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【南米】アマゾン地域8ヶ国政府、ベレン宣言署名。社会・環境の地域協力体制を再構築

 ブラジル、コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビア、ベネズエラ、ガイアナ、スリナムの8ヶ国政府は8月8日、アマゾン協力条約(ACT)締約国会議で、アマゾン熱帯雨林を保護する「ベレン宣言」に署名した。

 2023年1月にブラジル大統領に返り咲いたルーラ・ダシルバ大統領は、2025年に開催される国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)の議長国に立候補し、アマゾン北部の都市ベレンで開催することを5月に見事勝ち取った。今回のベレン宣言は、ルーラ政権がアマゾン地域各国をまとめられるかの試金石となっていた。

 ベレン宣言は、全部で113条で構成。分野横断的な行動原則から、気候変動、生態系・生物多様性、水資源、環境犯罪対策、雇用インクルージョン、先住民との対話、地域協力、まで数多くの項目で合意に達した。特に、アマゾン地帯を自然環境とだけみなすのではなく、人間が住む地理的場所とも位置づけ、自然と人間の共存をいかに実現するかをテーマとしたことが大きな特徴となった。

 国際協力では、アマゾン協力条約機構(ACTO)の制度強化を掲げ、アマゾン協力条約締約国首脳会議の設置に向け、アマゾン協力条約追加議定書の締結交渉を開始することが決まった。さらにACTOの下で、閣僚レベルの特別委員会を再度立ち上げることでも合意した。具体的な分野は、「環境」「科学技術」「保健」「教育」「先住民族問題」「運輸・インフラ・通信」「観光」。ACTOの常設委員会として各代表が常時集まる「常設国内委員会(CONAPERs)」の実効性を担保することも掲げた。

 さらにACTOの下に、アマゾン都市フォーラムを設立し、都市間の協力を強化。各国の代表が集う「アマゾン議会(PARLAMAZ)」を再生するための作業部会も設置する。先住民族との関係では、8ヶ国政府と先住民族との対話を強化・促進する「先住民族のためのアマゾン・メカニズム」を設立する。必要資金では、各国が拠出し、独立した財政を可能にするための資金メカニズム評価作業部会を設置する。さらに、地域モニタリングの常設機関として、「アマゾン地域観測所(ARO)」をACTOのもとで制度化し、情報、データ、科学的知見を集約する。「南南協力に関する作業部会」も設置する。

 横断原則では、「積極的な参加、先住民族と地域・伝統的コミュニティーの権利の尊重と促進」「人種差別やその他のいかなる差別もなく、すべての人々の平等を含む人権の保護と促進、およびあらゆる形態の差別との闘い」「ジェンダーの平等、すべての女性のエンパワーメントのための積極的な参加と権利の促進」「アマゾン地域の認識、尊厳、アイデンティティ、文化的多様性を促進する文化間及び世代間のアプローチ」「各国の国内法の尊重を含む国家の主権」の5つを提示した。

 気候変動では、国家計画に基づき、アグロフォレストリーや、家族農業や小作農を含む持続可能な森林経営に関連するその他の農業慣行を強化・改善するための技術や戦略を体系化し、交換し、利用可能にするとし、持続可能な農業を柱とした。

 生態系・生物多様性では、違法伐採の排除を通じた森林減少ゼロに関連するものを含め、締約国の森林法制の実施強化、持続可能な森林管理、自生植生の再生と増加のための総合的な火災管理を標榜。財政的・非財政的なインセンティブにより、国家目標の遵守を認識し促進するとした。管理の手段として、劣化、汚染、変質した地域のマッピングやモニタリングも行う。

 水資源では、地域全体の水資源マネジメントを強化するため「ACTO締約国水資源局ネットワーク」を設立する。鉱業等に起因する水銀等の有害物質の暴露に焦点を当てた研究、調査、監視も強化する。

 上記を踏まえた食料・栄養安全保障については、伝統的、家族的、共同体的な生産システムを支持すると同時に、アマゾン地域市場における森林、生物多様性、農産物のフローと質を改善。技術へのアクセスと普及を含む国際的なプレゼンスも向上させる。地域での「アマゾン戦略」の策定のための対話プロセスも開始する。

 環境犯罪では、熱帯雨林の違法伐採だけでなく、アマゾンの固有種及び在来種の種子や、鉱物の違法搾取にも言及。各国の法律に基づく消費者市場への製品持ち込みを阻止するため、仕向国による効果的な協力の必要性を強調した。将来、「アマゾン国際警察協力センター」をマナウスに設置する考えでも一致した。

 また、最大の重点分野とも言えるのが、科学・教育・イノベーションでの協力。地域マネジメントの核となる環境や社会の科学的知見の確立のため、アマゾンのための政府間科学技術パネル設立することを決めた。ACTOとアマゾン大学協会(UNAMAZ)との対話を再開するとともに、先住民族の大学と専門教育機関の関わりを強化し、格差是正も進める。アントレプレナーシップを喚起するため、アマゾン地域のイノベーション・技術普及ネットワークも設立する。環境と社会の双方の分野では、科学的なイノベーションと、先住民族の伝統的知見の双方を重視する。

 一方、ベレン宣言で合意できなかった項目もある。まず、森林破壊ゼロにコミットする文言は入らず、鉱業や食品等の分野での森林破壊高リスク産業での森林破壊ゼロアプローチについても具体的な内容は盛り込まれなかった。

 今回の締約国会議には、8ヶ国の首脳だけでなく、NGO等の関係も多数出席し、総勢100団体300人以上が集った。世界資源研究所(WRI)とコンサベーション・インターナショナル(CI)が中心となり、提言書もまとめられた。

【参照ページ】The Amazon Summit – IV Meeting of Presidents of the State Parties to the Amazon Cooperation Treaty – Presidential Declaration
【参照ページ】TO THE HEADS OF STATE AND MINISTERS OF THE 9 AMAZON COUNTRIES

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 ブラジル、コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビア、ベネズエラ、ガイアナ、スリナムの8ヶ国政府は8月8日、アマゾン協力条約(ACT)締約国会議で、アマゾン熱帯雨林を保護する「ベレン宣言」に署名した。

 2023年1月にブラジル大統領に返り咲いたルーラ・ダシルバ大統領は、

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 ブラジル、コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビア、ベネズエラ、ガイアナ、スリナムの8ヶ国政府は8月8日、アマゾン協力条約(ACT)締約国会議で、アマゾン熱帯雨林を保護する「ベレン宣言」に署名した。

 2023年1月にブラジル大統領に返り咲いたルーラ・ダシルバ大統領は、

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 ブラジル、コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビア、ベネズエラ、ガイアナ、スリナムの8ヶ国政府は8月8日、アマゾン協力条約(ACT)締約国会議で、アマゾン熱帯雨林を保護する「ベレン宣言」に署名した。

 2023年1月にブラジル大統領に返り咲いたルーラ・ダシルバ大統領は、2025年に開催される国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)の議長国に立候補し、アマゾン北部の都市ベレンで開催することを5月に見事勝ち取った。今回のベレン宣言は、ルーラ政権がアマゾン地域各国をまとめられるかの試金石となっていた。

 ベレン宣言は、全部で113条で構成。分野横断的な行動原則から、気候変動、生態系・生物多様性、水資源、環境犯罪対策、雇用インクルージョン、先住民との対話、地域協力、まで数多くの項目で合意に達した。特に、アマゾン地帯を自然環境とだけみなすのではなく、人間が住む地理的場所とも位置づけ、自然と人間の共存をいかに実現するかをテーマとしたことが大きな特徴となった。

 国際協力では、アマゾン協力条約機構(ACTO)の制度強化を掲げ、アマゾン協力条約締約国首脳会議の設置に向け、アマゾン協力条約追加議定書の締結交渉を開始することが決まった。さらにACTOの下で、閣僚レベルの特別委員会を再度立ち上げることでも合意した。具体的な分野は、「環境」「科学技術」「保健」「教育」「先住民族問題」「運輸・インフラ・通信」「観光」。ACTOの常設委員会として各代表が常時集まる「常設国内委員会(CONAPERs)」の実効性を担保することも掲げた。

 さらにACTOの下に、アマゾン都市フォーラムを設立し、都市間の協力を強化。各国の代表が集う「アマゾン議会(PARLAMAZ)」を再生するための作業部会も設置する。先住民族との関係では、8ヶ国政府と先住民族との対話を強化・促進する「先住民族のためのアマゾン・メカニズム」を設立する。必要資金では、各国が拠出し、独立した財政を可能にするための資金メカニズム評価作業部会を設置する。さらに、地域モニタリングの常設機関として、「アマゾン地域観測所(ARO)」をACTOのもとで制度化し、情報、データ、科学的知見を集約する。「南南協力に関する作業部会」も設置する。

 横断原則では、「積極的な参加、先住民族と地域・伝統的コミュニティーの権利の尊重と促進」「人種差別やその他のいかなる差別もなく、すべての人々の平等を含む人権の保護と促進、およびあらゆる形態の差別との闘い」「ジェンダーの平等、すべての女性のエンパワーメントのための積極的な参加と権利の促進」「アマゾン地域の認識、尊厳、アイデンティティ、文化的多様性を促進する文化間及び世代間のアプローチ」「各国の国内法の尊重を含む国家の主権」の5つを提示した。

 気候変動では、国家計画に基づき、アグロフォレストリーや、家族農業や小作農を含む持続可能な森林経営に関連するその他の農業慣行を強化・改善するための技術や戦略を体系化し、交換し、利用可能にするとし、持続可能な農業を柱とした。

 生態系・生物多様性では、違法伐採の排除を通じた森林減少ゼロに関連するものを含め、締約国の森林法制の実施強化、持続可能な森林管理、自生植生の再生と増加のための総合的な火災管理を標榜。財政的・非財政的なインセンティブにより、国家目標の遵守を認識し促進するとした。管理の手段として、劣化、汚染、変質した地域のマッピングやモニタリングも行う。

 水資源では、地域全体の水資源マネジメントを強化するため「ACTO締約国水資源局ネットワーク」を設立する。鉱業等に起因する水銀等の有害物質の暴露に焦点を当てた研究、調査、監視も強化する。

 上記を踏まえた食料・栄養安全保障については、伝統的、家族的、共同体的な生産システムを支持すると同時に、アマゾン地域市場における森林、生物多様性、農産物のフローと質を改善。技術へのアクセスと普及を含む国際的なプレゼンスも向上させる。地域での「アマゾン戦略」の策定のための対話プロセスも開始する。

 環境犯罪では、熱帯雨林の違法伐採だけでなく、アマゾンの固有種及び在来種の種子や、鉱物の違法搾取にも言及。各国の法律に基づく消費者市場への製品持ち込みを阻止するため、仕向国による効果的な協力の必要性を強調した。将来、「アマゾン国際警察協力センター」をマナウスに設置する考えでも一致した。

 また、最大の重点分野とも言えるのが、科学・教育・イノベーションでの協力。地域マネジメントの核となる環境や社会の科学的知見の確立のため、アマゾンのための政府間科学技術パネル設立することを決めた。ACTOとアマゾン大学協会(UNAMAZ)との対話を再開するとともに、先住民族の大学と専門教育機関の関わりを強化し、格差是正も進める。アントレプレナーシップを喚起するため、アマゾン地域のイノベーション・技術普及ネットワークも設立する。環境と社会の双方の分野では、科学的なイノベーションと、先住民族の伝統的知見の双方を重視する。

 一方、ベレン宣言で合意できなかった項目もある。まず、森林破壊ゼロにコミットする文言は入らず、鉱業や食品等の分野での森林破壊高リスク産業での森林破壊ゼロアプローチについても具体的な内容は盛り込まれなかった。

 今回の締約国会議には、8ヶ国の首脳だけでなく、NGO等の関係も多数出席し、総勢100団体300人以上が集った。世界資源研究所(WRI)とコンサベーション・インターナショナル(CI)が中心となり、提言書もまとめられた。

【参照ページ】The Amazon Summit – IV Meeting of Presidents of the State Parties to the Amazon Cooperation Treaty – Presidential Declaration
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