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【EU】環境・人権デューデリ指令の立法審議が大詰め。欧州議会は欧州委より厳しい修正案採択

 EUでは、欧州委員会、欧州議会、EU理事会の間で、環境・人権デューデリジェンス指令(CSDDD)の制定に向けた議論が大詰めを迎えている。同指令は2023年内の成立を目指しているが、2024年第1四半期までもつれ込む可能性も出てきた。

 欧州委員会は2022年2月、環境・人権デューデリジェンス指令(CSDDD)案をEU理事会と欧州議会に提出。EUでの立法過程ではEU理事会で先に可決し、欧州議会に送られることが通例のため、EU理事会で複数にわたり実務家レベルでの協議が続けられている。一方、欧州議会も、EU理事会での結論を待たずに、審議を開始し、6月1日に修正案を可決。これにより、欧州議会案についても欧州委員会とEU理事会での協議が始まった。また、別途、パーム油、牛(牛肉・牛皮革等)、木材(紙パルプ含む)、コーヒー、カカオ、ゴム、大豆の7品目に関しては、森林破壊・森林劣化規則が先行して成立している。

【参考】【EU】欧州委員会、環境・人権デューデリジェンス指令案発表。非EU大企業も対象。立法審議へ(2022年2月25日)
【参考】【EU】森林破壊・森林劣化規則が成立。7品目にデューデリ義務。猶予期間は18ヶ月。違反時は巨額罰金も(2023年5月18日)

 CSDDDでは、EU域内で活動する大企業を対象に、従業員250人以上、グローバル売上4,000万ユーロ以上の企業に対し、段階的に環境・人権デューデリジェンスの実施を義務化する内容となっている。人権デューデリジェンスの実施範囲は、企業グループ全体でのバリューチェーン全体が対象となっており、デューデリジェンス実施に関する公開も義務化。また、救済メカニズムの設置も義務化。違反企業には罰金も科す。

 さらに、取締役の義務として、デューデリジェンスを導入、モニタリングし、企業戦略に統合すること責務も課しており、取締役の変動報酬に、長期的利益やサステナビリティに関する指標を採用することも推奨されている。

 これに対し、欧州議会が6月1日に可決した修正案では、さらに要件が厳しくなっている。まず、同法案の対象について、欧州委員会の原案では、従業員500人以上かつグローバル売上1.5億ユーロ以上のEU域内登記企業がまず義務対象となり、2年後に従業員250人以上かつグローバル売上4,000万ユーロ以上の企業を対象とする内容だった。

 一方、欧州議会修正案では、二段階適用ではなく、従業員500人以上かつグローバル売上1.5億ユーロ以上のEU企業、もしくはグループ全体で従業員250人以上、グローバル売上4,000万ユーロ以上の企業に一斉適用する手法を採用。従業員数の計算では非正規社員も含むことも明記した。

 EU域外の企業への義務適用に関しても、欧州委員会原案では、EU域内売上が1.5億ユーロ以上、もしくは重要セクターでのグローバル売上が4,000万ユーロ以上の第三国企業を対象にする内容だった。これに対し、欧州議会修正案では、EU域内売上が4,000万ユーロ以上の第三国企業、もしくはグループ全体で従業員500人以上、かつグローバル売上が1.5億ユーロ以上、かつEU域内売上が4,000万ユーロ以上の第三国企業グループを対象にする内容となっている。

 さらに、欧州委員会原案では、金融セクターは、同義務適用の重要セクターではないと明記されていたが、欧州議会修正案では、金融セクターも重要セクターと明記した。修正案側で整理すると、金融セクターも投融資先、場合によっては保険引受元の環境・人権デューデリジェンスの実施が義務付けられることになる。

 加えて、欧州議会修正案では、デューデリジェンスに、サプライチェーン上の従業員の生活賃金、薬剤耐性(AMR)を含むワンヘルス・アプローチ、腐敗防止の3つも加えるよう規定している。附属書では、衣食住へのアクセスについても言及。欧州委員会原案でも掲げられていた、職場での水と衛生(WASH)へのアクセスは、欧州議会修正案でもそのまま残った。

 EU理事会は、金融セクターをCSDDDの重要セクターから外し、各加盟国での判断としたい考え。また取締役の善管注意義務に環境・人権リスクを加えることについても慎重な姿勢を採っている。

【参照ページ】Texts tabled : A9-0184/2023

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 EUでは、欧州委員会、欧州議会、EU理事会の間で、環境・人権デューデリジェンス指令(CSDDD)の制定に向けた議論が大詰めを迎えている。同指令は2023年内の成立を目指しているが、2024年第1四半期までもつれ込む可能性も出てきた。

 欧州委員会は2022年2月、

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 EUでは、欧州委員会、欧州議会、EU理事会の間で、環境・人権デューデリジェンス指令(CSDDD)の制定に向けた議論が大詰めを迎えている。同指令は2023年内の成立を目指しているが、2024年第1四半期までもつれ込む可能性も出てきた。

 欧州委員会は2022年2月、

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 EUでは、欧州委員会、欧州議会、EU理事会の間で、環境・人権デューデリジェンス指令(CSDDD)の制定に向けた議論が大詰めを迎えている。同指令は2023年内の成立を目指しているが、2024年第1四半期までもつれ込む可能性も出てきた。

 欧州委員会は2022年2月、環境・人権デューデリジェンス指令(CSDDD)案をEU理事会と欧州議会に提出。EUでの立法過程ではEU理事会で先に可決し、欧州議会に送られることが通例のため、EU理事会で複数にわたり実務家レベルでの協議が続けられている。一方、欧州議会も、EU理事会での結論を待たずに、審議を開始し、6月1日に修正案を可決。これにより、欧州議会案についても欧州委員会とEU理事会での協議が始まった。また、別途、パーム油、牛(牛肉・牛皮革等)、木材(紙パルプ含む)、コーヒー、カカオ、ゴム、大豆の7品目に関しては、森林破壊・森林劣化規則が先行して成立している。

【参考】【EU】欧州委員会、環境・人権デューデリジェンス指令案発表。非EU大企業も対象。立法審議へ(2022年2月25日)
【参考】【EU】森林破壊・森林劣化規則が成立。7品目にデューデリ義務。猶予期間は18ヶ月。違反時は巨額罰金も(2023年5月18日)

 CSDDDでは、EU域内で活動する大企業を対象に、従業員250人以上、グローバル売上4,000万ユーロ以上の企業に対し、段階的に環境・人権デューデリジェンスの実施を義務化する内容となっている。人権デューデリジェンスの実施範囲は、企業グループ全体でのバリューチェーン全体が対象となっており、デューデリジェンス実施に関する公開も義務化。また、救済メカニズムの設置も義務化。違反企業には罰金も科す。

 さらに、取締役の義務として、デューデリジェンスを導入、モニタリングし、企業戦略に統合すること責務も課しており、取締役の変動報酬に、長期的利益やサステナビリティに関する指標を採用することも推奨されている。

 これに対し、欧州議会が6月1日に可決した修正案では、さらに要件が厳しくなっている。まず、同法案の対象について、欧州委員会の原案では、従業員500人以上かつグローバル売上1.5億ユーロ以上のEU域内登記企業がまず義務対象となり、2年後に従業員250人以上かつグローバル売上4,000万ユーロ以上の企業を対象とする内容だった。

 一方、欧州議会修正案では、二段階適用ではなく、従業員500人以上かつグローバル売上1.5億ユーロ以上のEU企業、もしくはグループ全体で従業員250人以上、グローバル売上4,000万ユーロ以上の企業に一斉適用する手法を採用。従業員数の計算では非正規社員も含むことも明記した。

 EU域外の企業への義務適用に関しても、欧州委員会原案では、EU域内売上が1.5億ユーロ以上、もしくは重要セクターでのグローバル売上が4,000万ユーロ以上の第三国企業を対象にする内容だった。これに対し、欧州議会修正案では、EU域内売上が4,000万ユーロ以上の第三国企業、もしくはグループ全体で従業員500人以上、かつグローバル売上が1.5億ユーロ以上、かつEU域内売上が4,000万ユーロ以上の第三国企業グループを対象にする内容となっている。

 さらに、欧州委員会原案では、金融セクターは、同義務適用の重要セクターではないと明記されていたが、欧州議会修正案では、金融セクターも重要セクターと明記した。修正案側で整理すると、金融セクターも投融資先、場合によっては保険引受元の環境・人権デューデリジェンスの実施が義務付けられることになる。

 加えて、欧州議会修正案では、デューデリジェンスに、サプライチェーン上の従業員の生活賃金、薬剤耐性(AMR)を含むワンヘルス・アプローチ、腐敗防止の3つも加えるよう規定している。附属書では、衣食住へのアクセスについても言及。欧州委員会原案でも掲げられていた、職場での水と衛生(WASH)へのアクセスは、欧州議会修正案でもそのまま残った。

 EU理事会は、金融セクターをCSDDDの重要セクターから外し、各加盟国での判断としたい考え。また取締役の善管注意義務に環境・人権リスクを加えることについても慎重な姿勢を採っている。

【参照ページ】Texts tabled : A9-0184/2023

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