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【国際】G20エネルギー転換相会合、化石燃料段階廃止ロードマップ合意ならず。サウジ等抵抗

 G20エネルギー転換相は7月22日、インドのゴアで会合を開催。議長国インドが「成果文書及び議長総括」が発出した。化石燃料の段階的廃止ロードマップを定めた共同コミュニケの採択には至らなかった。共同コミュニケ採択には全会一致が必要。

 同文書では、エネルギー政策について、「経済成長と繁栄を追求し、誰一人取り残すことなく、全ての人が近代的なエネルギーにアクセスできるようにする」ことを目的とし、エネルギー転換、エネルギー安全保障、エネルギーアクセス、市場の安定性、エネルギーのアフォーダビリティを同時に進める必要があると確信。その上で、「国連持続可能な開発目標(SDGs)の達成や 、今世紀半ば頃までに温室効果ガスを排出しない/カーボンニュートラルの達成に貢献するために、様々なパスウェイを通じて、エネルギー転換を進めることが緊急に必要である」と認識した。

 エネルギー転換においては、イノベーションを重視し、太陽光発電、風力発電、揚水発電を含む水力発電、地熱発電、バイオエネルギー、ヒートポンプ、炭素回収・利用・貯留(CCUS)、原子力発電等の商業的展開のペースと規模を加速させることが重要と確認。続いて、電解槽、炭素回収・貯留を伴うバイオエネルギー(BECCS)、直接空気回収(DAC)、高効率燃料電池、ACC蓄電池、持続可能な先進バイオ燃料、小型モジュール式炉(SMR)等の新興・新技術の開発・展開を加速する必要性もあるとした。

 また「未来への燃料」の項で、「我々は、エネルギー転換に貢献し、エネルギー安全保障を強化し、GHG排出に対処するために、持続可能なバイオ燃料と、ゼロエミッション及び低排出技術から製造される水素、並びにアンモニア等のその誘導体を探索し、多様化し、採用し、推進することの重要性を認識する」とした。水素については、別途「G20水素ハイレベル自主原則」を採択し、国際的に調和されたアプローチによる認証の採択、世界貿易機関(WTO)に基づく貿易促進、R&D等での国際協力等を掲げた。

 再生可能エネルギー設備容量については、国際エネルギー機関(IEA)等が主張する「2030年までに世界全体で3倍」との文言が入った。但し、主語は「前述のエネルギー技術能力」というように曖昧にされており、文法的に「自然エネルギーを含むゼロエミッション技術や低排出技術」が主語とも読み取れる表現となった。再生可能エネルギーに限定することを嫌がった国があったことが伺える。報道によると、主要化石燃料生産国であるサウジアラビア、ロシア、中国、南アフリカ、インドネシアは、再生可能エネルギー3倍の目標に反対しているという。

【参考】【国際】IEA、COP28に向け途上国含め「2030年までに再エネ容量3倍」提唱。昨今の猛暑で(2023年7月22日)

 原子力発電については、「民生用原子力の利用を選択する国は」と前置きした上で、二酸化炭素排出量削減、SDGs7のゴール達成、エネルギー安全保障に貢献するクリーンエネルギーの提供、安全性と強靭なインフラの確保、ベースロード電源と系統柔軟性への貢献、産業用暖房や水素製造といった非電化用途への貢献に資するとした。

 また、エネルギー転換だけでなく、省エネも重視。2015年のG7エネルギー相ハンブルク会合で用いられた「省エネは第一の燃料」という表現を今回も踏襲。超高効率電化製品の採用、冷暖房需要の最適化、商業的に利用可能なエネルギーの拡大等、様々なエネルギー効率・省エネ政策・措置の実施を加速させることを目指すとした。IEAは6月、第8回エネルギー効率世界会議を開催し、年間の省エネ改善率を、現行の2.2%から、2030年までに4%にまで引き上げること盛り込んだ大臣声明「ベルサイユ声明」を採択しているが、今回のG20エネルギー転換相会合では、数字に関する言及はなかった。

 今回の会合では、11月に開催される気候変動枠組条約第28回ドバイ締約国会合に先駆け、化石燃料の段階的廃止ロードマップを議論する意味合いもあったが、合意には至らなかった。石炭に関する言及もできなかった。

 今回の大臣会合の前には、7月19日と20日に実務担当者によるエネルギー転換作業部会(ETWG)が開催。さらに、並行して、7月19日から22日まで、第13回クリーンエネルギー相会合(CEM)/第8回ミッション・イノベーション(MI)会合も開催された。

 報道によると、EUの主要経済国と島嶼国は、G20に対し、化石燃料の段階的削減を加速させるよう求めたが、ロシアやサウジアラビアは早急な脱化石燃料に抵抗。他の新興国も、先進国が多くの削減負担をするよう求めた模様。

 議長国インドは、共同コミュニケ案の中で、29のパラグラフのうち22のパラグラフで完全な合意を得たことを明らかにしている。しかし、会合の中で、議論の膠着状態について説明。化石燃料の使用については議論に丸一日を費やしたが、一部の加盟国は「各国の事情に合わせ、化石燃料の段階的な削減」を求めることの重要性を強調した一方、「他の人たちは軽減技術や除去技術がそのような懸念に対処するという異なる見解を持っていた」と述べた。

 他にも、2020年から2025年にかけて発展途上国の気候変動対策に年間1,000億ドルを共同で動員するという目標を達成するよう求めるパラグラフや、ウクライナ戦争に関する記述も合意では至らなかった。

【参照ページ】G20 Energy Ministers Adopt Ambitious and Forward-looking Outcome Document and Chair’s Summary
【参照ページ】G20 Energy Transitions Ministers’ Meeting Outcome Document and Chair’s Summary

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 G20エネルギー転換相は7月22日、インドのゴアで会合を開催。議長国インドが「成果文書及び議長総括」が発出した。化石燃料の段階的廃止ロードマップを定めた共同コミュニケの採択には至らなかった。共同コミュニケ採択には全会一致が必要。

 同文書では、エネルギー政策について、

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 G20エネルギー転換相は7月22日、インドのゴアで会合を開催。議長国インドが「成果文書及び議長総括」が発出した。化石燃料の段階的廃止ロードマップを定めた共同コミュニケの採択には至らなかった。共同コミュニケ採択には全会一致が必要。

 同文書では、エネルギー政策について、

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 G20エネルギー転換相は7月22日、インドのゴアで会合を開催。議長国インドが「成果文書及び議長総括」が発出した。化石燃料の段階的廃止ロードマップを定めた共同コミュニケの採択には至らなかった。共同コミュニケ採択には全会一致が必要。

 同文書では、エネルギー政策について、「経済成長と繁栄を追求し、誰一人取り残すことなく、全ての人が近代的なエネルギーにアクセスできるようにする」ことを目的とし、エネルギー転換、エネルギー安全保障、エネルギーアクセス、市場の安定性、エネルギーのアフォーダビリティを同時に進める必要があると確信。その上で、「国連持続可能な開発目標(SDGs)の達成や 、今世紀半ば頃までに温室効果ガスを排出しない/カーボンニュートラルの達成に貢献するために、様々なパスウェイを通じて、エネルギー転換を進めることが緊急に必要である」と認識した。

 エネルギー転換においては、イノベーションを重視し、太陽光発電、風力発電、揚水発電を含む水力発電、地熱発電、バイオエネルギー、ヒートポンプ、炭素回収・利用・貯留(CCUS)、原子力発電等の商業的展開のペースと規模を加速させることが重要と確認。続いて、電解槽、炭素回収・貯留を伴うバイオエネルギー(BECCS)、直接空気回収(DAC)、高効率燃料電池、ACC蓄電池、持続可能な先進バイオ燃料、小型モジュール式炉(SMR)等の新興・新技術の開発・展開を加速する必要性もあるとした。

 また「未来への燃料」の項で、「我々は、エネルギー転換に貢献し、エネルギー安全保障を強化し、GHG排出に対処するために、持続可能なバイオ燃料と、ゼロエミッション及び低排出技術から製造される水素、並びにアンモニア等のその誘導体を探索し、多様化し、採用し、推進することの重要性を認識する」とした。水素については、別途「G20水素ハイレベル自主原則」を採択し、国際的に調和されたアプローチによる認証の採択、世界貿易機関(WTO)に基づく貿易促進、R&D等での国際協力等を掲げた。

 再生可能エネルギー設備容量については、国際エネルギー機関(IEA)等が主張する「2030年までに世界全体で3倍」との文言が入った。但し、主語は「前述のエネルギー技術能力」というように曖昧にされており、文法的に「自然エネルギーを含むゼロエミッション技術や低排出技術」が主語とも読み取れる表現となった。再生可能エネルギーに限定することを嫌がった国があったことが伺える。報道によると、主要化石燃料生産国であるサウジアラビア、ロシア、中国、南アフリカ、インドネシアは、再生可能エネルギー3倍の目標に反対しているという。

【参考】【国際】IEA、COP28に向け途上国含め「2030年までに再エネ容量3倍」提唱。昨今の猛暑で(2023年7月22日)

 原子力発電については、「民生用原子力の利用を選択する国は」と前置きした上で、二酸化炭素排出量削減、SDGs7のゴール達成、エネルギー安全保障に貢献するクリーンエネルギーの提供、安全性と強靭なインフラの確保、ベースロード電源と系統柔軟性への貢献、産業用暖房や水素製造といった非電化用途への貢献に資するとした。

 また、エネルギー転換だけでなく、省エネも重視。2015年のG7エネルギー相ハンブルク会合で用いられた「省エネは第一の燃料」という表現を今回も踏襲。超高効率電化製品の採用、冷暖房需要の最適化、商業的に利用可能なエネルギーの拡大等、様々なエネルギー効率・省エネ政策・措置の実施を加速させることを目指すとした。IEAは6月、第8回エネルギー効率世界会議を開催し、年間の省エネ改善率を、現行の2.2%から、2030年までに4%にまで引き上げること盛り込んだ大臣声明「ベルサイユ声明」を採択しているが、今回のG20エネルギー転換相会合では、数字に関する言及はなかった。

 今回の会合では、11月に開催される気候変動枠組条約第28回ドバイ締約国会合に先駆け、化石燃料の段階的廃止ロードマップを議論する意味合いもあったが、合意には至らなかった。石炭に関する言及もできなかった。

 今回の大臣会合の前には、7月19日と20日に実務担当者によるエネルギー転換作業部会(ETWG)が開催。さらに、並行して、7月19日から22日まで、第13回クリーンエネルギー相会合(CEM)/第8回ミッション・イノベーション(MI)会合も開催された。

 報道によると、EUの主要経済国と島嶼国は、G20に対し、化石燃料の段階的削減を加速させるよう求めたが、ロシアやサウジアラビアは早急な脱化石燃料に抵抗。他の新興国も、先進国が多くの削減負担をするよう求めた模様。

 議長国インドは、共同コミュニケ案の中で、29のパラグラフのうち22のパラグラフで完全な合意を得たことを明らかにしている。しかし、会合の中で、議論の膠着状態について説明。化石燃料の使用については議論に丸一日を費やしたが、一部の加盟国は「各国の事情に合わせ、化石燃料の段階的な削減」を求めることの重要性を強調した一方、「他の人たちは軽減技術や除去技術がそのような懸念に対処するという異なる見解を持っていた」と述べた。

 他にも、2020年から2025年にかけて発展途上国の気候変動対策に年間1,000億ドルを共同で動員するという目標を達成するよう求めるパラグラフや、ウクライナ戦争に関する記述も合意では至らなかった。

【参照ページ】G20 Energy Ministers Adopt Ambitious and Forward-looking Outcome Document and Chair’s Summary
【参照ページ】G20 Energy Transitions Ministers’ Meeting Outcome Document and Chair’s Summary

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