Sustainable Japan | 世界のサステナビリティ・ESG投資・SDGs

【アメリカ】機関投資家100社以上、ダコタ・アクセス・パイプライン建設に懸念表明。関与銀行に対応を要求

 米国や海外の主要機関投資家100以上は2月16日、環境や先住民コミュニティへの悪影響が指摘され社会課題となっている石油パイプライン「ダコタ・アクセス・パイプライン」の建設に関し、同建設プロジェクトへの融資資金を提供している世界の銀行17行に対し、プロジェクトへの懸念と懸念に適切に対応すべきとの共同声明を発表した。対象となった銀行には日本のメガバンク3行も含まれている。

 機関投資家から声明を突きつけられたのは、声明での発表順に、三菱東京UFJ銀行(日本)、バイエルン州立銀行(ドイツ)、ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(スペイン)、BNPパリバ(フランス)、シティバンク(米国)、クレディ・アグリコル(フランス)、DNB(ノルウェー)、中国工商銀行(中国)、ING(オランダ)、インテーザ銀行(イタリア)、みずほ銀行(日本)、ナティクシス(フランス)、ソシエテ・ジェネラル(フランス)、三井住友銀行(日本)、サントラスト・バンクス(米国)、トロント・ドミニオン銀行(カナダ)、ウェルズ・ファーゴ(米国)の17行。日本のメガバンクが3行とも入っている。共同声明では、当該銀行に対し適切な対応を求めている。

 共同声明を発表した機関投資家には、米国内外の主要機関投資家100社以上。カリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)、ニューヨーク州退職年金基金、ボストン・コモン・アセット・マネジメント、カルバート、ストアブランド・アセット・マネジメント等、世界の主要な年金基金や運用会社が複数入っている他、キリスト教関連の基金や財団の名前も多い。声明を発表した機関投資家の運用資産総額は6,530億米ドル(約74兆円)。


(出所)National Geographic

 ダコタ・アクセス・パイプラインの建設プロジェクトは、米国ノースダコタ州バッケンのシェールオイル油田とイリノイ州パトカの石油タンク集積地を結ぶ総長1,886kmの地下埋設型石油パイプライン。プロジェクトの建設主は、米エネルギー大手Energy Transferグループ。パイプライン建設後は、同社子会社のEnergy Transfer Partners(ETP)と別の同社子会社Sunoco Logistics Partnersの合弁企業Bakken Holdings社がパイプライン所有権の75%を所有し、残り25%を米石油精製・販売大手Pillips66社が所有する。他にも、エネルギー輸送大手であるカナダのEnbridge社と米Marathon Petroleum社もパイプラインの権益確保のための交渉に乗り出している。現在バッケンからパトカまでのシェールオイル輸送は、鉄道やトレーラーにより行われているが、より安価で安全、確実な輸送手段としてパイプラインの建設が持ち上がった。建設計画は、2014年6月に公表、2015年1月までの間に地権者向けの非公式説明会が開催された。


(出所)筆者作成

 建設プロジェクトの資本調達では、Energy Transfer Partnersの出資金、Enbridgeと米Marathon Petroleumへの権益売却益による以外では、前述の銀行17行からの融資が大きな資金源となっている。融資総額は25億米ドル(約2,800億円)で、プロジェクト総費用37.8億米ドル(約4,300億円)の71.5%を占める。

 このパイプライン建設計画が社会問題となった背景には、パイプライン敷設がもたらす環境破壊がある。石油やガスのパイプラインの敷設には、パイプラインの破損等による漏出リスクがあり、森林破壊、河川汚染、土壌汚染、大気汚染、生物多様性破壊などをもたらす可能性がある。とりわけ今回のプロジェクトでは、河川汚染リスクに大きな焦点が当たっている。ダコタ・アクセス・パイプラインの敷設経路は、9つの主要河川と交差するように計画されており、漏出等により現地生活や商業にとって重要な主要河川が汚染させるリスクがあるためだ。

 パイプライン経路には先住民ネイティブ・アメリカン部族の居住地が多いことも問題を大きくしている。スタンディングロック・スー族は、パイプライン建設計画公表以来、水源のミズーリ川や同族の聖地が汚染されることを懸念し抵抗運動を開始。さらに建設プロジェクトが、先住民コミュニティ保護のための国際規範となっている「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」を満たしていないことも追及している。激しい抵抗運動を受け、オバマ政権時代に米陸軍省は2016年12月4日、ミズーリ川を堰き止めたダム湖「オアへ湖」の地下にパイプラインを通す工事を認可しないと発表。同時に、陸軍省は、Energy Transfer Partners社等関係者に対し、環境影響アセスメントの徹底した再実施とパイプライン経路の変更を命じた。こうして一時は抵抗運動は勝利をしたかに見えた。しかし、政権が変わった後、トランプ大統領は1月24日、同パイプライン建設を推進する大統領令に署名。2月8日には米陸軍省が方針を転換しパイプライン建設の原案を認可。建設活動が再び活発化していた。

 機関投資家らは、共同声明の中で、まずダコタ・アクセス・パイプライン建設の問題点を複数指摘。スタンディングロック・スー族に対して国際規範であるFPICを得ていない点やパイプライン建設に関する環境アセスメントに違反の疑義がある点を追及した。そして、先住民との間で社会紛争に発展しかねない情勢であることや、水汚染リスクがあることに懸念を表明した。融資を実施している銀行に対しては、当該銀行からの預金引出市民運動により5,300万米ドル(約60億円)の預金が他行へ移り、さらに23億米ドル(約2,600億円)の預金についても同様に引出されるリスクがあり、このようなボイコットや法的リスクが銀行のブランドや評判を長期的に傷つけていると伝えるとともに、当該銀行の株主に対しては銀行が財務的リスクを抱えてることを認識すべきだと伝えた。

 その上で、銀行に対し、融資契約に基づく銀行の融資実行義務に留意しつつも、スタンディングロック・スー族の要求事項であるオアヘ湖を含む同族居住地を迂回するようパイプライン経路の変更の実施に向け支援を実施し、他の関係者を含む平和的解決のために融資銀行としての影響力を行使すべきだとした。

【参照ページ】CalPERS Joins Investors Calling on Banks to Address Concerns Surrounding Dakota Access Pipeline
【共同声明】Investor Statement to Banks Financing the Dakota Access Pipeline

 米国や海外の主要機関投資家100以上は2月16日、環境や先住民コミュニティへの悪影響が指摘され社会課題となっている石油パイプライン「ダコタ・アクセス・パイプライン」の建設に関し、同建設プロジェクトへの融資資金を提供している世界の銀行17行に対し、プロジェクトへの懸念と懸念に適切に対応すべきとの共同声明を発表した。対象となった銀行には日本のメガバンク3行も含まれている。

 機関投資家から声明を突きつけられたのは、声明での発表順に、三菱東京UFJ銀行(日本)、バイエルン州立銀行(ドイツ)、ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(スペイン)、BNPパリバ(フランス)、シティバンク(米国)、クレディ・アグリコル(フランス)、DNB(ノルウェー)、中国工商銀行(中国)、ING(オランダ)、インテーザ銀行(イタリア)、みずほ銀行(日本)、ナティクシス(フランス)、ソシエテ・ジェネラル(フランス)、三井住友銀行(日本)、サントラスト・バンクス(米国)、トロント・ドミニオン銀行(カナダ)、ウェルズ・ファーゴ(米国)の17行。日本のメガバンクが3行とも入っている。共同声明では、当該銀行に対し適切な対応を求めている。

 共同声明を発表した機関投資家には、米国内外の主要機関投資家100社以上。カリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)、ニューヨーク州退職年金基金、ボストン・コモン・アセット・マネジメント、カルバート、ストアブランド・アセット・マネジメント等、世界の主要な年金基金や運用会社が複数入っている他、キリスト教関連の基金や財団の名前も多い。声明を発表した機関投資家の運用資産総額は6,530億米ドル(約74兆円)。


(出所)National Geographic

 ダコタ・アクセス・パイプラインの建設プロジェクトは、米国ノースダコタ州バッケンのシェールオイル油田とイリノイ州パトカの石油タンク集積地を結ぶ総長1,886kmの地下埋設型石油パイプライン。プロジェクトの建設主は、米エネルギー大手Energy Transferグループ。パイプライン建設後は、同社子会社のEnergy Transfer Partners(ETP)と別の同社子会社Sunoco Logistics Partnersの合弁企業Bakken Holdings社がパイプライン所有権の75%を所有し、残り25%を米石油精製・販売大手Pillips66社が所有する。他にも、エネルギー輸送大手であるカナダのEnbridge社と米Marathon Petroleum社もパイプラインの権益確保のための交渉に乗り出している。現在バッケンからパトカまでのシェールオイル輸送は、鉄道やトレーラーにより行われているが、より安価で安全、確実な輸送手段としてパイプラインの建設が持ち上がった。建設計画は、2014年6月に公表、2015年1月までの間に地権者向けの非公式説明会が開催された。


(出所)筆者作成

 建設プロジェクトの資本調達では、Energy Transfer Partnersの出資金、Enbridgeと米Marathon Petroleumへの権益売却益による以外では、前述の銀行17行からの融資が大きな資金源となっている。融資総額は25億米ドル(約2,800億円)で、プロジェクト総費用37.8億米ドル(約4,300億円)の71.5%を占める。

 このパイプライン建設計画が社会問題となった背景には、パイプライン敷設がもたらす環境破壊がある。石油やガスのパイプラインの敷設には、パイプラインの破損等による漏出リスクがあり、森林破壊、河川汚染、土壌汚染、大気汚染、生物多様性破壊などをもたらす可能性がある。とりわけ今回のプロジェクトでは、河川汚染リスクに大きな焦点が当たっている。ダコタ・アクセス・パイプラインの敷設経路は、9つの主要河川と交差するように計画されており、漏出等により現地生活や商業にとって重要な主要河川が汚染させるリスクがあるためだ。

 パイプライン経路には先住民ネイティブ・アメリカン部族の居住地が多いことも問題を大きくしている。スタンディングロック・スー族は、パイプライン建設計画公表以来、水源のミズーリ川や同族の聖地が汚染されることを懸念し抵抗運動を開始。さらに建設プロジェクトが、先住民コミュニティ保護のための国際規範となっている「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」を満たしていないことも追及している。激しい抵抗運動を受け、オバマ政権時代に米陸軍省は2016年12月4日、ミズーリ川を堰き止めたダム湖「オアへ湖」の地下にパイプラインを通す工事を認可しないと発表。同時に、陸軍省は、Energy Transfer Partners社等関係者に対し、環境影響アセスメントの徹底した再実施とパイプライン経路の変更を命じた。こうして一時は抵抗運動は勝利をしたかに見えた。しかし、政権が変わった後、トランプ大統領は1月24日、同パイプライン建設を推進する大統領令に署名。2月8日には米陸軍省が方針を転換しパイプライン建設の原案を認可。建設活動が再び活発化していた。

 機関投資家らは、共同声明の中で、まずダコタ・アクセス・パイプライン建設の問題点を複数指摘。スタンディングロック・スー族に対して国際規範であるFPICを得ていない点やパイプライン建設に関する環境アセスメントに違反の疑義がある点を追及した。そして、先住民との間で社会紛争に発展しかねない情勢であることや、水汚染リスクがあることに懸念を表明した。融資を実施している銀行に対しては、当該銀行からの預金引出市民運動により5,300万米ドル(約60億円)の預金が他行へ移り、さらに23億米ドル(約2,600億円)の預金についても同様に引出されるリスクがあり、このようなボイコットや法的リスクが銀行のブランドや評判を長期的に傷つけていると伝えるとともに、当該銀行の株主に対しては銀行が財務的リスクを抱えてることを認識すべきだと伝えた。

 その上で、銀行に対し、融資契約に基づく銀行の融資実行義務に留意しつつも、スタンディングロック・スー族の要求事項であるオアヘ湖を含む同族居住地を迂回するようパイプライン経路の変更の実施に向け支援を実施し、他の関係者を含む平和的解決のために融資銀行としての影響力を行使すべきだとした。

【参照ページ】CalPERS Joins Investors Calling on Banks to Address Concerns Surrounding Dakota Access Pipeline
【共同声明】Investor Statement to Banks Financing the Dakota Access Pipeline

 米国や海外の主要機関投資家100以上は2月16日、環境や先住民コミュニティへの悪影響が指摘され社会課題となっている石油パイプライン「ダコタ・アクセス・パイプライン」の建設に関し、同建設プロジェクトへの融資資金を提供している世界の銀行17行に対し、プロジェクトへの懸念と懸念に適切に対応すべきとの共同声明を発表した。対象となった銀行には日本のメガバンク3行も含まれている。

 機関投資家から声明を突きつけられたのは、声明での発表順に、三菱東京UFJ銀行(日本)、バイエルン州立銀行(ドイツ)、ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(スペイン)、BNPパリバ(フランス)、シティバンク(米国)、クレディ・アグリコル(フランス)、DNB(ノルウェー)、中国工商銀行(中国)、ING(オランダ)、インテーザ銀行(イタリア)、みずほ銀行(日本)、ナティクシス(フランス)、ソシエテ・ジェネラル(フランス)、三井住友銀行(日本)、サントラスト・バンクス(米国)、トロント・ドミニオン銀行(カナダ)、ウェルズ・ファーゴ(米国)の17行。日本のメガバンクが3行とも入っている。共同声明では、当該銀行に対し適切な対応を求めている。

 共同声明を発表した機関投資家には、米国内外の主要機関投資家100社以上。カリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)、ニューヨーク州退職年金基金、ボストン・コモン・アセット・マネジメント、カルバート、ストアブランド・アセット・マネジメント等、世界の主要な年金基金や運用会社が複数入っている他、キリスト教関連の基金や財団の名前も多い。声明を発表した機関投資家の運用資産総額は6,530億米ドル(約74兆円)。


(出所)National Geographic

 ダコタ・アクセス・パイプラインの建設プロジェクトは、米国ノースダコタ州バッケンのシェールオイル油田とイリノイ州パトカの石油タンク集積地を結ぶ総長1,886kmの地下埋設型石油パイプライン。プロジェクトの建設主は、米エネルギー大手Energy Transferグループ。パイプライン建設後は、同社子会社のEnergy Transfer Partners(ETP)と別の同社子会社Sunoco Logistics Partnersの合弁企業Bakken Holdings社がパイプライン所有権の75%を所有し、残り25%を米石油精製・販売大手Pillips66社が所有する。他にも、エネルギー輸送大手であるカナダのEnbridge社と米Marathon Petroleum社もパイプラインの権益確保のための交渉に乗り出している。現在バッケンからパトカまでのシェールオイル輸送は、鉄道やトレーラーにより行われているが、より安価で安全、確実な輸送手段としてパイプラインの建設が持ち上がった。建設計画は、2014年6月に公表、2015年1月までの間に地権者向けの非公式説明会が開催された。


(出所)筆者作成

 建設プロジェクトの資本調達では、Energy Transfer Partnersの出資金、Enbridgeと米Marathon Petroleumへの権益売却益による以外では、前述の銀行17行からの融資が大きな資金源となっている。融資総額は25億米ドル(約2,800億円)で、プロジェクト総費用37.8億米ドル(約4,300億円)の71.5%を占める。

 このパイプライン建設計画が社会問題となった背景には、パイプライン敷設がもたらす環境破壊がある。石油やガスのパイプラインの敷設には、パイプラインの破損等による漏出リスクがあり、森林破壊、河川汚染、土壌汚染、大気汚染、生物多様性破壊などをもたらす可能性がある。とりわけ今回のプロジェクトでは、河川汚染リスクに大きな焦点が当たっている。ダコタ・アクセス・パイプラインの敷設経路は、9つの主要河川と交差するように計画されており、漏出等により現地生活や商業にとって重要な主要河川が汚染させるリスクがあるためだ。

 パイプライン経路には先住民ネイティブ・アメリカン部族の居住地が多いことも問題を大きくしている。スタンディングロック・スー族は、パイプライン建設計画公表以来、水源のミズーリ川や同族の聖地が汚染されることを懸念し抵抗運動を開始。さらに建設プロジェクトが、先住民コミュニティ保護のための国際規範となっている「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」を満たしていないことも追及している。激しい抵抗運動を受け、オバマ政権時代に米陸軍省は2016年12月4日、ミズーリ川を堰き止めたダム湖「オアへ湖」の地下にパイプラインを通す工事を認可しないと発表。同時に、陸軍省は、Energy Transfer Partners社等関係者に対し、環境影響アセスメントの徹底した再実施とパイプライン経路の変更を命じた。こうして一時は抵抗運動は勝利をしたかに見えた。しかし、政権が変わった後、トランプ大統領は1月24日、同パイプライン建設を推進する大統領令に署名。2月8日には米陸軍省が方針を転換しパイプライン建設の原案を認可。建設活動が再び活発化していた。

 機関投資家らは、共同声明の中で、まずダコタ・アクセス・パイプライン建設の問題点を複数指摘。スタンディングロック・スー族に対して国際規範であるFPICを得ていない点やパイプライン建設に関する環境アセスメントに違反の疑義がある点を追及した。そして、先住民との間で社会紛争に発展しかねない情勢であることや、水汚染リスクがあることに懸念を表明した。融資を実施している銀行に対しては、当該銀行からの預金引出市民運動により5,300万米ドル(約60億円)の預金が他行へ移り、さらに23億米ドル(約2,600億円)の預金についても同様に引出されるリスクがあり、このようなボイコットや法的リスクが銀行のブランドや評判を長期的に傷つけていると伝えるとともに、当該銀行の株主に対しては銀行が財務的リスクを抱えてることを認識すべきだと伝えた。

 その上で、銀行に対し、融資契約に基づく銀行の融資実行義務に留意しつつも、スタンディングロック・スー族の要求事項であるオアヘ湖を含む同族居住地を迂回するようパイプライン経路の変更の実施に向け支援を実施し、他の関係者を含む平和的解決のために融資銀行としての影響力を行使すべきだとした。

【参照ページ】CalPERS Joins Investors Calling on Banks to Address Concerns Surrounding Dakota Access Pipeline
【共同声明】Investor Statement to Banks Financing the Dakota Access Pipeline

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 米国や海外の主要機関投資家100以上は2月16日、環境や先住民コミュニティへの悪影響が指摘され社会課題となっている石油パイプライン「ダコタ・アクセス・パイプライン」の建設に関し、同建設プロジェクトへの融資資金を提供している世界の銀行17行に対し、プロジェクトへの懸念と懸念に適切に対応すべきとの共同声明を発表した。対象となった銀行には日本のメガバンク3行も含まれている。

 機関投資家から声明を突きつけられたのは、声明での発表順に、三菱東京UFJ銀行(日本)、バイエルン州立銀行(ドイツ)、ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(スペイン)、BNPパリバ(フランス)、シティバンク(米国)、クレディ・アグリコル(フランス)、DNB(ノルウェー)、中国工商銀行(中国)、ING(オランダ)、インテーザ銀行(イタリア)、みずほ銀行(日本)、ナティクシス(フランス)、ソシエテ・ジェネラル(フランス)、三井住友銀行(日本)、サントラスト・バンクス(米国)、トロント・ドミニオン銀行(カナダ)、ウェルズ・ファーゴ(米国)の17行。日本のメガバンクが3行とも入っている。共同声明では、当該銀行に対し適切な対応を求めている。

 共同声明を発表した機関投資家には、米国内外の主要機関投資家100社以上。カリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)、ニューヨーク州退職年金基金、ボストン・コモン・アセット・マネジメント、カルバート、ストアブランド・アセット・マネジメント等、世界の主要な年金基金や運用会社が複数入っている他、キリスト教関連の基金や財団の名前も多い。声明を発表した機関投資家の運用資産総額は6,530億米ドル(約74兆円)。


(出所)National Geographic

 ダコタ・アクセス・パイプラインの建設プロジェクトは、米国ノースダコタ州バッケンのシェールオイル油田とイリノイ州パトカの石油タンク集積地を結ぶ総長1,886kmの地下埋設型石油パイプライン。プロジェクトの建設主は、米エネルギー大手Energy Transferグループ。パイプライン建設後は、同社子会社のEnergy Transfer Partners(ETP)と別の同社子会社Sunoco Logistics Partnersの合弁企業Bakken Holdings社がパイプライン所有権の75%を所有し、残り25%を米石油精製・販売大手Pillips66社が所有する。他にも、エネルギー輸送大手であるカナダのEnbridge社と米Marathon Petroleum社もパイプラインの権益確保のための交渉に乗り出している。現在バッケンからパトカまでのシェールオイル輸送は、鉄道やトレーラーにより行われているが、より安価で安全、確実な輸送手段としてパイプラインの建設が持ち上がった。建設計画は、2014年6月に公表、2015年1月までの間に地権者向けの非公式説明会が開催された。


(出所)筆者作成

 建設プロジェクトの資本調達では、Energy Transfer Partnersの出資金、Enbridgeと米Marathon Petroleumへの権益売却益による以外では、前述の銀行17行からの融資が大きな資金源となっている。融資総額は25億米ドル(約2,800億円)で、プロジェクト総費用37.8億米ドル(約4,300億円)の71.5%を占める。

 このパイプライン建設計画が社会問題となった背景には、パイプライン敷設がもたらす環境破壊がある。石油やガスのパイプラインの敷設には、パイプラインの破損等による漏出リスクがあり、森林破壊、河川汚染、土壌汚染、大気汚染、生物多様性破壊などをもたらす可能性がある。とりわけ今回のプロジェクトでは、河川汚染リスクに大きな焦点が当たっている。ダコタ・アクセス・パイプラインの敷設経路は、9つの主要河川と交差するように計画されており、漏出等により現地生活や商業にとって重要な主要河川が汚染させるリスクがあるためだ。

 パイプライン経路には先住民ネイティブ・アメリカン部族の居住地が多いことも問題を大きくしている。スタンディングロック・スー族は、パイプライン建設計画公表以来、水源のミズーリ川や同族の聖地が汚染されることを懸念し抵抗運動を開始。さらに建設プロジェクトが、先住民コミュニティ保護のための国際規範となっている「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」を満たしていないことも追及している。激しい抵抗運動を受け、オバマ政権時代に米陸軍省は2016年12月4日、ミズーリ川を堰き止めたダム湖「オアへ湖」の地下にパイプラインを通す工事を認可しないと発表。同時に、陸軍省は、Energy Transfer Partners社等関係者に対し、環境影響アセスメントの徹底した再実施とパイプライン経路の変更を命じた。こうして一時は抵抗運動は勝利をしたかに見えた。しかし、政権が変わった後、トランプ大統領は1月24日、同パイプライン建設を推進する大統領令に署名。2月8日には米陸軍省が方針を転換しパイプライン建設の原案を認可。建設活動が再び活発化していた。

 機関投資家らは、共同声明の中で、まずダコタ・アクセス・パイプライン建設の問題点を複数指摘。スタンディングロック・スー族に対して国際規範であるFPICを得ていない点やパイプライン建設に関する環境アセスメントに違反の疑義がある点を追及した。そして、先住民との間で社会紛争に発展しかねない情勢であることや、水汚染リスクがあることに懸念を表明した。融資を実施している銀行に対しては、当該銀行からの預金引出市民運動により5,300万米ドル(約60億円)の預金が他行へ移り、さらに23億米ドル(約2,600億円)の預金についても同様に引出されるリスクがあり、このようなボイコットや法的リスクが銀行のブランドや評判を長期的に傷つけていると伝えるとともに、当該銀行の株主に対しては銀行が財務的リスクを抱えてることを認識すべきだと伝えた。

 その上で、銀行に対し、融資契約に基づく銀行の融資実行義務に留意しつつも、スタンディングロック・スー族の要求事項であるオアヘ湖を含む同族居住地を迂回するようパイプライン経路の変更の実施に向け支援を実施し、他の関係者を含む平和的解決のために融資銀行としての影響力を行使すべきだとした。

【参照ページ】CalPERS Joins Investors Calling on Banks to Address Concerns Surrounding Dakota Access Pipeline
【共同声明】Investor Statement to Banks Financing the Dakota Access Pipeline