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【EU】EU理事会と欧州議会、亡命・移民の新ルールで政治的合意。連帯メカニズム導入へ

 EU上院の役割を担うEU加盟国閣僚級のEU理事会とEU下院の役割を担う欧州議会は12月20日、移民及び亡命に関する5つのEU法規制改正案で政治的合意に達した。EUでの移民政策は、受入国での社会的反発も強く、国内政治の不安定化にもつながりかねないEU政策の生命線ともいえるテーマ。実際に移民政策に端を発し、英国はEU離脱を決断しており、今回の合意に多くの期待が寄せられている。今後、双方での立法手続に入る。

【参考】【EU】欧州委、2027年までの移民・難民政策発表。加盟国の受入れ義務強化とEU支援の拡充(2020年12月6日)

 今回合意したのは、亡命手続規則、亡命・移民管理規則、非正規移民に関する規則、EURODAC規則、移民危機対処フレームワークの5つ。まず、亡命手続規則(APR)では、亡命庇護申請者の受入手続をEU単位で共通化。これにより手続の迅速化と審査国の負担軽減を図る。亡命申請者は、域外国境やトランジットゾーン付近、あるいは国の領域内の他の指定された場所に居住することを義務化。申請者には一定のルールに服することも課される。

 申請手続ルールは、亡命庇護申請者が、不法な国境横断に関連して逮捕された場合や、海上での捜索救助活動の後に下船した場合、外部国境横断地点で申請を行った場合に適用される。同伴者のいない未成年者は、安全保障上の脅威とならない限り、国境手続の対象から除外される。優先順位制度も設けられ、未成年の申請者とその家族の申請を優先的に審査することでも合意。各EU加盟国は、国境手続に関する基本的権利の尊重を監視する機構を設置することでも合意した。

 同規則では、EU全体で収容可能な亡命者を30,000人と設定。3年間の統計に基づき、各加盟国での想定収容能力が設定される。また、加盟国が国境手続で審査しなければならない庇護申請数の年間上限は、各加盟国の収容能力の4倍に設定される。「安全な第三国」の概念も確立し、申請者の送還予定先国が、生命と自由の保証等が確保されると場合には、亡命申請を却下できる。

 亡命・移民管理規則(AMMR)では、現行のダブリン規則に替わる制度として導入される。ダブリン規則では、庇護申請者を居住国とは別のEU加盟国に移送することができるルールが設けられていたが、当該ルールを厳格化。庇護申請者は最初に入国または合法的に滞在した加盟国で申請することを義務付ける。但し、申請者がEU加盟国の教育機関の卒業証書(6年以内のもの)を所持している場合、当該加盟国が国際保護申請の審査に責任を持つこととした。さらに、申請者と家族との再会を目的とした場合の基準は、国際的庇護の享受者である家族に加え、EUの長期滞在許可に基づいてその国に居住している者、市民権を取得した者、生まれたばかりの子供にも適用されるようなる。

 ルール厳格化に伴い、亡命・移民に責任と持つ加盟国の期間も明確化される。最初に入国した加盟国が庇護申請に対して責任を負う期間は、現行の12カ月から20カ月に延長。加盟国が国境手続で申請者を拒否した場合、その人に対する再申請受理の責任は15カ月後に終了する。最初の入国が海上での捜索救助活動後に行われた場合、責任期間は12カ月。ある加盟国が、その人の申請受理責任を有している他の加盟国に移送する際に、当該申請者が移送等を恐れて逃亡した場合、3年後に申請受付責任が移送先に加盟国に自動的に移る。このようにすることで、亡命・移民者の二次移動を抑制する。

 同規則では、亡命・移民管理規則を十分に執行できるようにするため、各加盟国に対し、国家戦略の策定を義務化。欧州委員会も、5年間の欧州亡命・移民管理戦略の策定を課される。

 また同規則では、EU加盟国で負担を分かち合う「連帯メカニズム」も導入する。具体的には、負担が集中する国を支援するため、他の加盟国に支援を義務付けるというもの。支援の手法には複数の選択肢を設ける。具体的な選択肢は、庇護申請者や国際的保護の享受者の移送、第三国を含む財政的支援、人員配置やキャパシティビルディングに焦点を当てた措置等がある。移送に関しては、年間受入の最低人数を3万人に設定。資金拠出の最低額は6億ユーロに設定される。EU連帯コーディネーターが、連帯メカニズムの実施を調整する。

 非正規移民に関しては、EU共通の手続を設ける。陸路、海路、空路による無許可の対外国境通過に関連して逮捕された者、海上での捜索救助活動後に下船した者、対外国境通過地点または通過地帯で国際保護を申請したが入国条件を満たしていない者に対して適用され、7日以内に身分証明書、健康状態、セキュリティチェックを行い、指紋採取を実施しEURODACデータベースに登録される。また、EU域内で逮捕された場合にも同様に適用され、3日以内に同様に登録が義務付けられる。

 EURODAC規則の改正では、顔画像等の生体認証データを登録できるよう機能を拡張。亡命申請者だけでなく、不法移民の登録も可能となり、これによりデータベースで監視できる人の対象が大幅に拡大する。一時的保護者もEURODACに登録するルールに変更し、これによりEU単位での管理が用意になる(但し、現行のウクライナ難民には適用しない)。生体データの取得義務対象年齢は、現行の14歳以上から6歳以上に拡大される。亡命や不法移民が再定住スキームで定住した場合にも、EURODAC上で管理する。安全保障上の脅威等に関するデータについてもEURODACで管理する。EURODACへのデータ保存期間は10年に設定。但し、匿名化統計等のデータに関しては保存期間を設けない。

 5つ目の規則は、移民危機発生時の緊急措置に関する内容。EU理事会で承認されれば、上記の規定の逸脱が合法化される。亡命庇護申請受付も7日ではなく最大4週間にまで延長できるようになる。審査基準の引下げも可能になる。また、他の加盟国に対し、緊急的な連帯メカニズムの発動を要請できる。

【参照ページ】The Council and the European Parliament reach breakthrough in reform of EU asylum and migration system

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 EU上院の役割を担うEU加盟国閣僚級のEU理事会とEU下院の役割を担う欧州議会は12月20日、移民及び亡命に関する5つのEU法規制改正案で政治的合意に達した。EUでの移民政策は、受入国での社会的反発も強く、国内政治の不安定化にもつながりかねないEU政策の生命線ともいえるテーマ。実際に移民政策に端を発し、英国はEU離脱を決断しており、今回の合意に多くの期待が寄せられている。今後、双方での立法手続に入る。

【参考】【EU】欧州委、2027年までの移民・難民政策発表。加盟国の受入れ義務強化とEU支援の拡充(2020年12月6日)

 今回合意したのは、

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 EU上院の役割を担うEU加盟国閣僚級のEU理事会とEU下院の役割を担う欧州議会は12月20日、移民及び亡命に関する5つのEU法規制改正案で政治的合意に達した。EUでの移民政策は、受入国での社会的反発も強く、国内政治の不安定化にもつながりかねないEU政策の生命線ともいえるテーマ。実際に移民政策に端を発し、英国はEU離脱を決断しており、今回の合意に多くの期待が寄せられている。今後、双方での立法手続に入る。

【参考】【EU】欧州委、2027年までの移民・難民政策発表。加盟国の受入れ義務強化とEU支援の拡充(2020年12月6日)

 今回合意したのは、

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 EU上院の役割を担うEU加盟国閣僚級のEU理事会とEU下院の役割を担う欧州議会は12月20日、移民及び亡命に関する5つのEU法規制改正案で政治的合意に達した。EUでの移民政策は、受入国での社会的反発も強く、国内政治の不安定化にもつながりかねないEU政策の生命線ともいえるテーマ。実際に移民政策に端を発し、英国はEU離脱を決断しており、今回の合意に多くの期待が寄せられている。今後、双方での立法手続に入る。

【参考】【EU】欧州委、2027年までの移民・難民政策発表。加盟国の受入れ義務強化とEU支援の拡充(2020年12月6日)

 今回合意したのは、亡命手続規則、亡命・移民管理規則、非正規移民に関する規則、EURODAC規則、移民危機対処フレームワークの5つ。まず、亡命手続規則(APR)では、亡命庇護申請者の受入手続をEU単位で共通化。これにより手続の迅速化と審査国の負担軽減を図る。亡命申請者は、域外国境やトランジットゾーン付近、あるいは国の領域内の他の指定された場所に居住することを義務化。申請者には一定のルールに服することも課される。

 申請手続ルールは、亡命庇護申請者が、不法な国境横断に関連して逮捕された場合や、海上での捜索救助活動の後に下船した場合、外部国境横断地点で申請を行った場合に適用される。同伴者のいない未成年者は、安全保障上の脅威とならない限り、国境手続の対象から除外される。優先順位制度も設けられ、未成年の申請者とその家族の申請を優先的に審査することでも合意。各EU加盟国は、国境手続に関する基本的権利の尊重を監視する機構を設置することでも合意した。

 同規則では、EU全体で収容可能な亡命者を30,000人と設定。3年間の統計に基づき、各加盟国での想定収容能力が設定される。また、加盟国が国境手続で審査しなければならない庇護申請数の年間上限は、各加盟国の収容能力の4倍に設定される。「安全な第三国」の概念も確立し、申請者の送還予定先国が、生命と自由の保証等が確保されると場合には、亡命申請を却下できる。

 亡命・移民管理規則(AMMR)では、現行のダブリン規則に替わる制度として導入される。ダブリン規則では、庇護申請者を居住国とは別のEU加盟国に移送することができるルールが設けられていたが、当該ルールを厳格化。庇護申請者は最初に入国または合法的に滞在した加盟国で申請することを義務付ける。但し、申請者がEU加盟国の教育機関の卒業証書(6年以内のもの)を所持している場合、当該加盟国が国際保護申請の審査に責任を持つこととした。さらに、申請者と家族との再会を目的とした場合の基準は、国際的庇護の享受者である家族に加え、EUの長期滞在許可に基づいてその国に居住している者、市民権を取得した者、生まれたばかりの子供にも適用されるようなる。

 ルール厳格化に伴い、亡命・移民に責任と持つ加盟国の期間も明確化される。最初に入国した加盟国が庇護申請に対して責任を負う期間は、現行の12カ月から20カ月に延長。加盟国が国境手続で申請者を拒否した場合、その人に対する再申請受理の責任は15カ月後に終了する。最初の入国が海上での捜索救助活動後に行われた場合、責任期間は12カ月。ある加盟国が、その人の申請受理責任を有している他の加盟国に移送する際に、当該申請者が移送等を恐れて逃亡した場合、3年後に申請受付責任が移送先に加盟国に自動的に移る。このようにすることで、亡命・移民者の二次移動を抑制する。

 同規則では、亡命・移民管理規則を十分に執行できるようにするため、各加盟国に対し、国家戦略の策定を義務化。欧州委員会も、5年間の欧州亡命・移民管理戦略の策定を課される。

 また同規則では、EU加盟国で負担を分かち合う「連帯メカニズム」も導入する。具体的には、負担が集中する国を支援するため、他の加盟国に支援を義務付けるというもの。支援の手法には複数の選択肢を設ける。具体的な選択肢は、庇護申請者や国際的保護の享受者の移送、第三国を含む財政的支援、人員配置やキャパシティビルディングに焦点を当てた措置等がある。移送に関しては、年間受入の最低人数を3万人に設定。資金拠出の最低額は6億ユーロに設定される。EU連帯コーディネーターが、連帯メカニズムの実施を調整する。

 非正規移民に関しては、EU共通の手続を設ける。陸路、海路、空路による無許可の対外国境通過に関連して逮捕された者、海上での捜索救助活動後に下船した者、対外国境通過地点または通過地帯で国際保護を申請したが入国条件を満たしていない者に対して適用され、7日以内に身分証明書、健康状態、セキュリティチェックを行い、指紋採取を実施しEURODACデータベースに登録される。また、EU域内で逮捕された場合にも同様に適用され、3日以内に同様に登録が義務付けられる。

 EURODAC規則の改正では、顔画像等の生体認証データを登録できるよう機能を拡張。亡命申請者だけでなく、不法移民の登録も可能となり、これによりデータベースで監視できる人の対象が大幅に拡大する。一時的保護者もEURODACに登録するルールに変更し、これによりEU単位での管理が用意になる(但し、現行のウクライナ難民には適用しない)。生体データの取得義務対象年齢は、現行の14歳以上から6歳以上に拡大される。亡命や不法移民が再定住スキームで定住した場合にも、EURODAC上で管理する。安全保障上の脅威等に関するデータについてもEURODACで管理する。EURODACへのデータ保存期間は10年に設定。但し、匿名化統計等のデータに関しては保存期間を設けない。

 5つ目の規則は、移民危機発生時の緊急措置に関する内容。EU理事会で承認されれば、上記の規定の逸脱が合法化される。亡命庇護申請受付も7日ではなく最大4週間にまで延長できるようになる。審査基準の引下げも可能になる。また、他の加盟国に対し、緊急的な連帯メカニズムの発動を要請できる。

【参照ページ】The Council and the European Parliament reach breakthrough in reform of EU asylum and migration system

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