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【国際】国際海底機構総会、深海底資源開発停止巡る議論で白熱。37機関投資家は停止要求

 生物多様性のためのファイナンス財団(FfB)は7月19日、深海底資源採掘を禁止するよう呼びかける共同声明を発表。機関投資家37団体が署名した。運用資産総額は3兆3,000億ユーロ(約52兆円)。

 今回の共同声明は、海洋生態系保全の一環。海洋は地球上で最大の生態系であり、その表面の70%以上を覆っているとし、30億人以上の食料供給し、数百万人の雇用を支えていると指摘。世界第7位のGDPに匹敵する年間2.5兆米ドル以上の経済活動を生み出しているとした。

 その中で、同声明では、新海底資源採掘を一時停止すべきと主張。根拠として、海洋関係の専門家が2021年に発表した共同声明や、国連環境計画(UNEP)のレポートを挙げた。

 2021年の海洋関係専門家の共同声明は、深海底採掘が海洋環境に大きな影響に関する十分かつ確実な科学的情報が得られるまで、新海底資源開発の許可を一時停止することを強く勧告。この中には、深海底炭素貯留も含まれていた。現在の署名者は44ヶ国778人に上る。懸念事項は、採掘そのものが与える生態系破壊だけでなく、海底や中層に生息する種や生態系に影響を及ぼすような大規模で持続性のある堆積物プルームの発生や、海底採掘と船舶からの採掘廃水の排出の両方による水柱への土砂、金属、毒素の再懸濁と放出についても言及している。

 国連環境計画(UNEP)のレポートは2022年6月に発行され、深海底資源開発は実施すべきでないとの立場を鮮明にした。NGO61団体も2021年、海底資源採掘を禁止するよう呼びかけていた。

【参考】【国際】UNEP、深海底資源開発に全面ノー。持続可能なブルーエコノミー原則に反する(2022年6月6日)
【参考】【国際】NGO61団体、企業と政府向けにバッテリーの環境・人権原則を発表。海底資源採掘禁止等(2021年2月9日)

 今回の共同声明に署名したのは、AP3、ERAFP(フランス公務員退職年金基金)、仏郵便貯金銀行(La Banque Postale)、アリアンツ・ファイナンス、Aviva、Robeco、ピクテ・グループ、Mirova、フェデレーテッド・ハーミーズ、ストアブランド・アセット・マネジメント、トリオドス銀行等。

 共同声明では、長期投資家にとって、海洋は有限な資源の価値以上の価値があり、健全な海洋がもたらす本質的な長期的利益は、深海底開発が提供する短期的なインセンティブをはるかに凌ぐものであると表明。また、深海底資源開発では、再生可能エネルギーやバッテリーに必要な鉱物の産出が期待されていることについては、サーキュラーエコノミーへの投資を増やすことが有効ということが調査によって示されていると語った。

 その上で、「デリケートな海洋生態系に大きなダメージを与えるリスクに鑑みると、リスクを十分に理解し、仮定を適切に検証し、より環境破壊の少ない方法で鉱物の供給を確保する代替方法を検討するまでは、DSMを許可することは無責任」と明言した。

 今回の声明は、ジャマイカで7月後半に開催された国際海底機構(ISA)総会で加盟国168カ国及びEUが政府間交渉を実施する前に発表され、各国政府による機関投資家のメッセージを伝える意味合いがあった。ISA総会の交渉では、チリ、コスタリカ、フランス、パラオ、バヌアツの5ヶ国が提案した深海底資源開発の一時停止ルール制定を、ISAの正式議題に取り上げるか否かが最大の山場となった。

 5カ国の提案は、国際海洋法上の深海底(大陸棚の外側に位置する公海上の深海底)に関し、いわゆる「2年ルール」の運用規則に焦点を当てていた。2年ルールとは、ISA理事会は加盟国の申請からから2年以内に、申請される予定案件に関する実施規定を固めなければならないという期限設定を義務化しており、2021年7月にナウル政府が採掘申請をしたことで2023年7月中に結論を出さなければならなかった。期限内に設定できないままに開発申請がされた場合は、ISA理事会は、当該プロジェクトの「検討継続」と「仮承認」をしなければならず、実質的にゴーサインを出すこととなる。

【参考】【国際】ドイツ政府、深海底資源開発の凍結宣言。他国にも要請。新たな政治フェーズに(2022年11月3日)

 運用規則を決議するISA評議会の委員36人は、最終的に7月末の期限内に最終決定できないため、採掘作業の開始を事実上遅らせる判断を下した。2025年中に規則を採択することを「視野に入れて」、今後の議論を進めることで合意したが、その間の申請案件についてはどのように扱うかは未定となり、運用が宙ぶらりんの状況となる。同評議会は3月、採掘規則で合意できるまでは採掘に同意すべきではないと述べている。採掘開始に反対していた陣営は、今回の総会で開発開始を阻止できたことを歓迎している。

 また5カ国の提案では、深海底資源開発を一時停止するためのルールを議論するための議題を2024年に含めるという内容を盛り込んでいたが、今回の総会では、合意に達しなかった。中国が反対し続けたと報じられている。但し、総会手続規則の規則10(e)に従い、海洋環境の保全と保護のための総会の役割に関する項目を2024年会期の暫定議題に含めることを提案できることで合意した。提案5ヶ国は、適切な議論をするための道を確保できたことを歓迎している。

 すでに新海底資源採掘の一時停止もしくは禁止の姿勢をとる国は、年々増加しており、現時点で21カ国にもなった。日本では、経済産業省が2021年に「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」を策定し、海底熱水鉱床の開発を国策として進める政策を打ち出している。


(出所)deep sea conservation coalition

【参照ページ】Global Financial Institutions Statement to Governments on Deep Seabed Mining
【参照ページ】Marine Expert Statement Calling for a Pause to Deep-Sea Mining
【参照ページ】ISA Assembly concludes twenty-eighth session with participation of heads of States and governments and high-level representatives and adoption of decisions on the establishment of the Interim Director General of the Enterprise

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 生物多様性のためのファイナンス財団(FfB)は7月19日、深海底資源採掘を禁止するよう呼びかける共同声明を発表。機関投資家37団体が署名した。運用資産総額は3兆3,000億ユーロ(約52兆円)。

 今回の共同声明は、

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 生物多様性のためのファイナンス財団(FfB)は7月19日、深海底資源採掘を禁止するよう呼びかける共同声明を発表。機関投資家37団体が署名した。運用資産総額は3兆3,000億ユーロ(約52兆円)。

 今回の共同声明は、

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 生物多様性のためのファイナンス財団(FfB)は7月19日、深海底資源採掘を禁止するよう呼びかける共同声明を発表。機関投資家37団体が署名した。運用資産総額は3兆3,000億ユーロ(約52兆円)。

 今回の共同声明は、海洋生態系保全の一環。海洋は地球上で最大の生態系であり、その表面の70%以上を覆っているとし、30億人以上の食料供給し、数百万人の雇用を支えていると指摘。世界第7位のGDPに匹敵する年間2.5兆米ドル以上の経済活動を生み出しているとした。

 その中で、同声明では、新海底資源採掘を一時停止すべきと主張。根拠として、海洋関係の専門家が2021年に発表した共同声明や、国連環境計画(UNEP)のレポートを挙げた。

 2021年の海洋関係専門家の共同声明は、深海底採掘が海洋環境に大きな影響に関する十分かつ確実な科学的情報が得られるまで、新海底資源開発の許可を一時停止することを強く勧告。この中には、深海底炭素貯留も含まれていた。現在の署名者は44ヶ国778人に上る。懸念事項は、採掘そのものが与える生態系破壊だけでなく、海底や中層に生息する種や生態系に影響を及ぼすような大規模で持続性のある堆積物プルームの発生や、海底採掘と船舶からの採掘廃水の排出の両方による水柱への土砂、金属、毒素の再懸濁と放出についても言及している。

 国連環境計画(UNEP)のレポートは2022年6月に発行され、深海底資源開発は実施すべきでないとの立場を鮮明にした。NGO61団体も2021年、海底資源採掘を禁止するよう呼びかけていた。

【参考】【国際】UNEP、深海底資源開発に全面ノー。持続可能なブルーエコノミー原則に反する(2022年6月6日)
【参考】【国際】NGO61団体、企業と政府向けにバッテリーの環境・人権原則を発表。海底資源採掘禁止等(2021年2月9日)

 今回の共同声明に署名したのは、AP3、ERAFP(フランス公務員退職年金基金)、仏郵便貯金銀行(La Banque Postale)、アリアンツ・ファイナンス、Aviva、Robeco、ピクテ・グループ、Mirova、フェデレーテッド・ハーミーズ、ストアブランド・アセット・マネジメント、トリオドス銀行等。

 共同声明では、長期投資家にとって、海洋は有限な資源の価値以上の価値があり、健全な海洋がもたらす本質的な長期的利益は、深海底開発が提供する短期的なインセンティブをはるかに凌ぐものであると表明。また、深海底資源開発では、再生可能エネルギーやバッテリーに必要な鉱物の産出が期待されていることについては、サーキュラーエコノミーへの投資を増やすことが有効ということが調査によって示されていると語った。

 その上で、「デリケートな海洋生態系に大きなダメージを与えるリスクに鑑みると、リスクを十分に理解し、仮定を適切に検証し、より環境破壊の少ない方法で鉱物の供給を確保する代替方法を検討するまでは、DSMを許可することは無責任」と明言した。

 今回の声明は、ジャマイカで7月後半に開催された国際海底機構(ISA)総会で加盟国168カ国及びEUが政府間交渉を実施する前に発表され、各国政府による機関投資家のメッセージを伝える意味合いがあった。ISA総会の交渉では、チリ、コスタリカ、フランス、パラオ、バヌアツの5ヶ国が提案した深海底資源開発の一時停止ルール制定を、ISAの正式議題に取り上げるか否かが最大の山場となった。

 5カ国の提案は、国際海洋法上の深海底(大陸棚の外側に位置する公海上の深海底)に関し、いわゆる「2年ルール」の運用規則に焦点を当てていた。2年ルールとは、ISA理事会は加盟国の申請からから2年以内に、申請される予定案件に関する実施規定を固めなければならないという期限設定を義務化しており、2021年7月にナウル政府が採掘申請をしたことで2023年7月中に結論を出さなければならなかった。期限内に設定できないままに開発申請がされた場合は、ISA理事会は、当該プロジェクトの「検討継続」と「仮承認」をしなければならず、実質的にゴーサインを出すこととなる。

【参考】【国際】ドイツ政府、深海底資源開発の凍結宣言。他国にも要請。新たな政治フェーズに(2022年11月3日)

 運用規則を決議するISA評議会の委員36人は、最終的に7月末の期限内に最終決定できないため、採掘作業の開始を事実上遅らせる判断を下した。2025年中に規則を採択することを「視野に入れて」、今後の議論を進めることで合意したが、その間の申請案件についてはどのように扱うかは未定となり、運用が宙ぶらりんの状況となる。同評議会は3月、採掘規則で合意できるまでは採掘に同意すべきではないと述べている。採掘開始に反対していた陣営は、今回の総会で開発開始を阻止できたことを歓迎している。

 また5カ国の提案では、深海底資源開発を一時停止するためのルールを議論するための議題を2024年に含めるという内容を盛り込んでいたが、今回の総会では、合意に達しなかった。中国が反対し続けたと報じられている。但し、総会手続規則の規則10(e)に従い、海洋環境の保全と保護のための総会の役割に関する項目を2024年会期の暫定議題に含めることを提案できることで合意した。提案5ヶ国は、適切な議論をするための道を確保できたことを歓迎している。

 すでに新海底資源採掘の一時停止もしくは禁止の姿勢をとる国は、年々増加しており、現時点で21カ国にもなった。日本では、経済産業省が2021年に「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」を策定し、海底熱水鉱床の開発を国策として進める政策を打ち出している。


(出所)deep sea conservation coalition

【参照ページ】Global Financial Institutions Statement to Governments on Deep Seabed Mining
【参照ページ】Marine Expert Statement Calling for a Pause to Deep-Sea Mining
【参照ページ】ISA Assembly concludes twenty-eighth session with participation of heads of States and governments and high-level representatives and adoption of decisions on the establishment of the Interim Director General of the Enterprise

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