Sustainable Japan | 世界のサステナビリティ・ESG投資・SDGs

【食品・消費財】組織変革に寄与するサステナビリティ 〜ユニリーバに学ぶ長期成長戦略とは〜

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 オランダのマーガリンメーカーのマーガリン・ユニ社とイギリスの石鹸メーカーのリーバ・ブラザーズ社が経営統合し、設立されたユニリーバ社。現在は業界だけでなく世界を代表する企業の一社となるまで成長し、ブランド力はもちろんのこと、サステナビリティの観点でも世界をリードする企業となっています。今回はそんな同社がサステナビリティ活動を核とした経営の実施にいたった背景や、実際の活動内容、そしてその効果に迫ります。

サステナビリティに仇なす存在と考えられていた過去

 現在はサステナビリティ先進企業と言われるユニリーバ社ですが、以前は社会起業家に仇なす存在だと考えられていました。事実、2000年にアイスクリームブランドのベン&ジェリーズを買収した際には、社会起業家の築き上げた「社会性」を浸食する存在として非難されたほどです。

 ベン&ジェリーズは買収される以前より、業界のパイオニアとしてダブルボトムライン(経済性および社会性)を追求し、社会的価値を追求する姿勢が高く評価されていました。ところがその後ベン&ジェリーズは社会性こそ革新的であるものの、経済性すなわち収益が思うように上がらず、株価もピーク時の半分にまで低下するなど経営が逼迫していきます。経営状態は悪かったもののベン&ジェリーズの潜在的収益性に目を付ける企業は少なくなく、いくつかの企業が買収に乗り出しました。その際に最高値を入札し買収を成功させた企業がユニリーバ社でした。

 かくしてベン&ジェリーズは子会社化されたもの、ユニリーバ社の管理下に置かれるのは飽くまで財務・オペレーションであり、本社とは独立した取締役会の下で創業者らの掲げてきたソーシャルミッションに基づき運営されることが約束されました。実際、ユニリーバ社はベン&ジェリーズ基金への寄付、従業員へのボーナス、マイノリティの経営する中小企業や資金不足の企業への支援にそれぞれ500万ドルずつ提供しています。それにも関わらず、創業者にとって「不本意な売却」というイメージが広く流布してしまい、社会起業家を落胆させることとなってしまったのです。

長期業績不振に喘ぐグローバルカンパニー

 その後はユニリーバ社自体も業績低迷に喘ぎます。グローバル展開を進めつつも、国ごとに幅広く商品展開した結果、全社レベルでの製品ポートフォリオが複雑になり合理性を欠くようになったため、製造における規模の経済も機能しなくなってしまいました。

 そこで2005年に「ワン・ユニリーバ (One Unilever)」という方針を打ちたて、保有ブランドのグローバルでの統一化と製造工程における生産性向上を図ります。結果、純利益を大きく伸ばすことに成功しました。しかしこの方策はコスト体質の改善にこそ寄与したものの、売上そのものを大きく伸ばすには至りませんでした。


(2000〜2008年アニュアルレポートに基づきニューラル作成)

 このように長期わたる業績停滞は株主からの強いプレッシャーを招き、同社は当時ITシステムや社員教育といった長期的に競争力をもたらすであろう分野への投資を諦め、短期的な業績向上を追求せざるをえない状況にありました。

サステナビリティを核とした長期成長戦略の標榜

 長きにわたる業績停滞に加え、さらにリーマン・ショックで業績は落ち込みます。不景気に喘ぐユニリーバでしたが、Paul Polman氏のCEO就任を機に風向きが変わり始め、現在ではサステナビリティと収益向上を両立し世界からの賞賛を浴びています。それではその長期成長戦略の全容および10年間の財務分析結果からはじき出される同社のサステナビリティ活動の有用性、さらにはこの戦略がいかに日本企業にも適しているかについて見ていきましょう。

 まずPaul氏は2009年の就任と共に「ビジネス規模を2倍にしつつ環境負荷を半分にする」という長期目標の”The compass”を掲げます。同時に、その長期的展望の妨げとなり、短期的利益追求経営の象徴とみなされた四半期報告を廃止しました。さらに2010年12月にはThe compassで掲げた目標をより広範な戦略に組み込んだサステナブル・リビング・プラン(Sustainable Living Plan)を提唱します。これは成長戦略の一環として「健康・衛生」「環境負荷削減」「経済発展」の3つの分野に取り組むことを公約したもので、それぞれの分野について2020年までの数値目標およびアクションプランを設けています。同社は翌2011年1月より同プランを実行に移しました。

サステナブル・リビング・プラン

 では実際にこのサステナブル・リビング・プランとはどのようなものであるかを見ていきましょう。まず同プランの目的は「よりよい明日を創るために」というビジョンのもと、環境負荷を減らし、社会に貢献しながら、ビジネスを2倍にすることです。この概念を端的にまとめたのが以下の図です。


(UNILEVER SUSTAINABLE LIVING PLAN SCALING FOR IMPACT SUMMARY OF PROGRESS 2014より抜粋)

そしてこの目的を達成するために同社は2020年までの達成目標として以下の3つを掲げます。

  • 10億人以上のすこやかな暮らしを支援
  • 製品の製造・使用から生じる環境負荷を半減
  • 数百万人の暮らしの向上を支援

この3つの目標を達成するため挙げたコミットメントのテーマは以下の9つです。

  1. 健康・衛生
  2. 栄養
  3. 温室効果ガス
  4. 水利用
  5. 廃棄物
  6. 持続可能な調達
  7. 職場における公平性
  8. 女性の雇用機会
  9. インクルーシブビジネス

健康・衛生

 コミット内容は、2020年までに10億人以上の人々の健康と衛生の向上を支援することです。2014年末の段階で3億9,700万人の健康及び衛生向上の支援を達成しています。内訳は石鹸ブランドのLifebuoyで2億5700万人、家庭浄水器ブランドのPureitで5500万人、トイレ用洗剤のDomestosで130万人、歯磨き粉ブランドで6700万人、ボディソープブランドのDoveのプログラムで1580万人となっています。このコミットメントのKPIおよび進捗状況は以下のようになっています。

【達成済み】

  • 同社の歯ブラシ・歯磨き粉ブランドを使って2020年までに5000万人の日夜の歯磨きを促進すること
  • 教育プログラムを通し、ボディソープブランドのDoveで2015年までに1500万人の若者の自尊心向上を支援すること

【計画通り進捗】

  • 2020年までに家庭浄水器ブランドのPureitで1500億リットルの安全な水を提供すること
  • 綺麗なトイレの良さをプロモーションすることやトイレを設置することによって、2020年までに2500万人のトイレへのアクセスを改善すること

【計画達成が厳しい状況】

  • 2020年までに石鹸ブランドのLifebuoyでアジア、アフリカ、ラテンアメリカの10億人に手洗いによる衛生習慣を身につけてもらい下痢症と呼吸器系疾患を減少させること

栄養

 コミットメント内容は、2020年までに最高基準の栄養品質が保証された商品が会社の商品ポートフォリオに占める割合を2倍にすることです。2014時点で同社の商品ポートフォリオの33%は最高基準の栄養品質を獲得しています。このコミットメントのKPIおよび進捗状況は以下のようになっています。

【達成済み】

  • 2012年までに全ての商品からトランス脂肪酸を取り除くこと
  • 2014年までに子供向けアイスクリームのカロリーを一人あたり110以下に抑えること

【計画通り進捗】

  • 2020年までに75%の食品製品で1日あたり5gの塩分摂取量基準を満たすよう塩分含有量を削減すること
  • 2017年までに同社ポートフォリオ内の90%の植物性油脂スプレッドは、33%以下の飽和脂肪酸と最低67%の不飽和脂肪酸を成分とすること
  • 2020年までにペットボトルの紅茶や粉末インスタントアイスティー、ミルクティーについて25%の糖分カットに取り組むこと
  • 2015年までに同社アイスクリーム商品の80%は一人前250キロカロリーを超えないようにすること
  • 2015年までに全ての商品についてグローバルで全成分表示を行うこと

【92%達成で期日を迎えたもの】

  • 2012年までに同社のスプレッドにおける飽和脂肪酸は33%以下に抑えること
  • 1日分の摂取量で国際的なガイドラインで推奨する必須脂肪酸の少なくとも15%を提供できるようにすること

【打ち切り】

  • 2020年までに1億人の以上の人々にハート・エイジ・テストを受けてもらうこと。
    この目標に関してはマーガリン・ブランドを通じて十分な数の人々にテストを受けてもらうことは難しいとして目標・取り組み共に打ち切られました。現在はその代わりにブランドコミュニケーションを通し、心臓の健康状の態認識に向けたアプローチを継続しています。

温室効果ガス

 コミットメント内容は、同社製品のライフサイクルにおける温室効果ガス排出量を2020年までに半減させること、そして製造工程で発生するCO2排出量を2008年以下にすることです。現在、同社商品の消費者1人あたりの温室効果ガス排出量は2010年比で4%増加しているものの、製造工程で発生するCO2は2008年から37%削減されています。このコミットメントのKPIおよび進捗状況は以下のようになっています。

【達成済み】

  • 製品改質により2012年までに洗濯における温室効果ガスを15%削減すること
  • 環境に優しい冷凍庫の利用による温室効果ガス削減を目指し、2015年までに85万台を追加購入すること
  • 2011年までに30カ国以上でビデオ会議への投資を進め社員の出張を削減する。

【計画通り進捗】

  • 2020年までに工場からのCO2排出量を2008年の水準以下まで戻すこと
    2014年には2008年比で93万5000トンのCO2削減に成功し、目標を達成しました。
  • 2020年までに再生可能エネルギーの使用量を2倍以上にし、総エネルギー所要量の40%を再生可能エネルギーで賄うこと
  • 新設された工場からの温室効果ガス排出量は、2008年における工場からの排出量の半分以下にすること
  • 液状洗剤濃縮と粉状洗剤のコンパクト化によって洗剤から生じる温室効果ガスを削減すること
  • 2020年までに洗濯機による洗濯の70%において低温や低容量での利用を促すこと
  • 2020年までにグローバル・ロジスティクス・ネットワークからのCO2排出量を2010年の水準まで戻すこと
  • 2020年までに上位21カ国において、オフィスで働く社員一人あたりのエネルギー消費量 (kWh)を 対2010年で半分にすること

水利用

 コミットメント内容は、消費者の同社商品の利用による水使用量を2020年までに半減させることです。同社製品消費者1人あたりの水使用量は2010年から2%程度削減することに成功しています。このコミットメントのKPIおよび進捗状況は以下のようになっています。

【計画通り進捗】

  • 2020年までに同社のグローバル工場ネットワークによる水の汲み上げを2008年の水準まで戻すこと
  • 新設された工場による汲み上げられた水の量は、20008年当時における工場のそれの半分以下にすること
  • 簡単にすすげる製品を作りより広く使われるようにし、洗濯における水使用量の削減すること
  • 水不足の国の5000万世帯により少ない水使用量でしっかりと洗濯ができる製品を提供すること
  • 水不足の国においても穀物の成長が図れる様、水使用の削減に向けた包括的な計画をサプライヤーやパートナーと共に開発すること

【計画達成が厳しい状況】

  • 2015年までに少ない水使用量で使えるシャンプーやボディソープを2億人に提供する

廃棄物

 コミットメント内容は、同社製品を捨てる際に発生する廃棄物を2020年までに半減させることとです。2014年時点で廃棄物量は2010年から12%の削減に成功しています。このコミットメントのKPIおよび進捗状況は以下のようになっています。

【達成済み】

  • 2020年までに廃棄物総量を2008年の水準以下にすること
  • 2015年までに工場から埋立地へと送る廃棄物をゼロにすること
  • 2015年までに上位21カ国において紙消費量を一人当たり30%減らすこと

【計画通り進捗】

  • すべての新設された工場からの廃棄物排出量は、2008年当時に工場から排出されていた量の半分以下にすること
  • 企業や政府、NGOと協働し上位14カ国において再利用・再生比率を2015年までに5%上げ、2020年には15%上げること
  • 2020年までに包装の原料として、再生材料を最大限増加させること
  • シャンプーやボディソープといった商品で詰替え用の製品を提供し、初期購入のボトルを再利用してもらうように促すこと
  • 2015年までにオフィスから排出された廃棄物は再利用、リサイクル、再生されること。また2017年までに埋立地へと送る廃棄物をゼロにすること

【99%達成で期日を迎えたもの】

  • 2012年までに全ての包装からポリ塩化ビニルを撤廃すること

【計画達成が厳しい状況】

  • 2020年までに軽い材料の利用などを通し、包装の重量を軽くすること
  • 2015年までに小袋廃棄の流れに対応し、持続可能なビジネスモデルの開発と施行
  • 2015年までにインボイス、レシート、財務報告書、給与明細などについて、技術的・法的に可能な範囲で紙使用を撤廃する

持続可能な調達

 コミットメント内容は、2020年までに同社の調達を100%持続可能な原材料農作物にすることです。マイルストーンとして2010年までに10%、2012年までに30%、2015年までに50%という目標が掲げられています。2014年末時点で同社の調達の55%は持続可能な原材料農作物となっており、マイルストーンに沿った順調な進捗を見せています。このコミットメントのKPIおよび進捗状況は以下のようになっています。

【達成済み】

  • 2015年までに全てのパーム油購入は持続可能な調達にすること
  • 2013年までに上位21カ国の全ての紙利用オフィス用品について持続可能な調達をすること
  • 2014年までに全ての大豆について持続可能な調達をすること

【計画通り進捗】

  • 2020年までに全てのパーム油購入はトレーサビリティの担保された調達にすること
  • 2015年までに包装に使われる紙とボードの75%は、持続可能な管理が為された森林またはリサイクル原料で調達されたものにすること。また2020年までにはこの割合を100%にすること
  • 2020年までに全ての大豆油について持続可能な調達をすること
  • 2015年までにリプトンの全てのティーバッグについてレインフォレスト・アライアンスに認証された土地から調達すること
  • 2020年までに茶葉を含む全てのユニリーバ社のお茶は持続可能な調達にすること
  • 2012年までに上位13の野菜とハーブについて50%は持続可能な調達にすること。また2015年までにその割合を100%にすること
  • 2015年までに同社のアイスクリームブランド マグナムに使われるココアを持続可能な調達をすること。また2020年までにその他全ての商品に使われるココアについても持続可能に調達すること
  • 2020年までに全ての砂糖の調達を持続可能にすること
  • 2020年までに全てのひまわり油の調達を持続可能にすること
  • 2020年までに全てのなたね油の調達を持続可能にすること
  • 2020年までに全ての乳製品の調達を持続可能にすること
  • ベン&ジェリーズのアイスクリーム、Hellmann’sやAmora、Calvéのマヨネーズを含む全ての商品について100%ケージ・フリー・エッグを使用する

【計画達成が厳しい状況】

  • 2015年までに全てのフルーツについて持続可能な調達をすること

【77%達成で期日を迎えたもの】

  • 2013年までにベン&ジェリーズのすべての味についてフェアトレードを行うこと

職場における公平性

 コミットメント内容は、同社のサプライチェーン上における人権意識の醸成や改善ロードマップの作成、ベストプラクティスの促進などにより2020年までに公平性を推進することです。新しい方針の策定や組織的な能力、認識の構築など前進を続けています。このコミットメントKPIおよび進捗状況は以下のようになっています。

【達成済み】

  • 2011年までに38カ国に点灯用具が提供されてきたが、2012〜2015年にはさらに30カ国にこのプログラムを展開する。長期目標としては、このプログラムを同社が従業員100人以上を有する全ての国に展開する。
  • 2020年までに工場・オフィス内で発生する記録対象となる事故の頻度(TRFR)を2008年の50%に減らします。

【計画通り進捗】

  • ビジネスと人権に関する国連フレームワークに則り全ての業務や報告を行うこと
  • 全ての調達は同社の責任ある調達ポリシーに沿ったサプライヤーから行うこと
  • 2015年までに180カ国での分析を始め、公平な報酬体系を構築すること
  • メンタルヘルスに関するフレームワークをグローバルに展開すること

女性の雇用機会

 コミットメント内容は2020年までに500万人の女性の支援し、収入を向上させることです。7万人のインドの女性起業家に製品を売るための訓練を施し、16万8000人の女性にビジネストレーニングを行っています。また2014年末には女性管理職の比率が43%となり、ダイバーシティの向上にも努めています。このコミットメントのKPIおよび進捗状況は以下のようになっています。

【計画通り進捗】

  • マネジメントに焦点をあてつつ性別のバランスのとれた組織を構築する
  • 同社が管理するコミュニティにおいて女性への安全性をプロモーションする
  • バリューチェーンをまたぎスキルトレーニングへのアクセスを高める
  • 2015年までに同社が採用・教育を行っているヒンドゥー教徒の女性起業家を7万5000人まで増やす

インクルーシブビジネス

 コミットメント内容は小規模農場経営者のライフクオリティの向上、小規模小売業者の収入の増加、若手起業家の増加により、5500万人の生活にポジティブなインパクトを与えることです。2014年末時点で80万人の小規模農場経営者は、ユニリーバ社の農作物やその他サプライヤーとパートナーシップを組み、トレーニングやサポートを受けています。このコミットメントのKPIおよび進捗状況は以下のようになっています。

【計画通り進捗】

  • 同社のサプライチェーン上で最低でも50万の小規模農場にエンゲージし、農業慣行を改善することで競争力を高める支援をすること
  • 物流ネットワーク上で500万の小売業者の収益の創出・向上に取り組むこと
  • ビジネストレーニングを提供することにより、ユニリーバ社のバリューチェーンに参画する若手起業家を増やすこと

サステナビリティと両立する企業価値の向上

 ではサステナブル・リビング・プランを通してユニリーバ社の業績がどのように変化したのかについてご紹介します。

 2008年まで約10年にわたり低迷していた同社の業績は、Paul氏のCEO就任を期に回復の兆しを見せます。

(2009〜2014年アニュアルレポートに基づきニューラル作成)

 売上高に注目すると、2012年に深刻化した欧州危機の煽りを受け、2013年以降は減少しているものの、営業利益と当期純利益は伸び続けており、殊、純利益においては2014年に直近15年間で最高額を記録しています。

(2009〜2014年アニュアルレポートに基づきニューラル作成)

 また1株あたりの純利益を示す指標であるEPSに関しても、2003年から大きく減退をみせますが、その後はほぼ一貫して上昇しています。

(2000〜2014年アニュアルレポートに基づきニューラル作成)
上の図のように2000〜2014年の間に動きのあるEPSですが、そのトレンドは大きく4つの期に分けることができます。

  • 2000〜2003年
  • 2003〜2005年
  • 2005〜2010年
  • 2010〜2014年

それぞれの要因について以下に見て行きましょう。

2000〜2003年

(2000〜2003年アニュアルレポートに基づきニューラル作成)

発行株式数に大きな変化はなく、当期純利益の伸びがEPSの伸びとなっています。

2003〜2005年

(2003〜2005年アニュアルレポートに基づきニューラル作成)

2003と2004年のEPSの差異は当期純利益の減少に拠るところが大きいですが、2004〜2005年の変化は発行株式数が増加した結果、方程式における分母が大きくなりEPSが小さくなっています。

2005〜2010年

(2005〜2010年アニュアルレポートに基づきニューラル作成)

ワン・ユニリーバという方針で事業運営がなされていた時代です。前述の図(2000〜2014年における売上の推移)の通り、この時代には売上が伸びたわけではなくコスト削減が積極的に進められ、純利益が高くなったことがEPSを引き上げた要因となっています。

2010〜2014年

(2010〜2014年アニュアルレポートに基づきニューラル作成)

サステナブル・リビング・プランが導入されてからの推移がこの期間です。株式発行数に大きな変化はなく、また新興国市場への積極展開などを含め売上が伸びています。一般的に市場拡大時には経営資源の投下や試行錯誤による損失などEPSは減少しがちですが、ユニリーバのケースではEPSが向上しています。これはサステナブル・リビング・プランにより経営資源の効率化や経営リスクの低減が功を奏していると言えます。

 因果性は統計的に証明することは難しく、「サステナビリティ活動をした結果、企業価値の向上に繋がった」などとは単純には説明はできません。しかしながら、これだけサステナビリティ活動に取り組んでいても同社は企業価値を欠損しておらず、サステナビリティ活動と企業価値向上は矛盾しないと言えます。

サステナビリティを軸にした組織変革の鍵

 今回取り上げたユニリーバ社は、大胆かつ大規模な長期目標の下に分野別の数値目標とアクションプランを策定し、サステナビリティ活動に取り組んできています。その取り組みを機能させる鍵は、経営陣や担当者だけでなく従業員全体のコミットメントです。

 ユニリーバ社は、従業員の報酬システムを長期目標に関わるインセンティブと関連させ、長期的視点で持続可能な成長に焦点を絞る工夫をしています。同社は外資系金融ほどの高給を支払っているわけではないものの、CEOのPaul氏によると、この4、5年で従業員のエンゲージメントスコアは劇的に上昇したとのことで、ベンチマークしていた8,000社の企業と比較してもこれほどの上昇は見たことがないといいます。

 本来このような長期的目標に紐付けた報酬システムは、長期雇用ないし終身雇用を実施している日本企業との相性が良いと言えます。自社の事業領域におけるマテリアリティを特定し、具体的かつ長期的な数値目標の下で、自社ビジョンに適したサステナビリティ活動を展開すること。そしてその長期目標の達成に向けた取り組みが正当に評価される体制を構築することが、グローバルに展開する企業に求められる責務と言えるでしょう。

 いかがでしたでしょうか。過去にはサステナビリティの対極という扱いを受けていた企業でさえ、強いリーダーシップによる長期目標の推進と従業員たちのコミットメントによりサステナビリティ先進企業として名を馳せるまでに変革を遂げることもできるのです。四半期報告の廃止を唱える声が上がっていること、コーポレート・ガバナンスコードへの対応が迫られていること等からも日本企業は今まさに変革の時を迎えているのかもしれません。

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 オランダのマーガリンメーカーのマーガリン・ユニ社とイギリスの石鹸メーカーのリーバ・ブラザーズ社が経営統合し、設立されたユニリーバ社。現在は業界だけでなく世界を代表する企業の一社となるまで成長し、ブランド力はもちろんのこと、サステナビリティの観点でも世界をリードする企業となっています。今回はそんな同社がサステナビリティ活動を核とした経営の実施にいたった背景や、実際の活動内容、そしてその効果に迫ります。

サステナビリティに仇なす存在と考えられていた過去

 現在はサステナビリティ先進企業と言われるユニリーバ社ですが、以前は社会起業家に仇なす存在だと考えられていました。事実、2000年にアイスクリームブランドのベン&ジェリーズを買収した際には、社会起業家の築き上げた「社会性」を浸食する存在として非難されたほどです。

 ベン&ジェリーズは買収される以前より、業界のパイオニアとしてダブルボトムライン(経済性および社会性)を追求し、社会的価値を追求する姿勢が高く評価されていました。ところがその後ベン&ジェリーズは社会性こそ革新的であるものの、経済性すなわち収益が思うように上がらず、株価もピーク時の半分にまで低下するなど経営が逼迫していきます。経営状態は悪かったもののベン&ジェリーズの潜在的収益性に目を付ける企業は少なくなく、いくつかの企業が買収に乗り出しました。その際に最高値を入札し買収を成功させた企業がユニリーバ社でした。

 かくしてベン&ジェリーズは子会社化されたもの、ユニリーバ社の管理下に置かれるのは飽くまで財務・オペレーションであり、本社とは独立した取締役会の下で創業者らの掲げてきたソーシャルミッションに基づき運営されることが約束されました。実際、ユニリーバ社はベン&ジェリーズ基金への寄付、従業員へのボーナス、マイノリティの経営する中小企業や資金不足の企業への支援にそれぞれ500万ドルずつ提供しています。それにも関わらず、創業者にとって「不本意な売却」というイメージが広く流布してしまい、社会起業家を落胆させることとなってしまったのです。

長期業績不振に喘ぐグローバルカンパニー

 その後はユニリーバ社自体も業績低迷に喘ぎます。グローバル展開を進めつつも、国ごとに幅広く商品展開した結果、全社レベルでの製品ポートフォリオが複雑になり合理性を欠くようになったため、製造における規模の経済も機能しなくなってしまいました。

 そこで2005年に「ワン・ユニリーバ (One Unilever)」という方針を打ちたて、保有ブランドのグローバルでの統一化と製造工程における生産性向上を図ります。結果、純利益を大きく伸ばすことに成功しました。しかしこの方策はコスト体質の改善にこそ寄与したものの、売上そのものを大きく伸ばすには至りませんでした。


(2000〜2008年アニュアルレポートに基づきニューラル作成)

 このように長期わたる業績停滞は株主からの強いプレッシャーを招き、同社は当時ITシステムや社員教育といった長期的に競争力をもたらすであろう分野への投資を諦め、短期的な業績向上を追求せざるをえない状況にありました。

サステナビリティを核とした長期成長戦略の標榜

 長きにわたる業績停滞に加え、さらにリーマン・ショックで業績は落ち込みます。不景気に喘ぐユニリーバでしたが、Paul Polman氏のCEO就任を機に風向きが変わり始め、現在ではサステナビリティと収益向上を両立し世界からの賞賛を浴びています。それではその長期成長戦略の全容および10年間の財務分析結果からはじき出される同社のサステナビリティ活動の有用性、さらにはこの戦略がいかに日本企業にも適しているかについて見ていきましょう。

 まずPaul氏は2009年の就任と共に

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サステナビリティに仇なす存在と考えられていた過去

 現在はサステナビリティ先進企業と言われるユニリーバ社ですが、以前は社会起業家に仇なす存在だと考えられていました。事実、2000年にアイスクリームブランドのベン&ジェリーズを買収した際には、社会起業家の築き上げた「社会性」を浸食する存在として非難されたほどです。

 ベン&ジェリーズは買収される以前より、業界のパイオニアとしてダブルボトムライン(経済性および社会性)を追求し、社会的価値を追求する姿勢が高く評価されていました。ところがその後ベン&ジェリーズは社会性こそ革新的であるものの、経済性すなわち収益が思うように上がらず、株価もピーク時の半分にまで低下するなど経営が逼迫していきます。経営状態は悪かったもののベン&ジェリーズの潜在的収益性に目を付ける企業は少なくなく、いくつかの企業が買収に乗り出しました。その際に最高値を入札し買収を成功させた企業がユニリーバ社でした。

 かくしてベン&ジェリーズは子会社化されたもの、ユニリーバ社の管理下に置かれるのは飽くまで財務・オペレーションであり、本社とは独立した取締役会の下で創業者らの掲げてきたソーシャルミッションに基づき運営されることが約束されました。実際、ユニリーバ社はベン&ジェリーズ基金への寄付、従業員へのボーナス、マイノリティの経営する中小企業や資金不足の企業への支援にそれぞれ500万ドルずつ提供しています。それにも関わらず、創業者にとって「不本意な売却」というイメージが広く流布してしまい、社会起業家を落胆させることとなってしまったのです。

長期業績不振に喘ぐグローバルカンパニー

 その後はユニリーバ社自体も業績低迷に喘ぎます。グローバル展開を進めつつも、国ごとに幅広く商品展開した結果、全社レベルでの製品ポートフォリオが複雑になり合理性を欠くようになったため、製造における規模の経済も機能しなくなってしまいました。

 そこで2005年に「ワン・ユニリーバ (One Unilever)」という方針を打ちたて、保有ブランドのグローバルでの統一化と製造工程における生産性向上を図ります。結果、純利益を大きく伸ばすことに成功しました。しかしこの方策はコスト体質の改善にこそ寄与したものの、売上そのものを大きく伸ばすには至りませんでした。


(2000〜2008年アニュアルレポートに基づきニューラル作成)

 このように長期わたる業績停滞は株主からの強いプレッシャーを招き、同社は当時ITシステムや社員教育といった長期的に競争力をもたらすであろう分野への投資を諦め、短期的な業績向上を追求せざるをえない状況にありました。

サステナビリティを核とした長期成長戦略の標榜

 長きにわたる業績停滞に加え、さらにリーマン・ショックで業績は落ち込みます。不景気に喘ぐユニリーバでしたが、Paul Polman氏のCEO就任を機に風向きが変わり始め、現在ではサステナビリティと収益向上を両立し世界からの賞賛を浴びています。それではその長期成長戦略の全容および10年間の財務分析結果からはじき出される同社のサステナビリティ活動の有用性、さらにはこの戦略がいかに日本企業にも適しているかについて見ていきましょう。

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 オランダのマーガリンメーカーのマーガリン・ユニ社とイギリスの石鹸メーカーのリーバ・ブラザーズ社が経営統合し、設立されたユニリーバ社。現在は業界だけでなく世界を代表する企業の一社となるまで成長し、ブランド力はもちろんのこと、サステナビリティの観点でも世界をリードする企業となっています。今回はそんな同社がサステナビリティ活動を核とした経営の実施にいたった背景や、実際の活動内容、そしてその効果に迫ります。

サステナビリティに仇なす存在と考えられていた過去

 現在はサステナビリティ先進企業と言われるユニリーバ社ですが、以前は社会起業家に仇なす存在だと考えられていました。事実、2000年にアイスクリームブランドのベン&ジェリーズを買収した際には、社会起業家の築き上げた「社会性」を浸食する存在として非難されたほどです。

 ベン&ジェリーズは買収される以前より、業界のパイオニアとしてダブルボトムライン(経済性および社会性)を追求し、社会的価値を追求する姿勢が高く評価されていました。ところがその後ベン&ジェリーズは社会性こそ革新的であるものの、経済性すなわち収益が思うように上がらず、株価もピーク時の半分にまで低下するなど経営が逼迫していきます。経営状態は悪かったもののベン&ジェリーズの潜在的収益性に目を付ける企業は少なくなく、いくつかの企業が買収に乗り出しました。その際に最高値を入札し買収を成功させた企業がユニリーバ社でした。

 かくしてベン&ジェリーズは子会社化されたもの、ユニリーバ社の管理下に置かれるのは飽くまで財務・オペレーションであり、本社とは独立した取締役会の下で創業者らの掲げてきたソーシャルミッションに基づき運営されることが約束されました。実際、ユニリーバ社はベン&ジェリーズ基金への寄付、従業員へのボーナス、マイノリティの経営する中小企業や資金不足の企業への支援にそれぞれ500万ドルずつ提供しています。それにも関わらず、創業者にとって「不本意な売却」というイメージが広く流布してしまい、社会起業家を落胆させることとなってしまったのです。

長期業績不振に喘ぐグローバルカンパニー

 その後はユニリーバ社自体も業績低迷に喘ぎます。グローバル展開を進めつつも、国ごとに幅広く商品展開した結果、全社レベルでの製品ポートフォリオが複雑になり合理性を欠くようになったため、製造における規模の経済も機能しなくなってしまいました。

 そこで2005年に「ワン・ユニリーバ (One Unilever)」という方針を打ちたて、保有ブランドのグローバルでの統一化と製造工程における生産性向上を図ります。結果、純利益を大きく伸ばすことに成功しました。しかしこの方策はコスト体質の改善にこそ寄与したものの、売上そのものを大きく伸ばすには至りませんでした。


(2000〜2008年アニュアルレポートに基づきニューラル作成)

 このように長期わたる業績停滞は株主からの強いプレッシャーを招き、同社は当時ITシステムや社員教育といった長期的に競争力をもたらすであろう分野への投資を諦め、短期的な業績向上を追求せざるをえない状況にありました。

サステナビリティを核とした長期成長戦略の標榜

 長きにわたる業績停滞に加え、さらにリーマン・ショックで業績は落ち込みます。不景気に喘ぐユニリーバでしたが、Paul Polman氏のCEO就任を機に風向きが変わり始め、現在ではサステナビリティと収益向上を両立し世界からの賞賛を浴びています。それではその長期成長戦略の全容および10年間の財務分析結果からはじき出される同社のサステナビリティ活動の有用性、さらにはこの戦略がいかに日本企業にも適しているかについて見ていきましょう。

 まずPaul氏は2009年の就任と共に「ビジネス規模を2倍にしつつ環境負荷を半分にする」という長期目標の”The compass”を掲げます。同時に、その長期的展望の妨げとなり、短期的利益追求経営の象徴とみなされた四半期報告を廃止しました。さらに2010年12月にはThe compassで掲げた目標をより広範な戦略に組み込んだサステナブル・リビング・プラン(Sustainable Living Plan)を提唱します。これは成長戦略の一環として「健康・衛生」「環境負荷削減」「経済発展」の3つの分野に取り組むことを公約したもので、それぞれの分野について2020年までの数値目標およびアクションプランを設けています。同社は翌2011年1月より同プランを実行に移しました。

サステナブル・リビング・プラン

 では実際にこのサステナブル・リビング・プランとはどのようなものであるかを見ていきましょう。まず同プランの目的は「よりよい明日を創るために」というビジョンのもと、環境負荷を減らし、社会に貢献しながら、ビジネスを2倍にすることです。この概念を端的にまとめたのが以下の図です。


(UNILEVER SUSTAINABLE LIVING PLAN SCALING FOR IMPACT SUMMARY OF PROGRESS 2014より抜粋)

そしてこの目的を達成するために同社は2020年までの達成目標として以下の3つを掲げます。

  • 10億人以上のすこやかな暮らしを支援
  • 製品の製造・使用から生じる環境負荷を半減
  • 数百万人の暮らしの向上を支援

この3つの目標を達成するため挙げたコミットメントのテーマは以下の9つです。

  1. 健康・衛生
  2. 栄養
  3. 温室効果ガス
  4. 水利用
  5. 廃棄物
  6. 持続可能な調達
  7. 職場における公平性
  8. 女性の雇用機会
  9. インクルーシブビジネス

健康・衛生

 コミット内容は、2020年までに10億人以上の人々の健康と衛生の向上を支援することです。2014年末の段階で3億9,700万人の健康及び衛生向上の支援を達成しています。内訳は石鹸ブランドのLifebuoyで2億5700万人、家庭浄水器ブランドのPureitで5500万人、トイレ用洗剤のDomestosで130万人、歯磨き粉ブランドで6700万人、ボディソープブランドのDoveのプログラムで1580万人となっています。このコミットメントのKPIおよび進捗状況は以下のようになっています。

【達成済み】

  • 同社の歯ブラシ・歯磨き粉ブランドを使って2020年までに5000万人の日夜の歯磨きを促進すること
  • 教育プログラムを通し、ボディソープブランドのDoveで2015年までに1500万人の若者の自尊心向上を支援すること

【計画通り進捗】

  • 2020年までに家庭浄水器ブランドのPureitで1500億リットルの安全な水を提供すること
  • 綺麗なトイレの良さをプロモーションすることやトイレを設置することによって、2020年までに2500万人のトイレへのアクセスを改善すること

【計画達成が厳しい状況】

  • 2020年までに石鹸ブランドのLifebuoyでアジア、アフリカ、ラテンアメリカの10億人に手洗いによる衛生習慣を身につけてもらい下痢症と呼吸器系疾患を減少させること

栄養

 コミットメント内容は、2020年までに最高基準の栄養品質が保証された商品が会社の商品ポートフォリオに占める割合を2倍にすることです。2014時点で同社の商品ポートフォリオの33%は最高基準の栄養品質を獲得しています。このコミットメントのKPIおよび進捗状況は以下のようになっています。

【達成済み】

  • 2012年までに全ての商品からトランス脂肪酸を取り除くこと
  • 2014年までに子供向けアイスクリームのカロリーを一人あたり110以下に抑えること

【計画通り進捗】

  • 2020年までに75%の食品製品で1日あたり5gの塩分摂取量基準を満たすよう塩分含有量を削減すること
  • 2017年までに同社ポートフォリオ内の90%の植物性油脂スプレッドは、33%以下の飽和脂肪酸と最低67%の不飽和脂肪酸を成分とすること
  • 2020年までにペットボトルの紅茶や粉末インスタントアイスティー、ミルクティーについて25%の糖分カットに取り組むこと
  • 2015年までに同社アイスクリーム商品の80%は一人前250キロカロリーを超えないようにすること
  • 2015年までに全ての商品についてグローバルで全成分表示を行うこと

【92%達成で期日を迎えたもの】

  • 2012年までに同社のスプレッドにおける飽和脂肪酸は33%以下に抑えること
  • 1日分の摂取量で国際的なガイドラインで推奨する必須脂肪酸の少なくとも15%を提供できるようにすること

【打ち切り】

  • 2020年までに1億人の以上の人々にハート・エイジ・テストを受けてもらうこと。
    この目標に関してはマーガリン・ブランドを通じて十分な数の人々にテストを受けてもらうことは難しいとして目標・取り組み共に打ち切られました。現在はその代わりにブランドコミュニケーションを通し、心臓の健康状の態認識に向けたアプローチを継続しています。

温室効果ガス

 コミットメント内容は、同社製品のライフサイクルにおける温室効果ガス排出量を2020年までに半減させること、そして製造工程で発生するCO2排出量を2008年以下にすることです。現在、同社商品の消費者1人あたりの温室効果ガス排出量は2010年比で4%増加しているものの、製造工程で発生するCO2は2008年から37%削減されています。このコミットメントのKPIおよび進捗状況は以下のようになっています。

【達成済み】

  • 製品改質により2012年までに洗濯における温室効果ガスを15%削減すること
  • 環境に優しい冷凍庫の利用による温室効果ガス削減を目指し、2015年までに85万台を追加購入すること
  • 2011年までに30カ国以上でビデオ会議への投資を進め社員の出張を削減する。

【計画通り進捗】

  • 2020年までに工場からのCO2排出量を2008年の水準以下まで戻すこと
    2014年には2008年比で93万5000トンのCO2削減に成功し、目標を達成しました。
  • 2020年までに再生可能エネルギーの使用量を2倍以上にし、総エネルギー所要量の40%を再生可能エネルギーで賄うこと
  • 新設された工場からの温室効果ガス排出量は、2008年における工場からの排出量の半分以下にすること
  • 液状洗剤濃縮と粉状洗剤のコンパクト化によって洗剤から生じる温室効果ガスを削減すること
  • 2020年までに洗濯機による洗濯の70%において低温や低容量での利用を促すこと
  • 2020年までにグローバル・ロジスティクス・ネットワークからのCO2排出量を2010年の水準まで戻すこと
  • 2020年までに上位21カ国において、オフィスで働く社員一人あたりのエネルギー消費量 (kWh)を 対2010年で半分にすること

水利用

 コミットメント内容は、消費者の同社商品の利用による水使用量を2020年までに半減させることです。同社製品消費者1人あたりの水使用量は2010年から2%程度削減することに成功しています。このコミットメントのKPIおよび進捗状況は以下のようになっています。

【計画通り進捗】

  • 2020年までに同社のグローバル工場ネットワークによる水の汲み上げを2008年の水準まで戻すこと
  • 新設された工場による汲み上げられた水の量は、20008年当時における工場のそれの半分以下にすること
  • 簡単にすすげる製品を作りより広く使われるようにし、洗濯における水使用量の削減すること
  • 水不足の国の5000万世帯により少ない水使用量でしっかりと洗濯ができる製品を提供すること
  • 水不足の国においても穀物の成長が図れる様、水使用の削減に向けた包括的な計画をサプライヤーやパートナーと共に開発すること

【計画達成が厳しい状況】

  • 2015年までに少ない水使用量で使えるシャンプーやボディソープを2億人に提供する

廃棄物

 コミットメント内容は、同社製品を捨てる際に発生する廃棄物を2020年までに半減させることとです。2014年時点で廃棄物量は2010年から12%の削減に成功しています。このコミットメントのKPIおよび進捗状況は以下のようになっています。

【達成済み】

  • 2020年までに廃棄物総量を2008年の水準以下にすること
  • 2015年までに工場から埋立地へと送る廃棄物をゼロにすること
  • 2015年までに上位21カ国において紙消費量を一人当たり30%減らすこと

【計画通り進捗】

  • すべての新設された工場からの廃棄物排出量は、2008年当時に工場から排出されていた量の半分以下にすること
  • 企業や政府、NGOと協働し上位14カ国において再利用・再生比率を2015年までに5%上げ、2020年には15%上げること
  • 2020年までに包装の原料として、再生材料を最大限増加させること
  • シャンプーやボディソープといった商品で詰替え用の製品を提供し、初期購入のボトルを再利用してもらうように促すこと
  • 2015年までにオフィスから排出された廃棄物は再利用、リサイクル、再生されること。また2017年までに埋立地へと送る廃棄物をゼロにすること

【99%達成で期日を迎えたもの】

  • 2012年までに全ての包装からポリ塩化ビニルを撤廃すること

【計画達成が厳しい状況】

  • 2020年までに軽い材料の利用などを通し、包装の重量を軽くすること
  • 2015年までに小袋廃棄の流れに対応し、持続可能なビジネスモデルの開発と施行
  • 2015年までにインボイス、レシート、財務報告書、給与明細などについて、技術的・法的に可能な範囲で紙使用を撤廃する

持続可能な調達

 コミットメント内容は、2020年までに同社の調達を100%持続可能な原材料農作物にすることです。マイルストーンとして2010年までに10%、2012年までに30%、2015年までに50%という目標が掲げられています。2014年末時点で同社の調達の55%は持続可能な原材料農作物となっており、マイルストーンに沿った順調な進捗を見せています。このコミットメントのKPIおよび進捗状況は以下のようになっています。

【達成済み】

  • 2015年までに全てのパーム油購入は持続可能な調達にすること
  • 2013年までに上位21カ国の全ての紙利用オフィス用品について持続可能な調達をすること
  • 2014年までに全ての大豆について持続可能な調達をすること

【計画通り進捗】

  • 2020年までに全てのパーム油購入はトレーサビリティの担保された調達にすること
  • 2015年までに包装に使われる紙とボードの75%は、持続可能な管理が為された森林またはリサイクル原料で調達されたものにすること。また2020年までにはこの割合を100%にすること
  • 2020年までに全ての大豆油について持続可能な調達をすること
  • 2015年までにリプトンの全てのティーバッグについてレインフォレスト・アライアンスに認証された土地から調達すること
  • 2020年までに茶葉を含む全てのユニリーバ社のお茶は持続可能な調達にすること
  • 2012年までに上位13の野菜とハーブについて50%は持続可能な調達にすること。また2015年までにその割合を100%にすること
  • 2015年までに同社のアイスクリームブランド マグナムに使われるココアを持続可能な調達をすること。また2020年までにその他全ての商品に使われるココアについても持続可能に調達すること
  • 2020年までに全ての砂糖の調達を持続可能にすること
  • 2020年までに全てのひまわり油の調達を持続可能にすること
  • 2020年までに全てのなたね油の調達を持続可能にすること
  • 2020年までに全ての乳製品の調達を持続可能にすること
  • ベン&ジェリーズのアイスクリーム、Hellmann’sやAmora、Calvéのマヨネーズを含む全ての商品について100%ケージ・フリー・エッグを使用する

【計画達成が厳しい状況】

  • 2015年までに全てのフルーツについて持続可能な調達をすること

【77%達成で期日を迎えたもの】

  • 2013年までにベン&ジェリーズのすべての味についてフェアトレードを行うこと

職場における公平性

 コミットメント内容は、同社のサプライチェーン上における人権意識の醸成や改善ロードマップの作成、ベストプラクティスの促進などにより2020年までに公平性を推進することです。新しい方針の策定や組織的な能力、認識の構築など前進を続けています。このコミットメントKPIおよび進捗状況は以下のようになっています。

【達成済み】

  • 2011年までに38カ国に点灯用具が提供されてきたが、2012〜2015年にはさらに30カ国にこのプログラムを展開する。長期目標としては、このプログラムを同社が従業員100人以上を有する全ての国に展開する。
  • 2020年までに工場・オフィス内で発生する記録対象となる事故の頻度(TRFR)を2008年の50%に減らします。

【計画通り進捗】

  • ビジネスと人権に関する国連フレームワークに則り全ての業務や報告を行うこと
  • 全ての調達は同社の責任ある調達ポリシーに沿ったサプライヤーから行うこと
  • 2015年までに180カ国での分析を始め、公平な報酬体系を構築すること
  • メンタルヘルスに関するフレームワークをグローバルに展開すること

女性の雇用機会

 コミットメント内容は2020年までに500万人の女性の支援し、収入を向上させることです。7万人のインドの女性起業家に製品を売るための訓練を施し、16万8000人の女性にビジネストレーニングを行っています。また2014年末には女性管理職の比率が43%となり、ダイバーシティの向上にも努めています。このコミットメントのKPIおよび進捗状況は以下のようになっています。

【計画通り進捗】

  • マネジメントに焦点をあてつつ性別のバランスのとれた組織を構築する
  • 同社が管理するコミュニティにおいて女性への安全性をプロモーションする
  • バリューチェーンをまたぎスキルトレーニングへのアクセスを高める
  • 2015年までに同社が採用・教育を行っているヒンドゥー教徒の女性起業家を7万5000人まで増やす

インクルーシブビジネス

 コミットメント内容は小規模農場経営者のライフクオリティの向上、小規模小売業者の収入の増加、若手起業家の増加により、5500万人の生活にポジティブなインパクトを与えることです。2014年末時点で80万人の小規模農場経営者は、ユニリーバ社の農作物やその他サプライヤーとパートナーシップを組み、トレーニングやサポートを受けています。このコミットメントのKPIおよび進捗状況は以下のようになっています。

【計画通り進捗】

  • 同社のサプライチェーン上で最低でも50万の小規模農場にエンゲージし、農業慣行を改善することで競争力を高める支援をすること
  • 物流ネットワーク上で500万の小売業者の収益の創出・向上に取り組むこと
  • ビジネストレーニングを提供することにより、ユニリーバ社のバリューチェーンに参画する若手起業家を増やすこと

サステナビリティと両立する企業価値の向上

 ではサステナブル・リビング・プランを通してユニリーバ社の業績がどのように変化したのかについてご紹介します。

 2008年まで約10年にわたり低迷していた同社の業績は、Paul氏のCEO就任を期に回復の兆しを見せます。

(2009〜2014年アニュアルレポートに基づきニューラル作成)

 売上高に注目すると、2012年に深刻化した欧州危機の煽りを受け、2013年以降は減少しているものの、営業利益と当期純利益は伸び続けており、殊、純利益においては2014年に直近15年間で最高額を記録しています。

(2009〜2014年アニュアルレポートに基づきニューラル作成)

 また1株あたりの純利益を示す指標であるEPSに関しても、2003年から大きく減退をみせますが、その後はほぼ一貫して上昇しています。

(2000〜2014年アニュアルレポートに基づきニューラル作成)
上の図のように2000〜2014年の間に動きのあるEPSですが、そのトレンドは大きく4つの期に分けることができます。

  • 2000〜2003年
  • 2003〜2005年
  • 2005〜2010年
  • 2010〜2014年

それぞれの要因について以下に見て行きましょう。

2000〜2003年

(2000〜2003年アニュアルレポートに基づきニューラル作成)

発行株式数に大きな変化はなく、当期純利益の伸びがEPSの伸びとなっています。

2003〜2005年

(2003〜2005年アニュアルレポートに基づきニューラル作成)

2003と2004年のEPSの差異は当期純利益の減少に拠るところが大きいですが、2004〜2005年の変化は発行株式数が増加した結果、方程式における分母が大きくなりEPSが小さくなっています。

2005〜2010年

(2005〜2010年アニュアルレポートに基づきニューラル作成)

ワン・ユニリーバという方針で事業運営がなされていた時代です。前述の図(2000〜2014年における売上の推移)の通り、この時代には売上が伸びたわけではなくコスト削減が積極的に進められ、純利益が高くなったことがEPSを引き上げた要因となっています。

2010〜2014年

(2010〜2014年アニュアルレポートに基づきニューラル作成)

サステナブル・リビング・プランが導入されてからの推移がこの期間です。株式発行数に大きな変化はなく、また新興国市場への積極展開などを含め売上が伸びています。一般的に市場拡大時には経営資源の投下や試行錯誤による損失などEPSは減少しがちですが、ユニリーバのケースではEPSが向上しています。これはサステナブル・リビング・プランにより経営資源の効率化や経営リスクの低減が功を奏していると言えます。

 因果性は統計的に証明することは難しく、「サステナビリティ活動をした結果、企業価値の向上に繋がった」などとは単純には説明はできません。しかしながら、これだけサステナビリティ活動に取り組んでいても同社は企業価値を欠損しておらず、サステナビリティ活動と企業価値向上は矛盾しないと言えます。

サステナビリティを軸にした組織変革の鍵

 今回取り上げたユニリーバ社は、大胆かつ大規模な長期目標の下に分野別の数値目標とアクションプランを策定し、サステナビリティ活動に取り組んできています。その取り組みを機能させる鍵は、経営陣や担当者だけでなく従業員全体のコミットメントです。

 ユニリーバ社は、従業員の報酬システムを長期目標に関わるインセンティブと関連させ、長期的視点で持続可能な成長に焦点を絞る工夫をしています。同社は外資系金融ほどの高給を支払っているわけではないものの、CEOのPaul氏によると、この4、5年で従業員のエンゲージメントスコアは劇的に上昇したとのことで、ベンチマークしていた8,000社の企業と比較してもこれほどの上昇は見たことがないといいます。

 本来このような長期的目標に紐付けた報酬システムは、長期雇用ないし終身雇用を実施している日本企業との相性が良いと言えます。自社の事業領域におけるマテリアリティを特定し、具体的かつ長期的な数値目標の下で、自社ビジョンに適したサステナビリティ活動を展開すること。そしてその長期目標の達成に向けた取り組みが正当に評価される体制を構築することが、グローバルに展開する企業に求められる責務と言えるでしょう。

 いかがでしたでしょうか。過去にはサステナビリティの対極という扱いを受けていた企業でさえ、強いリーダーシップによる長期目標の推進と従業員たちのコミットメントによりサステナビリティ先進企業として名を馳せるまでに変革を遂げることもできるのです。四半期報告の廃止を唱える声が上がっていること、コーポレート・ガバナンスコードへの対応が迫られていること等からも日本企業は今まさに変革の時を迎えているのかもしれません。

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