Sustainable Japan | 世界のサステナビリティ・ESG投資・SDGs

【食品・消費財】コカ・コーラ社に学ぶ経営戦略とサステナビリティの統合

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 1886年5月アメリカ・ジョージア州アトランタの薬剤師ジョン・S・ペンバートン博士の薬品や飲みものを研究に端を発し、現在ではソフトドリンクメーカーとして世界的に圧倒的な知名度を誇るコカ・コーラ社。2014年末には世界での売上が65億1000万ユーロに達し、13万人近くの従業員を抱える企業へと成長を遂げました。また、同社はそのブランド力だけでなく、サステナビリティの分野においても先進企業として名を轟かせています。今回は同社におけるサステナビリティの戦略的位置付けや、その先進的活動の詳細に迫ります。

経営戦略におけるサステナビリティの位置づけ

 コカ・コーラ社はサステナビリティをビジネスの中核に置きつつも、サステナビリティ活動それ自体がサステナブルであるためには、その活動が事業の成長を促すものでなければならないとしています。こうしたサステナビリティ活動に対する姿勢は「2020年までに世界での収益を2倍に成長させる」という同社の長期成長戦略2020 VISIONにも反映されており、同社にとってサステナビリティとは、単に社会貢献というわけではなく、ステークホルダーと自社のサステナブルな関係を構築し継続的成長を達成するための戦略の一つとして位置づけられていることが伺えます。

me, we, worldの活動詳細

 では、コカ・コーラ社が掲げた目標の達成のために実際にどのような活動をしているのかをご紹介していきます。下図はサステナビリティ活動me,we,worldの全体像です。

(出所)2013/2014 SUSTAINABILITY REPORTより抜粋

meに関する活動事例

 meは消費者の健康についての活動で、「健康(Well-being)」と「責任あるマーケティング(Responsible Marketing)」の大きく分けて2種類のテーマに取り組んでいます。

 健康(Well-being)に関する活動としてコカ・コーラ社は、200以上の国で取り扱う3500種類以上の飲料品を最高品質で安全に消費者に提供するため、成分やカロリー等を明記し、消費者がより多くの情報の下で購買できる様にしています。また先進国を中心に世界的に問題になっている肥満問題に対処するため、カロリーオフ、ゼロカロリーといった選択肢を増やすだけでなく、約125カ国で290の運動促進プログラムを展開する等、消費者のカロリー摂取・消費の双方から肥満問題にアプローチしています。

 また「責任あるマーケティング(Responsible Marketing)」として、同社は世界中どこにおいても12歳以下に向けた宣伝を打たないことを名言しています。これは業界全体にも言え、アクセンチュア社が発表している調査結果2013 Compliance Monitoring Report For the International Food & Beverage Alliance On Global Advertising in Television, Print and Internetにおいてもコカ・コーラ社を含む飲食業界全体で責任あるマーケティングに関するコンプライアンスは高い水準で達成しているとされています。

weに関する活動事例

 weは強力なコミュニティ形成についての活動で、「女性(Women)」と「人権および公正に雇われる権利(Human & Workplace Rights)」、「チャリティー(Charitable Contributions)」の大きく分けて3種類のテーマに取り組んでいます。

 女性(Women)領域における活動として同社は自社バリューチェーン上における女性起業家の経済的自立支援を行っており、2020年までに500万人の女性起業家を輩出することを目標として掲げています。(5by20) この目標の達成に向けて同社はビジネススキルトレーニングや資金面でのサポートだけでなく、仲間やメンターとのコネクションの場も提供しています。具体的にコカ・コーラのバリューチェーン上の事業として挙げられているのは以下の6つです。

  • 生産者
  • 物流関係者
  • リサイクル関係者
  • 原材料供給者
  • 販売者
  • 再利用アーティスト

この5by20は現在、ブラジル・中国・コスタリカ・エジプト・ハイチ・インド・ケニア・メキシコ・ナイジェリア・フィリピン・南アフリカ共和国・タイの12カ国で展開されています。公式サイトにはそれぞれの女性の成功体験も綴られています。同社はより効果的に活動を展開するため、政府や地域コミュニティ、民間企業等と協同でプロジェクトに取り組んでいます。現在、NPOのTECHNOSERVEやビル&メリンダ・ゲイツ財団、国際金融公社、UN womenなどが主なパートナーとなっています。

 人権および公正に雇われる権利(Human & Workplace Rights)に関する活動としては、国連人権理事会に2011年に採択されたビジネスと人権に関する国連フレームワークの公式な支持表明をしました。透明性を担保しつつ地域コミュニティとの円滑なコミュニケーションを図り、人権に関する問題を特定するため、労働組合や責任ある投資家、人権NGO、学生、消費者など様々なステークホルダーと協働しています。また社内に人権に関する考えが醸成される様、第三者監査機関を置き、問題が発見された際にはただちに是正処置を取るようにしています。事実、毎年2,000社の独立した第三者監査が入り、プログラム開始より17,000回に上る監査を実施してきています。2013年には83%のボトリングパートナー、86%の直営サプライヤーが同社の定めるサプライヤー基本原則を順守していると発表されています。さらに、同社はダイバーシティについても取り組んでおり、どのようにダイバーシティやインクルージョンを評価し、差別やハラスメントなき職場を維持していくのか等についてGlobal Mutual Respect Policyにまとめています。

 その他、チャリティー(Charitable Contributions)に関する活動として、同社は少なくとも営業利益の1%を毎年寄付するようにしています。また同社はコカ・コーラ基金を設立し、サステナブルなコミュニティ形成に向けて取り組んでいます。コカ・コーラ本体およびコカ・コーラ基金による寄付金の用途内訳は、コミュニティ(28%)、環境(25%)、教育(17%)、健康で快活な生活(16%)、現物(8%)、人道的危機の緩和(3%)、その他健康構想(3%)となっており、代表的なプロジェクトにラストマイルプロジェクトがあります。同プロジェクトはPPP(Public Private Partnership:官民パートナーシップ)としてアフリカで展開されており、コカ・コーラ社の物流・サプライチェーン・流通・マーケティングノウハウを活かし、最も医療サービスを必要としているアフリカの辺境地の人々「ラストマイル」まで、命を救う医薬品・医療用品を届けています。同プロジェクトの詳細は【アフリカ】コカ・コーラ、アフリカで医薬品を供給する「ラストマイル・プロジェクト」を10ヶ国へ拡大をご覧下さい。

worldに関する活動事例

 worldは環境についての活動で、「水(Water)」と「パッケージング(Packaging) 」、「気候保護(Climate Protection)」、「サステナブルな農業(Sustainable Agriculture)」の大きく分けて4種類のテーマに取り組んでいます。

 まずは水(Water)に関する活動についてです。コカ・コーラ社はグローバルに展開する企業でありながら「Non-export」という考えの下、ほとんどの国において販売されている製品をその国内で製造しています。この方針が当該地域の水のサステナビリティを考える義務感を醸成しているというわけです。同社は水に関する目標として、2020年までに製品や製造過程で使ったのと同量の水を地域や自然に還元することや、製造工程における水利用効率を2010年比で25%改善すること等を掲げています。実際に取り組んでいることとして、「100万人の就学児童に安全な飲料水を届ける」ことや、節水キャンペーンなどがあります。各活動の詳細は以下の記事をご覧ください。

 これらの活動の進捗は順調だと発表されています。2013年には販売された最終製品に使用された水の約68%に相当する水資源をコミュニティに返すことに成功しており、100カ国以上の地域で展開された509のプロジェクトを通じて、合計約1,085億リットルの水資源をコミュニティへ返されています。こちらの発表の詳細については【アメリカ】コカ・コーラ、1,085億リットルの水をコミュニティへお返しをご覧ください。

 パッケージング(Packaging)に関する活動としては、パッケージングにイノベーションを起こすことや再利用性などに向けて取り組んでおります。今年2015年には世界初となる100%植物性由来のペットボトルを開発という目覚ましい成果を上げており、大きな期待が寄せられています。こちらに関する詳細は【アメリカ】コカ・コーラ、世界初となる100%植物性由来のペットボトルを開発をご覧ください。

 気候保護(Climate Protection)に関してコカ・コーラ社はまず自社バリューチェーン上で排出されている温室効果ガス量を測定し、そのうち10%に相当する製造工程を、自社コントロール下で最も改善しやすい部分であると特定しています。その一方で残り90%の排出量削減にも取り組むべく、サプライヤーと協働しパッケージングや物流、冷凍などにおける改善に努めています。具体的には長年のパートナーである世界自然保護基金(WWF)と協働でエネルギーの効率化や気候保護プログラムを展開し、さらにサプライチェーンにおける二酸化炭素排出量に関する報告の方法論を標準化するツール”Carbon Scenario Planner”の開発をも行っています。

 サステナブルな農業(Sustainable Agriculture)に関しては、同社の製品にとって重要な原料となる作物を特定した上でそれらの持続可能な調達に取り組んでいます。具体的にはNGOと協働で複雑化している農業のサプライチェーンを明瞭にする調達ガイドラインを作成することや、農家の生産性を向上させるためのサポートなどを行っています。

サステナビリティ活動の中で特に注力される3つのW

 上述のように、自社の継続的成長に向けて数多くのサステナビリティ活動を展開するコカ・コーラ社ですが、同社はサステナビリティ活動は企業のミッションと統合されなければならないとしています。

 たとえば同社はミッションとして、

  • 世界中にさわやかさをお届けすること
  • 前向きでハッピーな気持ちを味わえるひとときをもたらすこと
  • 価値を生み出し前向きな変化をもたらすこと

を掲げています。もちろん、それぞれの活動はこのミッションと統合されていますが、中でもme,we,worldといったステークホルダーの観点と照らし合わせ同社にとって重要性が高く、且つ強みを活かすことのできる領域におけるサステナビリティ活動として現在注力されているのがWomen,Water,Well-beingから成る3つのWです。

  • Women (活動内容はwe参照)
  • Water (活動内容はworld参照)
  • Well-being (活動内容はme参照)

コカ・コーラ社のサステナビリティ活動と財務面の関連性

 コカ・コーラ社がサステナビリティ活動を経営戦略的に重視するのは、それをリスクマネジメントであると認識しているからです。同社はCRO(Chief Risk Officer)を置き、リスクフレームワークを基に自社が抱えるリスクと機会を可視化しており、「取るべきリスク」を見極めています。

 そんな同社にとって、最も重大なリスクとは「マクロ経済的リスク」と「オペレーションリスク」であるといいます。マクロ経済的リスクとは市場や環境といった外的要因に関わるものであり、オペレーションリスクとは製品クオリティなどを指します。中でもマクロ経済的リスクはその外因性ゆえに自社で直接コントロールすることが難しく、たとえば水不足などは一社が短期的に取り組んで直接的に解決できる問題ではありません。そのため、事業領域内に存在する問題に早くから取り組むことで、事業継続に関わるリスクを削減しているというわけです。

 リスクマネジメントの甲斐あってか、同社はサステナビリティ活動だけでなく財務安定性が重視される世界ランキングにおいても上位を獲得しています。たとえば、EBITA(金利・税・償却前利益)を重要な評価項目として置いているBrandZではコカ・コーラは単体ブランドとして世界第8位、財務安定性をスクリーニングに利用しているGlobal100においても世界26位を獲得しています。具体的なスクリーニング項目は以下の9点で、これを通過した同社はこの全てを満たしているということです。

  • 純利益が黒字であること営業キャッシュフローが黒字であること
  • 営業キャッシュフローが黒字であること
  • (純利益/期初総資産)が前年度の数値を上回っていること
  • 営業キャッシュフローが純利益を上回っていること
  • 長期負債÷総資産の年平均額が増加していないこと
  • 流動比率が高まっていないこと
  • 前年に普通株式発行を行っていないこと
  • 粗利益が前年より増加していること
  • 総資産回転率が向上していること

BrandZ、Global100についての詳細は以下の記事を参照ください
【ランキング】BrandZ「最も価値のあるグローバルブランド トップ100」に学ぶ業界別の代表的サステナビリティ
【ランキング】2015年 ダボス会議「Global 100 Index: 世界で最も持続可能性のある企業100社」

 年次報告によると、 2014年は純利益33%増を達成しながらも売上自体は5%下がってしまっています。しかし、これはロシアやウクライナの為替変動による影響、つまり外因性が大きくむしろこうしたマクロ経済的リスクに対応していくためにもサステナビリティ活動の重要性は増していくと考えられるでしょう。

活動を成功させるための鍵

 サステナビリティ先進企業であるコカ・コーラ社がその活動でリーダーシップをとれるのは、もちろん同社のナレッジや運用力の高さもありますが、それ以上にボトラーやパートナー企業、NGO、大学、政府機関などとの協働が重要な鍵となっています。同社自身すべての問題を社内の人材やナレッジのみで解決することはできないと語っており、だからこそ世界自然保護基金(WWF)などといったNGOを長期的に強力なパートナーシップを組み、問題に取り組んでいます。

 実際、ボストンコンサルティンググループ(BCG)および国連グローバルコンパクトも、企業のサステナビリティ活動において競合企業やサプライヤー、政府、NGOなど他のステークホルダーとの協働が極めて重要だとする調査レポート”Joining Forces: Collaboration and Leadership for Sustainability“を公表しています。サステナビリティ活動で成果を上げるためには、先進企業であるコカ・コーラ社に習い、協働に対する理解を深めステークホルダーと有機的な連携を築くことが鍵を握ると言えるでしょう。

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 1886年5月アメリカ・ジョージア州アトランタの薬剤師ジョン・S・ペンバートン博士の薬品や飲みものを研究に端を発し、現在ではソフトドリンクメーカーとして世界的に圧倒的な知名度を誇るコカ・コーラ社。2014年末には世界での売上が65億1000万ユーロに達し、13万人近くの従業員を抱える企業へと成長を遂げました。また、同社はそのブランド力だけでなく、サステナビリティの分野においても先進企業として名を轟かせています。今回は同社におけるサステナビリティの戦略的位置付けや、その先進的活動の詳細に迫ります。

経営戦略におけるサステナビリティの位置づけ

 コカ・コーラ社はサステナビリティをビジネスの中核に置きつつも、サステナビリティ活動それ自体がサステナブルであるためには、その活動が事業の成長を促すものでなければならないとしています。こうしたサステナビリティ活動に対する姿勢は「2020年までに世界での収益を2倍に成長させる」という同社の長期成長戦略2020 VISIONにも反映されており、同社にとってサステナビリティとは、単に社会貢献というわけではなく、ステークホルダーと自社のサステナブルな関係を構築し継続的成長を達成するための戦略の一つとして位置づけられていることが伺えます。

me, we, worldの活動詳細

 では、コカ・コーラ社が掲げた目標の達成のために実際にどのような活動をしているのかをご紹介していきます。下図はサステナビリティ活動me,we,worldの全体像です。

(出所)2013/2014 SUSTAINABILITY REPORTより抜粋

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 meは

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 1886年5月アメリカ・ジョージア州アトランタの薬剤師ジョン・S・ペンバートン博士の薬品や飲みものを研究に端を発し、現在ではソフトドリンクメーカーとして世界的に圧倒的な知名度を誇るコカ・コーラ社。2014年末には世界での売上が65億1000万ユーロに達し、13万人近くの従業員を抱える企業へと成長を遂げました。また、同社はそのブランド力だけでなく、サステナビリティの分野においても先進企業として名を轟かせています。今回は同社におけるサステナビリティの戦略的位置付けや、その先進的活動の詳細に迫ります。

経営戦略におけるサステナビリティの位置づけ

 コカ・コーラ社はサステナビリティをビジネスの中核に置きつつも、サステナビリティ活動それ自体がサステナブルであるためには、その活動が事業の成長を促すものでなければならないとしています。こうしたサステナビリティ活動に対する姿勢は「2020年までに世界での収益を2倍に成長させる」という同社の長期成長戦略2020 VISIONにも反映されており、同社にとってサステナビリティとは、単に社会貢献というわけではなく、ステークホルダーと自社のサステナブルな関係を構築し継続的成長を達成するための戦略の一つとして位置づけられていることが伺えます。

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 では、コカ・コーラ社が掲げた目標の達成のために実際にどのような活動をしているのかをご紹介していきます。下図はサステナビリティ活動me,we,worldの全体像です。

(出所)2013/2014 SUSTAINABILITY REPORTより抜粋

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 1886年5月アメリカ・ジョージア州アトランタの薬剤師ジョン・S・ペンバートン博士の薬品や飲みものを研究に端を発し、現在ではソフトドリンクメーカーとして世界的に圧倒的な知名度を誇るコカ・コーラ社。2014年末には世界での売上が65億1000万ユーロに達し、13万人近くの従業員を抱える企業へと成長を遂げました。また、同社はそのブランド力だけでなく、サステナビリティの分野においても先進企業として名を轟かせています。今回は同社におけるサステナビリティの戦略的位置付けや、その先進的活動の詳細に迫ります。

経営戦略におけるサステナビリティの位置づけ

 コカ・コーラ社はサステナビリティをビジネスの中核に置きつつも、サステナビリティ活動それ自体がサステナブルであるためには、その活動が事業の成長を促すものでなければならないとしています。こうしたサステナビリティ活動に対する姿勢は「2020年までに世界での収益を2倍に成長させる」という同社の長期成長戦略2020 VISIONにも反映されており、同社にとってサステナビリティとは、単に社会貢献というわけではなく、ステークホルダーと自社のサステナブルな関係を構築し継続的成長を達成するための戦略の一つとして位置づけられていることが伺えます。

me, we, worldの活動詳細

 では、コカ・コーラ社が掲げた目標の達成のために実際にどのような活動をしているのかをご紹介していきます。下図はサステナビリティ活動me,we,worldの全体像です。

(出所)2013/2014 SUSTAINABILITY REPORTより抜粋

meに関する活動事例

 meは消費者の健康についての活動で、「健康(Well-being)」と「責任あるマーケティング(Responsible Marketing)」の大きく分けて2種類のテーマに取り組んでいます。

 健康(Well-being)に関する活動としてコカ・コーラ社は、200以上の国で取り扱う3500種類以上の飲料品を最高品質で安全に消費者に提供するため、成分やカロリー等を明記し、消費者がより多くの情報の下で購買できる様にしています。また先進国を中心に世界的に問題になっている肥満問題に対処するため、カロリーオフ、ゼロカロリーといった選択肢を増やすだけでなく、約125カ国で290の運動促進プログラムを展開する等、消費者のカロリー摂取・消費の双方から肥満問題にアプローチしています。

 また「責任あるマーケティング(Responsible Marketing)」として、同社は世界中どこにおいても12歳以下に向けた宣伝を打たないことを名言しています。これは業界全体にも言え、アクセンチュア社が発表している調査結果2013 Compliance Monitoring Report For the International Food & Beverage Alliance On Global Advertising in Television, Print and Internetにおいてもコカ・コーラ社を含む飲食業界全体で責任あるマーケティングに関するコンプライアンスは高い水準で達成しているとされています。

weに関する活動事例

 weは強力なコミュニティ形成についての活動で、「女性(Women)」と「人権および公正に雇われる権利(Human & Workplace Rights)」、「チャリティー(Charitable Contributions)」の大きく分けて3種類のテーマに取り組んでいます。

 女性(Women)領域における活動として同社は自社バリューチェーン上における女性起業家の経済的自立支援を行っており、2020年までに500万人の女性起業家を輩出することを目標として掲げています。(5by20) この目標の達成に向けて同社はビジネススキルトレーニングや資金面でのサポートだけでなく、仲間やメンターとのコネクションの場も提供しています。具体的にコカ・コーラのバリューチェーン上の事業として挙げられているのは以下の6つです。

  • 生産者
  • 物流関係者
  • リサイクル関係者
  • 原材料供給者
  • 販売者
  • 再利用アーティスト

この5by20は現在、ブラジル・中国・コスタリカ・エジプト・ハイチ・インド・ケニア・メキシコ・ナイジェリア・フィリピン・南アフリカ共和国・タイの12カ国で展開されています。公式サイトにはそれぞれの女性の成功体験も綴られています。同社はより効果的に活動を展開するため、政府や地域コミュニティ、民間企業等と協同でプロジェクトに取り組んでいます。現在、NPOのTECHNOSERVEやビル&メリンダ・ゲイツ財団、国際金融公社、UN womenなどが主なパートナーとなっています。

 人権および公正に雇われる権利(Human & Workplace Rights)に関する活動としては、国連人権理事会に2011年に採択されたビジネスと人権に関する国連フレームワークの公式な支持表明をしました。透明性を担保しつつ地域コミュニティとの円滑なコミュニケーションを図り、人権に関する問題を特定するため、労働組合や責任ある投資家、人権NGO、学生、消費者など様々なステークホルダーと協働しています。また社内に人権に関する考えが醸成される様、第三者監査機関を置き、問題が発見された際にはただちに是正処置を取るようにしています。事実、毎年2,000社の独立した第三者監査が入り、プログラム開始より17,000回に上る監査を実施してきています。2013年には83%のボトリングパートナー、86%の直営サプライヤーが同社の定めるサプライヤー基本原則を順守していると発表されています。さらに、同社はダイバーシティについても取り組んでおり、どのようにダイバーシティやインクルージョンを評価し、差別やハラスメントなき職場を維持していくのか等についてGlobal Mutual Respect Policyにまとめています。

 その他、チャリティー(Charitable Contributions)に関する活動として、同社は少なくとも営業利益の1%を毎年寄付するようにしています。また同社はコカ・コーラ基金を設立し、サステナブルなコミュニティ形成に向けて取り組んでいます。コカ・コーラ本体およびコカ・コーラ基金による寄付金の用途内訳は、コミュニティ(28%)、環境(25%)、教育(17%)、健康で快活な生活(16%)、現物(8%)、人道的危機の緩和(3%)、その他健康構想(3%)となっており、代表的なプロジェクトにラストマイルプロジェクトがあります。同プロジェクトはPPP(Public Private Partnership:官民パートナーシップ)としてアフリカで展開されており、コカ・コーラ社の物流・サプライチェーン・流通・マーケティングノウハウを活かし、最も医療サービスを必要としているアフリカの辺境地の人々「ラストマイル」まで、命を救う医薬品・医療用品を届けています。同プロジェクトの詳細は【アフリカ】コカ・コーラ、アフリカで医薬品を供給する「ラストマイル・プロジェクト」を10ヶ国へ拡大をご覧下さい。

worldに関する活動事例

 worldは環境についての活動で、「水(Water)」と「パッケージング(Packaging) 」、「気候保護(Climate Protection)」、「サステナブルな農業(Sustainable Agriculture)」の大きく分けて4種類のテーマに取り組んでいます。

 まずは水(Water)に関する活動についてです。コカ・コーラ社はグローバルに展開する企業でありながら「Non-export」という考えの下、ほとんどの国において販売されている製品をその国内で製造しています。この方針が当該地域の水のサステナビリティを考える義務感を醸成しているというわけです。同社は水に関する目標として、2020年までに製品や製造過程で使ったのと同量の水を地域や自然に還元することや、製造工程における水利用効率を2010年比で25%改善すること等を掲げています。実際に取り組んでいることとして、「100万人の就学児童に安全な飲料水を届ける」ことや、節水キャンペーンなどがあります。各活動の詳細は以下の記事をご覧ください。

 これらの活動の進捗は順調だと発表されています。2013年には販売された最終製品に使用された水の約68%に相当する水資源をコミュニティに返すことに成功しており、100カ国以上の地域で展開された509のプロジェクトを通じて、合計約1,085億リットルの水資源をコミュニティへ返されています。こちらの発表の詳細については【アメリカ】コカ・コーラ、1,085億リットルの水をコミュニティへお返しをご覧ください。

 パッケージング(Packaging)に関する活動としては、パッケージングにイノベーションを起こすことや再利用性などに向けて取り組んでおります。今年2015年には世界初となる100%植物性由来のペットボトルを開発という目覚ましい成果を上げており、大きな期待が寄せられています。こちらに関する詳細は【アメリカ】コカ・コーラ、世界初となる100%植物性由来のペットボトルを開発をご覧ください。

 気候保護(Climate Protection)に関してコカ・コーラ社はまず自社バリューチェーン上で排出されている温室効果ガス量を測定し、そのうち10%に相当する製造工程を、自社コントロール下で最も改善しやすい部分であると特定しています。その一方で残り90%の排出量削減にも取り組むべく、サプライヤーと協働しパッケージングや物流、冷凍などにおける改善に努めています。具体的には長年のパートナーである世界自然保護基金(WWF)と協働でエネルギーの効率化や気候保護プログラムを展開し、さらにサプライチェーンにおける二酸化炭素排出量に関する報告の方法論を標準化するツール”Carbon Scenario Planner”の開発をも行っています。

 サステナブルな農業(Sustainable Agriculture)に関しては、同社の製品にとって重要な原料となる作物を特定した上でそれらの持続可能な調達に取り組んでいます。具体的にはNGOと協働で複雑化している農業のサプライチェーンを明瞭にする調達ガイドラインを作成することや、農家の生産性を向上させるためのサポートなどを行っています。

サステナビリティ活動の中で特に注力される3つのW

 上述のように、自社の継続的成長に向けて数多くのサステナビリティ活動を展開するコカ・コーラ社ですが、同社はサステナビリティ活動は企業のミッションと統合されなければならないとしています。

 たとえば同社はミッションとして、

  • 世界中にさわやかさをお届けすること
  • 前向きでハッピーな気持ちを味わえるひとときをもたらすこと
  • 価値を生み出し前向きな変化をもたらすこと

を掲げています。もちろん、それぞれの活動はこのミッションと統合されていますが、中でもme,we,worldといったステークホルダーの観点と照らし合わせ同社にとって重要性が高く、且つ強みを活かすことのできる領域におけるサステナビリティ活動として現在注力されているのがWomen,Water,Well-beingから成る3つのWです。

  • Women (活動内容はwe参照)
  • Water (活動内容はworld参照)
  • Well-being (活動内容はme参照)

コカ・コーラ社のサステナビリティ活動と財務面の関連性

 コカ・コーラ社がサステナビリティ活動を経営戦略的に重視するのは、それをリスクマネジメントであると認識しているからです。同社はCRO(Chief Risk Officer)を置き、リスクフレームワークを基に自社が抱えるリスクと機会を可視化しており、「取るべきリスク」を見極めています。

 そんな同社にとって、最も重大なリスクとは「マクロ経済的リスク」と「オペレーションリスク」であるといいます。マクロ経済的リスクとは市場や環境といった外的要因に関わるものであり、オペレーションリスクとは製品クオリティなどを指します。中でもマクロ経済的リスクはその外因性ゆえに自社で直接コントロールすることが難しく、たとえば水不足などは一社が短期的に取り組んで直接的に解決できる問題ではありません。そのため、事業領域内に存在する問題に早くから取り組むことで、事業継続に関わるリスクを削減しているというわけです。

 リスクマネジメントの甲斐あってか、同社はサステナビリティ活動だけでなく財務安定性が重視される世界ランキングにおいても上位を獲得しています。たとえば、EBITA(金利・税・償却前利益)を重要な評価項目として置いているBrandZではコカ・コーラは単体ブランドとして世界第8位、財務安定性をスクリーニングに利用しているGlobal100においても世界26位を獲得しています。具体的なスクリーニング項目は以下の9点で、これを通過した同社はこの全てを満たしているということです。

  • 純利益が黒字であること営業キャッシュフローが黒字であること
  • 営業キャッシュフローが黒字であること
  • (純利益/期初総資産)が前年度の数値を上回っていること
  • 営業キャッシュフローが純利益を上回っていること
  • 長期負債÷総資産の年平均額が増加していないこと
  • 流動比率が高まっていないこと
  • 前年に普通株式発行を行っていないこと
  • 粗利益が前年より増加していること
  • 総資産回転率が向上していること

BrandZ、Global100についての詳細は以下の記事を参照ください
【ランキング】BrandZ「最も価値のあるグローバルブランド トップ100」に学ぶ業界別の代表的サステナビリティ
【ランキング】2015年 ダボス会議「Global 100 Index: 世界で最も持続可能性のある企業100社」

 年次報告によると、 2014年は純利益33%増を達成しながらも売上自体は5%下がってしまっています。しかし、これはロシアやウクライナの為替変動による影響、つまり外因性が大きくむしろこうしたマクロ経済的リスクに対応していくためにもサステナビリティ活動の重要性は増していくと考えられるでしょう。

活動を成功させるための鍵

 サステナビリティ先進企業であるコカ・コーラ社がその活動でリーダーシップをとれるのは、もちろん同社のナレッジや運用力の高さもありますが、それ以上にボトラーやパートナー企業、NGO、大学、政府機関などとの協働が重要な鍵となっています。同社自身すべての問題を社内の人材やナレッジのみで解決することはできないと語っており、だからこそ世界自然保護基金(WWF)などといったNGOを長期的に強力なパートナーシップを組み、問題に取り組んでいます。

 実際、ボストンコンサルティンググループ(BCG)および国連グローバルコンパクトも、企業のサステナビリティ活動において競合企業やサプライヤー、政府、NGOなど他のステークホルダーとの協働が極めて重要だとする調査レポート”Joining Forces: Collaboration and Leadership for Sustainability“を公表しています。サステナビリティ活動で成果を上げるためには、先進企業であるコカ・コーラ社に習い、協働に対する理解を深めステークホルダーと有機的な連携を築くことが鍵を握ると言えるでしょう。

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