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【EU】欧州委、有害物質、メタン、不動産で新戦略発表。エネルギー脱炭素化でも加盟国を評価

 欧州委員会は10月14日、欧州グリーンディール戦略の一環として、有害化学物質削減、メタンガス排出削減、不動産リノベーションの新たな戦略を採択した。エネルギー政策のレビュー結果も発表した。

【参考】【戦略】EU欧州委が定めた「欧州グリーンディール政策」の内容。〜9つの政策骨子を詳細解説〜(2019年12月12日)

 今回欧州委員会が採択したのは、「サステナビリティのためのEU化学戦略」「EUメタン戦略」「リノベーション・ウェーブ」の3つ。また、EUエネルギー教書も採択した。

EU化学戦略

 化学戦略では、内分泌かく乱物質、免疫および呼吸器系に影響を与える化学物質、ポリフルオロアルキル(PFAS)等の分解性の低い物質について、原則、玩具、保育用品、化粧品、洗剤、食品用の容器・包装、繊維等の消費者製品で使用することを段階的に禁止する。また、サーキュラーエコノミーや健康保護の観点から、全製品のでの懸念物質の活用を最少化、もしくは他の素材に代替することも義務付ける。

 また化学物質単体ではなく、組み合わせ活用で環境や人体に悪影響をもたらすリスクの評価も開始。さらに化学物質を活用するメーカーや消費者が、含有している化学物質や安全性に関する情報へアクセスできるようにすることも義務化する。

 一方、化学戦略では、環境や人体への悪影響の小さい代替素材の開発を促すため、素材設計基準の制定や助成金や官民パートナーシップの拡充、「One substance one assessmen(EU域内で1国で当局承認が得られれば他の加盟国での承認を不要とする制度)」を実現するためのREACH規則(リーチ規則)等関連法規性の改正も打ち出した。但し、素材開発での動物実験は段階的に禁止していく考え。EU化学戦略をEU域内だけでなく、諸外国でも受諾するよう対外交渉もしていく。

EUメタン戦略

 EUメタン戦略では、2050年の二酸化炭素ネット排出量ゼロ(カーボンニュートラル)や2030年の二酸化炭素排出量削減目標の達成のため、エネルギー、農業・畜産業、廃棄物の3業界で、メタン排出の排出規制や報告義務を強化する。エネルギー業界では、メタンガス漏出の検知と防止の義務内容を引き上げ、フレア発生や換気での漏出慣行を禁止することを検討。EU域内へのエネルギー輸出国に対しても同様の規制を課すよう促す。

 農業・畜産業では、家畜飼育でのメタンガス排出削減イノベーションの業界内情報共有や、リサイクルできない有機廃棄物のバイオガス、バイオ素材、バイオ化学物質としての利活用を検討。特に後者については、農村での雇用創出や所得向上にも効果があるとし、有機廃棄物の回収にも金銭的インセンティブを拡充していくとした。肉食から草食への食生活のシフト、自然型の栽培方法についても可能性がある分野と明言した。

 廃物物業界では、埋立所でのメタンガス回収を目指し、2024年に法制化を検討。また、分解過程でメタンガスを排出する生分解性素材の廃棄物発生を最小化することも重要と位置づけた。廃棄物をバイオメタン化する技術についても研究を推進する。

リノベーション・ウェーブ政策

 欧州委員会は同日、不動産の省エネ性能を高めるための「リノベーション・ウェーブ」政策も採択した。2050年の二酸化炭素ネット排出量ゼロ(カーボンニュートラル)や2030年の二酸化炭素排出量削減目標の達成のため、省エネ性能の低い不動産のリノベーション年間率を現在の1%から2%にまで2倍に引き上げ、2030年までに3,500万棟の不動産のリノベーションを実現することを政策目標として掲げた。

 不動産は、EUのエネルギー消費量の約40%を占める重要セクター。エネルギー消費からの二酸化炭素排出量でも、不動産業界が36%を占めている。欧州委員会は、現存している不動産の85%から95%は2050年にも存在し続けていると見ており、そのため不動産での脱炭素化を進めるためにはリノベーションの加速化が必要と判断した。

 リノベーション・ウェーブ政策では、優先分野として、省エネ性能の低い古い建物の改修、学校・病院・庁舎等の公共施設の改修、冷暖房の脱炭素化の3つを定め、不動産オーナーやテナントに対する情報開示規制やインセンティブの強化、省エネ商品市場の活性化、EU助成金の拡充、当局の権限強化、コミュニティ主導型手法の支援の5つを突破口と位置づけた。これらにより、2030年までに16万人の雇用創出と、市民の光熱費料金の削減、健康・ウェルビーイングの改善も狙う。

 さらに、設計・建築分野のイノベーションのため、科学技術と、文化・芸術の双方の分野を融合する「ニュー・ヨーロッパ・バウハウス」イニシアチブを2022年から開始することも発表。設計士、芸術家、デジタル専門家、学生、起業家等が集い、新たな建築手法を生み出していくためのプロジェクトをEU加盟国を通じて5つ設定し、不動産の省エネ・省資源を実現していくとした。

EUエネルギー教書

 欧州委員会は同日、欧州委員会への提出を加盟国に義務付けていた「国家エネルギー・気候計画(NECP)」について、加盟27ヶ国から提出された計画をレビューした結果をまとめた初の「エネルギー教書レポート」を発表した。同レポートでは、エネルギー状況について、「再生可能エネルギー等の脱炭素化」「省エネ」「エネルギー安全保障」「域内エネルギー市場」「研究・イノベーション・競争力」の5つの観点から分析。27カ国の計画では、EUの目標達成に向け概ね順調に進んでいることが示されたと評価した。

 但し、今回初めて実施しエネルギー補助金のレビューについては、補助金データ収集の改善と、化石燃料の生産・消費への補助金を削減する努力が必要と断じた。

 競争力に関しては、EUのエネルギー産業は、再生可能エネルギー化に向けた機会を掴むことに成功していると高く評価し、付加価値、労働生産性、雇用伸長でも、化石燃料等の既存のエネルギー業界を凌駕していると誇った。

EU生物多様性戦略

 また別途、EU上院の役割を担う加盟国閣僚級のEU理事会は10月23日、欧州委員会が5月に採択した「2030年生物多様性戦略」を支持する決議を採択。同戦略を今後の法制化の中で考慮し、とりわけ農林水産政策では完全に政策の中に組入れるよう要求した。

【参考】【EU】欧州委、2030年生物多様性戦略を採択。2030年までに陸域・海域30%以上を保護区化(2020年5月21日)

【参照ページ】Green Deal: Commission adopts new Chemicals Strategy towards a toxic-free environment
【参照ページ】Reducing greenhouse gas emissions: Commission adopts EU Methane Strategy as part of European Green Deal
【参照ページ】A Renovation Wave for Europe – greening our buildings, creating jobs, improving lives
【参照ページ】Renovation Wave
【参照ページ】Renovation Wave
【参照ページ】State of the Energy Union: Progress made on the clean energy transition and a basis for green recovery
【参照ページ】Questions and Answers on the State of the Energy Union report 2020
【参照ページ】Council adopts conclusions on the EU biodiversity strategy for 2030

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 欧州委員会は10月14日、欧州グリーンディール戦略の一環として、有害化学物質削減、メタンガス排出削減、不動産リノベーションの新たな戦略を採択した。エネルギー政策のレビュー結果も発表した。

【参考】【戦略】EU欧州委が定めた「欧州グリーンディール政策」の内容。〜9つの政策骨子を詳細解説〜(2019年12月12日)

 今回欧州委員会が採択したのは、

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 欧州委員会は10月14日、欧州グリーンディール戦略の一環として、有害化学物質削減、メタンガス排出削減、不動産リノベーションの新たな戦略を採択した。エネルギー政策のレビュー結果も発表した。

【参考】【戦略】EU欧州委が定めた「欧州グリーンディール政策」の内容。〜9つの政策骨子を詳細解説〜(2019年12月12日)

 今回欧州委員会が採択したのは、

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 欧州委員会は10月14日、欧州グリーンディール戦略の一環として、有害化学物質削減、メタンガス排出削減、不動産リノベーションの新たな戦略を採択した。エネルギー政策のレビュー結果も発表した。

【参考】【戦略】EU欧州委が定めた「欧州グリーンディール政策」の内容。〜9つの政策骨子を詳細解説〜(2019年12月12日)

 今回欧州委員会が採択したのは、「サステナビリティのためのEU化学戦略」「EUメタン戦略」「リノベーション・ウェーブ」の3つ。また、EUエネルギー教書も採択した。

EU化学戦略

 化学戦略では、内分泌かく乱物質、免疫および呼吸器系に影響を与える化学物質、ポリフルオロアルキル(PFAS)等の分解性の低い物質について、原則、玩具、保育用品、化粧品、洗剤、食品用の容器・包装、繊維等の消費者製品で使用することを段階的に禁止する。また、サーキュラーエコノミーや健康保護の観点から、全製品のでの懸念物質の活用を最少化、もしくは他の素材に代替することも義務付ける。

 また化学物質単体ではなく、組み合わせ活用で環境や人体に悪影響をもたらすリスクの評価も開始。さらに化学物質を活用するメーカーや消費者が、含有している化学物質や安全性に関する情報へアクセスできるようにすることも義務化する。

 一方、化学戦略では、環境や人体への悪影響の小さい代替素材の開発を促すため、素材設計基準の制定や助成金や官民パートナーシップの拡充、「One substance one assessmen(EU域内で1国で当局承認が得られれば他の加盟国での承認を不要とする制度)」を実現するためのREACH規則(リーチ規則)等関連法規性の改正も打ち出した。但し、素材開発での動物実験は段階的に禁止していく考え。EU化学戦略をEU域内だけでなく、諸外国でも受諾するよう対外交渉もしていく。

EUメタン戦略

 EUメタン戦略では、2050年の二酸化炭素ネット排出量ゼロ(カーボンニュートラル)や2030年の二酸化炭素排出量削減目標の達成のため、エネルギー、農業・畜産業、廃棄物の3業界で、メタン排出の排出規制や報告義務を強化する。エネルギー業界では、メタンガス漏出の検知と防止の義務内容を引き上げ、フレア発生や換気での漏出慣行を禁止することを検討。EU域内へのエネルギー輸出国に対しても同様の規制を課すよう促す。

 農業・畜産業では、家畜飼育でのメタンガス排出削減イノベーションの業界内情報共有や、リサイクルできない有機廃棄物のバイオガス、バイオ素材、バイオ化学物質としての利活用を検討。特に後者については、農村での雇用創出や所得向上にも効果があるとし、有機廃棄物の回収にも金銭的インセンティブを拡充していくとした。肉食から草食への食生活のシフト、自然型の栽培方法についても可能性がある分野と明言した。

 廃物物業界では、埋立所でのメタンガス回収を目指し、2024年に法制化を検討。また、分解過程でメタンガスを排出する生分解性素材の廃棄物発生を最小化することも重要と位置づけた。廃棄物をバイオメタン化する技術についても研究を推進する。

リノベーション・ウェーブ政策

 欧州委員会は同日、不動産の省エネ性能を高めるための「リノベーション・ウェーブ」政策も採択した。2050年の二酸化炭素ネット排出量ゼロ(カーボンニュートラル)や2030年の二酸化炭素排出量削減目標の達成のため、省エネ性能の低い不動産のリノベーション年間率を現在の1%から2%にまで2倍に引き上げ、2030年までに3,500万棟の不動産のリノベーションを実現することを政策目標として掲げた。

 不動産は、EUのエネルギー消費量の約40%を占める重要セクター。エネルギー消費からの二酸化炭素排出量でも、不動産業界が36%を占めている。欧州委員会は、現存している不動産の85%から95%は2050年にも存在し続けていると見ており、そのため不動産での脱炭素化を進めるためにはリノベーションの加速化が必要と判断した。

 リノベーション・ウェーブ政策では、優先分野として、省エネ性能の低い古い建物の改修、学校・病院・庁舎等の公共施設の改修、冷暖房の脱炭素化の3つを定め、不動産オーナーやテナントに対する情報開示規制やインセンティブの強化、省エネ商品市場の活性化、EU助成金の拡充、当局の権限強化、コミュニティ主導型手法の支援の5つを突破口と位置づけた。これらにより、2030年までに16万人の雇用創出と、市民の光熱費料金の削減、健康・ウェルビーイングの改善も狙う。

 さらに、設計・建築分野のイノベーションのため、科学技術と、文化・芸術の双方の分野を融合する「ニュー・ヨーロッパ・バウハウス」イニシアチブを2022年から開始することも発表。設計士、芸術家、デジタル専門家、学生、起業家等が集い、新たな建築手法を生み出していくためのプロジェクトをEU加盟国を通じて5つ設定し、不動産の省エネ・省資源を実現していくとした。

EUエネルギー教書

 欧州委員会は同日、欧州委員会への提出を加盟国に義務付けていた「国家エネルギー・気候計画(NECP)」について、加盟27ヶ国から提出された計画をレビューした結果をまとめた初の「エネルギー教書レポート」を発表した。同レポートでは、エネルギー状況について、「再生可能エネルギー等の脱炭素化」「省エネ」「エネルギー安全保障」「域内エネルギー市場」「研究・イノベーション・競争力」の5つの観点から分析。27カ国の計画では、EUの目標達成に向け概ね順調に進んでいることが示されたと評価した。

 但し、今回初めて実施しエネルギー補助金のレビューについては、補助金データ収集の改善と、化石燃料の生産・消費への補助金を削減する努力が必要と断じた。

 競争力に関しては、EUのエネルギー産業は、再生可能エネルギー化に向けた機会を掴むことに成功していると高く評価し、付加価値、労働生産性、雇用伸長でも、化石燃料等の既存のエネルギー業界を凌駕していると誇った。

EU生物多様性戦略

 また別途、EU上院の役割を担う加盟国閣僚級のEU理事会は10月23日、欧州委員会が5月に採択した「2030年生物多様性戦略」を支持する決議を採択。同戦略を今後の法制化の中で考慮し、とりわけ農林水産政策では完全に政策の中に組入れるよう要求した。

【参考】【EU】欧州委、2030年生物多様性戦略を採択。2030年までに陸域・海域30%以上を保護区化(2020年5月21日)

【参照ページ】Green Deal: Commission adopts new Chemicals Strategy towards a toxic-free environment
【参照ページ】Reducing greenhouse gas emissions: Commission adopts EU Methane Strategy as part of European Green Deal
【参照ページ】A Renovation Wave for Europe – greening our buildings, creating jobs, improving lives
【参照ページ】Renovation Wave
【参照ページ】Renovation Wave
【参照ページ】State of the Energy Union: Progress made on the clean energy transition and a basis for green recovery
【参照ページ】Questions and Answers on the State of the Energy Union report 2020
【参照ページ】Council adopts conclusions on the EU biodiversity strategy for 2030

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