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【戦略】EU欧州委が定めた「欧州グリーンディール政策」の内容。〜9つの政策骨子を詳細解説〜

 欧州委員会は12月11日、EUの新たな環境・経済・金融政策「欧州グリーンディール」を発表した。EUとして高い環境基準をルール化することで、投資促進と経済競争力、雇用創出の3点を強化する。欧州委員会は、12月1日から元ドイツ国防相のウルズラ・フォン・デア・ライエンが率いる新政権が発足。11月31日に任期満了を迎えた前ジャン=クロード・ユンケル委員会の政策を継承する大きな旗を掲げた。

 欧州グリーンディール政策は、8つの環境政策分野とそれを支える金融分野で構成している。今回その内容を解説する。

気候変動・二酸化炭素排出量

 欧州委員会は、2050年までに二酸化炭素ネット排出量をゼロにする「カーボンニュートラル」をすでに掲げている。今後、2020年3月までに欧州初となる「気候法案」を欧州議会とEU理事会に正式に提出し、EUとして法定化する。同法案では、EUの全政策を、2050年までのカーボンニュートラルと整合性を持つようにすることを義務付ける。また、2020年前半に気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局に提出するEU自主削減目標(NDC)でも、同法案に沿うものとする。EUの現状では、2050年までに二酸化炭素排出量60%しか削減できないため、政策を大きく強化していく。

 また、2020年夏までに、2030年の二酸化炭素排出量削減目標を1999年比50%以上削減し、55%を努力目標とすることによるインパクト評価計画も発表する計画。2021年6月までに公式化したい考えを示した。削減目標引き上げの実現策では、二酸化炭素排出量取引制度(ETS)の適用業種の拡大、土地利用変化(LUC)での排出削減、各加盟国での自主検討を想定。同目標の導入が見えてきたら、先に制定されている予定の気候法も改正していく。

 加えて、EUのみで二酸化炭素排出量削減を目指す場合に、産業がEU域外に移転してしまう「カーボン・リーケージ」問題にも言及。EU域外からの輸入品に対し、適正なカーボンプライシング(炭素価格)を反映した課税をすることで、産業の域外移転を留める構想も発表した。

 また、気候変動適応については、大胆な新政策を打ち立てていくとするとした。

エネルギー

 上記の二酸化炭素排出削減目標を達成するためには、EUの排出量の75%以上を占めるエネルギー業界での変革が必要とした。そのため、再生可能エネルギーへの依存度を大きく高め、石炭火力発電の段階的廃止と、ガスの脱炭素化を進めることを盛り込んだ。

 一方で、EU市民に対し、安価な電力を提供していくため、再生可能エネルギーのコスト削減や、デジタル化、省エネ、脱炭素化ガスの普及、系統連系の強化を掲げた。特に洋上風力発電が重要だとした。2020年中旬までに施策をまとめ、発表する。

 各加盟国レベルでは、2019年末までに欧州委員会に対し、EU法に基づき2030年までの「エネルギー・気候計画」を提出することになっている。欧州委員会は、提出された計画をレビューし、EUとしての目標に届かなければさらに各加盟国に計画見直しを迫った後、2021年までに新計画に基づくエネルギー法を制定する考え。制定されると、各加盟国の2023年からの計画に反映されることが義務付けられる。

 低所得者層の電力料金支援としては、住宅の省エネ化を資金的に支援することを柱とした。2020年に各加盟国向けにガイダンスを発表する。

経済のカーボンニュートラル化・サーキュラーエコノミー化

 産業界のカーボンニュートラル化及びサーキュラーエコノミー化の達成期限も2050年に設定した。欧州委員会は、そのための産業戦略を2020年3月に採択する考えで、環境戦略とデジタル・トランスフォーメーションを中核に据える。同時に、新たなサーキュラーエコノミー・アクションプランも打ち立てる。鉄鋼、化学、セメント等の二酸化炭素排出量の多い業種に対しては、脱炭素化を推し進める。

 検討中のサーキュラーエコノミー・アクションプランについては、まず省資源及び再利用を最優先事項とし、そのあとにリサイクルを位置づける。施策としては、製造メーカーに廃棄物処理への資金的な責任を課す「拡大製造者責任」ルールを拡大していく。特に、アパレル、建設、電機、プラスチックの4分野を注力分野とした。プラスチックでは、化学繊維やタイヤの摩耗も検討する。最終廃棄物を削減するためのリサイクル活用では、メーカーに再生素材の活用を義務化する法律を検討していく考え。分野としては、自動車、包装・容器、建材、バッテリーを例示した。

 消費者に対しても、再利用可能、製品寿命が長く、修理可能な製品の積極的な購入を促すため、商品表示ルールにも手を付ける。特に、電化製品については、組み込み型で修理できない製品に対応するため、消費者の「修理権」概念が必要となるかも検討していく。「エコ製品」を標榜する製品に対しても、「グリーンウォッシュ」を防ぐため、性能基準を設定していきたいとした。

 イノベーション分野では、CO2フリー水素、燃料電池、代替燃料、バッテリー、炭素回収・利用・貯蔵(CCUS)の4分野の優先順位が高いとした。バッテリー分野では、「バッテリー戦略アクションプラン」を策定し、2020年にバッテリーのサプライチェーンに関するEU法案提出を目指す。

建設

 EUのエネルギー消費量の40%を占める不動産での省エネ修繕を進めるため、各加盟国での年間修繕実施不動産の割合を現状の0.4%から1.2%から、2倍以上に増やす必要があるとした。そのため、2020年に加盟国が策定する「国家長期リノベーション戦略」の評価を実施し、不動産のエネルギー性能に関する法制化を進める。さらに、建材のサーキュラーエコノミー化、デジタル管理化、気候変動緩和・適応への対応化のため、現行のEU「建材規則」の改正も検討する。

 リノベーションを推進するための、マルチステークホルダー型プラットフォームも2020年に立ち上げる。

輸送・交通

 2050年までに輸送・交通分野からの二酸化炭素排出量を90%以上削減するため、自動車、鉄道、航空、船舶を包括する「サステナブル・スマート・モビリティ」戦略を2020年に発表する。排出量を削減するための「モーダル・シフト」では、トラック輸送から、鉄道輸送もしくは内水海運へのシフトを推進する。鉄道輸送及び内水海運のインフラ強化については、2021年に案を発表するとした。

 化石燃料を動力源とする交通手段への補助金については、停止すべきと言及。「エネルギー税規則」を改正し、ジェット燃料や船舶燃料への現行の免税特権を撤廃する考えも示した。二酸化炭素排出量取引制度(ETS)では、新たに海運業界にも制度を適用するとともに、すでに適用されている航空業界に対しては、無料で割り当てられている排出枠を削減する意向を示した。船舶による沿岸部での大気汚染対策として、大気汚染の酷い港へ入港規制や、停泊時には電気エネルギーに切り替える「ショアサイド電力」の活用を義務付ける考えも盛り込んだ。

 自動車については、2025年までに低炭素自動車1,300万台の目標を実現するため、低炭素型自動車の代替燃料ステーションが約100万ヶ所必要となると指摘。特に、長距離交通や人口密度の低い地域での設置を支援していくとした。また、代替燃料の生産を後押しするための立法についても言及した。排ガスによる大気汚染についても、排ガス基準の引き上げの可能性も示唆。2021年6月までに自動車とバンの二酸化炭素排出基準を法制化していきたとした。交通・輸送業界への二酸化炭素排出量取引制度(ETS)適用も検討する。

食品

 食品分野では、サステナビリティを高める戦略「Farm to Fork」を2020年春に発表する予定。幅広いステークホルダーとの対話を加速する。重点分野は、気候変動と生物多様性とし、2021年から2027年までの共通農業政策予算の40%以上、「Maritime Fisheries Fund」の30%以上は、気候変動分野を資金使途とする案を示した。

 2020年からの開始を目指す新たな共通農業政策では、精密農業(Precision Agriculture)、オーガニック農法、農業生態学、アグロフォレストリー、動物福祉の概念を盛り込むとした。殺虫剤、肥料、抗生物質の使用も極小化、食品業界のサーキュラーエコノミー化のための食品廃棄物、包装・容器、輸送、貯蔵に関する食品加工メーカーや小売企業に対する政策等も盛り込む。

 食品の栄養素を高めるための、製品情報開示も強化する。

生態系・生物多様性

 2020年3月までに、2030年生物多様性戦略を発表。同10月に中国・昆明で開催される生物多様性条約締約国会議でのEUの立場を明確にする。その後、2021年にアクションプランを打ち出す。また、同戦略に基づき、2030年森林戦略も策定する。

 他に、健全な海洋を謳う「ブルー・エコノミー」は、気候変動緩和と適応にも資すると述べた。

有害化学物質

 欧州委員会で、大気、水質、土壌の3分野での「汚染ゼロ・アクションプラン」を2021年に採択する考えを見せた。生物多様性や洪水防止のため、地下水系や地表水系の保護も強化する。大気汚染では、汚染物質の多い業種への基準が十分かについても再検討する。

 化学物質管理では、サステナビリティのための化学物質戦略を発表するとした。対象は、人体と環境の双方への有害性が含まれる。

金融

 欧州グリーン・ディール政策で掲げる2030年目標を達成するためには、毎年追加で2,600億ユーロ(約30兆円)の投資が必要と試算した。同額は、2018年のEUのGDPの1.5%に相当する。そのため、欧州委員会は、「サステナブル欧州投資計画(SEIP)」を策定していく。EU予算全体でも、気候変動に関連する予算が全体の25%以上となるよう目指す。

 また、SEIPの一環として、化石燃料等に依存している産業のエネルギー・原料転換を支援するための制度「Just Transition Mechanism」も創設する。同制度では、「Just Transition Fund」も立ち上げ、資金面でも助成。同ファンドは、EU予算と欧州投資銀行(EIB)からの出資金をシードマネーとし、その他の官民の金融機関からの投資も募る。転換に際する労働者対策にも充てる。

 さらに民間の金融機関でのサステナブルファイナンスを推進するため、現在検討中のサステナブルファイナンス・アクションプランの状況を踏まえたの新たな戦略を2020年第3四半期に発表することも明らかにした。

【参照ページ】The European Green Deal sets out how to make Europe the first climate-neutral continent by 2050, boosting the economy, improving people’s health and quality of life, caring for nature, and leaving no one behind

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 欧州委員会は12月11日、EUの新たな環境・経済・金融政策「欧州グリーンディール」を発表した。EUとして高い環境基準をルール化することで、投資促進と経済競争力、雇用創出の3点を強化する。欧州委員会は、12月1日から元ドイツ国防相のウルズラ・フォン・デア・ライエンが率いる新政権が発足。11月31日に任期満了を迎えた前ジャン=クロード・ユンケル委員会の政策を継承する大きな旗を掲げた。

 欧州グリーンディール政策は、8つの環境政策分野とそれを支える金融分野で構成している。今回その内容を解説する。

気候変動・二酸化炭素排出量

 欧州委員会は、2050年までに二酸化炭素ネット排出量をゼロにする「カーボンニュートラル」をすでに掲げている。今後、2020年3月までに欧州初となる「気候法案」を欧州議会とEU理事会に正式に提出し、EUとして法定化する。同法案では、EUの全政策を、2050年までのカーボンニュートラルと整合性を持つようにすることを義務付ける。また、2020年前半に気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局に提出するEU自主削減目標(NDC)でも、同法案に沿うものとする。EUの現状では、2050年までに二酸化炭素排出量60%しか削減できないため、政策を大きく強化していく。

 また、2020年夏までに、2030年の二酸化炭素排出量削減目標を1999年比50%以上削減し、55%を努力目標とすることによるインパクト評価計画も発表する計画。2021年6月までに公式化したい考えを示した。削減目標引き上げの実現策では、

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 欧州委員会は12月11日、EUの新たな環境・経済・金融政策「欧州グリーンディール」を発表した。EUとして高い環境基準をルール化することで、投資促進と経済競争力、雇用創出の3点を強化する。欧州委員会は、12月1日から元ドイツ国防相のウルズラ・フォン・デア・ライエンが率いる新政権が発足。11月31日に任期満了を迎えた前ジャン=クロード・ユンケル委員会の政策を継承する大きな旗を掲げた。

 欧州グリーンディール政策は、8つの環境政策分野とそれを支える金融分野で構成している。今回その内容を解説する。

気候変動・二酸化炭素排出量

 欧州委員会は、2050年までに二酸化炭素ネット排出量をゼロにする「カーボンニュートラル」をすでに掲げている。今後、2020年3月までに欧州初となる「気候法案」を欧州議会とEU理事会に正式に提出し、EUとして法定化する。同法案では、EUの全政策を、2050年までのカーボンニュートラルと整合性を持つようにすることを義務付ける。また、2020年前半に気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局に提出するEU自主削減目標(NDC)でも、同法案に沿うものとする。EUの現状では、2050年までに二酸化炭素排出量60%しか削減できないため、政策を大きく強化していく。

 また、2020年夏までに、2030年の二酸化炭素排出量削減目標を1999年比50%以上削減し、55%を努力目標とすることによるインパクト評価計画も発表する計画。2021年6月までに公式化したい考えを示した。削減目標引き上げの実現策では、

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 欧州委員会は12月11日、EUの新たな環境・経済・金融政策「欧州グリーンディール」を発表した。EUとして高い環境基準をルール化することで、投資促進と経済競争力、雇用創出の3点を強化する。欧州委員会は、12月1日から元ドイツ国防相のウルズラ・フォン・デア・ライエンが率いる新政権が発足。11月31日に任期満了を迎えた前ジャン=クロード・ユンケル委員会の政策を継承する大きな旗を掲げた。

 欧州グリーンディール政策は、8つの環境政策分野とそれを支える金融分野で構成している。今回その内容を解説する。

気候変動・二酸化炭素排出量

 欧州委員会は、2050年までに二酸化炭素ネット排出量をゼロにする「カーボンニュートラル」をすでに掲げている。今後、2020年3月までに欧州初となる「気候法案」を欧州議会とEU理事会に正式に提出し、EUとして法定化する。同法案では、EUの全政策を、2050年までのカーボンニュートラルと整合性を持つようにすることを義務付ける。また、2020年前半に気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局に提出するEU自主削減目標(NDC)でも、同法案に沿うものとする。EUの現状では、2050年までに二酸化炭素排出量60%しか削減できないため、政策を大きく強化していく。

 また、2020年夏までに、2030年の二酸化炭素排出量削減目標を1999年比50%以上削減し、55%を努力目標とすることによるインパクト評価計画も発表する計画。2021年6月までに公式化したい考えを示した。削減目標引き上げの実現策では、二酸化炭素排出量取引制度(ETS)の適用業種の拡大、土地利用変化(LUC)での排出削減、各加盟国での自主検討を想定。同目標の導入が見えてきたら、先に制定されている予定の気候法も改正していく。

 加えて、EUのみで二酸化炭素排出量削減を目指す場合に、産業がEU域外に移転してしまう「カーボン・リーケージ」問題にも言及。EU域外からの輸入品に対し、適正なカーボンプライシング(炭素価格)を反映した課税をすることで、産業の域外移転を留める構想も発表した。

 また、気候変動適応については、大胆な新政策を打ち立てていくとするとした。

エネルギー

 上記の二酸化炭素排出削減目標を達成するためには、EUの排出量の75%以上を占めるエネルギー業界での変革が必要とした。そのため、再生可能エネルギーへの依存度を大きく高め、石炭火力発電の段階的廃止と、ガスの脱炭素化を進めることを盛り込んだ。

 一方で、EU市民に対し、安価な電力を提供していくため、再生可能エネルギーのコスト削減や、デジタル化、省エネ、脱炭素化ガスの普及、系統連系の強化を掲げた。特に洋上風力発電が重要だとした。2020年中旬までに施策をまとめ、発表する。

 各加盟国レベルでは、2019年末までに欧州委員会に対し、EU法に基づき2030年までの「エネルギー・気候計画」を提出することになっている。欧州委員会は、提出された計画をレビューし、EUとしての目標に届かなければさらに各加盟国に計画見直しを迫った後、2021年までに新計画に基づくエネルギー法を制定する考え。制定されると、各加盟国の2023年からの計画に反映されることが義務付けられる。

 低所得者層の電力料金支援としては、住宅の省エネ化を資金的に支援することを柱とした。2020年に各加盟国向けにガイダンスを発表する。

経済のカーボンニュートラル化・サーキュラーエコノミー化

 産業界のカーボンニュートラル化及びサーキュラーエコノミー化の達成期限も2050年に設定した。欧州委員会は、そのための産業戦略を2020年3月に採択する考えで、環境戦略とデジタル・トランスフォーメーションを中核に据える。同時に、新たなサーキュラーエコノミー・アクションプランも打ち立てる。鉄鋼、化学、セメント等の二酸化炭素排出量の多い業種に対しては、脱炭素化を推し進める。

 検討中のサーキュラーエコノミー・アクションプランについては、まず省資源及び再利用を最優先事項とし、そのあとにリサイクルを位置づける。施策としては、製造メーカーに廃棄物処理への資金的な責任を課す「拡大製造者責任」ルールを拡大していく。特に、アパレル、建設、電機、プラスチックの4分野を注力分野とした。プラスチックでは、化学繊維やタイヤの摩耗も検討する。最終廃棄物を削減するためのリサイクル活用では、メーカーに再生素材の活用を義務化する法律を検討していく考え。分野としては、自動車、包装・容器、建材、バッテリーを例示した。

 消費者に対しても、再利用可能、製品寿命が長く、修理可能な製品の積極的な購入を促すため、商品表示ルールにも手を付ける。特に、電化製品については、組み込み型で修理できない製品に対応するため、消費者の「修理権」概念が必要となるかも検討していく。「エコ製品」を標榜する製品に対しても、「グリーンウォッシュ」を防ぐため、性能基準を設定していきたいとした。

 イノベーション分野では、CO2フリー水素、燃料電池、代替燃料、バッテリー、炭素回収・利用・貯蔵(CCUS)の4分野の優先順位が高いとした。バッテリー分野では、「バッテリー戦略アクションプラン」を策定し、2020年にバッテリーのサプライチェーンに関するEU法案提出を目指す。

建設

 EUのエネルギー消費量の40%を占める不動産での省エネ修繕を進めるため、各加盟国での年間修繕実施不動産の割合を現状の0.4%から1.2%から、2倍以上に増やす必要があるとした。そのため、2020年に加盟国が策定する「国家長期リノベーション戦略」の評価を実施し、不動産のエネルギー性能に関する法制化を進める。さらに、建材のサーキュラーエコノミー化、デジタル管理化、気候変動緩和・適応への対応化のため、現行のEU「建材規則」の改正も検討する。

 リノベーションを推進するための、マルチステークホルダー型プラットフォームも2020年に立ち上げる。

輸送・交通

 2050年までに輸送・交通分野からの二酸化炭素排出量を90%以上削減するため、自動車、鉄道、航空、船舶を包括する「サステナブル・スマート・モビリティ」戦略を2020年に発表する。排出量を削減するための「モーダル・シフト」では、トラック輸送から、鉄道輸送もしくは内水海運へのシフトを推進する。鉄道輸送及び内水海運のインフラ強化については、2021年に案を発表するとした。

 化石燃料を動力源とする交通手段への補助金については、停止すべきと言及。「エネルギー税規則」を改正し、ジェット燃料や船舶燃料への現行の免税特権を撤廃する考えも示した。二酸化炭素排出量取引制度(ETS)では、新たに海運業界にも制度を適用するとともに、すでに適用されている航空業界に対しては、無料で割り当てられている排出枠を削減する意向を示した。船舶による沿岸部での大気汚染対策として、大気汚染の酷い港へ入港規制や、停泊時には電気エネルギーに切り替える「ショアサイド電力」の活用を義務付ける考えも盛り込んだ。

 自動車については、2025年までに低炭素自動車1,300万台の目標を実現するため、低炭素型自動車の代替燃料ステーションが約100万ヶ所必要となると指摘。特に、長距離交通や人口密度の低い地域での設置を支援していくとした。また、代替燃料の生産を後押しするための立法についても言及した。排ガスによる大気汚染についても、排ガス基準の引き上げの可能性も示唆。2021年6月までに自動車とバンの二酸化炭素排出基準を法制化していきたとした。交通・輸送業界への二酸化炭素排出量取引制度(ETS)適用も検討する。

食品

 食品分野では、サステナビリティを高める戦略「Farm to Fork」を2020年春に発表する予定。幅広いステークホルダーとの対話を加速する。重点分野は、気候変動と生物多様性とし、2021年から2027年までの共通農業政策予算の40%以上、「Maritime Fisheries Fund」の30%以上は、気候変動分野を資金使途とする案を示した。

 2020年からの開始を目指す新たな共通農業政策では、精密農業(Precision Agriculture)、オーガニック農法、農業生態学、アグロフォレストリー、動物福祉の概念を盛り込むとした。殺虫剤、肥料、抗生物質の使用も極小化、食品業界のサーキュラーエコノミー化のための食品廃棄物、包装・容器、輸送、貯蔵に関する食品加工メーカーや小売企業に対する政策等も盛り込む。

 食品の栄養素を高めるための、製品情報開示も強化する。

生態系・生物多様性

 2020年3月までに、2030年生物多様性戦略を発表。同10月に中国・昆明で開催される生物多様性条約締約国会議でのEUの立場を明確にする。その後、2021年にアクションプランを打ち出す。また、同戦略に基づき、2030年森林戦略も策定する。

 他に、健全な海洋を謳う「ブルー・エコノミー」は、気候変動緩和と適応にも資すると述べた。

有害化学物質

 欧州委員会で、大気、水質、土壌の3分野での「汚染ゼロ・アクションプラン」を2021年に採択する考えを見せた。生物多様性や洪水防止のため、地下水系や地表水系の保護も強化する。大気汚染では、汚染物質の多い業種への基準が十分かについても再検討する。

 化学物質管理では、サステナビリティのための化学物質戦略を発表するとした。対象は、人体と環境の双方への有害性が含まれる。

金融

 欧州グリーン・ディール政策で掲げる2030年目標を達成するためには、毎年追加で2,600億ユーロ(約30兆円)の投資が必要と試算した。同額は、2018年のEUのGDPの1.5%に相当する。そのため、欧州委員会は、「サステナブル欧州投資計画(SEIP)」を策定していく。EU予算全体でも、気候変動に関連する予算が全体の25%以上となるよう目指す。

 また、SEIPの一環として、化石燃料等に依存している産業のエネルギー・原料転換を支援するための制度「Just Transition Mechanism」も創設する。同制度では、「Just Transition Fund」も立ち上げ、資金面でも助成。同ファンドは、EU予算と欧州投資銀行(EIB)からの出資金をシードマネーとし、その他の官民の金融機関からの投資も募る。転換に際する労働者対策にも充てる。

 さらに民間の金融機関でのサステナブルファイナンスを推進するため、現在検討中のサステナブルファイナンス・アクションプランの状況を踏まえたの新たな戦略を2020年第3四半期に発表することも明らかにした。

【参照ページ】The European Green Deal sets out how to make Europe the first climate-neutral continent by 2050, boosting the economy, improving people’s health and quality of life, caring for nature, and leaving no one behind

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