Sustainable Japan | 世界のサステナビリティ・ESG投資・SDGs

【国際】IPEFクリーンエコノミー協定、再エネに30兆円、バッテリーに18兆円。持続可能な農業も

 米商務省は3月14日、14ヶ国が加盟するインド太平洋経済枠組み(IPEF)のオンライン閣僚会議を開催。IPEFクリーンエコノミー協定の最終内容を公表した。

【参考】【国際】IPEF、クリーンエコノミー協定と公正な経済協定の概要公表。加盟国での強化分野明記(2023年11月19日)

 IPEFの現在の加盟国は、米国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド、シンガポール、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム、ブルネイ、フィジーの14ヶ国。今回の会合には14カ国全てが出席した。

 IPEFクリーンエコノミー協定は、日本ではクリーンエネルギーの分野の協定として宣伝される傾向にあるが、実際には幅広いクリーンテクノロジーを対象としている。今回の最終協定でも、原子力発電を含むクリーンエネルギー、重工業及び運輸部門の低炭素化、持続可能な農業、持続可能な土地・水・海洋ソリューション、炭素回収・利用・貯留(CCUS)と二酸化炭素除去(CDR)が内容に盛り込まれた。

 クリーンエネルギーでは、クリーンエネルギーへの安価なアクセス、クリーンエネルギーへの移行に伴う公正な移行(ジャスト・トランジション)を含む社会的、経済的、環境的なインパクト評価等のセーフガードの導入、気候レジリエントなエネルギーインフラへの投資等を掲げた。

 特に、2030年までにバッテリー分野に1,200億米ドル(約18兆円)以上、再生可能エネルギー分野に200億米ドル(約30兆円)以上の投資促進を目標として掲げた。地域のエネルギー系統連系も奨励し、海底電力ケーブルの敷設、維持及び修理にも言及した。クリーンエネルギーのサプライチェーンの多様化、レジリエンス、サステナビリティの重要性を認識し、単一の供給者により不利に独占されているサプライチェーンがもたらす脆弱性とリスクの削減について協力する意向も示した。

 またクリーンエネルギーでは、他の方法では回避できない場合に、既存インフラでの合成燃料(eFuel)や合成メタン活用もオプションとして認識。低炭素で再生可能な水素とアンモニアも盛り込んだが、「重要な用途を持つ多様な脱炭素化の道筋として重要」と表現し、発電燃料としては明記されなかった。水素、アンモニア、合成メタン、バイオマス、固形廃棄物の燃料活用では「協力関係を模索することもできる」という文言となり、必ずしも14カ国で足並みが揃っているわけではないことも伺わせた。エネルギー部門のメタン漏出やガスフレア削減も盛り込んだ。

 省エネでは、新築及び既存の不動産のエネルギー消費量またはエネルギー原単位消費量を削減し、性能を向上させるための性能基準と建築基準を推進することや、エネルギー性能基準やラベリング制度を活用し、エネルギー効率や消費、潜在的なコストや節約に対する国民の意識を高めることを盛り込んだ。

 重工業の低炭素化では、必要となるテクノロジーの研究開発を促進するとともに、製品の情報開示と測定システムの開発で協力する意向を掲げた。また、工業製品、水素、建材を含む関連製品における排出の具体化について、中小企業への影響を考慮する可能性があるとした。

 運輸部門では、バッテリーのリサイクル市場とサプライチェーンを拡大するためのイニシアティブを推進する意向。バッテリー製造での再生材料の使用に関する再使用・再利用・リサイクル基準の策定や研究開発の促進、環境を重視した電池の解体・処理のトレーサビリティについても盛り込んだ。2030年までに世界で販売される乗用車・バンの50%以上をゼロエミッション車両にする目標をあらためて確認するとともに、中型車と大型車の排出量を大幅に削減し、EV充電および水素燃料補給インフラに大幅に投資することを目指すとした。エネルギー使用に関する透明性を提供する車両ラベリング制度の利用促進について協力する意向。ゼロエミッション車両の公共調達も大幅に増やす。

 航空では、国際民間航空機関(ICAO)が採用した持続可能な航空燃料(SAF)のライフサイクル温室効果ガス排出方法論を用いて、SAFの生産と利用可能性を増加させる。海運では、各加盟国は、2027年までに、ライフサイクル排出量がゼロに近い燃料、テクノロジー、エネルギー源を使用する国際航路「グリーン輸送回廊」を5ヶ所以上に設置を開始するとともに内水航路でもグリーン輸送化に協力する。

 持続可能な農業では、二酸化炭素排出量の削減、食糧安全保障と水安全保障の支援、気候変動適応を含む農業生産性の向上を主要テーマとした。持続可能な生産・消費パターンに関する政策やベストプラクティスに関する情報を交換するだけでなく、サーキュラーエコノミー・アプローチを推進するための協力も強化する。研究開発では、国際的な研究センター、研究機関、実験室ネットワークでの協力を奨励。土壌健全性の改善、食品ロス・廃棄物の削減、肥料ロス・廃棄の削減等も盛り込んだ。

 森林分野では、森林の機能として、気候変動の緩和とレジリエンス、クリーンエコノミーへの移行、生物多様性、生態系サービス、人間の健康増進を認識。森林の農地転換で栽培された農産物を調達している消費財企業との協力も含め、持続可能なサプライチェーンを支援することも打ち出した。各加盟国は、気候変動緩和のための 自然を軸としたソリューション(NbS)及び生態系に基づくアプローチも検討していく。伝統的知識と先住民の知識を活用することも付記した。

 水と海洋分野では、同様に、自然を軸としたソリューション(NbS)及び生態系に基づくアプローチを認識。洋上風力発電開発、潮汐エネルギー、波力エネルギー、ブルーカーボン、持続可能な淡水管理、水の再利用とリサイクル、流域規模での水ガバナンスと水資源管理の強化、水質汚染の防止、廃水管理と処理の改善等を列記した。

 CDRでは、直接大気回収(DAC)とCCUSの双方について開発を加速。地域的・国際的なCCUSバリューチェーンの開発と安価なアクセスで協力も進める。2030年までに、CDRのための100億米ドル(約1.5兆円)から150億米ドル(約2.3兆円)以上の投資を触媒的に促進する目標も掲げた。

 これらの新市場を活性化するため、各加盟国は、明確な相互運用性や非関税障壁の撤廃で協力する。さらに民間企業も重要な役割を担うことや、デジタル化、持続可能で気候変動に配慮した消費者の選択に対するインセンティブを高めることも掲げた。政府の公共事業でも排出量の少ない建材を使うことも奨励した。ファイナンスでは、公的機関が譲許的資金を供与し、民間ファイナスを動員していくことを本線とした。気候関連財務リスクを測定、開示、管理することが、気候変動の影響から国民と経済を守ることに資することも明記した。

 さらに公正な移行(ジャスト・トランジション)では、ILOガイドラインや関連する多国間イニシアチブの重要性を認識。加盟国は、政府、国際機関、代表的な使用者団体及び労働者団体。並びに地域社会との間の協力的な努力を通じ、マクロ経済政策、セクター別政策及び環境政策を含む政策立案への公正な移行の統合に関する知識及び最良の慣行の共有に関して協力することも盛り込んだ。観点としては、移行により影響を受ける労働者の適切なアップスキルとリスキルの機会、クリーンエコノミーを支えるディーセント・ワークと質の高い仕事の促進、新しい持続可能なビジネス慣行とイノベーション、アントレプレナーシップの初期学習 の4つを例示した。加えて、「労働権」の促進を明記し、同協定での労働権の定義として、ILO中核的労働基準として掲げられている「結社の自由・団体交渉権の承認」「強制労働の禁止」「児童労働の禁止」「差別の撤廃」「安全で健康的な労働環境」とともに、最低賃金と労働時間に関する許容可能な労働条件も含めた形で採用した。

 同協定では、加盟国が自主的に「共同作業プログラム」を策定することを認めている。共同作業プログラムが、同協定の基準を満たしていないと考える加盟国は、IPEFクリーン経済委員会に対し、書面による異議申し立てを行うことができる。

【参照ページ】INDO-PACIFIC ECONOMIC FRAMEWORK FOR PROSPERITY AGREEMENT RELATING TO A CLEAN ECONOMY

ここから先は登録ユーザー限定のコンテンツとなります。ログインまたはユーザー登録を行って下さい。

 米商務省は3月14日、14ヶ国が加盟するインド太平洋経済枠組み(IPEF)のオンライン閣僚会議を開催。IPEFクリーンエコノミー協定の最終内容を公表した。

【参考】【国際】IPEF、クリーンエコノミー協定と公正な経済協定の概要公表。加盟国での強化分野明記(2023年11月19日)

 IPEFの現在の加盟国は、

ここから先は登録ユーザー限定のコンテンツとなります。ログインまたはユーザー登録を行って下さい。

 米商務省は3月14日、14ヶ国が加盟するインド太平洋経済枠組み(IPEF)のオンライン閣僚会議を開催。IPEFクリーンエコノミー協定の最終内容を公表した。

【参考】【国際】IPEF、クリーンエコノミー協定と公正な経済協定の概要公表。加盟国での強化分野明記(2023年11月19日)

 IPEFの現在の加盟国は、

ここから先は登録ユーザー限定のコンテンツとなります。ログインまたはユーザー登録を行って下さい。

ここから先は有料登録会員限定のコンテンツとなります。有料登録会員へのアップグレードを行って下さい。

 米商務省は3月14日、14ヶ国が加盟するインド太平洋経済枠組み(IPEF)のオンライン閣僚会議を開催。IPEFクリーンエコノミー協定の最終内容を公表した。

【参考】【国際】IPEF、クリーンエコノミー協定と公正な経済協定の概要公表。加盟国での強化分野明記(2023年11月19日)

 IPEFの現在の加盟国は、米国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド、シンガポール、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム、ブルネイ、フィジーの14ヶ国。今回の会合には14カ国全てが出席した。

 IPEFクリーンエコノミー協定は、日本ではクリーンエネルギーの分野の協定として宣伝される傾向にあるが、実際には幅広いクリーンテクノロジーを対象としている。今回の最終協定でも、原子力発電を含むクリーンエネルギー、重工業及び運輸部門の低炭素化、持続可能な農業、持続可能な土地・水・海洋ソリューション、炭素回収・利用・貯留(CCUS)と二酸化炭素除去(CDR)が内容に盛り込まれた。

 クリーンエネルギーでは、クリーンエネルギーへの安価なアクセス、クリーンエネルギーへの移行に伴う公正な移行(ジャスト・トランジション)を含む社会的、経済的、環境的なインパクト評価等のセーフガードの導入、気候レジリエントなエネルギーインフラへの投資等を掲げた。

 特に、2030年までにバッテリー分野に1,200億米ドル(約18兆円)以上、再生可能エネルギー分野に200億米ドル(約30兆円)以上の投資促進を目標として掲げた。地域のエネルギー系統連系も奨励し、海底電力ケーブルの敷設、維持及び修理にも言及した。クリーンエネルギーのサプライチェーンの多様化、レジリエンス、サステナビリティの重要性を認識し、単一の供給者により不利に独占されているサプライチェーンがもたらす脆弱性とリスクの削減について協力する意向も示した。

 またクリーンエネルギーでは、他の方法では回避できない場合に、既存インフラでの合成燃料(eFuel)や合成メタン活用もオプションとして認識。低炭素で再生可能な水素とアンモニアも盛り込んだが、「重要な用途を持つ多様な脱炭素化の道筋として重要」と表現し、発電燃料としては明記されなかった。水素、アンモニア、合成メタン、バイオマス、固形廃棄物の燃料活用では「協力関係を模索することもできる」という文言となり、必ずしも14カ国で足並みが揃っているわけではないことも伺わせた。エネルギー部門のメタン漏出やガスフレア削減も盛り込んだ。

 省エネでは、新築及び既存の不動産のエネルギー消費量またはエネルギー原単位消費量を削減し、性能を向上させるための性能基準と建築基準を推進することや、エネルギー性能基準やラベリング制度を活用し、エネルギー効率や消費、潜在的なコストや節約に対する国民の意識を高めることを盛り込んだ。

 重工業の低炭素化では、必要となるテクノロジーの研究開発を促進するとともに、製品の情報開示と測定システムの開発で協力する意向を掲げた。また、工業製品、水素、建材を含む関連製品における排出の具体化について、中小企業への影響を考慮する可能性があるとした。

 運輸部門では、バッテリーのリサイクル市場とサプライチェーンを拡大するためのイニシアティブを推進する意向。バッテリー製造での再生材料の使用に関する再使用・再利用・リサイクル基準の策定や研究開発の促進、環境を重視した電池の解体・処理のトレーサビリティについても盛り込んだ。2030年までに世界で販売される乗用車・バンの50%以上をゼロエミッション車両にする目標をあらためて確認するとともに、中型車と大型車の排出量を大幅に削減し、EV充電および水素燃料補給インフラに大幅に投資することを目指すとした。エネルギー使用に関する透明性を提供する車両ラベリング制度の利用促進について協力する意向。ゼロエミッション車両の公共調達も大幅に増やす。

 航空では、国際民間航空機関(ICAO)が採用した持続可能な航空燃料(SAF)のライフサイクル温室効果ガス排出方法論を用いて、SAFの生産と利用可能性を増加させる。海運では、各加盟国は、2027年までに、ライフサイクル排出量がゼロに近い燃料、テクノロジー、エネルギー源を使用する国際航路「グリーン輸送回廊」を5ヶ所以上に設置を開始するとともに内水航路でもグリーン輸送化に協力する。

 持続可能な農業では、二酸化炭素排出量の削減、食糧安全保障と水安全保障の支援、気候変動適応を含む農業生産性の向上を主要テーマとした。持続可能な生産・消費パターンに関する政策やベストプラクティスに関する情報を交換するだけでなく、サーキュラーエコノミー・アプローチを推進するための協力も強化する。研究開発では、国際的な研究センター、研究機関、実験室ネットワークでの協力を奨励。土壌健全性の改善、食品ロス・廃棄物の削減、肥料ロス・廃棄の削減等も盛り込んだ。

 森林分野では、森林の機能として、気候変動の緩和とレジリエンス、クリーンエコノミーへの移行、生物多様性、生態系サービス、人間の健康増進を認識。森林の農地転換で栽培された農産物を調達している消費財企業との協力も含め、持続可能なサプライチェーンを支援することも打ち出した。各加盟国は、気候変動緩和のための 自然を軸としたソリューション(NbS)及び生態系に基づくアプローチも検討していく。伝統的知識と先住民の知識を活用することも付記した。

 水と海洋分野では、同様に、自然を軸としたソリューション(NbS)及び生態系に基づくアプローチを認識。洋上風力発電開発、潮汐エネルギー、波力エネルギー、ブルーカーボン、持続可能な淡水管理、水の再利用とリサイクル、流域規模での水ガバナンスと水資源管理の強化、水質汚染の防止、廃水管理と処理の改善等を列記した。

 CDRでは、直接大気回収(DAC)とCCUSの双方について開発を加速。地域的・国際的なCCUSバリューチェーンの開発と安価なアクセスで協力も進める。2030年までに、CDRのための100億米ドル(約1.5兆円)から150億米ドル(約2.3兆円)以上の投資を触媒的に促進する目標も掲げた。

 これらの新市場を活性化するため、各加盟国は、明確な相互運用性や非関税障壁の撤廃で協力する。さらに民間企業も重要な役割を担うことや、デジタル化、持続可能で気候変動に配慮した消費者の選択に対するインセンティブを高めることも掲げた。政府の公共事業でも排出量の少ない建材を使うことも奨励した。ファイナンスでは、公的機関が譲許的資金を供与し、民間ファイナスを動員していくことを本線とした。気候関連財務リスクを測定、開示、管理することが、気候変動の影響から国民と経済を守ることに資することも明記した。

 さらに公正な移行(ジャスト・トランジション)では、ILOガイドラインや関連する多国間イニシアチブの重要性を認識。加盟国は、政府、国際機関、代表的な使用者団体及び労働者団体。並びに地域社会との間の協力的な努力を通じ、マクロ経済政策、セクター別政策及び環境政策を含む政策立案への公正な移行の統合に関する知識及び最良の慣行の共有に関して協力することも盛り込んだ。観点としては、移行により影響を受ける労働者の適切なアップスキルとリスキルの機会、クリーンエコノミーを支えるディーセント・ワークと質の高い仕事の促進、新しい持続可能なビジネス慣行とイノベーション、アントレプレナーシップの初期学習 の4つを例示した。加えて、「労働権」の促進を明記し、同協定での労働権の定義として、ILO中核的労働基準として掲げられている「結社の自由・団体交渉権の承認」「強制労働の禁止」「児童労働の禁止」「差別の撤廃」「安全で健康的な労働環境」とともに、最低賃金と労働時間に関する許容可能な労働条件も含めた形で採用した。

 同協定では、加盟国が自主的に「共同作業プログラム」を策定することを認めている。共同作業プログラムが、同協定の基準を満たしていないと考える加盟国は、IPEFクリーン経済委員会に対し、書面による異議申し立てを行うことができる。

【参照ページ】INDO-PACIFIC ECONOMIC FRAMEWORK FOR PROSPERITY AGREEMENT RELATING TO A CLEAN ECONOMY

ここから先は登録ユーザー限定のコンテンツとなります。ログインまたはユーザー登録を行って下さい。