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【日本】政府、6月からの家庭向け電気規制料金の値上げを了承。15%から40%程度

 日本政府は5月16日、「物価問題に関する関係閣僚会議」を開催。経済産業省が提出した「特定小売供給約款の変更認可申請に係る査定方針」を承認した。これにより家庭向けの電気料金が早ければ6月分から値上げされることが決まった。2016年4月の電力自由化後に規制料金が改定されるのは今回が初めて。

 家庭向けの電気料金は、2016年4月の電力自由化以前から大手電力が提供している「規制料金」と、電力自由化以降に提供が可能となった「自由料金」に分かれている。規制料金は、燃料調整費の上限が課されており、改定には、電気事業法附則第18条第1項の規定に基づき、経済産業相の認可が必要となる。一方、自由料金は制限がなく、自由に変更が可能となっている。電力自由化以降に電力会社を変更した家庭では「自由料金」に切り替わっているところが多いが、以前からの電力会社を使用し続けている場合には「規制料金」が適用されて続けている。規制料金は電気料金明細に「従量電灯」等と記載されていたりする。

 日本の大手電力各社は、石炭火力発電とガス火力発電の割合が大きくなっており、ウクライナ戦争以降の石炭及びガスの市場価格高騰が直撃。2022年夏頃までは、燃料調整費(燃調費)の引上げで対応してきたが、規制料金の上限に達し、そこから先は規制料金は値上げができてこなかった。その分、大手電力会社の営業赤字が膨らんでいった。そこで、2022年11月末に、東北電力、北陸電力、中国電力、四国電力、沖縄電力の5社が燃料調整費の上限引上げを申請。値上げ幅は、東北電力で32.9%、北陸電力で45.8%、中国電力で31.3%、四国電力で28.1%、沖縄電力で43.8%だった。

 続いて、2023年1月末に北海道電力と東京電力エナジーパートナーズも引上げを申請。値上げ幅は、北海道電力で32.2%、東京電力エナジーパートナーズで29.3%だった。

 規制料金は「特定小売供給約款」に記載されており、同約款の変更については、経済産業相が認可する制度となっている。そこで、経済産業省は、各社の申請受付直後から審査を開始。4月分から料金値上げを行うことが既定路線となり、審議が進められていた。しかし、2月24日の「物価・賃金・生活総合対策本部」の会合の中で、岸田文雄首相が、「4月という日程ありきでない」と発言し、西村康稔経済産業相に対し、厳格審査を指示した。

 これに消費者庁も加勢する形となった。経済産業相の認可手続きにおいては、消費者庁との協議も必要となっており、消費者庁は、経済産業省の料金制度専門会合の中で、1月27日、2月15日、3月15日と3度にわたり、「消費者の視点からの疑問点・意見」を提示。さらに消費者委員会の公共料金等専門調査会でも議論が場が用意された。消費者庁及び消費者委員会は、相次いで発覚した電力会社の不正事案が料金へ与える影響の検証やコスト効率化の徹底等に関する検討を経済産業省に求めた。さらに、河野太郎消費者担当相も3月13日の消費者委員会の公共料金等専門調査会に出席し、「カルテル、顧客情報の不正利用について、厳しい意見が出ている」「消費者庁としては、単に規制料金の問題にとどまることなく、フルパッケージで議論をし、結論を出さなければならない」と述べた。

 その後、経済産業省電力・ガス取引監視等委員会はまず、3月16日に経済産業相に対し、「直近の燃料価格、卸電力市場価格及び電力先物価格を踏まえて原価等を再算定することが適切である」と回答。燃料価格が直近減少してきたことから、燃料費の算定に用いる燃料価格及び燃料費調整制度における基準燃料価格の採録期間を、2022年11月から2023年1月の4ヶ月とし、卸電力市場価格についても、2023年2月における東京商品取引所の23年度各限月の電力先物価格の平均値を採用し、当該平均値を用いて、過去1年の各月のコマ別の実績価格を補正することとなった。これにより、値上げ幅が大幅に縮小された。

 4月27日には、ついに経済産業省電力・ガス取引監視等委員会で、査定方針案が決定。しかしそこから消費者庁との正式協議が始まった。消費者庁は電気料金アドバイザー会合を組成し、5月2日、5月8日、5月10日に会合を開催した。委員には、規制改革派の委員が多数入り、電力・ガス取引監視等委員会からのヒアリングが実施された。5月15日には消費者庁から資源エネルギー庁に対し協議回答書が提出され、消費者庁はもともと大手電力各社が高コスト体質であることを勘案した上で、更に不正事案の影響があったとの前提に立った厳しい査定を実現するよう電力・ガス取引監視等委員会に要請したが、現在の電力・ガス取引監視等委員会の査定の方法・体制では、その影響の定量的な評価・推定は困難であることが明らかとなったと言及。体制の強化を要請するとともに、検討段階から消費者庁が参画することも求めた。

 消費者庁との協議が終了したことを受け、5月16日の「物価問題に関する関係閣僚会議」では、経済産業省電力・ガス取引監視等委員会が4月27日にとりまとめた、査定方針案を了承。西村康稔経済産業相は直後の会見で、「不正事案が規制料金に間接的に与える影響については排除されないという前提のもと、高コストのまま認可されなることのないように最大限の経営効率化を求めた」と述べた。その後、大手電力7社は、査定結果に基き発表された金額で補正申請を再度、経済産業省に提出し、5月19日に経済産業相が認可。値上げ幅が最終決定した。

 大手電力7社は、今回の規制料金が値上げとなることに伴い、自由料金の値上げを行う方針も発表している。そのため、自由料金に切替え済みの家庭にも影響が出る。

【参照ページ】物価問題に関する関係閣僚会議
【参照ページ】特定小売供給約款の変更認可申請について(回答)(令和5年5月15日)

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 日本政府は5月16日、「物価問題に関する関係閣僚会議」を開催。経済産業省が提出した「特定小売供給約款の変更認可申請に係る査定方針」を承認した。これにより家庭向けの電気料金が早ければ6月分から値上げされることが決まった。2016年4月の電力自由化後に規制料金が改定されるのは今回が初めて。

 家庭向けの電気料金は、

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 日本政府は5月16日、「物価問題に関する関係閣僚会議」を開催。経済産業省が提出した「特定小売供給約款の変更認可申請に係る査定方針」を承認した。これにより家庭向けの電気料金が早ければ6月分から値上げされることが決まった。2016年4月の電力自由化後に規制料金が改定されるのは今回が初めて。

 家庭向けの電気料金は、

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 日本政府は5月16日、「物価問題に関する関係閣僚会議」を開催。経済産業省が提出した「特定小売供給約款の変更認可申請に係る査定方針」を承認した。これにより家庭向けの電気料金が早ければ6月分から値上げされることが決まった。2016年4月の電力自由化後に規制料金が改定されるのは今回が初めて。

 家庭向けの電気料金は、2016年4月の電力自由化以前から大手電力が提供している「規制料金」と、電力自由化以降に提供が可能となった「自由料金」に分かれている。規制料金は、燃料調整費の上限が課されており、改定には、電気事業法附則第18条第1項の規定に基づき、経済産業相の認可が必要となる。一方、自由料金は制限がなく、自由に変更が可能となっている。電力自由化以降に電力会社を変更した家庭では「自由料金」に切り替わっているところが多いが、以前からの電力会社を使用し続けている場合には「規制料金」が適用されて続けている。規制料金は電気料金明細に「従量電灯」等と記載されていたりする。

 日本の大手電力各社は、石炭火力発電とガス火力発電の割合が大きくなっており、ウクライナ戦争以降の石炭及びガスの市場価格高騰が直撃。2022年夏頃までは、燃料調整費(燃調費)の引上げで対応してきたが、規制料金の上限に達し、そこから先は規制料金は値上げができてこなかった。その分、大手電力会社の営業赤字が膨らんでいった。そこで、2022年11月末に、東北電力、北陸電力、中国電力、四国電力、沖縄電力の5社が燃料調整費の上限引上げを申請。値上げ幅は、東北電力で32.9%、北陸電力で45.8%、中国電力で31.3%、四国電力で28.1%、沖縄電力で43.8%だった。

 続いて、2023年1月末に北海道電力と東京電力エナジーパートナーズも引上げを申請。値上げ幅は、北海道電力で32.2%、東京電力エナジーパートナーズで29.3%だった。

 規制料金は「特定小売供給約款」に記載されており、同約款の変更については、経済産業相が認可する制度となっている。そこで、経済産業省は、各社の申請受付直後から審査を開始。4月分から料金値上げを行うことが既定路線となり、審議が進められていた。しかし、2月24日の「物価・賃金・生活総合対策本部」の会合の中で、岸田文雄首相が、「4月という日程ありきでない」と発言し、西村康稔経済産業相に対し、厳格審査を指示した。

 これに消費者庁も加勢する形となった。経済産業相の認可手続きにおいては、消費者庁との協議も必要となっており、消費者庁は、経済産業省の料金制度専門会合の中で、1月27日、2月15日、3月15日と3度にわたり、「消費者の視点からの疑問点・意見」を提示。さらに消費者委員会の公共料金等専門調査会でも議論が場が用意された。消費者庁及び消費者委員会は、相次いで発覚した電力会社の不正事案が料金へ与える影響の検証やコスト効率化の徹底等に関する検討を経済産業省に求めた。さらに、河野太郎消費者担当相も3月13日の消費者委員会の公共料金等専門調査会に出席し、「カルテル、顧客情報の不正利用について、厳しい意見が出ている」「消費者庁としては、単に規制料金の問題にとどまることなく、フルパッケージで議論をし、結論を出さなければならない」と述べた。

 その後、経済産業省電力・ガス取引監視等委員会はまず、3月16日に経済産業相に対し、「直近の燃料価格、卸電力市場価格及び電力先物価格を踏まえて原価等を再算定することが適切である」と回答。燃料価格が直近減少してきたことから、燃料費の算定に用いる燃料価格及び燃料費調整制度における基準燃料価格の採録期間を、2022年11月から2023年1月の4ヶ月とし、卸電力市場価格についても、2023年2月における東京商品取引所の23年度各限月の電力先物価格の平均値を採用し、当該平均値を用いて、過去1年の各月のコマ別の実績価格を補正することとなった。これにより、値上げ幅が大幅に縮小された。

 4月27日には、ついに経済産業省電力・ガス取引監視等委員会で、査定方針案が決定。しかしそこから消費者庁との正式協議が始まった。消費者庁は電気料金アドバイザー会合を組成し、5月2日、5月8日、5月10日に会合を開催した。委員には、規制改革派の委員が多数入り、電力・ガス取引監視等委員会からのヒアリングが実施された。5月15日には消費者庁から資源エネルギー庁に対し協議回答書が提出され、消費者庁はもともと大手電力各社が高コスト体質であることを勘案した上で、更に不正事案の影響があったとの前提に立った厳しい査定を実現するよう電力・ガス取引監視等委員会に要請したが、現在の電力・ガス取引監視等委員会の査定の方法・体制では、その影響の定量的な評価・推定は困難であることが明らかとなったと言及。体制の強化を要請するとともに、検討段階から消費者庁が参画することも求めた。

 消費者庁との協議が終了したことを受け、5月16日の「物価問題に関する関係閣僚会議」では、経済産業省電力・ガス取引監視等委員会が4月27日にとりまとめた、査定方針案を了承。西村康稔経済産業相は直後の会見で、「不正事案が規制料金に間接的に与える影響については排除されないという前提のもと、高コストのまま認可されなることのないように最大限の経営効率化を求めた」と述べた。その後、大手電力7社は、査定結果に基き発表された金額で補正申請を再度、経済産業省に提出し、5月19日に経済産業相が認可。値上げ幅が最終決定した。

 大手電力7社は、今回の規制料金が値上げとなることに伴い、自由料金の値上げを行う方針も発表している。そのため、自由料金に切替え済みの家庭にも影響が出る。

【参照ページ】物価問題に関する関係閣僚会議
【参照ページ】特定小売供給約款の変更認可申請について(回答)(令和5年5月15日)

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