまれぬ関心ごと」であり、ダイバーシティの追求を理由としたアファーマティブ・アクションは正当化されると判断した。

 上記の過去の裁判では、連邦政府から資金支援を受けている教育機関は、人種差別を違法とする公民権法第6章の適用を受けるという法理が適用されている。今回のハーバード大学の事案も同様に扱われた。裁判過程では、一審の連邦地方裁判所では、SFFA側が被害の証拠を提出できておらず立証責任を果たしていないとして、ハーバード大学側勝訴の判決。2020年には二審の第1巡回区連邦控訴裁判所も一審判決を支持した。また、同時期に行われていた「SFFA vs ノースカロライナ大学事件」でも、同様に二審では大学側が勝訴していた。しかし、一転、連邦最高裁判所判事は、双方の事案をまとめて審理し、6月29日、違憲判決を下した。

 裁判では、ハーバード大学に関しては、大学側は、人種中立的な審査を行っていると主張したが、学部入試審査で行われた受験生の個人評価の中で「人種」が差別的に扱われたかが争われた。ノースカロライナ大学に関しては、そもそも人種中立的でない入試プロセスの合憲性が争われた。途中で、ジャクソン判事が、ハーバード大学監督委員会委員であったことから、2つの大学の訴訟は分割され、ジャクソン判事はノースカロライナ大学の裁判にのみ加わることとなった。6月29日の判決では、ハーバード大学の裁判では6対2で違憲、ノースカロライナ大学の裁判ではジャクソン判事が反対側に回り、6対3で違憲となった。今回も共和党派6人と民主党派3人で判事が見事に分裂した。

 違憲判断側の判事は、入試は人種が決定的な要因となってはいけないとし、アファーマティブ・アクションそのものの正当性を否定した。但し、「その考察が特定の受験生が大学に貢献できる人格的資質やユニークな能力と具体的に結びついている限り」認められるとし、生い立ちやバックグラウンドが個人的資質や能力と強固に結びついていれば可とした。一方、合憲判断側の判事は、人種を無視しても人種不平等な社会を平等にすることはできず、むしろ差別がない社会のために、アファーマティブ・アクションは正当性があるとの立場を採った。両者の意見の隔たりは大きく、最終的に多数決での幕引きとなり、「グラッターvsボリンジャー事件」での判例理論が葬り去られた。

 今回の判決を受けて、ハーバード大学のローレンス・バコウ総長は同日、声明を発表。連邦最高裁判所の判決を尊重すると表明しつつ、「進歩や変化をもたらす教育、学習、研究、創造性には討論や意見の相違が必要であり、多様性と相違は学問の卓越性にとって不可欠」と断言。「今後数週間から数ヶ月の間に、ハーバード・コミュニティの叡智と専門知識を駆使し、裁判所の新たな判例と矛盾することなく、私たちの本質的な価値を維持する方法を決定する」と述べた。

 ノースカロライナ大学のケヴィン・グスキェヴィチ総長も同日、声明を発表。ハーバード大学同様に、連邦最高裁判所の判決を尊重すると表明しつつ、どのように従うかを具体的に決定する前に、十分に詳細や潜在的インパクトを検討すると言及。今後数中間のうちに、新たな計画を伝えるとした。

 また、保守派で知られるドナルド・トランプ前大統領は、連邦最高裁判所判決を歓迎。反対に、ジョー・バイデン大統領は演説の中で、「これは尋常な裁判所ではない」と述べ、米国には「法に合致した新たな前進の道」が必要と述べた。

 今回の判決は、大学入試を対象としたものだが、判決結果がアファーマティブ・アクションそのものの考え方を違憲として否定したことから、企業のダイバーシティ戦略にも影響を与えるとの向きもある。ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DEI)戦略が、性別、年齢、人種等のマジョリティから「差別」と主張される可能性が米国内で高まってきた。すでに米国では、気候変動やESGに関する社会分断が深刻化しているが、さらにダイバーシティを巡っても、より分断が進みそうだ。

【参照ページ】STUDENTS FOR FAIR ADMISSIONS, INC. v. PRESIDENT AND FELLOWS OF HARVARD COLLEGE
【参照ページ】Supreme Court Decision
【参照ページ】A message from the Chancellor: Supreme Court decision

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 米連邦最高裁判所は6月29日、ハーバード大学とノースカロライナ大学が実施している入試での人種関連アファーマティブ・アクション・プログラムは、1964年公民権憲法第6条に違反、合集国憲法修正第14条に対しても違憲との判断を多数決で下した。2003年に合憲とした合衆国憲法判決を事実上破棄し、歴史的な判決となった。

 今回の訴訟は、

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 米連邦最高裁判所は6月29日、ハーバード大学とノースカロライナ大学が実施している入試での人種関連アファーマティブ・アクション・プログラムは、1964年公民権憲法第6条に違反、合集国憲法修正第14条に対しても違憲との判断を多数決で下した。2003年に合憲とした合衆国憲法判決を事実上破棄し、歴史的な判決となった。

 今回の訴訟は、

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 米連邦最高裁判所は6月29日、ハーバード大学とノースカロライナ大学が実施している入試での人種関連アファーマティブ・アクション・プログラムは、1964年公民権憲法第6条に違反、合集国憲法修正第14条に対しても違憲との判断を多数決で下した。2003年に合憲とした合衆国憲法判決を事実上破棄し、歴史的な判決となった。

 今回の訴訟は、ハーバード大学学部入試を不合格となった匿名のアジア系米国人の原告団として、Students for Fair Admissionsが(SFFA)、ハーバード大学を相手取り2014年に連邦地方裁判所に提訴。入試でアジア系受験生が、白人受験者より不利に扱われていると主張していた。SFFAは、保守派で知られる米シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)」の客員研究員が創設した。

 アファーマティブ・アクション・プログラムでは、社会的な人種構成比に学生構成比が近づくよう、入試制度の中で考慮するというもの。主に人種や性別に基づく様々な差別の積極的な是正又はダイバーシティ確保のためのマイノリティーの優先的取扱いに関する政策や施策をいう。ケネディ政権の1961 年大統領令第10925号や、ジョンソン政権の1965年大統領令第11246号が起源と言われている。かつては、アフリカ系米国人を優遇するための措置として導入されていたが、近年、アジア系受験者が急増する中で、アジア系合格者を抑制する結果となっていた。そのため、アファーマティブ・アクションを巡っては、アフリカ系米国人は賛成、白人及びアジア系は反対という大きな構図が生まれている。

 過去の判例では、カリフォルニア大学デービス校医学部で合格者の人種割当を実施したアファーマティブ・アクションを連邦最高裁判所が違憲と判決した1978年の「カリフォルニア大学理事会vsバッキ事件」がある。

 さらに1996年には、テキサス大学法科大学院は、入学者を選抜するにあたり、アフリカ系米国人とメキシコ系米国人は別個の基準で審査していたアファーマティブ・アクションが違憲と判断された。同「ホップウッドvsテキサス州事件」では、地方裁判所は、別個の審査を行うマイノリティ小委員会を組成したことは違憲としたが、プログラム自体は合憲と判断。しかし、二審を担当した連邦第五巡回裁判所は、下級審の判決を破棄し、ダイバーシティ理論と過去の差別に対する是正理論の双方を否定。2対1でテキサス大学側が敗訴した。その後、連邦最高裁判所は上告を受理せず、二審判決が最終確定した。

 しかし、2003年にはミシガン大学の入試でのアファーマティブ・アクションに関し、法科大学院に対しては連邦裁判所判事の5対4で合憲、法学部に対しては6対3で違憲とする「グラッターvsボリンジャー事件」の判決があった。同判決では、人種マイノリティに対し自動的に加点した法学部に関しては違憲、定性判断での考慮材料とした法科大学院については合憲というものだった。

 「ホップウッドvsテキサス州事件」での違憲判決を受けて、アファーマティブ・アクションを停止していたテキサス州は、「グラッターvsボリンジャー事件」での合憲判決を考慮し、アファーマティブ・アクションを再開。今度は、入試審査での「学術的要因」と「個人達成指標」のうち、「個人達成指標」の中に一要素として「人種」観点を組み入れた。しかし、テキサス州オースティン校の白人女性が2008年、同大学の不合格判定後に、差別的と主張し提訴した。連邦最高裁判所は2016年、連邦最高裁判所判事4対3の僅差でアファーマティブ・アクションを合憲とし、テキサス大学勝訴の判決を下した。理由としては、「学生のダイバーシティから溢れ出る教育的恩恵」を獲得することこそが、大学にとっての「やむにやまれぬ関心ごと」であり、ダイバーシティの追求を理由としたアファーマティブ・アクションは正当化されると判断した。

 上記の過去の裁判では、連邦政府から資金支援を受けている教育機関は、人種差別を違法とする公民権法第6章の適用を受けるという法理が適用されている。今回のハーバード大学の事案も同様に扱われた。裁判過程では、一審の連邦地方裁判所では、SFFA側が被害の証拠を提出できておらず立証責任を果たしていないとして、ハーバード大学側勝訴の判決。2020年には二審の第1巡回区連邦控訴裁判所も一審判決を支持した。また、同時期に行われていた「SFFA vs ノースカロライナ大学事件」でも、同様に二審では大学側が勝訴していた。しかし、一転、連邦最高裁判所判事は、双方の事案をまとめて審理し、6月29日、違憲判決を下した。

 裁判では、ハーバード大学に関しては、大学側は、人種中立的な審査を行っていると主張したが、学部入試審査で行われた受験生の個人評価の中で「人種」が差別的に扱われたかが争われた。ノースカロライナ大学に関しては、そもそも人種中立的でない入試プロセスの合憲性が争われた。途中で、ジャクソン判事が、ハーバード大学監督委員会委員であったことから、2つの大学の訴訟は分割され、ジャクソン判事はノースカロライナ大学の裁判にのみ加わることとなった。6月29日の判決では、ハーバード大学の裁判では6対2で違憲、ノースカロライナ大学の裁判ではジャクソン判事が反対側に回り、6対3で違憲となった。今回も共和党派6人と民主党派3人で判事が見事に分裂した。

 違憲判断側の判事は、入試は人種が決定的な要因となってはいけないとし、アファーマティブ・アクションそのものの正当性を否定した。但し、「その考察が特定の受験生が大学に貢献できる人格的資質やユニークな能力と具体的に結びついている限り」認められるとし、生い立ちやバックグラウンドが個人的資質や能力と強固に結びついていれば可とした。一方、合憲判断側の判事は、人種を無視しても人種不平等な社会を平等にすることはできず、むしろ差別がない社会のために、アファーマティブ・アクションは正当性があるとの立場を採った。両者の意見の隔たりは大きく、最終的に多数決での幕引きとなり、「グラッターvsボリンジャー事件」での判例理論が葬り去られた。

 今回の判決を受けて、ハーバード大学のローレンス・バコウ総長は同日、声明を発表。連邦最高裁判所の判決を尊重すると表明しつつ、「進歩や変化をもたらす教育、学習、研究、創造性には討論や意見の相違が必要であり、多様性と相違は学問の卓越性にとって不可欠」と断言。「今後数週間から数ヶ月の間に、ハーバード・コミュニティの叡智と専門知識を駆使し、裁判所の新たな判例と矛盾することなく、私たちの本質的な価値を維持する方法を決定する」と述べた。

 ノースカロライナ大学のケヴィン・グスキェヴィチ総長も同日、声明を発表。ハーバード大学同様に、連邦最高裁判所の判決を尊重すると表明しつつ、どのように従うかを具体的に決定する前に、十分に詳細や潜在的インパクトを検討すると言及。今後数中間のうちに、新たな計画を伝えるとした。

 また、保守派で知られるドナルド・トランプ前大統領は、連邦最高裁判所判決を歓迎。反対に、ジョー・バイデン大統領は演説の中で、「これは尋常な裁判所ではない」と述べ、米国には「法に合致した新たな前進の道」が必要と述べた。

 今回の判決は、大学入試を対象としたものだが、判決結果がアファーマティブ・アクションそのものの考え方を違憲として否定したことから、企業のダイバーシティ戦略にも影響を与えるとの向きもある。ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DEI)戦略が、性別、年齢、人種等のマジョリティから「差別」と主張される可能性が米国内で高まってきた。すでに米国では、気候変動やESGに関する社会分断が深刻化しているが、さらにダイバーシティを巡っても、より分断が進みそうだ。

【参照ページ】STUDENTS FOR FAIR ADMISSIONS, INC. v. PRESIDENT AND FELLOWS OF HARVARD COLLEGE
【参照ページ】Supreme Court Decision
【参照ページ】A message from the Chancellor: Supreme Court decision

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