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【国際】UNEP FI、TNFD第2弾パイロットプロジェクトで報告書。5つの提言

 国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)は2023年12月、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フレームワークのパイロットプロジェクトに関する報告書を発表した。20の金融機関と協力してまとめた。

 同報告書は、2022年6月から2023年2月まで実施された第1弾のパイロットプロジェクトに続く、第2弾のパイロットプロジェクトの報告書。同プロジェクトは、自然関連の情報開示に関する課題とニーズを評価することをミッションとしている。

 第2弾プロジェクトは、TNFDが2023年3月に発表したTNFDフレームワークベータ版第4版を利用し2023年5月から6月まで実施。プロジェクトの結果は、すでに、2023年9月に発表されたTNFDフレームワークの最終版にも反映されている。

【参考】【国際】UNEP FI、TNFDパイロットプログラムの結果報告。日本6社含む42社参加。発見と課題(2023年5月3日)
【参考】【国際】TNFD、提言書最終発行。開示フレームワーク完成。TNFDアダプター募集開始(2023年9月20日)

 同プロジェクトに参加した20の金融機関は、ABNアムロ、アクサ・クライメート、アイルランド銀行、コメルツ銀行、CTBC、ダンスケ銀行、ドイツ連邦銀行、グループBPCE、MS&ADインシュアランスグループホールディングス、ナショナル・オーストラリア銀行(NAB)、Nuveen、ピレウス銀行、ロベコ、ソシエテジェネラル、サンコープ、ウエストパック銀行。日本からは、農林中央金庫、三井住友銀行、SOMPOホールディングスが参加した。

 プロジェクトに参加した20の金融機関のうち、7機関は初のパイロットプロジェクトへの参加。TCFDとTNFDの整合性に関する検討チームと自然資本のシナリオ分析に関する検討チームに分け、それぞれ4回のセッションを実施した。

金融機関の現状

 まず、参加した各金融機関に対して匿名でのアンケートを実施。各金融機関では、自然資本が与える影響に関して中程度の理解度であり、気候変動に関する情報開示と自然分野に関する情報開示は別なものとして扱われている。回答者の70%が今後1年以内に自然分野の情報開示を外部向けに実施する予定であり、30%が既に内部でレポーティングを実施していると回答した。


(出所)UNEP FI

 金融機関の最優先課題は、自然分野リスクを財務リスクに転換するための手法を明確にすることだとした。自然分野のシナリオ分析を採用する主な理由として、回答者の3分の1が戦略立案と回答。シナリオ策定では、参加者の大部分が10年程度の長期的な時間軸での分析ではなく、5年程度の短期の時間軸に焦点を当て検討していることがわかった。 

TNFDフレームワークを導入する上での課題と提言

 2つのテーマに関する検討を通して、金融機関がTNFDフレームワークを実施する上での主な課題がまとめられた。

  • 他のフレームワークや基準、国や地域の法制度とTNFDとの整合性を図るために金融機関自身の知識を深める必要性
  • 特定のアセット分野に関するデータの不足
  • ポートフォリオ全体での評価とシナリオ分析を通じてm自然資本に関する影響を定量化するより具体的な方法の検討
  • シナリオ分析やギャップ特定のための社内データの不足
  • サプライチェーン全体での自然関連リスク等、データ精度の低さ
  • 顧客や投資先での生物多様性の損失に関する財務的な影響評価手法の改善
  • 社内のキャパシティ・ビルディングと社内とのパートナーシップの検討

 その上で、TNFDフレームワークを導入するための5つの提言をまとめた。まず、キャパシティ・ビルディング。上級管理職を含む経営陣に対して、組織内の自然資本リスクを共有しオーナーシップを獲得した上で、専門家の雇用、研修プログラムの開発、データ分析に関するツールや技術への投資を行い、自然資本リスクを評価するケーパビリティ獲得の必要性を訴えた。

 次に、データとメトリクスの整備。LEAPアプローチに則り、取得可能なデータと存在しないデータを把握し、存在しないデータに対してどのように情報開示できるかを明確にすることで、今後の自然資本リスク評価を強化するための基盤を構築する必要があるとした。また、顧客や投資先に対して、自然資本に関するデータの収集や情報開示の報告に対してガイダンスやベストプラクティスの提供を提案した。

 3つ目は、気候と自然の課題のネクサス(連関性)の理解。これまでの気候変動リスク評価に加えて、自然分野のリスク評価を行うだけではなく、自然分野リスクが気候変動リスクに与える影響等の課題同士の連関性を意識した統合的なアプローチが必要だとした。

 気候変動に関する金融リスクを検討するための中央銀行・金融当局ネットワーク「気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(Network for Greening the Financial System;NGFS)」は2023年9月、「自然関連金融リスクに関する概念フレームワーク」に関する報告書の中で「気候変動が自然リスクに与える影響」「自然破壊が気候変動リスクに与える影響」「気候変動緩和・適応対策が自然リスクに与える影響」「自然対策が気候変動リスクを減少させる影響」の4つを示した。

【参考】【国際】NGFS、中銀と金融当局向けに自然関連金融リスクで概念フレームワーク発行。リスク整理(2023年9月8日)

 4つ目に、ビジネス上の自然リスクの重要性の理解。銀行、保険会社、投資家にとって自然資本リスクの捉え方は異なるため、異なる関係者毎にあわせたガイダンス等を作成する必要があるとした。

 最後に、自然分野の機会の特定。自然に関するリスクの定量化が包括的な理解に役立つ一方で、潜在的な機会を特定することも重要だとした。また、自然関連リスクが全体的なリスク・プライシングの一部として算出できるようにすること、先住民や地域コミュニティ等の影響を受けるステークホルダーに対する透明性の高い情報開示の重要性も訴えた。

【参照ページ】Insights into UNEP FI’s TNFD pilots

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 国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)は2023年12月、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フレームワークのパイロットプロジェクトに関する報告書を発表した。20の金融機関と協力してまとめた。

 同報告書は、

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 国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)は2023年12月、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フレームワークのパイロットプロジェクトに関する報告書を発表した。20の金融機関と協力してまとめた。

 同報告書は、

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 国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)は2023年12月、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フレームワークのパイロットプロジェクトに関する報告書を発表した。20の金融機関と協力してまとめた。

 同報告書は、2022年6月から2023年2月まで実施された第1弾のパイロットプロジェクトに続く、第2弾のパイロットプロジェクトの報告書。同プロジェクトは、自然関連の情報開示に関する課題とニーズを評価することをミッションとしている。

 第2弾プロジェクトは、TNFDが2023年3月に発表したTNFDフレームワークベータ版第4版を利用し2023年5月から6月まで実施。プロジェクトの結果は、すでに、2023年9月に発表されたTNFDフレームワークの最終版にも反映されている。

【参考】【国際】UNEP FI、TNFDパイロットプログラムの結果報告。日本6社含む42社参加。発見と課題(2023年5月3日)
【参考】【国際】TNFD、提言書最終発行。開示フレームワーク完成。TNFDアダプター募集開始(2023年9月20日)

 同プロジェクトに参加した20の金融機関は、ABNアムロ、アクサ・クライメート、アイルランド銀行、コメルツ銀行、CTBC、ダンスケ銀行、ドイツ連邦銀行、グループBPCE、MS&ADインシュアランスグループホールディングス、ナショナル・オーストラリア銀行(NAB)、Nuveen、ピレウス銀行、ロベコ、ソシエテジェネラル、サンコープ、ウエストパック銀行。日本からは、農林中央金庫、三井住友銀行、SOMPOホールディングスが参加した。

 プロジェクトに参加した20の金融機関のうち、7機関は初のパイロットプロジェクトへの参加。TCFDとTNFDの整合性に関する検討チームと自然資本のシナリオ分析に関する検討チームに分け、それぞれ4回のセッションを実施した。

金融機関の現状

 まず、参加した各金融機関に対して匿名でのアンケートを実施。各金融機関では、自然資本が与える影響に関して中程度の理解度であり、気候変動に関する情報開示と自然分野に関する情報開示は別なものとして扱われている。回答者の70%が今後1年以内に自然分野の情報開示を外部向けに実施する予定であり、30%が既に内部でレポーティングを実施していると回答した。


(出所)UNEP FI

 金融機関の最優先課題は、自然分野リスクを財務リスクに転換するための手法を明確にすることだとした。自然分野のシナリオ分析を採用する主な理由として、回答者の3分の1が戦略立案と回答。シナリオ策定では、参加者の大部分が10年程度の長期的な時間軸での分析ではなく、5年程度の短期の時間軸に焦点を当て検討していることがわかった。 

TNFDフレームワークを導入する上での課題と提言

 2つのテーマに関する検討を通して、金融機関がTNFDフレームワークを実施する上での主な課題がまとめられた。

  • 他のフレームワークや基準、国や地域の法制度とTNFDとの整合性を図るために金融機関自身の知識を深める必要性
  • 特定のアセット分野に関するデータの不足
  • ポートフォリオ全体での評価とシナリオ分析を通じてm自然資本に関する影響を定量化するより具体的な方法の検討
  • シナリオ分析やギャップ特定のための社内データの不足
  • サプライチェーン全体での自然関連リスク等、データ精度の低さ
  • 顧客や投資先での生物多様性の損失に関する財務的な影響評価手法の改善
  • 社内のキャパシティ・ビルディングと社内とのパートナーシップの検討

 その上で、TNFDフレームワークを導入するための5つの提言をまとめた。まず、キャパシティ・ビルディング。上級管理職を含む経営陣に対して、組織内の自然資本リスクを共有しオーナーシップを獲得した上で、専門家の雇用、研修プログラムの開発、データ分析に関するツールや技術への投資を行い、自然資本リスクを評価するケーパビリティ獲得の必要性を訴えた。

 次に、データとメトリクスの整備。LEAPアプローチに則り、取得可能なデータと存在しないデータを把握し、存在しないデータに対してどのように情報開示できるかを明確にすることで、今後の自然資本リスク評価を強化するための基盤を構築する必要があるとした。また、顧客や投資先に対して、自然資本に関するデータの収集や情報開示の報告に対してガイダンスやベストプラクティスの提供を提案した。

 3つ目は、気候と自然の課題のネクサス(連関性)の理解。これまでの気候変動リスク評価に加えて、自然分野のリスク評価を行うだけではなく、自然分野リスクが気候変動リスクに与える影響等の課題同士の連関性を意識した統合的なアプローチが必要だとした。

 気候変動に関する金融リスクを検討するための中央銀行・金融当局ネットワーク「気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(Network for Greening the Financial System;NGFS)」は2023年9月、「自然関連金融リスクに関する概念フレームワーク」に関する報告書の中で「気候変動が自然リスクに与える影響」「自然破壊が気候変動リスクに与える影響」「気候変動緩和・適応対策が自然リスクに与える影響」「自然対策が気候変動リスクを減少させる影響」の4つを示した。

【参考】【国際】NGFS、中銀と金融当局向けに自然関連金融リスクで概念フレームワーク発行。リスク整理(2023年9月8日)

 4つ目に、ビジネス上の自然リスクの重要性の理解。銀行、保険会社、投資家にとって自然資本リスクの捉え方は異なるため、異なる関係者毎にあわせたガイダンス等を作成する必要があるとした。

 最後に、自然分野の機会の特定。自然に関するリスクの定量化が包括的な理解に役立つ一方で、潜在的な機会を特定することも重要だとした。また、自然関連リスクが全体的なリスク・プライシングの一部として算出できるようにすること、先住民や地域コミュニティ等の影響を受けるステークホルダーに対する透明性の高い情報開示の重要性も訴えた。

【参照ページ】Insights into UNEP FI’s TNFD pilots

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