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【国際】底引き網漁、CO2を大量に大気中に放出の可能性。科学誌論文

 ユタ州立大学の研究者ら率いる科学者は1月18日、底引き網漁(トロール漁)が海底に滞留している二酸化炭素を大気中に放出することを示した新たな論文を発表した。1996年から2020年の間に、全世界で毎年最大約3億4,000万tから3億7,000万tの二酸化炭素を放出している可能性があるとした。

 海洋中の有機炭素は、一度活性層の下に埋もれると、数千年から数世紀の間、無機化されずに残留することがわかっている。しかし、底引き網漁により、重い漁具で海底を引き摺り、堆積していた有機物を混合・再浮遊させることで、微生物分解が発生。二酸化炭素が大気中に放出される。

 今回の論文は、1996年から2020年の期間を対象に、底引き網漁により大気中に放出された二酸化炭素量を推定。2021年の先行研究と、海洋循環モデルを用い、シミュレーションを実施。さらに将来の影響も推定した。論文は、学術誌「Frontiers in Marine Science」に掲載された。

 分析の結果、底引き網漁による大気中の二酸化炭素放出は、撹乱された有機炭素の55%から60%が、漁実施の7年から9年の間に放出されることがわかった。またその後も、放出は55%から60%にとどまり、増えないこともわかった。これにより同論文では、底引き網漁では撹乱炭素の55%から60%が短期間に大気中に放出されると結論づけている。また、同様の原因により、海洋酸性化も引き起こしている可能性があるとした。

 同論文では、底引き網漁の多い地域は、東シナ海、バルト海、北海、グリーンランド海とした。加えて、海流による水平移流のため、越境効果の可能性もあり、底引き網漁と、二酸化炭素放出がずれる可能性も指摘した。分析では、南シナ海、ノルウェー海、太平洋の日本東方沖で移流効果の可能性が認められるという。

 底引き網漁による1996年から2020年の間での累積の二酸化炭素放出量は、85億tから92億t。大気中の二酸化炭素濃度を0.97ppmから1.14ppm引き上げた可能性がある。これの規模は、2020年の土地利用変化による世界排出量の9%から11%に相当。世界の漁業全体の燃料燃焼による年間推定排出量のほぼ2倍に相当するという。現在のペースで底引き漁を続けた場合、2030年までに大気中の二酸化炭素濃度にさらに0.2ppmから0.5ppm、2070年までに1.03ppmから1.36ppm上昇させると推定される。

 一方、底引き網漁による二酸化炭素放出量に疑問を呈する科学者もいる。堆積有機物が撹乱されても、酸素が少ない海底では微生物分解が発生せず、推定量は発表されているより相当少ないという反論論文もある。今回の論文も、2021年の先行研究をベースにモデル化しており、先行研究の妥当性についての議論が今後も続きそうだ。

【参照ページ】Atmospheric CO2 emissions and ocean acidification from bottom-trawling
【参照ページ】Quantifying the carbon benefits of ending bottom trawling

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 ユタ州立大学の研究者ら率いる科学者は1月18日、底引き網漁(トロール漁)が海底に滞留している二酸化炭素を大気中に放出することを示した新たな論文を発表した。1996年から2020年の間に、全世界で毎年最大約3億4,000万tから3億7,000万tの二酸化炭素を放出している可能性があるとした。

 海洋中の有機炭素は、

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 ユタ州立大学の研究者ら率いる科学者は1月18日、底引き網漁(トロール漁)が海底に滞留している二酸化炭素を大気中に放出することを示した新たな論文を発表した。1996年から2020年の間に、全世界で毎年最大約3億4,000万tから3億7,000万tの二酸化炭素を放出している可能性があるとした。

 海洋中の有機炭素は、

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 ユタ州立大学の研究者ら率いる科学者は1月18日、底引き網漁(トロール漁)が海底に滞留している二酸化炭素を大気中に放出することを示した新たな論文を発表した。1996年から2020年の間に、全世界で毎年最大約3億4,000万tから3億7,000万tの二酸化炭素を放出している可能性があるとした。

 海洋中の有機炭素は、一度活性層の下に埋もれると、数千年から数世紀の間、無機化されずに残留することがわかっている。しかし、底引き網漁により、重い漁具で海底を引き摺り、堆積していた有機物を混合・再浮遊させることで、微生物分解が発生。二酸化炭素が大気中に放出される。

 今回の論文は、1996年から2020年の期間を対象に、底引き網漁により大気中に放出された二酸化炭素量を推定。2021年の先行研究と、海洋循環モデルを用い、シミュレーションを実施。さらに将来の影響も推定した。論文は、学術誌「Frontiers in Marine Science」に掲載された。

 分析の結果、底引き網漁による大気中の二酸化炭素放出は、撹乱された有機炭素の55%から60%が、漁実施の7年から9年の間に放出されることがわかった。またその後も、放出は55%から60%にとどまり、増えないこともわかった。これにより同論文では、底引き網漁では撹乱炭素の55%から60%が短期間に大気中に放出されると結論づけている。また、同様の原因により、海洋酸性化も引き起こしている可能性があるとした。

 同論文では、底引き網漁の多い地域は、東シナ海、バルト海、北海、グリーンランド海とした。加えて、海流による水平移流のため、越境効果の可能性もあり、底引き網漁と、二酸化炭素放出がずれる可能性も指摘した。分析では、南シナ海、ノルウェー海、太平洋の日本東方沖で移流効果の可能性が認められるという。

 底引き網漁による1996年から2020年の間での累積の二酸化炭素放出量は、85億tから92億t。大気中の二酸化炭素濃度を0.97ppmから1.14ppm引き上げた可能性がある。これの規模は、2020年の土地利用変化による世界排出量の9%から11%に相当。世界の漁業全体の燃料燃焼による年間推定排出量のほぼ2倍に相当するという。現在のペースで底引き漁を続けた場合、2030年までに大気中の二酸化炭素濃度にさらに0.2ppmから0.5ppm、2070年までに1.03ppmから1.36ppm上昇させると推定される。

 一方、底引き網漁による二酸化炭素放出量に疑問を呈する科学者もいる。堆積有機物が撹乱されても、酸素が少ない海底では微生物分解が発生せず、推定量は発表されているより相当少ないという反論論文もある。今回の論文も、2021年の先行研究をベースにモデル化しており、先行研究の妥当性についての議論が今後も続きそうだ。

【参照ページ】Atmospheric CO2 emissions and ocean acidification from bottom-trawling
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