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【EU】欧州委、農家の行政負担減で政策パッケージ提案。小規模農家に配慮。農業環境改革立て直し

 欧州委員会は2月22日、EU理事会議長国ベルギーに対し、農家の行政負担減に関する政策パッケージを提案した。短期及び中長期的な政策オプションを提示した。2月26日のEU農業閣僚理事会で議論する。

 EUでは、インフレ等により農家の経営が悪化しており、持続可能な植物保護剤(PPP)の使用に関する規則(SUR)の制定が一旦頓挫している。欧州委員会は、政策議論の立て直しを図っており、今回の行政負担減に関する議論もその一環。あらためて農家に課せられている不必要な負担を軽減し、改革をもう一度俎上に載せようとしている。

【参考】【EU】欧州委、持続可能な植物保護剤使用規則案を撤回。対話重視アプローチに仕切り直し(2024年2月8日)

 今回発表の施策は、EU共通農業政策(CAP)上の「適正農業・環境条件(GAEC)」制度の簡素化が柱となっている。まず、GAEC1で定めている永続的な草地面積の安定的な維持については、元畜産農家に配慮した軽減措置を打つ。目下、畜産農家は、食肉・酪農セクターの市場混乱のために耕作作物生産への転換を余儀なくされており、広大な草地を持つ元畜産農家は、現行ルールに従うと、耕地を恒久的な草地に転換するよう求められる可能性がある。その結果、当該畜産農家の収入減につながる可能性がある。そこで、欧州委員会は、3月中旬までにこれらの規則を改正し、市場の方向転換と家畜の減少による構造的変化を考慮した上で、畜産農家がペナルティーを受けることがないようにするとともに、恒久的な草地に転換しなければならない面積を減らし、負担の軽減を図ることを提案した。

 さらにGAEC6に基づき、カバークロップ制度を活用する際に、影響を受けやすい時期にどのような農法が可能かを検討していく。すでに一定の農地を休耕地にすることを課しているGEAC8については、キャッチクロップを休耕地として認めるEU規則を改正している。

【参考】【EU】欧州委、共通農業政策で農家のキャッチクロップ栽培是認へ。休耕地等規則改正(2024年2月15日)

 2つ目は、各国当局による農場査察の回数を最大50%削減することを提案。人工衛星「コペルニクス」の衛星画像を自動分析したシステムを導入し、現地査察の必要性を減らす。これにより、査察に農家が立ち会う回数を減らし、農家の負担を軽減する。

 3つ目は、農家がコントロールできない例外的で予見不可能な事態(深刻な旱魃や洪水等)により、CAPの要求事項全てを満たすことができない場合でも、農家に罰則が課されないことを明確化する。具体的な措置は、今後EU加盟国と協議を進める。

 4つ目は、10ha未満の小規模農家を、GAECのルール適用を一部除外することを提案。10ha未満の農家は、農家の65%を占めるが、面積では9.6%しかない。そのため、対象となる農家を絞りつつ、全体としては環境基準の強化を遂行する考え。今回の案では、休耕地に関するGAEC8、輪作に関するGAEC7、土壌被覆に関するGAEC6の一部除外を検討していく考えを示した。

 欧州委員会は3月に農家を直接対象としたオンライン調査を開始。農家が懸念している主な原因を特定し、CAP規則やEU域内の食品と農業に関するその他のEU規則、及び国レベルでの適用に起因する行政上の負担や複雑さの原因を特定する。調査結果を踏まえ、2024年秋に詳細な分析結果を発表する考え。

 同時に欧州委員会は同日、自由貿易協定がEU農家に与える影響を分析した報告書も発表。オーストラリア、チリ、インド、インドネシア、マレーシア、メルコスール(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)、メキシコ、ニュージーランド、フィリピン、タイと自由貿易協定の影響を分析した。その結果、2032年にはEUからの農作物輸出額が31億ユーロから44ユーロ増加すると推定されると示した。

 内訳は、乳製品が7億8,000万ユーロ増、ワイン及びその他の飲料が6億5,400万ユーロ増、農産物加工品が13億ユーロ増。また輸入についても同額の31億ユーロから41億ユーロ増加するとの予想が得られた。これによりEU全体の貿易収支に与える影響はわずかにプラスとした。輸入が増える品目は、牛肉、羊肉、鶏肉、コメ、砂糖等。

 同調査では、英国が最近オーストラリア、ニュージーランド及び環太平洋パートナーシップ包括的及び先進的協定(CPTPP)加盟国と締結した貿易協定が、EUの農業に与える影響についても初めて考察した。調査結果では、これらの貿易相手国は、英国市場でEU生産者からある程度のシェアを奪うことになると見立てた。但し、その結果生じる影響は限定的で、EUは依然として英国の主要供給国のひとつであり続けると予想した。但し、牛肉、ワイン、その他の飲料やたばこ、加工食品、乳製品、羊肉等の分野では、何らかの影響が予想されるとした。

【参照ページ】The European Commission presents options for simplification to reduce the burden for EU farmers
【参照ページ】Study confirms that EU trade opens new commercial opportunities for EU agri-food exporters

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 欧州委員会は2月22日、EU理事会議長国ベルギーに対し、農家の行政負担減に関する政策パッケージを提案した。短期及び中長期的な政策オプションを提示した。2月26日のEU農業閣僚理事会で議論する。

 EUでは、

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 欧州委員会は2月22日、EU理事会議長国ベルギーに対し、農家の行政負担減に関する政策パッケージを提案した。短期及び中長期的な政策オプションを提示した。2月26日のEU農業閣僚理事会で議論する。

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 欧州委員会は2月22日、EU理事会議長国ベルギーに対し、農家の行政負担減に関する政策パッケージを提案した。短期及び中長期的な政策オプションを提示した。2月26日のEU農業閣僚理事会で議論する。

 EUでは、インフレ等により農家の経営が悪化しており、持続可能な植物保護剤(PPP)の使用に関する規則(SUR)の制定が一旦頓挫している。欧州委員会は、政策議論の立て直しを図っており、今回の行政負担減に関する議論もその一環。あらためて農家に課せられている不必要な負担を軽減し、改革をもう一度俎上に載せようとしている。

【参考】【EU】欧州委、持続可能な植物保護剤使用規則案を撤回。対話重視アプローチに仕切り直し(2024年2月8日)

 今回発表の施策は、EU共通農業政策(CAP)上の「適正農業・環境条件(GAEC)」制度の簡素化が柱となっている。まず、GAEC1で定めている永続的な草地面積の安定的な維持については、元畜産農家に配慮した軽減措置を打つ。目下、畜産農家は、食肉・酪農セクターの市場混乱のために耕作作物生産への転換を余儀なくされており、広大な草地を持つ元畜産農家は、現行ルールに従うと、耕地を恒久的な草地に転換するよう求められる可能性がある。その結果、当該畜産農家の収入減につながる可能性がある。そこで、欧州委員会は、3月中旬までにこれらの規則を改正し、市場の方向転換と家畜の減少による構造的変化を考慮した上で、畜産農家がペナルティーを受けることがないようにするとともに、恒久的な草地に転換しなければならない面積を減らし、負担の軽減を図ることを提案した。

 さらにGAEC6に基づき、カバークロップ制度を活用する際に、影響を受けやすい時期にどのような農法が可能かを検討していく。すでに一定の農地を休耕地にすることを課しているGEAC8については、キャッチクロップを休耕地として認めるEU規則を改正している。

【参考】【EU】欧州委、共通農業政策で農家のキャッチクロップ栽培是認へ。休耕地等規則改正(2024年2月15日)

 2つ目は、各国当局による農場査察の回数を最大50%削減することを提案。人工衛星「コペルニクス」の衛星画像を自動分析したシステムを導入し、現地査察の必要性を減らす。これにより、査察に農家が立ち会う回数を減らし、農家の負担を軽減する。

 3つ目は、農家がコントロールできない例外的で予見不可能な事態(深刻な旱魃や洪水等)により、CAPの要求事項全てを満たすことができない場合でも、農家に罰則が課されないことを明確化する。具体的な措置は、今後EU加盟国と協議を進める。

 4つ目は、10ha未満の小規模農家を、GAECのルール適用を一部除外することを提案。10ha未満の農家は、農家の65%を占めるが、面積では9.6%しかない。そのため、対象となる農家を絞りつつ、全体としては環境基準の強化を遂行する考え。今回の案では、休耕地に関するGAEC8、輪作に関するGAEC7、土壌被覆に関するGAEC6の一部除外を検討していく考えを示した。

 欧州委員会は3月に農家を直接対象としたオンライン調査を開始。農家が懸念している主な原因を特定し、CAP規則やEU域内の食品と農業に関するその他のEU規則、及び国レベルでの適用に起因する行政上の負担や複雑さの原因を特定する。調査結果を踏まえ、2024年秋に詳細な分析結果を発表する考え。

 同時に欧州委員会は同日、自由貿易協定がEU農家に与える影響を分析した報告書も発表。オーストラリア、チリ、インド、インドネシア、マレーシア、メルコスール(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)、メキシコ、ニュージーランド、フィリピン、タイと自由貿易協定の影響を分析した。その結果、2032年にはEUからの農作物輸出額が31億ユーロから44ユーロ増加すると推定されると示した。

 内訳は、乳製品が7億8,000万ユーロ増、ワイン及びその他の飲料が6億5,400万ユーロ増、農産物加工品が13億ユーロ増。また輸入についても同額の31億ユーロから41億ユーロ増加するとの予想が得られた。これによりEU全体の貿易収支に与える影響はわずかにプラスとした。輸入が増える品目は、牛肉、羊肉、鶏肉、コメ、砂糖等。

 同調査では、英国が最近オーストラリア、ニュージーランド及び環太平洋パートナーシップ包括的及び先進的協定(CPTPP)加盟国と締結した貿易協定が、EUの農業に与える影響についても初めて考察した。調査結果では、これらの貿易相手国は、英国市場でEU生産者からある程度のシェアを奪うことになると見立てた。但し、その結果生じる影響は限定的で、EUは依然として英国の主要供給国のひとつであり続けると予想した。但し、牛肉、ワイン、その他の飲料やたばこ、加工食品、乳製品、羊肉等の分野では、何らかの影響が予想されるとした。

【参照ページ】The European Commission presents options for simplification to reduce the burden for EU farmers
【参照ページ】Study confirms that EU trade opens new commercial opportunities for EU agri-food exporters

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