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【EU】欧州委、競争法ルール改正。サステナビリティ領域での協業しやすく

 欧州委員会は6月1日、競争法ルールの改正を発表した。サステナビリティ領域での競合企業との協業がしやすくなる。新ルールは7月1日に発効する。

 EUでは2010年、研究開発協定に関する水平一括適用免除規則及び専門化に係る協定に関する水平一括適用免除規則(HBERs)が制定。一定の条件下で、研究開発および専門化に関する協定を、欧州連合機能条約(TFEU)101条1項の禁止事項から除外するルールを導入し、競争法上の「セーフハーバー・ルール」となっている。ここでの「専門化協定」とは、企業が競合企業のために、一定の製品の製造を放棄したり、双方で製品を製造することを約束したりする協定のことを指す。さらに欧州委員会は2011年、運用方針を示した「水平ガイドライン」も発行していた。

 欧州委員会は2021年5月、HBERsと水平ガイドラインが、企業にとって予見可能性を高める形でコンプライアンスコストを削減に貢献していると評価しつつ、ルール導入後に発生した市場や社会の発展に対応する必要があるとの内部レビューを発表。これ受けて、2021年6月に改正に向けた作業に着手。2022年3月に改正案を発表し、パブリックコメントも募集。2022年12月には現行ルールの適用を6月30日まで延長することも決めていた。

 今回の改正では、「サステナビリティ」の章を新設。サステナビリティ領域での競合他社や取引先との協定(サステナビリティ協定)が、独立したルール要件を構成せず、従来の水平ガイドラインの概念で評価するとしつつ、サステナビリティの章と他の章で矛盾が生じる場合は、企業に有利な方が適用されることを明確にした。

 セーフハーバーが適用される例としては、「法的拘束力のある国際条約、協定又は条約における十分に正確な要件又は禁止事項の遵守を確保することを目的とする協定」「環境に責任のある行動に対する業界レピューテーションを高めるための措置等の企業内部の行動に関する協定」「サプライヤーに対し、サステナビリティ要件での購買推奨や購買忌避の対象リストに関する協定で、購買義務や購買禁止を義務化してないもの」「経済フットプリントの認知度を高めるキャンペーンに関する協定で、特定の製品の共同宣伝につながらないもの」は、明確に可とした。

 サステナビリティ協定に関する競争法上の評価では、5つの要件を設定した。具体的には「市場支配力」「意思決定の独立性を制約するパワー」「市場範囲」「商業上重要な情報が協定の中で共有される程度」「著しい価格上昇や、生産量、品種、品質、イノベーションの低下」の5つ。とりわけ、取引先にサステナビリティ基準で要件を設定する「サステナビリティ・スタンダード協定」に関し、許容範囲を広く採る「ソフト・セーフハーバー」を規定。判断軸として、以下の6つの基準を設定し、総合的に満たす場合には、競争法上の規制とはならないことを明確にした。

  • 透明性がある
  • 参加を希望しない企業に対して義務を課さない
  • 企業がさらに高い基準を採用する自由が残されている
  • 商業上重要な情報の不必要な交換を行わない
  • 協定の結果が、効果的かつ非差別的であることが保証されている
  • 協定が、大幅な価格上昇を引き起こさず、参加企業の市場シェアの合計が基準の影響を受ける市場で20%を超えない

 但し、サステナビリティ協定が、価格操作、市場配分、生産量制限等に関する内容が含まれている場合には、競争法上の禁止事項となる。

 また、前述の要件を満たさない場合でも、競争法ルールの適用が除外されるサステナビリティ協定の要件も規定した。具体的には、「効率性」「必須性」「消費者への還元」「競争排除なし」の4つの要件を提示した。消費者還元の観点では、サステナビリティ協定から得られる利益が損害を上回り、消費者全体の影響でも少なくとも「中立」となることを規定した。消費者の利益としては「個人使用価値利益」「個人非使用価値利益(消費者の利他的選択を含む)」「集団的利益(協定の市場範囲が大きい場合にのみ生じる)」の3つ利益を認識した。

 また今回の改正では、他の分野の変更も実施。市場占有率の算出方法の明確化や柔軟性アプローチの導入の他、移動体通信インフラ共有契約に関する章、購買契約に関する章、商業化協定に関する章、スタンダード協定に関する章、情報交換に関する章にも手を加え、要件を明確にした。

 一方、今回のルール改正では、サステナビリティ観点でのルール適用緩和について踏み込みが甘いとの指摘も出ている。EU内には、オランダACMのガイドライン案やオーストリアFCAによるガイドライン等が発表されており、今回のEU単位のルールよりもルール適用緩和が広く設定されている。EU域内で統一ルールがないことで企業の対応コストが上がるとの声もある。その点、今回の改正水平ガイドラインでは、欧州委員会が、あらゆる疑問を払拭する非公式ガイダンスの通知を行うことも指示しており、今後のガイダンスの内容が期待される。

 日本では、公正取引委員会が3月31日、サステナビリティ関連では独立禁止法の禁止事項とならないことを明確にする指針を発表済み。同指針の策定過程でも、すでに発表されていたEUのHBERs改正案が言及されていた。

【参考】【日本】公取委、グリーン関連の企業連携や取引基準設定は独禁法違反に当たらないと見解(2023年4月19日)

【参照ページ】Antitrust: Commission adopts new Horizontal Block Exemption Regulations and Horizontal Guidelines

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 欧州委員会は6月1日、競争法ルールの改正を発表した。サステナビリティ領域での競合企業との協業がしやすくなる。新ルールは7月1日に発効する。

 EUでは2010年、

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 欧州委員会は6月1日、競争法ルールの改正を発表した。サステナビリティ領域での競合企業との協業がしやすくなる。新ルールは7月1日に発効する。

 EUでは2010年、

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 欧州委員会は6月1日、競争法ルールの改正を発表した。サステナビリティ領域での競合企業との協業がしやすくなる。新ルールは7月1日に発効する。

 EUでは2010年、研究開発協定に関する水平一括適用免除規則及び専門化に係る協定に関する水平一括適用免除規則(HBERs)が制定。一定の条件下で、研究開発および専門化に関する協定を、欧州連合機能条約(TFEU)101条1項の禁止事項から除外するルールを導入し、競争法上の「セーフハーバー・ルール」となっている。ここでの「専門化協定」とは、企業が競合企業のために、一定の製品の製造を放棄したり、双方で製品を製造することを約束したりする協定のことを指す。さらに欧州委員会は2011年、運用方針を示した「水平ガイドライン」も発行していた。

 欧州委員会は2021年5月、HBERsと水平ガイドラインが、企業にとって予見可能性を高める形でコンプライアンスコストを削減に貢献していると評価しつつ、ルール導入後に発生した市場や社会の発展に対応する必要があるとの内部レビューを発表。これ受けて、2021年6月に改正に向けた作業に着手。2022年3月に改正案を発表し、パブリックコメントも募集。2022年12月には現行ルールの適用を6月30日まで延長することも決めていた。

 今回の改正では、「サステナビリティ」の章を新設。サステナビリティ領域での競合他社や取引先との協定(サステナビリティ協定)が、独立したルール要件を構成せず、従来の水平ガイドラインの概念で評価するとしつつ、サステナビリティの章と他の章で矛盾が生じる場合は、企業に有利な方が適用されることを明確にした。

 セーフハーバーが適用される例としては、「法的拘束力のある国際条約、協定又は条約における十分に正確な要件又は禁止事項の遵守を確保することを目的とする協定」「環境に責任のある行動に対する業界レピューテーションを高めるための措置等の企業内部の行動に関する協定」「サプライヤーに対し、サステナビリティ要件での購買推奨や購買忌避の対象リストに関する協定で、購買義務や購買禁止を義務化してないもの」「経済フットプリントの認知度を高めるキャンペーンに関する協定で、特定の製品の共同宣伝につながらないもの」は、明確に可とした。

 サステナビリティ協定に関する競争法上の評価では、5つの要件を設定した。具体的には「市場支配力」「意思決定の独立性を制約するパワー」「市場範囲」「商業上重要な情報が協定の中で共有される程度」「著しい価格上昇や、生産量、品種、品質、イノベーションの低下」の5つ。とりわけ、取引先にサステナビリティ基準で要件を設定する「サステナビリティ・スタンダード協定」に関し、許容範囲を広く採る「ソフト・セーフハーバー」を規定。判断軸として、以下の6つの基準を設定し、総合的に満たす場合には、競争法上の規制とはならないことを明確にした。

  • 透明性がある
  • 参加を希望しない企業に対して義務を課さない
  • 企業がさらに高い基準を採用する自由が残されている
  • 商業上重要な情報の不必要な交換を行わない
  • 協定の結果が、効果的かつ非差別的であることが保証されている
  • 協定が、大幅な価格上昇を引き起こさず、参加企業の市場シェアの合計が基準の影響を受ける市場で20%を超えない

 但し、サステナビリティ協定が、価格操作、市場配分、生産量制限等に関する内容が含まれている場合には、競争法上の禁止事項となる。

 また、前述の要件を満たさない場合でも、競争法ルールの適用が除外されるサステナビリティ協定の要件も規定した。具体的には、「効率性」「必須性」「消費者への還元」「競争排除なし」の4つの要件を提示した。消費者還元の観点では、サステナビリティ協定から得られる利益が損害を上回り、消費者全体の影響でも少なくとも「中立」となることを規定した。消費者の利益としては「個人使用価値利益」「個人非使用価値利益(消費者の利他的選択を含む)」「集団的利益(協定の市場範囲が大きい場合にのみ生じる)」の3つ利益を認識した。

 また今回の改正では、他の分野の変更も実施。市場占有率の算出方法の明確化や柔軟性アプローチの導入の他、移動体通信インフラ共有契約に関する章、購買契約に関する章、商業化協定に関する章、スタンダード協定に関する章、情報交換に関する章にも手を加え、要件を明確にした。

 一方、今回のルール改正では、サステナビリティ観点でのルール適用緩和について踏み込みが甘いとの指摘も出ている。EU内には、オランダACMのガイドライン案やオーストリアFCAによるガイドライン等が発表されており、今回のEU単位のルールよりもルール適用緩和が広く設定されている。EU域内で統一ルールがないことで企業の対応コストが上がるとの声もある。その点、今回の改正水平ガイドラインでは、欧州委員会が、あらゆる疑問を払拭する非公式ガイダンスの通知を行うことも指示しており、今後のガイダンスの内容が期待される。

 日本では、公正取引委員会が3月31日、サステナビリティ関連では独立禁止法の禁止事項とならないことを明確にする指針を発表済み。同指針の策定過程でも、すでに発表されていたEUのHBERs改正案が言及されていた。

【参考】【日本】公取委、グリーン関連の企業連携や取引基準設定は独禁法違反に当たらないと見解(2023年4月19日)

【参照ページ】Antitrust: Commission adopts new Horizontal Block Exemption Regulations and Horizontal Guidelines

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