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【EU】欧州委員長、任期1期目最終年度の施政方針演説。中国関係は切り離しではなく「デリスク」

 EUのウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は9月13日、欧州議会で、2023年度の施政方針演説を行った。フォン・デア・ライエン委員長は、2024年10月31日に5年の任期が満了するため、今年度が1期目の最後の年となる。

 欧州委員会委員長は、加盟国閣僚級のEU理事会で指名された後、欧州議会での信任決議を経て、任命される。そのため、5年に一度の欧州議会選挙の半年後に欧州委員会委員長の信任決議が行われることになっている。欧州委員会委員長には、欧州委員会を構成する欧州委員を指名する権限はなく。各加盟国政府が一人を指名する。但し、出身国を含めたいかなる団体からの政治的影響力を持つことも否定され、独立した欧州委員として任務を全うしなければならない。欧州委員会委員長も欧州委員も任期は5年。再任は可能。

 ドイツ出身のフォン・デア・ライエン欧州委員長は、2019年12月1日に1期目がスタート。その直後に掲げたのが「欧州グリーンディール政策」だった。グリーントランジションとデジタルトランスフォーメーションを両軸の政策とし、EU域内経済の競争力強化、雇用創出、政治的独立性の強化、EU域内市場の一体化を進めてきた。

【参考】【戦略】EU欧州委が定めた「欧州グリーンディール政策」の内容。〜9つの政策骨子を詳細解説〜(2019年12月12日)

 今回の施政方針演説では、次回の欧州議会選挙と欧州委員長信任選挙を意識した内容となっており、欧州議会に対し、自らの4年間の成果をアピールした。2019年に、グリーンとデジタルを基盤に据えた政策を発表した際、「疑念を抱いた人々がいたことは承知している」と表明しつつ、2019年に提示した政治方針の90%以上を実現することができたと語った。その上で、「私たちの仕事はまだ終わっていない。今日を実現し、明日に備えよう」と語った。

 今後の強化分野としては、まず、風力発電導入の加速を掲げた。許認可の迅速化、EU全域規模でのオークションシステムの開発、スキル、資金、サプライチェーンでの支援を打ち出した。

 一方、中国が国内産業に巨大な補助金を動員していることが、健全な競争を阻害しているとの考えを示し、特に太陽光発電や電気自動車(EV)では通商上の対抗策が必要との考えを表明。欧州委員会が中国から輸入するEVに対し反補助金調査を開始することを明らかにした。但し、中国をサプライチェーンから完全に切り離す「デカップリング」ではなく、関係を続けながらリスクを取り除く「デリスク」を掲げた。

 生態系の分野では、持続可能な農業の重要性に言及し、食料安全保障と持続可能な農業を両立させる考えをあらためて表明した。欧州は完全雇用に近づいているとの認識を語った。一方、中小企業の74%がスキル不足に直面していると回答していることに触れつつ、AIに起因する新たな課題を含め、労働市場が直面する課題に焦点を当てる考えを示した。欧州委員長直属のEU中小企業特使も任命する。グリーンとデジタルの産業転換の方向性提示に一区切りがついたため、今後は目標実現のための社会改革・労働改革に重点を置いていくとみられる。

 足元のインフレ対策では、エネルギーの共同購買プログラムも功を奏し、欧州でのエネルギー価格は低減しつつあると考えを披露。さらにこの期を活かして、クリーンエネルギーへの転換を進めるとした。

 デジタル分野では、すでに始動しているAI法の制定にあらためて意欲を示し、最初の100日間で欧州委員会としての提案を固めることにコミット。さらに気候変動分野のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)のように、科学的エビデンスを提案する国際組織を構築していく政策も掲げた。さらに、EU域内でのAI発展を促進するため、AIスタートアップのアルゴリズム開発のために、EUのスーパーコンピューターを開放する政策も打ち出した。

 国際情勢に関しては、一部の国々がブロック経済化を進めようとしていることに懸念を示し、欧州委員としては新興国が発展できるグローバリゼーションを追求していく考えを示した。具体的には、G20ニューデリー・サミットで発表された「インド・中東・欧州経済回廊」を一つの象徴として紹介した。同時に、移民政策についても、国境警備を強化しながら、移民受入を強化するため、進展が遅れている「移民・庇護に関する新協定」を成立させるよう欧州議会にも協力を求めた。

【参考】【国際】米政府、「インド・中東・欧州経済回廊」と「ロビト回廊」に向け旗揚げ。中国に対抗(2023年9月12日)

 最後に、現在27カ国が加盟しているEUを、30カ国以上に拡大する意思を示し、拡大と統合は同時に可能とのメッセージを送った。「欧州連合を完成させることが、欧州大陸の平和、安全、繁栄に向けた最善の投資であるとの信念に基づき、欧州委員会は行動する」と呼びかけた。

【参考】【戦略】EU欧州委が定めた「欧州グリーンディール政策」の内容。〜9つの政策骨子を詳細解説〜(2019年12月12日)

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 EUのウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は9月13日、欧州議会で、2023年度の施政方針演説を行った。フォン・デア・ライエン委員長は、2024年10月31日に5年の任期が満了するため、今年度が1期目の最後の年となる。

 欧州委員会委員長は、

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 EUのウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は9月13日、欧州議会で、2023年度の施政方針演説を行った。フォン・デア・ライエン委員長は、2024年10月31日に5年の任期が満了するため、今年度が1期目の最後の年となる。

 欧州委員会委員長は、

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 EUのウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は9月13日、欧州議会で、2023年度の施政方針演説を行った。フォン・デア・ライエン委員長は、2024年10月31日に5年の任期が満了するため、今年度が1期目の最後の年となる。

 欧州委員会委員長は、加盟国閣僚級のEU理事会で指名された後、欧州議会での信任決議を経て、任命される。そのため、5年に一度の欧州議会選挙の半年後に欧州委員会委員長の信任決議が行われることになっている。欧州委員会委員長には、欧州委員会を構成する欧州委員を指名する権限はなく。各加盟国政府が一人を指名する。但し、出身国を含めたいかなる団体からの政治的影響力を持つことも否定され、独立した欧州委員として任務を全うしなければならない。欧州委員会委員長も欧州委員も任期は5年。再任は可能。

 ドイツ出身のフォン・デア・ライエン欧州委員長は、2019年12月1日に1期目がスタート。その直後に掲げたのが「欧州グリーンディール政策」だった。グリーントランジションとデジタルトランスフォーメーションを両軸の政策とし、EU域内経済の競争力強化、雇用創出、政治的独立性の強化、EU域内市場の一体化を進めてきた。

【参考】【戦略】EU欧州委が定めた「欧州グリーンディール政策」の内容。〜9つの政策骨子を詳細解説〜(2019年12月12日)

 今回の施政方針演説では、次回の欧州議会選挙と欧州委員長信任選挙を意識した内容となっており、欧州議会に対し、自らの4年間の成果をアピールした。2019年に、グリーンとデジタルを基盤に据えた政策を発表した際、「疑念を抱いた人々がいたことは承知している」と表明しつつ、2019年に提示した政治方針の90%以上を実現することができたと語った。その上で、「私たちの仕事はまだ終わっていない。今日を実現し、明日に備えよう」と語った。

 今後の強化分野としては、まず、風力発電導入の加速を掲げた。許認可の迅速化、EU全域規模でのオークションシステムの開発、スキル、資金、サプライチェーンでの支援を打ち出した。

 一方、中国が国内産業に巨大な補助金を動員していることが、健全な競争を阻害しているとの考えを示し、特に太陽光発電や電気自動車(EV)では通商上の対抗策が必要との考えを表明。欧州委員会が中国から輸入するEVに対し反補助金調査を開始することを明らかにした。但し、中国をサプライチェーンから完全に切り離す「デカップリング」ではなく、関係を続けながらリスクを取り除く「デリスク」を掲げた。

 生態系の分野では、持続可能な農業の重要性に言及し、食料安全保障と持続可能な農業を両立させる考えをあらためて表明した。欧州は完全雇用に近づいているとの認識を語った。一方、中小企業の74%がスキル不足に直面していると回答していることに触れつつ、AIに起因する新たな課題を含め、労働市場が直面する課題に焦点を当てる考えを示した。欧州委員長直属のEU中小企業特使も任命する。グリーンとデジタルの産業転換の方向性提示に一区切りがついたため、今後は目標実現のための社会改革・労働改革に重点を置いていくとみられる。

 足元のインフレ対策では、エネルギーの共同購買プログラムも功を奏し、欧州でのエネルギー価格は低減しつつあると考えを披露。さらにこの期を活かして、クリーンエネルギーへの転換を進めるとした。

 デジタル分野では、すでに始動しているAI法の制定にあらためて意欲を示し、最初の100日間で欧州委員会としての提案を固めることにコミット。さらに気候変動分野のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)のように、科学的エビデンスを提案する国際組織を構築していく政策も掲げた。さらに、EU域内でのAI発展を促進するため、AIスタートアップのアルゴリズム開発のために、EUのスーパーコンピューターを開放する政策も打ち出した。

 国際情勢に関しては、一部の国々がブロック経済化を進めようとしていることに懸念を示し、欧州委員としては新興国が発展できるグローバリゼーションを追求していく考えを示した。具体的には、G20ニューデリー・サミットで発表された「インド・中東・欧州経済回廊」を一つの象徴として紹介した。同時に、移民政策についても、国境警備を強化しながら、移民受入を強化するため、進展が遅れている「移民・庇護に関する新協定」を成立させるよう欧州議会にも協力を求めた。

【参考】【国際】米政府、「インド・中東・欧州経済回廊」と「ロビト回廊」に向け旗揚げ。中国に対抗(2023年9月12日)

 最後に、現在27カ国が加盟しているEUを、30カ国以上に拡大する意思を示し、拡大と統合は同時に可能とのメッセージを送った。「欧州連合を完成させることが、欧州大陸の平和、安全、繁栄に向けた最善の投資であるとの信念に基づき、欧州委員会は行動する」と呼びかけた。

【参考】【戦略】EU欧州委が定めた「欧州グリーンディール政策」の内容。〜9つの政策骨子を詳細解説〜(2019年12月12日)

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